天敵温存植物例と選び方・効果的導入法

害虫防除に役立つ天敵温存植物にはどんな種類があり、どう活用すれば効果的なのでしょうか。ソルゴー、マリーゴールド、ゴマ、クレオメなど代表的な植物の具体例と作物別の選び方、導入時の注意点まで詳しく解説します。あなたの圃場に最適な天敵温存植物は何でしょうか?

天敵温存植物例と選び方

雑草を全部除草すると天敵が減って害虫が増えます。


この記事の3つのポイント
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天敵温存植物の代表例

ソルゴー、マリーゴールド、オクラ、ゴマ、クレオメ、バジル類など14種の植物が天敵の定着・増殖を促進し、害虫防除に効果を発揮します

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作物別の最適な組み合わせ

露地ナスにはソルゴーとマリーゴールド、施設キュウリにはゴマとクレオメなど、栽培作物と対象害虫に応じて植物を選定する必要があります

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導入コストと注意点

10aあたり約2,000円程度の導入コストで実践でき、植栽時期や配置方法を誤ると逆効果になるため事前の計画が重要です


天敵温存植物とは何か基本を理解する

天敵温存植物は、農作物の害虫を食べる天敵昆虫に餌や住処を提供して、その定着と増殖を助ける植物のことです。別名「インセクタリープランツ」とも呼ばれます。


天敵温存植物の仕組みはシンプルです。植物が持つ花粉や花蜜、または植物に自然発生する害虫を天敵が利用できるようにすることで、圃場に天敵が常駐する環境を作ります。害虫が発生してから天敵が集まるのでは遅いという問題を解決する技術です。


通常の農業現場では害虫が増加してから天敵が発生するという後手の状態になりがちです。これは圃場や周辺に天敵の餌や蜜源が不足しているためです。天敵温存植物を導入すれば、害虫発生前から天敵を維持できます。


バンカー植物との違いも押さえておく必要があります。天敵温存植物は植物が本来持つ資源(花粉・花蜜・自然発生する虫)を活用するのに対し、バンカー植物は人為的に餌となる虫を導入して天敵を増やす手法です。施設栽培ではバンカー法、露地栽培では天敵温存植物が主に使われます。


天敵温存植物には多様な機能があります。天敵の誘引だけでなく、定着促進、増殖促進、作物への供給、農薬散布の影響回避、避難場所や越冬場所の提供など、天敵の活動全般をサポートする役割を果たします。


天敵温存植物の代表的な種類と特徴

露地ナス栽培で最も普及しているのがソルゴーです。ソルゴーにはヒエノアブラムシやトウモロコシアブラムシが自然発生し、これらを餌にアブラムシ類の土着天敵のほとんどに対して温存効果を発揮します。播種時期は4月下旬から6月で、日中の気温が20℃を超える時期が適しています。


フレンチマリーゴールドも露地ナスで高い効果を示します。ヒメハナカメムシ類の温存場所となり、アザミウマ類の防除に役立ちます。奈良県の研究では、マリーゴールドを圃場外縁に植栽することで、非選択性殺虫剤の影響期間中もヒメハナカメムシ類を温存できることが確認されています。


オクラは露地ナスのアザミウマ対策として有効です。オクラの葉には真珠体という器官があり、糖やアミノ酸を含むため、ヒメハナカメムシがこれを餌として定着・増殖します。京都府の試験では、オクラを植えることでアザミウマの被害を大幅に軽減できました。


施設栽培で人気なのがゴマとクレオメです。タバコカスミカメという土着天敵がこれらの植物で増殖でき、施設ナス、キュウリピーマンコナジラミ類やアザミウマ類の防除に活用されています。特にゴマは草高2~3メートルになり、タバコカスミカメの増殖に最適です。


バジル類は開花期間が長く、花粉や花蜜に富むため、ヒメハナカメムシ類やヒラタアブ類の天敵温存植物として有効です。バジルにはアブラムシ類がほとんど寄生しないため、花粉・花蜜とアザミウマ類が主な餌源となります。ホーリーバジルは沖縄県の研究で夏秋期・冬春期ともに複数種の天敵を集めることができると報告されています。


ソバは花粉・花蜜とアザミウマ類が餌となり、広食性のヒメカメノコテントウなどの温存に効果があります。開花期間が比較的短いものの、播種から短期間で開花するため、タイミングを調整しやすいメリットがあります。


スイートアリッサムは施設栽培で広食性カブリダニ類(スワルスキーカブリダニやミヤコカブリダニ)の定着・増殖を促進します。白い花の品種で効果が確認されており、ナス施設の端に植えるとヒメハナカメムシ類や寄生蜂が多く集まります。


ヘアリーベッチやシロガラシは緑肥作物としても利用できる一石二鳥の植物です。花粉・蜜源に加え、茎葉に寄生するアブラムシ類が代替餌となり、多様な土着天敵を温存します。秋播きで11月から翌年5月中旬まで利用できます。


鹿児島県が作成した天敵温存植物利用マニュアルには、露地栽培7つ、施設栽培4つの具体的な利用技術が詳しく解説されています


天敵温存植物を作物別に選ぶポイント

露地ナス栽培では主にアザミウマ類とアブラムシ類が問題になります。そこでソルゴーとブルーサルビア(またはフレンチマリーゴールド)を組み合わせる方法が山口県や奈良県で普及しています。ソルゴーはアブラムシ類の天敵を、マリーゴールドやオクラはアザミウマ類の天敵を温存します。


圃場の周囲に帯状または点在させて植栽するのが基本です。例えば10aあたり400株程度の天敵温存植物を植えると劇的な効果が得られます。ナス定植の2~3週間前に植栽を完了させ、天敵が定着してからナスを植えると初期防除効果が高まります。


施設キュウリやトマトではタバコカスミカメの利用が中心となります。天敵温存ハウスで6月中旬にゴマを定植し、増殖源となるタバコカスミカメを6月下旬に放飼した後、7月上旬、8月下旬に順次ゴマを追加定植することで、定植時に約5,000頭/10aを本圃に放飼できます。


クレオメも施設栽培で有効です。草高2~3メートルになり、タバコカスミカメが増殖しやすい環境を提供します。クレオメとゴマを交互に植栽する方法もあり、開花時期をずらして継続的に天敵を供給できます。


施設ピーマンでは沖縄県の事例が参考になります。圃場周辺と施設内にクレオメなどの天敵温存植物を植え、タバコカスミカメ(土着天敵)の定着を図ります。スワルスキーカブリダニなどの市販天敵と併用すると、より確実な防除効果が得られます。


オクラやエンドウなどのマイナー作物でも天敵温存植物の活用が進んでいます。オクラではソルゴーやバジル類などの複数の天敵温存植物を組み合わせることで、アブラムシ類の発生初期から土着天敵の機能を強化し、農薬散布回数を3回以上削減できます。


エンドウではアザミウマ類に捕食性カメムシ類、ハモグリバエ類には寄生蜂を土着天敵として選抜し、ソバ、バジル類、カラシナ類を天敵温存植物として用いる技術が開発されています。


作物と害虫の組み合わせで植物を選ぶのが原則です。しかし天敵の食性も重要な選定要素になります。狭食性(特定の餌のみ食べる)天敵にはアブラバチ類やチリカブリダニが、広食性(様々な餌を食べる)天敵にはヒメハナカメムシ類、テントウムシ類、ヒラタアブ類、タバコカスミカメが該当します。


農研機構が公開している土着天敵活用の事例集には、作物別の詳細な導入事例が写真付きで紹介されています


天敵温存植物を導入する際の失敗を防ぐ注意点

植栽時期のミスは効果を大きく損ないます。多くの天敵温存植物は発芽適温が20~25℃程度あるため、気温が低い時期に播種しても発芽不良になります。ソルゴーやゴマは日中の気温が20℃を超える日が多くなる4月下旬以降が適期です。


過湿に弱い植物もあります。ソルゴーやゴマは高温乾燥に強い反面、過湿条件では生育不良を起こします。排水が悪い圃場では畝を高くする、または別の場所に植栽するなどの工夫が必要です。


天敵に影響する農薬の使用が最大の失敗要因です。千葉県の事例では、放飼前に天敵への影響日数が長い農薬を散布してしまい、計画通り放飼できなくなったケースが報告されています。天敵導入の2~3週間前からは天敵に影響が少ない選択的農薬のみを使用します。


植栽量が不足すると効果が出ません。サヤインゲン栽培では10aあたり400株の天敵温存植物を植えるだけで劇的な変化がもたらされます。少量の試験的導入では効果を実感できず、途中で断念してしまう農家も少なくありません。


配置場所も重要です。圃場の風上側に植栽すると、天敵が風で作物側に運ばれやすくなります。また農薬のドリフト対策として、天敵温存植物を風よけとして配置する方法も有効です。隣接圃場で農薬散布が頻繁な場合は、この配置が天敵の避難場所になります。


複数の植物を組み合わせる場合、開花時期の重複を考慮します。ソルゴーとブルーサルビアを交互に植栽する、またはゴマとクレオメを時期をずらして植える方法で、長期間にわたって天敵を供給できます。単一植物だけでは開花終了後に天敵が減少します。


露地栽培では夏秋期の高温多湿条件で害虫の種類が多く、天敵による防除効果が期待できない害虫も存在します。その場合は天敵を温存できる殺虫剤を併用する必要があります。天敵温存植物を導入したからといって、すべての農薬を使わなくてよいわけではありません。


市販天敵の購入タイミングにも注意が必要です。購入天敵の配送が遅れて放飼時期を逃したケースもあります。天敵製剤は生き物なので、発注から配送まで余裕を持ったスケジュールを組みます。


天敵温存植物の導入コストと経済効果を計算する

天敵温存植物の導入費用は比較的低コストです。高知県の事例では、10aあたりソルゴー種代302円、ホーリーバジル種代388円、肥料代1,532円で合計2,222円でした。


労働費を含めても大きな負担にはなりません。


福岡県の促成トマトでは、10aあたり天敵導入に約2,000円、忌避剤導入に約35,000円で、IPM体系全体の費用は約37,000円です。これは慣行の化学農薬防除と比較してもほぼ同等かやや高い程度で、防除回数削減による労力軽減効果を考えれば十分にペイします。


沖縄県の施設ピーマンでは、化学農薬の全面散布が1時間かかるのに対し、発生株のみへの散布は20分、天敵放飼は30分で済みます。農薬散布量も全面散布150Lに対し発生株散布は10Lと大幅に削減できます。農薬費用も10aあたりで大きく節約できます。


防除コストの削減効果は農薬散布回数に直結します。オクラでは複数の天敵温存植物を組み合わせることで、農薬散布回数を3回以上削減できました。1回の散布に要する時間と農薬代を考えれば、年間で相当な経費削減になります。


無料で使える資源もあります。実は雑草も天敵温存植物として機能することが最近の研究で明らかになっています。根こそぎ除草するのではなく、一部の雑草を残すことで緑肥植物と同様の働きをします。完全に除草すると天敵の住処がなくなり、害虫が増える逆効果になることもあります。


種採りで自家採種すればコストはほぼゼロです。ゴマやバジル、ソバなどは比較的簡単に種が採れます。初年度に購入した種から翌年以降の種を確保すれば、継続的に低コストで運用できます。


補助金の活用も検討できます。本庄市では天敵資材を新規導入する場合、費用の2分の1で上限20,000円から30,000円の補助制度があります。自治体によって制度が異なるため、地域の農業改良普及センターに確認すると良いでしょう。


長期的な視点では土壌改善効果もあります。ヘアリーベッチやシロガラシなどは緑肥としても利用でき、すき込むことで有機物供給と土壌改良が同時に行えます。天敵温存と緑肥の二重の効果を得られるのは経済的です。


天敵温存植物の効果を最大化する独自の工夫

雑草を完全除去せず一部を残す管理法が注目されています。畑の雑草も天敵の住処や餌源として機能することが分かってきました。特に野菜の収穫後に落ち葉などと一緒に雑草を温存しておくと、春の天敵発生が促進されます。


果樹園での下草管理も天敵温存に有効です。ナシとヒイラギモクセイの間で天敵が移動していることが研究で明らかになっており、果樹園に下草を導入すると天敵昆虫やクモ類が温存されます。


リンゴ園でも同様の効果が確認されています。


LED照明を組み合わせる先進技術も開発されています。タバコカスミカメやナミヒメハナカメムシは特定の波長の光に誘引される性質があり、これを利用して天敵温存植物から作物への移動を促進できます。夜間に作物側を照射することで、天敵の分散を制御できます。


天敵温存植物を複数種組み合わせる多様性戦略が効果的です。単一種では対応できる天敵の種類が限られますが、ソルゴー、マリーゴールド、バジル、ソバなど異なる特性を持つ植物を配置すれば、アブラムシ類、アザミウマ類、コナジラミ類など多様な害虫に対応できます。


天敵温存ハウスを専用で設置する方法もあります。本圃とは別に小規模なハウスでゴマやクレオメを栽培し、タバコカスミカメを大量増殖させてから本圃に供給します。施設栽培では初期投資がかかりますが、安定的に天敵を確保できるメリットがあります。


モニタリングと組み合わせた精密管理が重要です。粘着トラップで害虫の初期発生を把握し、コナジラミの成虫が1匹でも捕獲された時点で天敵を放飼すると効果が高まります。モニタリングなしでは放飼のタイミングを逃し、害虫が増えてから対応する後手に回ります。


クローバーなどの雑草でうどんこ病を予防する技術も実用化されています。これは害虫対策だけでなく病害対策にもなり、さらに土壌の地温や水分を適切に保つマルチ代わりにも活用できます。


一つの植物で複数の効果を得られる好例です。


種を採る野菜のトウ立ち(花を咲かせる)も天敵誘引に使えます。オクラ、ニンジン、エンドウなどの野菜を種採りのためにトウ立ちさせることで、天敵温存植物と同じ効果が得られます。


採種と天敵温存を兼ねた一石二鳥の方法です。


農林水産省が開催したIPM技術セミナーの資料には、タバコカスミカメを始めとする新技術の最新情報が掲載されています