殺虫剤オルトランの使い方の全手順!粒剤と液剤の違いとは

農業や園芸で定番の殺虫剤オルトラン。粒剤、液剤、水和剤の違いや、効果的なまき方、適用害虫について詳しく解説します。あなたは正しい種類を選んで、安全に使用できていますか?

殺虫剤オルトランの使い方の基本と応用

殺虫剤オルトランの使い方の基本と応用

記事のポイント
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剤型による使い分け

粒剤は「予防」として土にまき、液剤・水和剤は「駆除」として葉に散布するのが基本です。

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浸透移行性の仕組み

根や葉から成分が吸収され、植物全体が殺虫効果を持つことで隠れた害虫も退治します。

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収穫前の使用期限

野菜ごとに収穫何日前まで使用可能かが厳格に決まっているため、必ずラベルを確認しましょう。

粒剤・水和剤・液剤の種類による違いと選び方

粒剤・水和剤・液剤の種類による違いと選び方
農業現場や家庭菜園において、最も信頼されている殺虫剤の一つが「オルトラン」です。しかし、ホームセンターの棚には「粒剤」「水和剤」「液剤」と複数のタイプが並んでおり、どれを選べばよいか迷うことも少なくありません。それぞれの特徴を理解し、目的に合わせて正しく使い分けることが、防除成功への第一歩です。

 

まず、最も一般的に使われるのが「粒剤(りゅうざい)」です。これはパラパラとした顆粒状の薬剤で、土壌に直接散布して使用します 。

 

参考)オルトラン粒剤の適用表|農薬の検索|農薬インデックス

最大の特徴は、
「手軽さ」と「予防効果」にあります。水で薄める必要がなく、そのまま株元にまくだけで済むため、作業負担が非常に軽いです。また、根から成分が吸収され、植物全体に行き渡るまでに時間がかかりますが、その分、効果が長期間(2週間〜1ヶ月程度)持続します 。

 

参考)害虫防除の強い味方「オルトラン粒剤」とは?その効果と使い方を…

そのため、苗の植え付け時や、害虫が発生する前の「予防」として使うのがベストです。

 

次に「水和剤(すいわざい)」「液剤(えきざい)」です。これらは水で希釈して使用するタイプで、噴霧器を使って植物の葉や茎に直接散布します 。

 

参考)http://www.mirai.ne.jp/~panther/cactus/oltran.html

これらの特徴は、
「即効性」と「今いる害虫の駆除」です。すでに害虫が大量発生している場合、粒剤では効果が出るまでにタイムラグがあり、手遅れになることがあります。そんなときは、直接害虫に薬剤がかかる液剤や水和剤が有効です。

 

以下の表に、それぞれの剤型の特徴と主な用途をまとめました。

 

特徴 粒剤 水和剤 液剤
形状 顆粒(そのまま使用) 粉末(水で希釈) 液体(水で希釈)
主な作用 根からの吸収・予防 葉面散布・直接駆除 葉面散布・直接駆除
効果の出方 ゆっくり・長期間持続 早い・即効性あり 早い・即効性あり
散布場所 土壌(株元・植穴) 植物全体(葉・茎) 植物全体(葉・茎)
おすすめの場面 定植時、害虫発生前の予防 害虫発生時の緊急駆除 害虫発生時の緊急駆除
メリット 器具不要、手間が少ない コスパが良い、広範囲向き 計量が楽、溶けやすい

特に注意したいのが、「オルトランDX粒剤」と通常の「オルトラン粒剤」の違いです。

 

「DX」には、従来の成分(アセフェート)に加えて、クロチアニジンというネオニコチノイド系の成分が配合されています 。これにより、コガネムシの幼虫など、土壌中の害虫に対してもより強力な効果を発揮します。通常のオルトラン粒剤は毛虫やアブラムシに強いですが、土の中のコガネムシ幼虫には効果が薄い場合があるため、根を食い荒らす害虫が心配な場合は「DX」を選ぶのが正解です。

 

参考)オルトランの使い方と特徴|GFとDX粒剤・水和剤と液剤の違い…

有用な参考リンク。
住友化学園芸:オルトランDX粒剤の特徴と適用害虫について(メーカー公式の詳細情報)

野菜や花への正しいまき方と株元への散布手順

野菜や花への正しいまき方と株元への散布手順
オルトラン粒剤の効果を最大限に引き出すためには、「まき方」が非常に重要です。ただなんとなく土の上にまいただけでは、期待した効果が得られないことがあります。ここでは、野菜や花き類に対する具体的な散布手順とコツを解説します。

 

1. 定植時(植え付け時)の「植穴処理」
苗を植えるタイミングは、オルトラン粒剤を使用する絶好の機会です。

 

  1. 苗を植えるための穴(植穴)を掘ります。
  2. その穴の中に、規定量のオルトラン粒剤(通常1株あたり1〜2g程度)をパラパラと入れます。
  3. 重要: 薬剤と土を軽く混ぜ合わせます。これにより、根が直接高濃度の薬剤に触れて肥料焼けのような症状(薬害)が出るのを防ぎます 。

    参考)https://arystalifescience.jp/gallery/pdf/orutoran_202003.pdf

  4. 苗を植え付け、通常通り水やりを行います。

この方法は、根のすぐそばに薬剤があるため、成分の吸収が早く、初期の害虫防除に非常に高い効果を発揮します。特に、定植直後は苗が弱く害虫の被害を受けやすいため、このタイミングでの処理は生存率を大きく左右します。

 

2. 生育期の「株元散布」
すでに植え付けてある植物に対しては、「株元散布」を行います。

 

  1. 植物の株元(茎の根元付近)の土の上に、規定量を均一にばらまきます。
  2. 重要: 散布後、軽く土と混ぜるか、たっぷりと水をやります。

    オルトランの成分は水に溶けて土壌に浸透し、そこから根に吸収されます。土が乾燥したままだと成分が溶け出さず、植物に吸収されないため、「散布後の水やり」は必須です 。

  3. マルチ(ビニールシート)を張っている場合は、植穴の隙間から薬剤を投入するか、雨で成分が流れ込むように工夫する必要があります。マルチ栽培では追肥のタイミングに合わせてマルチをめくった際に散布するのが効率的です 。

    参考)マルチ時のオルトラン粒剤を使う具体的な方法 - 家庭菜園を初…

散布量の目安
多くの野菜において、1株あたりの使用量は1g〜2g程度です。

 

  • 小さじ(5mlスプーン)ですりきり1杯は、粒剤の種類にもよりますが約3〜4gになることが多いです。
  • 家庭菜園で数株に使う場合は、「ペットボトルのキャップ」を目安にするのも便利です。キャップ1杯で約4〜5g程度なので、半分弱で約2gとなります。

    (※正確な比重は製品によるため、一度キッチンスケールで計ることをおすすめします)

注意すべきポイント

  • 雨の日の前後は避ける?

    多少の雨なら成分が土に染み込む助けになりますが、激しい豪雨が予想される直前にまくと、成分が流亡(土壌から流れ出る)してしまい、効果が薄れるだけでなく環境汚染につながる恐れがあります。

     

  • 収穫間近の使用

    後述しますが、収穫直前の使用は厳禁です。必ず「収穫前日数」を守ってください。

     

有用な参考リンク。
GreenSnap:オルトラン粒剤の正しい撒き方と水やりの重要性

アブラムシやアザミウマなど適用害虫への効果範囲

アブラムシやアザミウマなど適用害虫への効果範囲
オルトランが長年支持されている理由は、その適用害虫の広さ(スペクトラム)にあります。特定の虫だけに効くのではなく、農業や園芸で問題となる主要な害虫の多くをカバーしています。

 

特に効果が高い害虫:吸汁性害虫
オルトランの得意分野は、植物の汁を吸うタイプの害虫です。

 

食害性害虫への効果
葉をかじって食べるタイプの害虫にも効果があります。

 

効果が薄い、または効かない害虫
万能に見えるオルトランですが、苦手な害虫もいます。

 

  • ハダニ:オルトランはハダニにはほとんど効果がありません。ハダニが発生した場合は、専用の殺ダニ剤を使用する必要があります。
  • 大型の甲虫類:成虫のコガネムシやカミキリムシなど、体が大きく頑丈な甲虫には効果が出にくいです(幼虫にはDX粒剤などが有効)。

具体的な効果の現れ方
オルトランの効果は、害虫が「苦しんでポトッと落ちる」というよりは、「いつの間にかいなくなっている」「増えない」という形で現れます。

 

例えば、アブラムシがびっしりついている株にオルトラン粒剤をまくと、数日後にはアブラムシが変色して動かなくなり、乾燥して剥がれ落ちていきます。

 

即効性を求めてスプレー剤をかけた場合、生き残った個体がまたすぐに増殖しますが、オルトランは植物体内に成分が残っている限り(約2〜3週間)、新しく飛来したアブラムシも吸汁と同時に駆除されるため、「リバウンド」を防ぐ力が強いのが最大のメリットです。

 

浸透移行性の持続期間と成分アセフェートの仕組み

浸透移行性の持続期間と成分アセフェートの仕組み
「オルトラン」という商品名の代名詞とも言えるのが「浸透移行性(しんとういこうせい)」という性質です。これは、農薬の成分が植物の根や葉から吸収され、道管や師管を通じて植物体の隅々まで行き渡る仕組みのことです 。

成分「アセフェート」のメカニズム
オルトランの主成分である「アセフェート(Acephate)」は、有機リン系の殺虫成分です。

 

  1. 吸収:土壌にまかれたアセフェートは、水に溶けて根から吸収されます。
  2. 移行:植物の体内を巡り、葉の先端や新芽まで成分が到達します。これにより、薬剤がかかりにくい「葉の裏」や「新芽の奥」「丸まった葉の中」に潜む害虫にも薬剤を届けることができます 。
  3. 代謝:植物体内でアセフェートの一部は「メタミドホス」という物質に変化します。実はこのメタミドホスが高い殺虫活性を持っています(※メタミドホス自体は毒性が強いため、現在は単体での農薬登録はありませんが、植物体内で変換されることで強力な効果を発揮します)。
  4. 阻害:害虫がこの成分を含む汁を吸ったり葉を食べたりすると、神経伝達物質であるアセチルコリンの分解酵素(コリンエステラーゼ)の働きが阻害されます 。その結果、神経が異常興奮し続け、最終的に死に至ります。

    参考)https://www.mdpi.com/1420-3049/28/8/3641/pdf?version=1682168961

効果の持続期間
粒剤の場合、効果の持続期間は一般的に2週間〜3週間程度、環境や作物によっては最大で1ヶ月程度続きます 。

 

参考)301 Moved Permanently

  • 気温の影響:気温が高い夏場は、植物の代謝や水分の吸い上げが活発なため、薬剤の吸収も早いですが、分解も早くなる傾向があります。逆に冬場は効果が長く続くことがあります。
  • 植物の大きさ:体が小さい苗の時期は全体にすぐ行き渡りますが、大きく育った植物では、末端まで濃度を維持するのが難しくなります。草丈が1mを超えるような植物では、粒剤の効果が上の方まで十分に届かないことがあるため、液剤の散布を併用するなどの工夫が必要です。

この「植物自体が殺虫成分を持つ」という仕組みのおかげで、雨が降って表面の薬剤が流れてしまっても、植物の中にある成分は残るため、効果が安定しています。

 

有用な参考リンク。
PubMed:有機リン系殺虫剤の作用機序と環境への影響(学術的詳細)

オルトランの液剤と水和剤で適用害虫が異なる意外な理由

オルトランの液剤と水和剤で適用害虫が異なる意外な理由
ここからは少し踏み込んだ、プロ農家でも意外と知らないニッチな情報をお伝えします。

 

オルトランには「水和剤」と「液剤」がありますが、「どちらも同じアセフェートが成分なのに、ラベルに書いてある適用害虫』が違う」ということに気づいたことはありますか?​
成分は同じでも適用が違う謎
常識的に考えれば、有効成分が同じなら、効く虫も同じはずです。しかし、実際の農薬登録票を見ると、

  • 水和剤には書いてある害虫が、液剤には書いていない。
  • 液剤の方が希釈倍率が低い(濃い)のに、適用範囲が狭いことがある。

    といった現象が起きています。

     

この理由は、「農薬登録試験のコストとメーカーの戦略」にあります。

 

農薬のラベルに「この虫に効きます(適用あり)」と書くためには、メーカーが実際にその作物と害虫で試験を行い、効果と安全性のデータを国に提出して登録を受ける必要があります。この試験には莫大な費用と時間がかかります。

 

実態としての効き目
「オルトラン水和剤」は古くからある剤型で、メーカーが多額のコストをかけて非常に多くの作物・害虫で試験を行い、登録を取得してきました。一方、「オルトラン液剤」は、水和剤に比べて使い勝手を良くするために開発されたものですが、水和剤ほど網羅的にすべての害虫で登録試験を行っていない場合があります。

 

つまり、「実際には効く能力があっても、登録試験をしていないからラベルには書けない」というケースが存在するのです 。

現場での判断
農薬取締法(農薬法)の遵守は絶対です。たとえ成分が同じで「理論上は効く」と分かっていても、ラベル(登録内容)に記載のない作物や害虫に使用することは法律違反となります。

 

「水和剤で登録があるから、液剤でも使っていいだろう」という自己判断はNGです。必ず手元の薬剤のラベルを確認し、そこに記載されている作物・害虫に対してのみ使用してください。これが、コンプライアンスを守り、出荷停止などの重いペナルティを避けるための鉄則です。

 

また、オルトラン特有の「強烈な腐乱臭(硫黄のような臭い)」についても触れておきます。これは成分由来のもので、効き目の証でもありますが、住宅街の家庭菜園やベランダで使用すると、近隣トラブルになることがあります。

 

最近では「オルトランDX」のように臭いを抑えた製品も出ていますが、それでも無臭ではありません。散布直後は窓を閉める、風向きを気にするなど、周囲への配慮も「正しい使い方」の一部と言えるでしょう。

 

薬害を防ぐための注意点と収穫前の待機期間

薬害を防ぐための注意点と収穫前の待機期間
最後に、安全安心な農産物を生産するために絶対に守らなければならない「安全性」と「薬害」について解説します。

 

収穫前日数(PHI)の厳守
オルトランは浸透移行性があるため、植物体内に成分が残留します。そのため、散布してから収穫して食べられるようになるまでの期間(収穫前日数)が厳格に定められています 。

 

参考)家庭園芸用GFオルトラン粒剤

  • 例:
    • キャベツ・白菜:収穫21日前まで
    • トマト・ナス:収穫前日まで(※液剤などの場合。粒剤は作物による)
    • エダマメ:収穫21日前まで

      (※これは一例であり、剤型や登録変更により数値は変わります。必ず最新のラベルを確認してください)

    特に葉物野菜やエダマメなどは、「虫がついたから収穫直前にちょっとまこう」と安易に使うと、残留農薬基準値を超過し、食品衛生法違反となるリスクが高いです。「収穫予定日から逆算して、もう使えない時期」をカレンダーに書き込んでおくことを強くお勧めします。

     

    総使用回数の制限
    オルトラン(アセフェート剤)は、1作(種まきから収穫まで)に使える回数が決まっています。

     

    例えば「総使用回数:2回以内」となっている場合、粒剤を定植時に1回まいたら、あとは生育中に1回しか使えません。もし液剤も散布したい場合、それも1回にカウントされます。

     

    この回数制限を守らないと、抵抗性害虫の出現を招くだけでなく、土壌への蓄積や環境負荷の原因となります 。

    薬害のリスク
    オルトランは比較的安全な農薬ですが、使い方を間違えると植物自体を傷める「薬害」が発生します。

     

    • 過剰投与:「たくさんまけばよく効く」は間違いです。濃度が高すぎると、葉の縁が枯れたり(縁枯れ)、成長が止まったりします。
    • 乾燥時の使用:土壌が極端に乾燥している時に粒剤を使い、その後急に大量の水をやると、根が一気に高濃度の薬剤を吸い上げ、ショック症状を起こすことがあります。土が適度に湿っている状態で使用するのが安全です 。​
    • 適用外の植物:特定の品種や植物(例:一部の果樹や観葉植物など)では、アセフェートに敏感で落葉するものがあります。初めて使う植物には、一部の葉でテストするか、ラベルの「薬害に関する注意」を熟読してください。

    有用な参考リンク。
    LifeHack:オルトラン使用野菜の安全性と摂取時の注意点
    正しい知識を持ってオルトランを使えば、これほど頼りになる味方はありません。粒剤での「予防」を基本にしつつ、必要な時だけ液剤で「治療」する。そして、収穫時期を常に見据えて計画的に使用する。これが、プロの農業関係者や賢いガーデナーの「オルトラン術」です。