農業や造園の現場において、春の庭木選びは一年で最も重要な仕事の一つです。数あるツツジ品種の中でも、特に「赤」にこだわりたい方が最終的にたどり着くのが、このホンキリシマツツジ(本霧島躑躅)です。今回は、ホームセンターのポット苗ではなく、プロが扱う「根巻株」の2株セットを実際に導入する視点で、その品質と扱い方を詳細にレビューしていきます。
まず、届いた根巻株を見て驚くのは、その幹の充実度でしょう。ポット苗は促成栽培でひょろ長いことが多いですが、露地でしっかりと育てられた根巻株は、枝ぶりががっしりとしており、野性味と力強さを感じさせます。根巻き部分(根鉢)は、麻布と麻紐でしっかりと固定されており、土崩れが全くありません。この「根を動かさない」梱包こそが、植え付け後の生存率を劇的に高めるのです。
2株セットという単位も絶妙です。庭の入り口(門かぶり)の下に左右対で植えるもよし、少し間隔を空けて植栽し、将来的につなげて豪華な生垣にするもよし。単独で植えるよりも、群生させることであの「燃えるような赤」のインパクトは何倍にも膨れ上がります。
このレビュー記事では、単なる商品の感想にとどまらず、農業従事者や本格的なガーデナーが知っておくべき、活着(根付くこと)させるための技術、土壌酸度の調整、そして100年単位で楽しむための視点まで、深く掘り下げていきます。
ホンキリシマツツジ最大の特徴は、何と言ってもその花色にあります。一般的なクルメツツジやヒラドツツジの赤が「ピンクがかった赤」や「朱色」であるのに対し、ホンキリシマツツジは「真紅(クリムゾンレッド)」と呼ぶにふさわしい、黒みを帯びた深い赤色をしています。満開時には、小さな葉が見えなくなるほど密に花が咲き誇り、株全体が赤い塊のように見える様は圧巻です。
また、花の大きさは「小輪」です。大輪の豪華さとはまた違う、小粋で引き締まった印象を与えます。この小輪多花性の性質が、和風庭園だけでなく、モダンな洋風建築の庭にもアクセントとして非常にマッチします。2株を並べて植えることで、開花時には赤い壁のような視覚効果を生み出し、道行く人の足を止めるほどのインパクトを与えることができます。
農業的な視点で見ると、ホンキリシマツツジは常緑性(半常緑)である点も魅力です。冬場は葉が少し赤銅色に紅葉しますが、完全に落葉してしまうわけではないため、冬の間の目隠しや、殺風景になりがちな庭の彩りとしても機能します。
参考:のとキリシマツツジの特徴や歴史について解説されています。
のとキリシマツツジの郷:のとキリシマツツジとは
参考)のとキリシマツツジとは
ここが最も重要なセクションです。「根巻株」の扱いを間違えると、せっかくの良苗も枯れてしまいます。
農業従事者の方であればご存じかもしれませんが、一般の方もしばしば迷うポイントを明確にします。
【根巻き(麻布・麻紐)は取らないで!】
初心者がやりがちな最大のミスは、「きれいに植えたいから」と、根を包んでいる麻布や麻紐をハサミで切って取り外してしまうことです。
【土作りは「酸性」が絶対条件】
ツツジ科の植物は、酸性土壌を好みます。日本の土は弱酸性が多いですが、造成地やコンクリートブロックの近くはアルカリ性に傾いていることがあり、そのまま植えると生育不良(葉が黄色くなるクロロシス)を起こします。
【植え付けの手順】
参考:根巻き苗の正しい植え付け方法が図解入りで解説されています。
園芸ネット:花木・果樹苗の植え付け方
参考)園芸ネット本店|「花木・果樹苗の植え付け方」の栽培ガイド【公…
無事に植え付けが完了したら、次は日々の管理です。ホンキリシマツツジは丈夫な樹木ですが、「水切れ」と「剪定時期」には敏感です。
【水やり:夏場の乾燥に注意】
前述の通り、ツツジの根は浅い場所に張ります。そのため、夏の直射日光で地表が乾くと、ダイレクトに根が乾燥ダメージを受けます。
【剪定:タイミングが全て】
ホンキリシマツツジを翌年も綺麗に咲かせるためには、剪定の時期を間違えてはいけません。
参考:剪定の時期や目的について、開花促進の観点から解説されています。
PictureThis:キリシマツツジの剪定とケア
参考)キリシマツツジ(霧島躑躅)の育て方・栽培方法
美しい花を咲かせるためには、適切な栄養補給と防除が欠かせません。
【肥料:お礼肥と寒肥】
【病害虫:ツツジグンバイに注意】
ホンキリシマツツジの大敵は、「ツツジグンバイ」という小さな虫です。
参考:ツツジの代表的な害虫とその対策が詳しく載っています。
最後に、検索上位の記事ではあまり触れられていない、「資産としての庭木」という独自の視点をお伝えします。
ホンキリシマツツジは、他のツツジ(特にヒラドツツジなどの大葉系)に比べて、「成長が非常に遅い」という特徴があります。これは一見デメリットに思えるかもしれませんが、長い目で見れば以下の巨大なメリットになります。
今回購入する「根巻株 2株」は、その長い歴史のスタートラインです。安価なポット苗を大量に植えてすぐに枯らすよりも、しっかりとした根巻株を2つ植え、じっくりと育てていく。それは、単なる園芸を超えた、土地に根付く「資産形成」と言えるかもしれません。数年後、真っ赤に染まった2つの株を眺めながら、「あの時、根巻株を選んでよかった」と実感する日が必ず来るはずです。