アブラムシに殺虫剤が効かない?抵抗性とローテーションの対策

アブラムシに殺虫剤が効かないと悩んでいませんか?実はその原因、薬剤抵抗性かもしれません。この記事では、抵抗性のメカニズムから、効果的なローテーション散布、意外な物理的駆除方法まで徹底解説します。あなたの畑は大丈夫ですか?

アブラムシに殺虫剤が効かない

アブラムシ対策の重要ポイント
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ローテーション防除

同じ系統の薬剤を連用せず、RACコードを確認して異なる作用機序の薬剤を順番に使用することで抵抗性の発達を防ぎます。

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気門封鎖剤の活用

油やデンプンなどでアブラムシの呼吸口を物理的に塞ぐ薬剤は、抵抗性に関係なく効果を発揮するため、ローテーションの柱になります。

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肥料管理と散布技術

窒素過多による発生助長を防ぎ、葉裏まで薬剤を届ける丁寧な散布を行うことが、薬剤の効果を最大限に引き出す鍵です。

アブラムシが死なない最大の原因は薬剤抵抗性

 

アブラムシに対して殺虫剤を散布しても効果が感じられない場合、その最大の原因は「薬剤抵抗性」の発達にあります。アブラムシは繁殖サイクルが非常に短く、1シーズンに何度も世代交代を繰り返します。この驚異的な繁殖スピードの中で、薬剤に対する耐性を持つ個体が偶然生き残ると、その遺伝子を受け継いだ子孫が爆発的に増殖してしまうのです。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10094857/

特に、同じ種類の殺虫剤や、同じ作用機序(殺虫メカニズム)を持つ薬剤を繰り返し使用し続けると、その薬剤が効かない「スーパーアブラムシ」とも呼べる抵抗性個体群が圃場(ほじょう)全体を占拠することになります。これを「薬剤抵抗性の発達」と呼びます。一度抵抗性がついてしまうと、規定倍率で散布しても死なないばかりか、天敵となる昆虫だけが死滅し、かえってアブラムシの密度が高まる「リサージェンス(湧き戻り)」現象を引き起こすリスクさえあります。

 

参考)ローテーションでアブラムシ防除対策

従来の有機リン系や合成ピレスロイド系の殺虫剤は、長年の使用によって多くの地域で抵抗性が確認されています。また、比較的新しいネオニコチノイド系の薬剤であっても、連用すれば確実に効き目は落ちていきます。重要なのは、アブラムシが「なぜ死なないのか」を正しく理解し、単に薬の濃度を上げたり回数を増やしたりするのではなく、根本的な防除戦略を見直すことにあります。抵抗性は、特定の薬剤に対して鍵穴が合わなくなるようなもので、一度獲得されると簡単には消えません。

 

  • 繁殖スピードの速さ: 短期間で世代交代するため、抵抗性遺伝子が広まりやすい。
  • 薬剤の選抜圧: 薬剤散布により、弱い個体が死に、強い個体だけが生き残る選抜が繰り返される。
  • 複合抵抗性: 複数の異なる薬剤に対して同時に抵抗性を持つ厄介な個体も出現している。

無農薬でアブラムシを駆除、防除する方法を徹底解説! - 抵抗性の問題背景と代替手段について詳述されています。

アブラムシ防除の基本はRACコードでのローテーション

薬剤抵抗性の発達を防ぎ、殺虫剤の効果を維持するために不可欠なのが「ローテーション防除」です。これは、異なる作用機序を持つ薬剤を順番に使う手法ですが、単に商品名を変えるだけでは意味がありません。多くの殺虫剤は、商品名が違っても有効成分が同じ系統(同じ殺虫メカニズム)である場合が多いからです。

 

参考)https://www.fmc-japan.com/trendinfo/irac/02

ここで重要になるのが「RACコード(ラックコード)」です。RACコードとは、殺虫剤の作用機構分類を数字やアルファベットで示したもので、農薬のラベルや製品情報に記載されています。例えば、ネオニコチノイド系は「4A」、有機リン系は「1B」といった具合です。ローテーション防除を行う際は、このコードが重ならないように薬剤を組み合わせる必要があります。「4A」を使った次は、「28(ジアミド系)」や「9B(ピメトロジン)」を使うといった具合に、系統の異なる薬剤を回していくのです。

 

参考)【抵抗性を付けさせない】RACコードでローテーション防除20…

さらに、高度な防除戦略として「世代間ローテーション」という考え方もあります。アブラムシの一世代(卵から成虫になり卵を産むまで)の間には同じ薬剤を使わず、世代が入れ替わるタイミングで薬剤の系統を切り替えることで、抵抗性遺伝子の定着をより確実に防ぐことができます。

 

RACコード 系統名 代表的な有効成分 特徴
4A ネオニコチノイド系 アセタミプリド、ジノテフラン 浸透移行性が高く、長期間効果が持続するが抵抗性がつきやすい。
1B 有機リン系 マラソン、アセフェート 古くから使われており、速効性があるが抵抗性が顕著な地域も多い。
28 ジアミド系 シアントラニリプロール 筋肉の収縮を制御し、摂食活動を停止させる。比較的新しい系統。
9B ピリジンアゾメチン誘導体 ピメトロジン 口針を麻痺させて吸汁を阻害する。即効性は低いが餓死させる。
UN 気門封鎖剤など デンプン、マシン油 物理的に作用するため、RACコードによる抵抗性管理の対象外(自由に組み込める)。

【抵抗性を付けさせない】RACコードでローテーション防除 - RACコードを用いた具体的なローテーション事例が紹介されています。

アブラムシに効く気門封鎖剤という選択肢

化学合成された殺虫成分に抵抗性を持ってしまったアブラムシに対して、絶大な効果を発揮するのが「気門封鎖剤(きもんふうさざい)」です。これは、デンプンや還元澱粉糖化物、植物油などを主成分とする薬剤で、虫の体表にある気門(呼吸をする穴)を物理的に塞いで窒息死させるという、極めてシンプルなメカニズムで作用します。

 

参考)いちごアブラムシおすすめ農薬!気門封鎖型, 回数制限なし, …

気門封鎖剤の最大のメリットは、「抵抗性がつかない」ことです。化学的な神経毒ではなく、物理的に窒息させるため、アブラムシがどんなに遺伝子変異を起こしても、呼吸ができなければ死んでしまいます。そのため、ローテーションの回数制限にカウントされない(または制限が緩い)ことが多く、抵抗性対策の切り札として、あるいは収穫前日の防除としても非常に重宝します。

ただし、気門封鎖剤には使用上のコツがあります。それは「虫体に直接薬剤がかからないと効果がない」という点です。浸透移行性がないため、葉の裏に隠れているアブラムシに薬液が直撃しなければ、窒息させることはできません。そのため、散布の際は丁寧かつ十分な量を撒く必要があります。また、展着剤を含んでいるものや、展着剤不要のものなど製品によって特性が異なるため、仕様を確認することが大切です。

 

  • エコピタ液剤: 還元澱粉糖化物が主成分。食品由来で安心感があり、物理的に固めて窒息させる。
  • 粘着くん液剤: デンプンが主成分。乾燥すると膜を張り、アブラムシを動けなくして窒息させる。
  • マシン油乳剤: 油膜で気門を塞ぐ。冬場の越冬害虫防除によく使われるが、生育期に使えるものもある。
  • アーリーセーフ: 脂肪酸グリセリドが主成分。うどんこ病などの病気にも同時に効果がある場合が多い。

アブラムシを駆除する!化学合成農薬を使わない対策~天敵・気門封鎖剤~ - 気門封鎖剤の仕組みとメリットについて詳しく解説されています。

アブラムシを逃さない葉裏への散布テクニック

どれほど効果の高い殺虫剤を選んでも、アブラムシがいる場所に届かなければ意味がありません。アブラムシの多くは、天敵や直射日光、雨を避けるために「葉の裏」に密集しています。上から漫然とスプレーするだけでは、葉が傘の役割をしてしまい、肝心のアブラムシには一滴も薬がかかっていないというケースが非常に多いのです。これが「殺虫剤が効かない」と感じる隠れた大きな原因の一つです。

 

参考)アブラムシの駆除方法とは?初心者でも簡単にできる5つの対策

プロの農家は、ノズルの向きを工夫して下から上へ向かって散布したり、葉をめくりながら丁寧に散布したりします。家庭菜園や小規模な栽培でも、ノズルの先端が可動式の噴霧器を使用し、ノズルを上に向けて葉の裏側にしっかり薬液が当たるように意識するだけで、防除効果は劇的に向上します。

 

また、「展着剤(てんちゃくざい)」の併用も効果的です。アブラムシの体表はワックス状の物質で覆われており、水を弾く性質があります。展着剤を農薬に混ぜることで、薬液の表面張力が下がり、アブラムシの体に薬が馴染みやすくなります。特に気門封鎖剤を使用する場合や、ワックス層が厚いアブラムシ(ダイコンアブラムシなど)を防除する場合は、展着剤の機能が成否を分けることもあります。

 

  1. 逆さ散布: スプレーやノズルを下から上に向けて、葉の裏側を狙い撃ちする。
  2. 高圧散布: ある程度の勢いを持って噴霧することで、葉の隙間や密集部分に薬剤を到達させる。
  3. 十分な液量: 葉からポタポタと滴り落ちるくらい(十分量)散布するのが基本。
  4. 展着剤の活用: 虫体への付着性を高める機能を持つ展着剤(スカッシュなど)を選ぶ。

ローテーションでアブラムシ防除対策 - 薬剤散布の際のポイントや浸透移行性の活用について触れられています。

アブラムシを増やさないための窒素肥料の管理

殺虫剤選びや散布方法と同じくらい重要なのが、そもそも「アブラムシが増えにくい環境を作る」ことです。ここで見落とされがちなのが「肥料(特に窒素分)」の管理です。実は、アブラムシは窒素肥料が過剰に効いている植物を好んで寄ってきます。

 

参考)アブラムシが発生する原因とは?アブラムシの退治方法と予防方法…

植物は根から吸収した窒素を材料に、体内でアミノ酸を合成してタンパク質を作ります。窒素肥料を与えすぎると、植物体内で消費しきれないアミノ酸がだぶついた状態になります。アブラムシはこのアミノ酸が大好物なのです。つまり、良かれと思って肥料をたっぷり与えることは、アブラムシにとって「ご馳走」を用意して招待しているようなものです。

 

「殺虫剤が効かない」と嘆く前に、葉の色が濃すぎないか、葉が大きく薄く徒長していないかを確認してください。これらは窒素過多のサインです。適正な施肥量を守り、植物を健康にがっしりと育てることは、細胞壁を強くし、アブラムシが口針を刺しにくい状態を作ることにもつながります。これは農薬に頼らない「耕種的防除」の基本であり、プロの農業現場でも重視されているテクニックです。即効性はありませんが、長期的には農薬の使用回数を減らし、抵抗性リスクを下げるための土台となります。

 

アブラムシの駆除方法とは?初心者でも簡単にできる5つの対策 - 窒素過多とアブラムシ発生の関係性について解説されています。

 

 


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