果樹におけるキクイムシ類の多発要因として、凍害や極端な乾湿による樹勢の衰弱が指摘されており、ニホンナシやその他果樹でも同様の傾向が確認されています。
樹勢が落ちた樹はキクイムシ類の標的になりやすく、一度食入されると坑道内でアンブロシア菌が繁殖し、樹の通水機能が阻害されてさらに弱るという悪循環に陥ります。
そのため、果樹園全体の防除を考える際には、薬剤やトラップの前に「樹を弱らせない」栽培設計を組み立てることが重要で、かん水や排水対策、凍害リスクの高い窪地の回避など、ほ場設計段階からの配慮が求められます。
果樹園での具体的な樹勢維持策としては、適正な施肥による過繁茂の回避と、窒素過多による軟弱な新梢の抑制が挙げられます。
参考)http://jppa.or.jp/archive/pdf/60_02_08.pdf
剪定では、大きな切り口や不要な切り戻しを減らし、枝の更新を計画的に進めることで、キクイムシが侵入しやすい傷口や枯れ枝を減らすことにもつながります。
参考)キクイムシ類
また、過熟果や収穫遅れは果実への穿孔被害を招きやすく、穿孔部を中心に腐敗が進むため、適期収穫と傷果の早期除去も、見落とされがちな樹勢維持・防除の一環になります。
参考)https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/nosose/byobo/boujosidou/yosatsujoho/documents/tokusyur3-2.pdf
さらに、台風や着果過多による枝折れ、機械作業中の幹の傷といった「物理的ダメージ」も、キクイムシ類の侵入口として機能するため注意が必要です。
参考)https://www.pref.miyagi.jp/documents/8608/721502_1.pdf
被害が集中する樹は、土壌の水はけ不良や局所的な養分過多など、栽培環境の偏りを抱えていることが多く、土壌診断や暗渠排水の導入によって局所的なストレスを解消する取り組みが有効です。
参考)https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/664527.pdf
樹勢回復が見込めない老木や著しく被害の進んだ樹は、思い切って更新することで、園全体の発生源を減らし、防除コストとリスクを長期的に下げる判断につながります。
参考)https://www.pref.tochigi.lg.jp/g59/boujo/documents/h17tokusyuhou3.pdf
果樹のキクイムシ類に対しては、登録薬剤が限られている作物も多く、例えばモモではキクイムシ類に登録された殺虫剤がないという指摘もあります。
一方で、リンゴ樹では、マラソン・MEP乳剤を200倍で散布することで、すでに食入したキクイムシ類による被害拡大を抑制できたという報告があり、樹幹への重点散布が有効とされています。
ニホンナシでは、MEP塗布剤1.5倍希釈を4月下旬から5月上旬に主幹部へ1回処理することで、食入加害に対する防除効果が確認されており、発生初期のタイミングを逃さないことが重要です。
みかんなどでは、同じMEP系のガットサイドSがカミキリムシ類やタマムシ類に対して効果を示し、主幹や主枝の地際部から一定高さまでの散布または塗布で防除する技術が確立されています。
参考)ガットサイドSの詳細情報
このような「樹幹処理」は、キクイムシ類にも応用しやすく、樹皮表面に薬剤層を形成することで、成虫の穿孔時や樹皮下の幼虫に接触毒として作用させることができます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kitanihon1966/2003/54/2003_54_160/_pdf
ただし、MEP剤など有機リン系薬剤には使用回数制限や収穫前日数の制約があり、作物ごとの登録内容を守りながら他の病害虫防除との兼ね合いも考える必要があります。
現場での散布では、SSなどで園全体へ一律散布するよりも、被害樹や被害が多い列を中心に樹幹重点散布や塗布処理を行うほうが、薬量を抑えながらリスク部位を狙い撃ちできます。
参考)https://www.pref.akita.lg.jp/uploads/public/archive_0000009113_00/H25hukyuu1.pdf
穿孔が見られる枝や幹部位には、ドリルで孔道を開けて薬液を注入する方法も林業分野で行われていますが、果樹では樹体へのダメージや果実品質への影響を考慮して慎重な適用判断が求められます。
参考)https://www.forest.rd.pref.gifu.lg.jp/pdf/kp25_04.pdf
薬剤処理後も、木屑の排出や新たな脱出孔の有無を4〜6か月スパンで確認し、効果の持続性や翌年の再処理の必要性を評価することが、継続的な防除計画の改善につながります。
リンゴ樹を加害するキクイムシ類では、エタノールやアセトアルデヒドなどの揮発成分に誘引されることが報告されており、これらを利用したトラップが発生モニタリングに有効とされています。
カシノナガキクイムシなど森林害虫では、合成フェロモンとエタノールを組み合わせた「おとり木トラップ」により、被害の予測や環境負荷の少ない防除システムの開発が進められており、果樹でも応用の可能性が示唆されています。
韓国のコウライナガキクイムシ研究では、集合フェロモン物質の検証が行われており、誘引物質の組み合わせによって捕獲効率が変化することから、今後のフェロモントラップ改良の方向性も議論されています。
果樹園で誘引トラップを活用する場合、まず発生種の同定と発生ピーク時期の把握を目的とした「調査トラップ」として設置するのが現実的です。
参考)https://agresearcher.maff.go.jp/seika/show/230321
園内の風上側や被害樹周辺にトラップを設置することで、成虫の飛来状況や増減傾向を把握でき、防除のタイミングをMEP塗布などの処理時期と合わせることができます。
おとり木トラップの考え方としては、あえて弱らせた樹や伐採した丸太などに誘引源を設置してキクイムシ類を集中させ、その後に焼却やくん蒸でまとめて処理する方法があり、林業での実績を踏まえて果樹園の周辺林にも応用が検討されています。
参考)https://www.rinya.maff.go.jp/j/rinsei/singikai/attach/pdf/110301si-9.pdf
ただし、誘引トラップは「集める力」が強いほど、管理を誤ると周辺の健全樹への被害拡大リスクにもつながるため、捕獲数や被害状況を見ながら設置位置や数を調整することが重要です。
参考)https://www.pref.nagano.lg.jp/ringyosogo/seika/kenkyu/ikurin/documents/iku-26-2.pdf
フェロモンやエタノールを用いたトラップは、薬剤散布の回数を直接減らすというより、発生を早期に検知して的確なタイミングで薬剤や剪定を行う「情報収集ツール」として位置づけると、現場での運用がスムーズになります。
今後、果樹専用のキクイムシ用フェロモントラップが整備されれば、発生予察と省力防除の両面で大きな武器になることが期待されます。
参考)https://jfs-q.jp/kfr/70/p033-037.pdf
果樹園内に伐採した樹や剪定枝を放置すると、キクイムシ類の発生源になる場合があるため、適切な処分が重要とされています。
なし果実への穿孔被害でも、被害果や被害枝を園内に残すと成虫がそこから脱出して再び加害を広げる可能性があり、早期の除去と園外持ち出し、埋設や焼却などが推奨されています。
森林被害対策では、被害木を伐倒後に薬剤くん蒸や焼却を行い、羽化脱出前にカシノナガキクイムシを駆除する方法が取られており、この考え方は果樹園周辺の雑木林管理にも応用できます。
果樹園では冬場の剪定作業が集中しがちで、剪定枝の山が春先まで残ることがよくありますが、キクイムシ類の飛来・産卵期と重なると格好の繁殖場所になります。
参考)キクイムシ類
剪定枝は、できるだけ短く裁断して早期にチップ化・堆肥化するか、園外に搬出して焼却することで、穿孔性害虫全般の発生リスクを下げることができます。
参考)https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070100/070109/kanko/d00219680_d/fil/09_82-89.pdf
園の外周部に立ち枯れ木や放置樹がある場合は、そこが見えにくい発生源になっていることも多いため、近隣の森林所有者や関係者と連携して伐採・処理を進めることが、園内防除の効果を高める近道です。
意外なポイントとして、貯木場や山土場に置かれたヒノキ皮付き丸太への穿孔加害が詳細に調査されており、そこから周辺の樹木へ害虫が広がるケースも報告されています。
果樹園の近くに建築材のストックヤードや薪の貯蔵場所がある場合、そこがキクイムシ類や他の穿孔性害虫の供給源となりうるため、材の保管期間を短くする、シートで覆うなどの対策が有効です。
被害枝や丸太を「資材」として長期保管する場合は、薬剤処理やくん蒸のコストと、果樹への潜在的な被害リスクを比較して、経済的にも妥当なラインで管理方法を選ぶことが求められます。
キクイムシ類の中には、坑道内にアンブロシア菌(共生菌)を培養し、その菌を食べて成長する「養菌性」のグループがあり、なし果実への被害でもこの仕組みが確認されています。
この養菌性キクイムシでは、虫そのものだけでなく共生菌の動きも樹勢悪化や腐敗の拡大に関わるため、単純な殺虫だけでは被害の広がりを完全には抑えきれない場合があります。
つまり、果樹 キクイムシ 防除では「虫+菌+環境」の三者を意識して管理することで、見た目以上に被害を抑える余地があると考えられます。
アンブロシア菌などの腐敗を起こす微生物は、高湿度や通気不良の環境で勢いを増しやすいため、土壌の排水性や樹冠内の風通しは、キクイムシ防除にとっても重要なファクターになります。
極端な乾湿の繰り返しが樹勢低下の一因になることを踏まえると、かん水のオンオフやマルチング資材の使い方も、単なる乾燥防止だけでなく、微生物環境の安定という視点で見直す価値があります。
また、過度な樹皮損傷や肥料やけなどで局所的に樹体組織が死ぬと、そこが菌の侵入・増殖とキクイムシ誘引のセットポイントになりうるため、樹皮保護や施肥位置・量の丁寧な設計も長期的な防除に寄与します。
森林分野では、カシノナガキクイムシ被害の拡大を背景に、環境負荷の小さい防除システムの開発が進められており、フェロモンやおとり木を組み合わせた総合管理が模索されています。
果樹でも、薬剤に頼り切らず、樹勢・土壌環境・周辺林・貯木場などを一体として考える「ローカルな総合防除」が、今後ますます重要になると考えられます。
園主自身が、毎年の被害場所や発生時期を記録し、小規模でもトラップや樹勢診断を組み合わせていくことで、自園に最適化された果樹 キクイムシ 防除の型が少しずつ見えてくるはずです。
果樹のキクイムシ類の特徴と薬剤、防除の考え方の詳細は、以下のような資料が参考になります。
キクイムシ類の概要と果樹での発生要因・防除の基本的な考え方を整理したい場合に参考になるリンクです。
キクイムシ類 | 農業害虫や病害の防除・農薬情報
リンゴ・なしなどでの具体的なキクイムシ防除試験や薬剤活用の詳細を確認したい場合に有用です。
リンゴ樹を加害するキクイムシ類の種類と防除
ニホンナシを加害するキクイムシ類と樹勢・環境との関係、および防除の視点を深く知りたいときに役立ちます。