バーティシリウム萎凋病の症状と防除法

バーティシリウム萎凋病は土壌中で10年以上生存する菌核が原因の厄介な病害です。多くの作物に感染し、一度発生すると長期間圃場に残り続けるこの病気の見分け方から輪作期間、意外な対策まで徹底解説します。あなたの畑は大丈夫ですか?

バーティシリウム萎凋病の症状と防除

土壌消毒だけでは菌核を完全に除去できません。


この記事の3つのポイント
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菌核は10年以上土壌中で生存

バーティシリウム菌は微小菌核として土壌中に数年から十数年残存し、輪作期間は最低5~6年必要

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ブロッコリー輪作で発病抑制

前作にブロッコリーを栽培すると微小菌核密度が減少し、ナス半身萎凋病の発病株率を約半分に抑制できる

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導管の褐変で早期診断

茎や葉柄を切断すると維管束が褐色~黒色に変色しており、これが確定診断の手がかりになる


バーティシリウム萎凋病の初期症状と見分け方


バーティシリウム萎凋病は、土壌中に存在する糸状菌が引き起こす典型的な土壌伝染性病害です。この病気は多犯性で、キャベツレタス、ナス、トマトなど極めて多くの作物に感染します。病原菌は導管内に侵入して増殖するため、維管束病とも呼ばれる特徴的な症状を示すのです。


発病初期の症状は、外葉の葉縁から黄化が始まります。キャベツでは、葉脈に沿って葉肉部が大きくV字形に黄化するのが典型的です。葉脈は黒褐色の網目状を呈し、やがて萎凋して落葉に至ります。レタスでは、厳寒期の収穫時に下葉が黄化萎凋し、髄部を切ると導管に沿って褐変しているのが確認できます。軽症では褐変が髄部の片側に偏っているのが特徴です。


つまり導管の褐変が診断のポイントです。


ナス科作物では「半身萎凋病」と呼ばれ、下葉から順に片側の葉が萎れるという独特な症状を示します。この「半身」という名称は、株の片側だけに症状が現れることに由来しています。病気の進行は比較的遅いため、初期には気付きにくいことが多いのですが、症状が進行すると収穫量に大きな影響を与えます。


確定診断には茎や根の切断が有効です。罹病株の地際部の茎、下方の葉柄や根を切断すると、維管束の導管部が淡い褐色から黒褐色に変色しているのが観察できます。この導管の変色は、病原菌が維管束内で増殖している証拠であり、他の病害と区別する重要な手がかりとなります。


📌 導管の褐変確認が重要です


発病適温は20~25℃で、比較的冷涼な気候を好みます。30℃以上の高温では発病が抑制されるため、夏季高温時には症状が目立たなくなることがあります。中山間地や高冷地の夏秋取りキャベツでは、7~10月の収穫期間中に発生し、8~9月が最も多くなるという特徴があります。


タキイ種苗の病害虫情報には、バーティシリウム萎凋病の詳細な症状写真と診断方法が掲載されています。


バーティシリウム萎凋病の発生サイクルと土壌中での生存

バーティシリウム菌の最大の特徴は、微小菌核という休眠器官を形成して土壌中で長期間生存する点です。発病した植物の遺体上に形成された菌核は、土壌中で数年から十数年も生存し続けます。研究によれば、Verticillium属菌は菌核の状態で土壌中に10年以上生存することが確認されており、これが防除を困難にする最大の要因となっています。


菌核は作物の根が近くに伸びてくると発芽します。発芽した菌糸は根の表面から侵入し、維管束の導管内で増殖を始めるのです。導管内で増殖した菌は、水や養分の通り道を塞ぐため、葉の黄化や萎凋といった症状を引き起こします。病原菌は小型分生胞子や大型分生胞子を形成し、これらが導管内を移動することで病気が進展していきます。


半身萎凋病の菌核生存期間は3年以上です。


土壌伝染の経路は多岐にわたります。前作の収穫残さをすき込む際に菌核が土壌中に混入するのが最も一般的です。また、病原菌に汚染した堆肥の施用、耕運機や運搬車両などの農機具、作業者の履き物、潅漑水、さらには強風や豪雨による汚染土壌の移動など、様々な経路で病原菌が拡散します。


これらの伝染経路を理解することが重要です。


病原菌は土壌湿度がやや低い方を好み、湛水状態には弱いという性質があります。このため、水田との輪作は被害軽減効果が高いとされています。


水田の湛水期間中に菌核が死滅するためです。


一方、畑地で連作を続けると、土壌中の菌核密度が年々高まり、被害が拡大していく傾向があります。


線虫(ネグサレセンチュウ)の存在は本病の被害を助長します。線虫が根に傷をつけることで、病原菌の侵入口が増えるためです。線虫被害の多い圃場では、本病の発生リスクがさらに高まるため、線虫対策も併せて行う必要があります。


病害虫防除所の詳細情報では、キャベツバーティシリウム萎凋病の発生生態について詳しく解説されています。


バーティシリウム萎凋病の効果的な輪作体系

バーティシリウム萎凋病の防除において、輪作は最も重要な対策の一つです。しかし、Verticillium属菌は微小菌核での生存期間が極めて長いため、一般的な輪作期間では効果が不十分なことがあります。研究によれば、輪作期間は最低5~6年程度必要とされており、これは他の多くの土壌病害よりも長い期間設定が求められます。


どういうことでしょうか?


バーティシリウム菌は多犯性で、ナス科、ウリ科アブラナ科など様々な作物に感染するため、輪作作物の選択にも注意が必要です。トマトやナスといったナス科植物との輪作は避け、イネ科植物との輪作を行うことが推奨されます。特に水田との輪作は、湛水による菌核の死滅効果が期待できるため、被害軽減効果が高いとされています。


エンバク野生種(イネ科)を含む3~4年輪作が効果的です。本畑で10年以上輪作を継続している事例では、バーティシリウム萎凋病の発生が著しく抑制されたという報告があります。エンバク野生種は、バーティシリウム菌に対して抵抗性を示すだけでなく、他の連作障害の軽減にも効果があるため、輪作体系に組み込む価値が高い作物です。


近年注目されているのが、ブロッコリーを前作とする輪作体系です。群馬県農業技術センターと東洋大学の共同研究により、ブロッコリーを前作として栽培すると、ナス半身萎凋病の発病株率を約半分に抑えられることが明らかになりました。この効果は、発病株率30%以下の農地で特に顕著に現れます。


これは使えそうです。


ブロッコリーの発病抑制メカニズムは、主に微小菌核密度の減少に起因しています。ブロッコリーの残渣をすき込むことで、土壌微生物相が変化し、バーティシリウム菌の微小菌核が減少すると考えられています。また、ブロッコリー自体も本病に感染しますが、地表面以下で病気の進行が抑えられるため、原因となる微小菌核が形成されにくいという特性があります。


カリフラワーのVerticillium wiltに対しても、ブロッコリー輪作による発病抑制効果が報告されています。1999年の研究以降、複数の試験でブロッコリー輪作の有効性が確認されており、メタ分析の結果によれば、無処理区に対するブロッコリー輪作のリスク比は0.53でした。ただし、試験間のばらつきが大きく、圃場条件によって効果に差が出る可能性があります。


日本植物防疫協会の研究報告には、ブロッコリー輪作によるナス半身萎凋病抑制の詳細なデータが掲載されています。


バーティシリウム萎凋病の土壌消毒と薬剤防除

土壌消毒は、バーティシリウム萎凋病の防除において即効性のある対策です。多発圃場では土壌消毒が必要不可欠ですが、消毒ムラが発生すると効果が不十分になるため、丁寧な作業が求められます。主な土壌くん蒸剤としては、クロールピクリン、NCS、キルパー、バスアミド微粒剤、ディ・トラペックス油剤などが利用できます。


クロールピクリンは、アブラナ科野菜類に登録のある代表的な土壌くん蒸剤です。ガス化した薬剤が土壌中に拡散し、バーティシリウム菌の菌核を死滅させます。処理後はビニールシートで被覆し、一定期間密閉することで効果を高めます。処理から定植までの期間は、薬剤の種類や気温によって異なるため、ラベルの指示を厳守することが重要です。


キルパーは液剤タイプの土壌消毒剤で、所定量の薬液を土壌表面に散布し、直ちに混和して被覆します。キャベツのバーティシリウム萎凋病に対して、は種または定植の10日前までに処理することで効果を発揮します。苗立枯病などの他の土壌病害にも効果があるため、複合的な病害対策として有効です。


ガスタード微粒剤も選択肢の一つです。


ダゾメット剤(商品名:バスアミド微粒剤など)は、土壌水分により速やかに分解して活性ガスとなり、広範囲の土壌病害に高い効果を発揮します。野菜、果樹、花卉類に幅広く使用できるため、作付け体系に応じた柔軟な対応が可能です。ただし、処理後のガス抜き期間を十分に取らないと、作物に薬害が出る可能性があるため注意が必要です。


ベンレート水和剤は、土壌中に潜むフザリウム、バーティシリウム、ダーリエなどの糸状菌を阻害する作用があります。タマネギの乾腐病など土壌病害に対して灌注処理を行うことで効果が得られます。土壌くん蒸剤と比較すると効果はやや穏やかですが、局所的な処理や補完的な使用に適しています。


太陽熱消毒農薬を使わない土壌消毒方法です。7~8月頃の気温が高いシーズンに、たっぷりと潅水を行った後ビニールマルチなどで被覆し、地熱を高温に上げることで土壌中の病害虫を死滅させます。太陽光エネルギーを利用した環境に優しい消毒方法ですが、高温期に実施する必要があるため、作型によっては適用が難しい場合があります。


土壌還元消毒は、有機物を土壌に混和して湛水状態にすることで、土壌を還元状態にして病原菌を抑制する方法です。米ぬか緑肥作物の残渣を利用することで、化学農薬を使わずに土壌病害を防除できる可能性があります。ただし、処理期間が長く、圃場の排水性などの条件に左右されるため、計画的な実施が必要です。


BASFジャパンの農業情報サイトでは、ナス半身萎凋病の土壌消毒に有効な農薬の詳細な使用方法が解説されています。


バーティシリウム萎凋病の抵抗性品種と総合防除戦略

抵抗性品種の利用は、化学農薬の使用を減らしながら病害を管理できる有効な手段です。キャベツ品種には感受性に差があり、「秋徳SP」や「涼峰」などはバーティシリウム萎凋病にかかりにくい品種として知られています。これらの品種を選択することで、多発圃場でも被害を軽減できる可能性があります。


ダイコンでは、バーティシリウム黒点病に対する抵抗性品種の開発が進んでいます。春ダイコンと秋ダイコンでは抵抗性の程度が異なることがあるため、作型に応じた品種選択が重要です。中発生以上のほ場や微小菌核密度が10個以上のほ場では、抵抗性品種の使用と土壌消毒を組み合わせることで、より確実な防除が可能になります。


抵抗性が完全ではない点に注意です。


レタスのバーティシリウム萎凋病は、兵庫県の淡路島で初めて発見された比較的新しい病害です。日本では兵庫県と香川県以外では発生していないとされていますが、千葉県でもレタス分離株が確認されており、今後の発生拡大が懸念されています。抵抗性品種の開発も進められていますが、まだ選択肢が限られているのが現状です。


ナス科作物では、接木苗の利用が有効な対策となります。トマトやナスでは、バーティシリウム萎凋病に抵抗性を持つ台木品種を使用することで、発病を抑制できます。ただし、接木苗は自根苗に比べてコストが高くなるため、発病リスクと経済性を考慮した判断が求められます。


総合防除戦略では、複数の対策を組み合わせることが重要です。第一に、発病圃場では連作を避け、適切な輪作体系を導入します。第二に、抵抗性品種や接木苗を利用して植物自体の抵抗力を高めます。第三に、必要に応じて土壌消毒を実施し、土壌中の菌核密度を下げます。これらを総合的に実施することで、長期的な病害管理が可能になります。


圃場の衛生管理も欠かせません。発病株は早期に抜き取り、必ず畑の外で焼却処分を行います。枯死した植物内でも病原菌は生きており、土壌中に残存すると次作の作物に伝染してしまうためです。使った農機具や靴などもしっかり消毒しておくことで、汚染土壌の移動を防ぐことができます。


農機具の洗浄が伝染防止のカギです。


汚染土壌の移動を防ぐためには、発生圃場から未発生地への農機具や資材の移動に注意が必要です。耕運機のタイヤや作業靴に付着した土壌わずか数グラムでも、大量の菌核が含まれている可能性があります。作業後は必ず洗浄し、可能であれば消毒液で処理することが望ましいでしょう。


潅漑水も見落とせない伝染源です。河川水など本菌に汚染された疑いのある水をスプリンクラーなどに使用する場合は、次亜塩素酸カルシウムなどで殺菌してから使用します。特に、上流に発病圃場がある場合は注意が必要です。水を媒介した病原菌の拡散は、想像以上に広範囲に及ぶことがあります。


圃場に持ち込む堆肥の品質管理も重要です。完熟していない堆肥や、病原菌に汚染された可能性のある堆肥は使用を避けます。堆肥の発酵過程で高温が維持されていれば、多くの病原菌は死滅しますが、不十分な発酵では菌核が生き残る可能性があります。信頼できる供給元から購入するか、自家製堆肥の場合は十分な発酵期間を確保することが大切です。


農業情報サイトYUIIMEでは、萎凋病全般の総合的な対策方法と最新の防除技術が紹介されています。






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