小松菜の農薬選定は、まず「登録(適用)」が最優先です。小松菜は作物分類上「非結球あぶらな科葉菜類」等の作物群で扱われることがあり、作物群の登録により使用可能になるケースもあるため、ラベルの作物名表記と作物群の考え方をセットで確認します。
現場でのつまずきは「成分名は同じでも製品(剤型)が違う」「適用害虫は同じでも使用時期・回数が違う」などのパターンです。たとえば、粒剤は播種時の土壌処理が中心で、散布回数の数え方(播種時の土壌混和は何回に含むか等)まで登録ごとに決まっています。
参考)ダントツ粒剤
確認作業を省略しないためのコツは、次の3点を“毎回”見ることです(慣れても事故はここから起きます)。
参考)農薬登録情報提供システム
参考:登録内容(剤型・使用時期・回数)を一次情報で確認する
農林水産省 農薬登録情報提供システム(作物・病害虫別に適用と使用条件を確認)
小松菜の「安全側の設計」をするなら、残留基準(MRL)と収穫前日数の理解が欠かせません。食品衛生法のポジティブリスト制度では、食品ごとに残留基準値が定められ、基準がない農薬等には一律基準(0.01 ppm)が適用されます。
ここで重要なのは、「基準値以下=それだけで現場的に安心」ではなく、“基準値以下に収める使い方”が問われる点です。自治体の残留農薬検査でも、検出があった場合に基準値未満かの確認に加え、生産者の農薬使用履歴の確認と指導につなげる運用が示されています。
参考)令和4年度 農産物の残留農薬検査結果/京都府ホームページ
意外に盲点になりやすいのが、短期どりの小松菜ほど“散布日”が詰まり、収穫前日数の縛りが実務を支配することです。たとえば表にあるように、薬剤によって「収穫前日まで」「収穫3日前まで」「収穫7日前まで」など条件が異なるため、同じ作型でも選べる薬剤が変わります。
参考)https://www.zennoh.or.jp/ib/contents/make/einou/2895.pdf
参考:残留基準(MRL)の考え方(制度面)を押さえる
MRL設定の基本原則(日本の残留基準設定の考え方)
小松菜の防除は「薬剤だけで勝つ」発想だと崩れやすく、作期・圃場条件ごとの発生実態を整理して防除体系を組むことが重要です。長期連作では土壌病害(リゾクトニア病、萎黄病など)が出やすく、低温多湿期は白さび病やべと病、長雨期は炭疽病や黒斑細菌病などが出やすい、という“季節のクセ”が示されています。
害虫は、夏季中心にキスジノミハムシやアザミウマ類が長く出る一方、アブラムシ類やハモグリバエ類は春秋に出やすい傾向があり、チョウ目害虫(アオムシ、コナガ、ヨトウムシ類)も春秋中心に問題化しやすいとされています。ここを外すと「何を打っても遅い」状態になり、減収が大きくなります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/5d3625b00003a87bdf1091f374c9ec74c1341a44
体系づくりの軸は、次の3つを同時に回すことです。
実務で効く小技として、粒剤(播種時土壌処理)を“初期害虫の保険”として位置づけ、発生が見えたら散布剤を最小回数で当てる設計は、短期どりでスケジュールが詰まる小松菜と相性が良いです。ただし、その可否は登録の使用時期・回数に完全に従う必要があります。
小松菜で農薬を減らす(あるいは無農薬寄りに寄せる)場合、最も再現性が高い基盤技術は「侵入遮断」です。無農薬ハウス栽培マニュアルでは、害虫侵入抑制の基本として、ハウスの全開口部を防虫ネットで被覆することが最も効果的で不可欠とされ、推奨の目合いとして0.6mmが挙げられています。
ただし、防虫ネットは万能ではなく、網目を通過できる微小害虫(例:アブラムシ等)や、地面を這って裾から侵入する甲虫類は別対策が必要とされています。ここが「ネット張ったのに被害が出た」という現場あるあるの原因で、ネット以外の“周辺設計”が同じくらい重要になります。
ネット運用とセットで効くのが、土壌側のリセットです。マニュアルでは太陽熱利用土壌消毒を、雑草種子や害虫の幼虫・蛹・卵、土壌伝染性病害の病原菌などに効果がある有力技術として位置づけ、梅雨明け〜9月中旬ごろが適期で、処理期間は約3週間必要とされています。
また、防虫ネットでハウス内が高温になり作業が危険になる問題も明記されており、天窓や送風で作業環境を改善する必要がある点は、農薬を減らすほど“作業設計”が重要になるという示唆です。防除だけでなく、作業者の安全を含めた管理に落とし込むと継続しやすくなります。
参考:無農薬(減農薬)に寄せるための「侵入遮断」「土壌消毒」「作業環境」まで載っている
農研機構 コマツナ無農薬ハウス栽培マニュアル(防虫ネット0.6mm、太陽熱土壌消毒、天窓・送風など)
検索上位では「どの農薬が使えるか」「無農薬は可能か」に寄りがちですが、現場で静かに効いてくるのが“連作と残留の関係”です。コマツナは複数回播種・収穫を繰り返す体系が多く、長期連作で土壌病害が出やすいことが示されているため、病害が立ち上がる圃場では「薬剤を増やす」より前に、連作緩和の設計(輪作・土壌消毒・排水)で土台を直す方が結果的に農薬回数を減らせることがあります。
意外な盲点は、「農薬を減らす」ほど圃場衛生(除草、被害株除去、発生地点中心の初動)が“収量を守る最後の弁”になる点です。資料でも、害虫の飛来源・ウイルス保毒源となる圃場内外の除草徹底、被害株の早期除去、発生場所中心の対応が防除対策のポイントとして書かれています。農薬は強い手段ですが、少ない武器で戦うほど基本動作が差になります。
もう一段踏み込むなら、作型を「病害虫が増えやすい気象(多湿・長雨)に当てない」ように調整するのも、農薬の選択肢が少ない小松菜では現実的な戦略です。低温多湿期に白さび病・べと病、長雨期に炭疽病などが出やすいという傾向を、播種日・換気・灌水の意思決定に使うと、薬剤の“必要な場面”そのものを減らせます。
最後に、農薬を使う/使わないにかかわらず、記録(いつ・何を・どれだけ・どこに)を残すことは、残留や指導対応の面でも強い防波堤になります。自治体の検査運用では使用履歴の確認に触れており、説明できる状態が信頼を作ります。