低温要求性とは|果樹栽培における品種と温度と時間

低温要求性とは果樹や野菜が春に正常に開花・発芽するために冬の低温が必要な性質です。モモやブドウなど品種により必要な時間が異なりますが、温暖化で不足すると収量減少のリスクもあります。あなたの栽培品種は大丈夫でしょうか?

低温要求性とは果樹の休眠打破に必要な性質

暖冬で喜んでいたら翌年の収量が3割減ることがあります。


この記事の3ポイント要約
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低温要求性の基本

果樹や野菜が春に正常に開花・発芽するために、冬季に7.2℃以下の低温に一定時間さらされる必要がある性質です

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品種による違い

モモは約1000時間、ブドウは800~1200時間、ブルーベリーは品種により200~1400時間と大きく異なります

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温暖化の影響

低温要求量が不足すると発芽不良や開花不揃いが起こり、収量が10~30%減少するリスクがあります


低温要求性の定義と植物の休眠メカニズム


低温要求性とは、落葉果樹や一部の野菜が春に正常な開花や発芽を行うために、冬季に一定量の低温にさらされる必要がある生理的な性質です。植物は秋になると気温の低下とともに自発休眠という状態に入ります。この自発休眠を打破するには、冬の間に低温を経験することが不可欠なのです。


具体的には、7.2℃以下の温度に遭遇した時間を積算して測定します。この積算時間を「低温要求量」または「低温積算時間」と呼びます。


たとえばモモの場合、気温7℃以下の状態で約900時間から1000時間、つまり約37日間から42日間ほどぐっすり低温に眠らないと、翌春に発芽することができず、実もなりません。つまり、冬の寒さは果樹にとって単なる休息期ではなく、次の生育サイクルを正常に開始するための必須条件なのです。


低温を経験することで、植物体内では複雑な生理生化学的変化が起こります。開花を抑制する遺伝子の働きが停止し、逆に開花を促進する遺伝子が活性化されます。この一連のプロセスが完了して初めて、春の暖かさに反応して芽が動き出すことができるのです。


日本植物生理学会による低温要求時間の詳しい解説


低温要求性はすべての植物に備わっているわけではありません。モモ、ブルーベリー、カキ、リンゴ、ナシなどの落葉果樹、サクラやウメなどの花卉、そしてイチゴなどの一部の野菜が、この性質を持っています。一方で、常緑樹や熱帯原産の作物には低温要求性がありません。


この性質が存在する理由は、植物が寒い冬を生き延びるための進化の結果です。早すぎる時期に芽を出してしまうと、厳しい寒さで凍害を受けてしまいます。低温要求性という仕組みを持つことで、十分に寒い季節が過ぎ去ったことを確認してから、安全に成長を再開できるのです。


低温要求性を持つ主な果樹と品種ごとの必要時間

低温要求性は作物の種類や品種によって大きく異なります。同じ果樹でも、品種によって必要な低温時間には100時間以上の差が生じることも珍しくありません。


モモの場合、日本の主要品種では低温要求時間が900時間から1300時間程度です。たとえば「白鳳」や「あかつき」といった一般的な品種は約1000時間の低温を必要とします。一方、温暖化対応として開発されたブラジル由来の品種や「KU-PP1」「KU-PP2」といった新品種は、わずか300時間から500時間程度の低温要求量で開花できます。つまり同じモモでも、必要な寒さの期間が3倍以上違うということです。


ブドウでは800時間から1200時間が一般的です。山梨県では、この範囲を目安に加温栽培の開始時期を決定しています。


ブルーベリーは系統によって大きく異なります。ハイブッシュブルーベリーは低温要求量が多く、品種により800時間から1400時間必要です。これは北海道や東北地方の寒冷地に適した特性です。一方、ラビットアイブルーベリーは200時間から600時間程度と低温要求量が少なく、温暖な地域でも栽培できます。


この差は約3倍にもなります。


ニホンナシは1200時間から1400時間、オウトウ(サクランボ)も同様に1200時間から1400時間と、比較的長い低温期間を必要とします。リンゴも品種により1000時間から1400時間程度です。


これらの数値は、その品種を栽培できる地域を判断する重要な指標になります。たとえば鹿児島県南部より南の地域では、冬季の低温積算時間が不足するため、高い低温要求量を持つ品種は開花が不安定になり、安定した栽培が困難です。逆に、寒冷地で低温要求量の少ない品種を栽培すると、早すぎる時期に休眠が覚醒してしまい、晩霜害のリスクが高まります。


栽培を始める前に、その地域の冬季の気象データと品種の低温要求量を照らし合わせることが必要です。


低温要求性が不足した場合の症状と収量への影響

低温要求量が満たされないと、果樹には様々な生育障害が発生します。最も顕著な症状は、発芽不良と開花の遅延・不揃いです。


自発休眠が十分に覚醒しないと、春になっても芽が動き出すタイミングがバラバラになります。同じ樹の中でも、一部の芽は正常に開花するのに、他の芽は全く動かないという状態が生じるのです。結果として開花期間が長期化し、受粉のタイミングが合わず、結実率が大幅に低下します。


具体的な収量への影響は深刻です。低温要求量が不足すると、収量が10%から30%減少することが報告されています。たとえば通常1本の樹から100kgの収穫が見込める場合、70kg程度にまで落ち込む可能性があるということです。


経営への打撃は計り知れません。


さらに問題なのは、開花後の果実発達にも異常が現れることです。低温処理時間が短いと、開花した花の形態に奇形が生じたり、その後の果実が正常に肥大しなかったりします。果実の大きさが揃わず、商品価値の低い小玉果が増加するのです。


ウメのように低温要求性が比較的短い果樹では、別の問題が生じます。暖冬で開花が顕著に早まると、まだ気温が低く不安定な1月から2月に開花期を迎えてしまいます。この時期は天候が悪く、受粉を媒介する昆虫の活動も不十分です。結実不良になる確率が高くなり、やはり収量減少につながります。


ニホンナシやブドウでは、秋冬季の高温により自発休眠覚醒遅延という目には見えにくい現象が起きています。これは表面的には問題なく見えても、樹勢が低下し、作業時期がバラつくことで管理が困難になります。


温暖化の進行により、これまで栽培適地だった地域でも低温要求量が不足する事例が増えています。適応策を講じなければ、産地としての競争力を失うリスクがあります。


低温不足の症状が現れたときの対処法として、植物成長調整剤による休眠打破処理があります。ジアナミドなどの薬剤を散布することで、不足した低温要求量を補うことができる場合もあります。


ただし、これはあくまで応急的な対策です。


根本的には、地域の気候変動に適した品種への転換を検討する段階に来ているかもしれません。


低温要求性と温暖化|栽培適地の変化と対応策

地球温暖化は低温要求性を持つ果樹栽培に大きな影響を及ぼしています。今後、気温上昇がさらに進めば、現在の栽培適地が北上したり、これまで主力だった品種が栽培できなくなったりする可能性が高いのです。


農林水産省の予測によれば、気候変動により果樹の栽培適地が変化することが確実視されています。たとえばリンゴは、現在の東北地方や長野県が主産地ですが、将来的には北海道での栽培がより有利になると予測されています。逆に、従来の産地では夏季の高温による品質低下や、冬季の低温不足による発芽不良が深刻化するでしょう。


モモでは、温暖化により従来の品種が栽培できなくなる地域が拡大しています。そのため研究機関では、低温要求時間が300時間程度の「少低温要求性品種」の開発が進められています。これらの品種は、暖地でも安定して開花・結実できるように改良されたものです。


ニホンナシでも、低温要求量が短くなる台木の研究が行われています。台木を変えることで、穂木品種の低温要求性を調整できる可能性があるのです。モモでも、少低温要求性の台木を使用すると、接ぎ木した品種の低温要求量がやや少なくなることが確認されています。


これらの品種開発は長期的な適応策ですが、短期的には既存の栽培技術で対応する必要があります。たとえば、低温積算状況をリアルタイムで把握できるWebアプリケーションが開発されています。


山梨県果樹試験場の低温積算状況確認システム


このようなツールを活用することで、現時点での低温積算時間を確認し、加温栽培の開始時期や休眠打破剤の散布タイミングを適切に判断できます。経験だけに頼らず、データに基づいた栽培管理が求められる時代になっています。


また、品種構成の見直しも重要です。同じ産地内でも、低温要求量の異なる複数の品種を組み合わせて栽培することで、気候変動のリスクを分散できます。すべての品種が同時に影響を受けるわけではないため、経営の安定性が高まるのです。


温暖化は避けられない現実です。しかし、科学的な知見と技術を駆使することで、新たな栽培体系を構築することは可能です。低温要求性という植物の基本的な性質を理解し、それに応じた品種選択と栽培管理を行うことが、これからの果樹栽培には不可欠となるでしょう。


低温要求性の測定方法と産地での活用事例

低温要求性を正確に把握することは、栽培計画を立てる上で非常に重要です。研究機関では、実験的に低温要求時間を測定していますが、その方法は意外とシンプルです。


基本的な測定方法は、圃場から枝を採取し、7.2℃以下の低温に様々な時間さらした後、15℃前後の温室に移して発芽までの日数と最終的な発芽率を調査します。低温処理時間を段階的に変えて実験することで、その品種が何時間の低温を必要とするのかが明らかになります。


たとえば福島県果樹試験場では、モモの2品種を対象に低温要求時間の測定を行いました。その結果、品種間で100時間以上の差があることが確認されています。この差は約4日分に相当し、開花期のズレとして実際の栽培に影響します。


測定では、発芽の早さだけでなく、花の形態や果実への発達も観察します。低温処理時間が不十分だと、発芽しても花に奇形が生じたり、果実が正常に肥大しなかったりするからです。つまり、単に芽が出ればよいというわけではなく、商品価値のある果実を生産できる最低限の低温時間を特定する必要があるのです。


各産地では、これらの研究成果を実際の栽培に活用しています。山梨県では、ブドウとモモの低温積算時間をリアルタイムで公開し、生産者が加温開始のタイミングを判断できるようにしています。低温要求量が満たされる前に加温を始めても、発芽不良が起きるだけで燃料費の無駄になってしまうからです。


鳥取大学では、低温要求量モデルを利用して、日本全国のどの地域で低温が蓄積しやすいかを評価する研究を進めています。標高や地形による違いも考慮に入れることで、より細かい適地マップの作成が可能になります。このような予測ツールは、新規就農者が栽培地を選ぶ際や、産地が品種構成を見直す際に非常に有用です。


長崎県では、温暖化対応品種として低温要求量の少ない「さくひめ」というイチゴ品種の普及を進めています。この品種はハウス栽培における生育特性が明らかにされ、温暖な気候でも安定した生産が期待できます。産地全体で計画的に品種転換を進めることで、気候変動への適応を図っているのです。


佐賀県ではアスパラガスで、暖冬により休眠打破に必要な低温遭遇が不十分となり、春芽収量が減少している問題に直面しています。対策として、夜間冷房によってハウス内温度を低下させる技術を導入し、人工的に低温要求量を満たす試みが行われています。


このように、低温要求性の科学的理解は、単なる学術的興味にとどまらず、実際の農業経営を支える重要な知識となっています。データと技術を組み合わせることで、変化する気候条件の中でも持続可能な果樹栽培が実現できるのです。




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