穂木とは接ぎ木で台木に活着させる採取と保存と調整

穂木とは接ぎ木において地上部となり実や花をつける重要な枝のことです。台木との相性や活着率を高めるための選び方、乾燥を防ぐ保存方法、形成層を合わせる調整技術など、成功の鍵となる専門知識を深堀りしませんか?

穂木とは

穂木(ほぎ)の基礎知識と重要性
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穂木の定義と役割

接ぎ木の上部となり、目的の品種の果実や花を生産する重要な枝や芽のことです。

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採取と保存の鉄則

休眠期に採取し、乾燥を防いで冷蔵保存することで高い活着率を維持します。

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形成層と活着の技術

台木の形成層と正確に合わせる調整技術が、養分転流と接ぎ木成功の鍵を握ります。

穂木と台木の関係と接ぎ木の成功率


農業や園芸の現場において、「穂木(ほぎ)」は作物の品質や収量を決定づける最も重要な要素の一つです。穂木とは、接ぎ木を行う際に地上部となり、将来的に葉を茂らせ、花を咲かせ、果実を実らせる植物体の部分を指します。対して、地下部で根を張り、土壌からの水分や養分を吸収して植物全体を支える土台となるのが「台木(だいぎ)」です。この二つの異なる植物体をつなぎ合わせ、一つの個体として共存・成長させる技術が接ぎ木であり、その成否は穂木と台木の相互作用、すなわち「親和性」と生理的な結合プロセスに深く依存しています。


接ぎ木の成功率、すなわち「活着(かっちゃく)」するかどうかは、単に物理的につなぎ合わせるだけでは決まりません。穂木と台木の切断面で細胞分裂が活発に行われ、「カルス(癒傷組織)」と呼ばれる未分化の細胞塊が形成される必要があります。このカルスが双方の隙間を埋め、やがて新しい維管束(道管と師管)がつながることで、初めて台木から穂木へと水分や養分がスムーズに供給されるようになります。


  • 親和性の重要性: 穂木と台木は植物分類学的に近い関係(同科同属など)であるほど親和性が高く、活着しやすい傾向にあります。例えば、キュウリの穂木にはカボチャの台木、ナスの穂木には近縁の野生ナスなどが使われます。親和性が低い場合、一時的に活着したように見えても、数年後に「不親和症状」として接合部が肥大したり、突然枯死したりすることがあります。
  • 活着のメカニズム: 接ぎ木直後、穂木は台木からの水分供給が断たれた状態にあります。そのため、穂木自身の貯蔵養分を使ってカルスを形成し、維管束がつながるまでの数日間を生き延びなければなりません。この期間の温度・湿度管理と、穂木の鮮度が成功率を左右します。
  • 樹勢のコントロール: 穂木は台木の影響を強く受けます。勢いの強い台木を使えば穂木の成長も旺盛になり(樹勢強化)、逆に成長を抑える台木(矮性台木)を使えば、木をコンパクトに仕立てることができます。

このように、穂木は単なる「上の部分」ではなく、台木というパートナーの能力を引き出し、最終的な農産物の価値を生み出すための司令塔のような役割を果たしています。したがって、どのような台木にどのような穂木を接ぐかという組み合わせの選定は、農業経営における戦略的な意思決定そのものと言えるでしょう。


果樹栽培における台木と穂木の基本的な関係性や、品種ごとの相性について詳しく解説されています。


果樹・植木の接ぎ木について | JAあつぎ営農通信

穂木の選び方と良質な芽の見極め

接ぎ木を成功させ、その後の生育を健全に保つためには、最良の「穂木」を選び出す目利きが不可欠です。どれほど高度な接ぎ木技術を持っていても、使用する穂木自体の質が悪ければ、活着しないばかりか、将来的な病害のリスクや生育不良を招くことになります。良質な穂木とは、単に太くて長い枝のことではありません。母樹の状態、枝の充実度、芽の健全性など、多角的な視点から厳選された枝である必要があります。


特に果樹の場合、穂木は前年に伸びた枝(一年生枝)から採取するのが一般的ですが、その中でも「徒長(とちょう)していない、節間の詰まった充実した枝」を選ぶことが鉄則です。徒長枝は組織が軟弱で貯蔵養分が少なく、活着率が著しく低下します。また、花芽ではなく「葉芽」がしっかりと付いている部分を使うことも重要です。花芽ばかりの穂木を使ってしまうと、活着後に花が咲いてしまい、枝葉の伸長に必要なエネルギーが奪われてしまうためです。


良質な穂木を見極めるチェックリスト

  • 母樹の健全性: ウイルス病や重篤な病害に感染していない、生育旺盛な母樹から採取すること。特にウイルスフリー苗の育成が求められる現代農業では、母樹の選定は最優先事項です。
  • 枝の充実度: 切り口が丸く、髄(中心のスポンジ状の部分)が小さく、木部が硬く充実しているもの。平べったい枝や、髄が大きすぎる枝は避けます。
  • 芽の状態: ぷっくりとして光沢があり、充実した「休眠芽」がついていること。芽が擦り切れていたり、小さすぎたりするものは生育が遅れます。
  • 節間の長さ: 節間(芽と芽の間隔)が間延びしておらず、適度に詰まっているもの。節間が長すぎる枝は徒長の証拠であり、組織が粗雑な場合が多いです。
  • 日当たり: 樹冠の外側にあり、十分に日光を浴びて育った枝を選びます。日陰の枝(陰枝)は炭水化物の蓄積が少なく、活着後の伸びが悪くなります。

野菜の接ぎ木(トマト、ナス、キュウリなど)においては、穂木となる幼苗の茎の太さが台木と揃っていることが重要です。茎が細すぎると形成層を合わせるのが難しく、太すぎるとクリップで固定しにくくなります。また、双葉や本葉の色が濃く、茎ががっしりとして徒長していない苗(「ずんぐり苗」)を選ぶことが、活着率向上の第一歩です。


穂木の選び方について、果樹のプロが実践する具体的な視点や、失敗しないためのポイントが動画で解説されています。


【金城流】穂木の選び方!成功率を上げるためのちょっとしたコツ

穂木の採取時期と乾燥を防ぐ保存

穂木の採取と保存は、接ぎ木の作業時期(通常は春先)に合わせて計画的に行う必要があります。特に落葉果樹の場合、穂木は樹液が流動し始める前の「休眠期」に採取するのが大原則です。樹液が動き出し、芽が膨らみ始めてから採取した穂木は、貯蔵養分が消費され始めているため活着率が下がります。また、採取した穂木は、接ぎ木を行うその時まで、生命力を維持したまま「休眠状態」を保たせなければなりません。ここで最大の敵となるのが「乾燥」です。


適切な採取時期の目安
一般的に、多くの果樹では1月下旬から2月中の、もっとも寒さが厳しく樹木が深い眠りについている時期に採取を行います。この時期の枝は耐寒性が高く、貯蔵養分もマックスの状態にあります。ただし、カンキツ類などの常緑果樹の場合は、春の萌芽直前(3月上旬~中旬)に採取し、すぐに接ぐのが一般的ですが、保存する場合は葉を落として蒸散を防ぐ処理が必要です。


プロが行う穂木の保存テクニック

  1. 適度な湿度の維持: 採取した穂木は、すぐに乾燥防止の処置を行います。一般的には、水を含ませて固く絞った新聞紙やペーパータオルで包みます。水分が多すぎるとカビの原因になり、少なすぎると乾燥して枯れてしまうため、「湿っているが水滴は落ちない」程度が理想です。
  2. 密閉と冷蔵: 新聞紙で包んだ穂木を、さらにビニール袋に入れて密閉します。これを冷蔵庫の野菜室(約2℃~5℃)で保管します。この温度帯は、穂木の呼吸を最小限に抑え、カビの発生を防ぎつつ、休眠覚醒を遅らせるのに適しています。冷凍庫(0℃以下)は細胞が凍結障害を起こす可能性があるため、一部の樹種を除いて避けるべきです。
  3. エチレンガスへの対策: 一般家庭の冷蔵庫で保管する場合、リンゴなどのエチレンガスを多く放出する果物と一緒にしないよう注意が必要です。エチレンガスは植物の老化を促進するため、穂木の芽が劣化したり、早期に活動を開始してしまったりする原因になります。
  4. 殺菌処理: 保存期間が長くなる場合(1ヶ月以上)は、ベンレート水和剤などの殺菌剤に軽く浸漬してから陰干しし、保存することで、腐敗菌の繁殖を抑えることができます。

保存状態が良ければ、数ヶ月間は高い活着能力を維持できます。接ぎ木を行う前日には、保存していた穂木を取り出し、基部を水に浸して吸水させる(水揚げ)ことで、組織をリフレッシュさせ、活着率をさらに高めることができます。


ブドウの苗木生産における、冷蔵保存と生存率に関する詳細な研究データが示されており、保存方法の科学的根拠として参考になります。


ブドウの苗木生産における穂木及び台木の保存方法(岡山県)

穂木の調整と形成層を合わせる技術

接ぎ木のハイライトとも言える工程が、穂木の「調整(調製)」と、台木への挿入・固定です。ここで最も重要なキーワードが「形成層(けいせいそう)」です。形成層とは、樹皮(師部)と木部(木質部)の間にある、細胞分裂能力を持った薄い組織の層のことです。接ぎ木が成功するかどうかは、穂木の形成層と台木の形成層を、いかに広範囲かつ密着させて合わせられるかにかかっています。どれだけしっかりと固定しても、この形成層同士が接触していなければ、維管束がつながらず、穂木は干からびてしまいます。


穂木の調整(ナイフワーク)の極意
穂木の下部をクサビ型や斜めにカットする際、求められるのは「スパッ」とした鋭利で平滑な切断面です。切れ味の悪いナイフやハサミで押し切るようにカットすると、切断面の細胞が押しつぶされ(挫滅)、壊死してしまいます。壊死した細胞層はカルスの形成を阻害し、活着の妨げとなります。


  • 一刀削り(片刃の使用): 接ぎ木ナイフは通常、片刃のものを使用します。これにより、木材の繊維に沿って真っ直ぐに刃が入り、定規で引いたような平らな面を作ることができます。凸凹した切断面では、台木と合わせたときに隙間ができ、そこから乾燥したり水が入り込んだりして失敗します。
  • クサビ型の調整: 割り接ぎ(切り接ぎ)の場合、穂木の基部をクサビ型に削りますが、一般的には片側を長く(3cm程度)、反対側を短く(1cm程度)削る非対称な形にします。長い方の面を台木の形成層に合わせるメインの面とし、広い接触面積を確保します。
  • 乾燥防止の処理: 調整した穂木は、切り口から急速に水分を失います。削ったら直ちに台木に挿入するのが鉄則です。また、穂木の上部(切り口)には、「トップジンMペースト」や「カルスメイト」などの癒合剤(ゆごうざい)を塗布し、水分蒸散と雑菌の侵入を防ぎます。あるいは、「メデール」のような接ぎ木テープで穂木全体を覆うことで、保湿を行う方法も普及しています。

形成層を合わせる実践テクニック
台木の方が穂木より太い場合が多いため、外皮の面を揃えてしまうと形成層の位置がずれてしまいます(台木の皮の方が厚いため)。そのため、台木の樹皮より少し内側に穂木の樹皮が来るように、意識的に「少しずらして」挿入するか、あるいは片側の形成層だけでも確実に合うように、端に寄せてセットします。「両側を合わせようとしてどちらも外す」よりは、「片側だけでも完璧に合わせる」方が活着率は格段に高くなります。


初心者でも分かりやすい図解や写真を用いて、形成層の位置や合わせ方のコツ、具体的なナイフの使い方が解説されています。


【写真で解説】農家が教える接ぎ木の方法 簡単なやり方はこれ

穂木が台木に及ぼす遺伝子レベルの影響

一般的に、接ぎ木においては「台木が穂木に影響を与える(耐病性や樹勢など)」という側面ばかりが強調されがちです。しかし、近年の分子生物学の研究により、「穂木から台木へ」、さらには「接合部を超えて植物全体へ」と、もっとダイナミックで微細な遺伝子レベルの相互作用が起きていることが明らかになってきました。これは単なる水や養分のやり取りを超えた、生命情報の交換とも言える現象です。


RNAの長距離輸送とエピジェネティクス
最新の研究では、接ぎ木の結合部を通じて、メッセンジャーRNA(mRNA)や低分子RNA(siRNA, miRNA)といった遺伝情報物質が、穂木から台木へ、あるいは台木から穂木へと長距離輸送されていることが確認されています。これらは、植物の形態形成や環境ストレス応答、さらには遺伝子の発現制御(スイッチのON/OFF)に直接関与しています。


  • 開花の制御: ある種の植物では、花を咲かせる性質を持つ穂木を接ぐことで、花を咲かせない性質の台木側に開花ホルモン(フロリゲン)やそれに関連するmRNAが移動し、台木側の枝にも花芽分化を誘導することが知られています。
  • 耐病性の獲得とsiRNA: 穂木が持つウイルス抵抗性の形質が、RNAサイレンシングというメカニズムを通じて台木側に伝達され、植物全体としてウイルスに対する防御システムが強化される現象も報告されています。これは、特定のRNA分子が維管束を通って移動し、ウイルスの遺伝子を標的として攻撃するためです。
  • エピジェネティックな変化: 接ぎ木という物理的なストレスや異なるゲノムの結合は、DNAの塩基配列を変えることなく遺伝子の働きを変える「エピジェネティック」な変化を引き起こすことがあります。この変化は、場合によっては種子を通じて次世代に受け継がれる可能性も示唆されており、育種(品種改良)の新たな手法として注目されています。

接ぎ木雑種(キメラ)の可能性
極めて稀なケースですが、接合部(カルス)から生じた不定芽が、穂木と台木両方の細胞が混ざり合った「キメラ植物」や、細胞融合に近い現象を経て遺伝情報が水平伝播した「接ぎ木雑種」となることがあります。かつては科学的に否定的な見方もされていましたが、現在では葉緑体ゲノムの移動などが確認されており、新しい遺伝資源を作出する偶発的なメカニズムとして再評価されつつあります。


このように、穂木とは単に「実を成らせるパーツ」ではなく、台木と遺伝子レベルの情報を会話のようにやり取りし、植物体全体のシステムを再構築する能動的な役割を担っています。


接ぎ木における長距離シグナル伝達やエピジェネティックな変化について、科学的な視点から詳細にレビューされた論文(英語文献の概要)です。


Long distance signalling and epigenetic changes in crop grafting




【農薬不使用】 夏果 イチジク 挿し木 穂木 5本 品種不明(:⁠⁠*⁠_⁠*⁠)