さび病の薬剤防除では、予防効果と治療効果を持つ薬剤を組み合わせることが重要です。予防剤として広く使用されているのは、アミスター20フロアブル(アゾキシストロビン水和剤)、ジマンダイセン水和剤(マンゼブ水和剤)、ストロビーフロアブル(クレソキシムメチル水和剤)などがあります。これらの薬剤は病原菌の呼吸を阻害することで、植物への侵入前に感染を防ぐ作用があります。
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アミスター20フロアブルは野菜類や畑作物のさび病に対して高い予防効果を発揮し、浸透移行性により雨に強く安定した効果が期待できます。ネギのさび病では5月上旬に予防で1回、6月上旬に発生状況を見て1回の計2回散布することで、発生を抑えられることが実証されています。マンゼブ水和剤は殺菌成分が高く、バラ、キク、カーネーションなどのさび病防除に予防剤として使いやすい特徴があります。
参考)https://www.syngenta.co.jp/cp/articles/20110704_01
治療効果が高い薬剤としては、トリフミン水和剤(トリフルミゾール水和剤)、STサプロール乳剤、ラリー乳剤などが挙げられます。ラリー乳剤は野菜のさび病・うどんこ病に優れた予防効果と治療効果があり、病原菌の侵入後の散布でも菌糸の伸長を阻害し病斑の進展を防ぎます。トリフミン水和剤は予防効果と治療効果に優れ、病斑の拡大阻止力や胞子形成阻止力があり、浸透性に優れるため散布後に降雨があっても効果にほとんど影響がありません。
参考)ラリー乳剤
農薬検索サイトで各作物に登録されている薬剤一覧を確認できます
発病初期の薬剤散布が特に効果的で、病斑が少し見え始めた時期に治療効果の高い薬剤を使用することで、病斑が白く変色し治癒した証拠となります。
さび病は特定の環境条件下で発生しやすく、その理解が予防対策の基本となります。病原菌の夏胞子の発芽に適した温度は9〜18℃とやや低めで、24℃になると発芽率が低下するため、低温で雨が多い季節に発生が多くなります。具体的には、春まきネギでは秋冬季に、秋まきネギでは翌年春と梅雨時期に多発生することが知られています。
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さび病は真夏を除いた4〜11月に多く、特に春と秋のくもりや雨が続く時期に発症しやすい特徴があります。春や秋の降雨や風通しが悪い環境が続くと、葉や茎などの上にさび病の胞子がはん点状に出現し、その後ふくらんだはん点が破けて胞子が飛び散り、周囲の植物が二次感染します。発症の原因は天候だけでなく、過湿の土や肥料の量、ハウス内の湿度なども深く関係しています。
参考)さび病とは?さび病が発生する原因と対策について - For …
環境管理による予防対策として最も重要なのは、密植を避け風通しを良くすることです。苗は間隔を空けて植えつけ、生長とともに葉が混み合う部分はカットして風通しをよくしましょう。株間を広めにとることで、湿気がこもりにくい環境を作ることができます。畝上にはマルチを張り、株の上からの頭上潅水は絶対に避け、水やりは葉にかけないよう注意が必要です。
参考)https://chibanian.info/20240502-58/
排水を良好にすることも予防には欠かせません。水はけの悪い土壌では病原菌が活性化しやすくなるため、圃場の排水対策を徹底することが求められます。また、感染した葉は早めに取り除き、畑の外に処分することで伝染源を減らすことができます。
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さび病の薬剤防除において、散布タイミングは防除効果を左右する最も重要な要素の一つです。発病後の薬剤防除は極めて困難なため、発病初期を的確に捉えて早期防除に徹することが必須です。薬剤散布の基本は感染が広まる前の予防的な散布で、感染リスクが中〜大となる場合には薬剤の散布を検討する必要があります。
参考)さび病 | 病害データベース | 種苗事業部 | 武蔵野種苗…
予防散布では、発生しやすい時期の前から定期的に薬剤を散布することが効果的です。キク白さび病では、発病に好適な6〜7月上旬には約1週間間隔で薬剤が散布されています。にんにくのさび病では、5月上旬に予防で1回、発生具合を見計らって6月上旬に1回の計2回で発生を抑えられることが実証されています。
参考)https://www.pref.nara.jp/secure/266314/4.pdf
福島県のキク白さび病防除ガイドラインで予防散布の詳細が確認できます
発生初期の対応では、治療効果の高い薬剤を速やかに散布することが重要です。うどんこ病や灰色かび病、さび病に対して高い治療効果を示す薬剤は、特に発生初期(病斑が少し見え始めた時期)の散布が効果的です。カリグリーンなどの治療剤は効果が速効的で、カリウムイオンが植物病原菌の細胞に入り込み、細胞内のイオンバランスを崩して病斑を消滅させます。
参考)https://www.greenjapan.co.jp/karigrin_s.htm
ネギやタマネギなどは散布液が付きにくいため、必ず展着剤をやや多めに添加して葉に薬液が付着しやすくする工夫が必要です。薬剤防除は発病前または発生初期に重点を置いて、薬液が付着しやすいよう展着剤を加用して行います。降雨が続くなどした場合には治療殺菌剤を散布することで、高い防除効果が期待できます。
参考)https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/438528.pdf
薬剤耐性菌の発生は、さび病防除における深刻な問題となっています。耐性菌の発達により急激に防除効果が低下し、多くの地域で使用中止となった事例も報告されています。特にQoI剤やDMI剤に対する耐性菌の出現が問題となっており、キク白さび病では近年これらの薬剤に対する感受性低下が確認されています。
参考)https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5531074.pdf
耐性菌対策の基本は、同一系統の薬剤を連用しないことです。使用する薬剤がどの系統(FRAC分類)に属するのかを調べ、耐性菌が発生しやすい薬剤かどうかを確かめる必要があります。FRAC分類もしくは系統(作用機構)の異なる予防効果の高い剤を組み合わせ、ローテーション散布することが推奨されています。
参考)https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/enken/seika/kaki/tanennsei/documents/h29kaki03kogiku_sirosabi01.pdf
小ギクにおける白さび病防除では、予防効果・治療効果ともに高いトルフェンピラド乳剤とミクロブタニル乳剤は露地圃場において梅雨時期に約7日間隔で散布を行うと高い効果を示しますが、DMI剤については国外でダイズさび病に対する耐性菌の発生が報告されているため、剤を連用すると耐性菌が発生する可能性があります。トルフェンピラド乳剤についても未報告ですが、連用には注意が必要です。
農林水産省の耐性菌対策ガイドラインで詳細な使用基準を確認できます
実践的なローテーション方法として、ネギのさび病・葉枯病では、オンリーワンフロアブル、テーク水和剤、アミスター20フロアブル、カナメフロアブルなど防除効果が高い薬剤を、分類(コード)の異なる組み合わせで使用することが有効です。防除基準や防除暦等で決められた薬剤の希釈倍数や薬量を守り、作物にムラなく散布することも耐性菌発生防止に重要です。
参考)https://akita-shirakami.jp/relays/download/392/843/2818/?file=%2Ffiles%2Flibs%2F4639%2F202203051613246516.pdf
薬剤の効果が疑われる場合は直ちに関係機関に連絡し、耐性菌の検定を依頼するとともに防除指導を受けることが推奨されます。検定で耐性菌の分布が確認された場合は、直ちにその薬剤の使用を中止して効果のある別系統の薬剤に切り替える必要があります。
さび病による収量低下を防ぐには、薬剤防除だけでなく総合的な管理戦略が不可欠です。健全な作物管理と定期的な監視により、強健な植物を育てることで病害に対する抵抗力を高めることができます。土壌の状態を保ち、充分な栄養素を与えることで植物の免疫力を向上させることが基本です。
早期発見・早期対応が収量確保の鍵となります。さび病は出来るだけ毎日葉の観察をおこない、問題がないか確認してください。初期対処がもっとも重要です。発病初期の葉はすぐに取り除き、畑の外に処分することで伝染源を減らせます。圃場全般に発生するようになれば、治療効果のある殺菌剤を選択し、散布数日後にオレンジ色の病斑が白く変色すると治癒した証拠です。
参考)さび病とは?予防や再発防止の方法を紹介
🌱 発生段階別の対応方法
🔄 持続可能な防除サイクル
収穫後の病原菌管理も重要で、病原菌を残さないために収穫後の葉や茎はきれいに片づけ、前年発病した場所は避けて植える(連作回避)ことが推奨されます。休耕地を設けたり作物の輪作を行うことで、土壌中の病原体の数を減らすことが可能です。
🔬 有機栽培での対応策
適切な肥料の使用も病気予防の基本で、有機肥料の利用を推進し植物本来の健康を支える自然農法も注目されています。多発すると防除が困難になるため、薬剤防除は予防散布や初期散布に重点を置くことが収量確保の最重要ポイントです。
参考)https://www.pref.oita.jp/uploaded/attachment/2179204.pdf