
有機質肥料は、その原料によって大きく「動物性」と「植物性」の2つに分けられます 。この違いを理解することが、肥料選びの第一歩です。
参考)有機肥料(有機質肥料)の基本と種類
参考)化学肥料と有機肥料の違いとは?
どちらが良いということではなく、それぞれの特性を活かして使い分けることが重要です。例えば、すぐに栄養を効かせたい生育初期には動物性を、長期的に土壌を豊かにしたい場合は植物性を主体にするなど、目的や作物の状況に合わせて組み合わせるのが理想的です。
下記は、代表的な動物性・植物性有機質肥料の成分比較表です。
| 肥料の種類 | 主な分類 | 窒素(N) | リン酸(P) | カリ(K) | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| 油かす | 植物性 | 多い | やや多い | 普通 | 窒素分が多く、元肥・追肥ともに使いやすい。 |
| 米ぬか | 植物性 | 普通 | 多い | 普通 | リン酸が豊富。発酵させて「ぼかし肥料」の主原料になる。 |
| 草木灰 | 植物性 | 少ない | やや多い | 多い | カリウムが豊富で、根菜類の生育に適している 。アルカリ性。 |
| 鶏ふん | 動物性 | 多い | 多い | 普通 | 三要素をバランス良く含むが、未発酵のものは根を傷める可能性 。 |
| 牛ふん | 動物性 | 少ない | 少ない | 普通 | 肥料成分は少なめだが、土壌改良効果が非常に高い。 |
| 魚粉 | 動物性 | 多い | 多い | 少ない | アミノ酸が豊富で、作物の食味向上に貢献する 。 |
| 骨粉 | 動物性 | 少ない | 非常に多い | 少ない | リン酸が非常に豊富で、花や実の付きを良くする効果がある 。 |

有機質肥料は種類ごとに含まれる成分や効果の現れ方が異なります。それぞれの特徴を知り、効果的に使いこなしましょう 。
菜種や大豆などから油を搾った後の残りかすで、窒素成分が豊富な代表的な有機質肥料です 。葉物野菜(葉菜類)の栽培に特に効果的で、葉の色つやを良くします。元肥としても追肥としても使用できますが、土の中で分解される際にガスが発生することがあるため、元肥として使う場合は作付けの2〜3週間前には土に混ぜ込んでおきましょう 。
参考)家庭菜園を始める時に読みたい!肥料の種類
窒素・リン酸・カリをバランス良く含み、速効性があるため、様々な野菜に使えます 。ただし、未熟な鶏ふんを多量に使うと、分解時に発生するアンモニアガスで根が傷む「ガス障害」を起こすことがあります 。市販の「発酵鶏ふん」は発酵済みで使いやすくなっていますが、それでも施用量には注意が必要です。
魚を乾燥させて粉末にしたもので、窒素とリン酸が豊富です。特に、うまみ成分であるアミノ酸を多く含むため、トマトやキュウリなどの果菜類や、作物の食味を向上させたい場合に効果的です 。効果は比較的速く現れますが、特有の匂いがあり、猫や鳥、ハクビシンなどの動物が寄ってくる原因になることもあります 。
動物の骨を蒸して乾燥・粉砕したもので、花や実の成長に不可欠なリン酸を非常に多く含みます 。効果はゆっくり現れるため、元肥として土に混ぜ込むのが一般的です。特に、実のなる野菜(果菜類)や、根を太らせたい根菜類の栽培に最適です。
これらの肥料は単体で使うだけでなく、複数を組み合わせることで、よりバランスの取れた栄養を供給できます。プロの農家は土壌診断に基づいて配合しますが、家庭菜園では「油かす+骨粉」のように窒素とリン酸を補う組み合わせが基本とされています 。
参考)有機肥料の基本的な使い方と各肥料・作物別の使い方詳細

有機質肥料を選ぶ際は、育てる作物の種類と、土壌の状態を考慮することが重要です。また、多くのメリットがある一方で、知っておくべきデメリットも存在します 。
参考)有機肥料とは?効果的な使い方とプロ農家向けおすすめ肥料を紹介
作物に合わせた選び方
有機質肥料のメリット
最大のメリットは、土壌を豊かにする「土壌改良効果」です 。有機物が土の中の微生物のエサとなり、その活動が活発になることで、土がふかふかになる「団粒構造」が形成されます。これにより、水はけと水持ちが良く、根が伸びやすい理想的な土壌環境が作られます。また、ゆっくりと長く効くため、肥料切れしにくく、植物がじっくりと栄養を吸収できます 。
有機質肥料のデメリット
一方で、デメリットも理解しておく必要があります 。
これらのデメリットは、完熟たい肥と併用したり、化学肥料と組み合わせたり、適切な時期に適切な量を施用することで軽減できます 。

有機質肥料と化学肥料は、対立するものではなく、それぞれの長所を活かして「併用」することで、より効果的な栽培が可能になります。また、有機質肥料をさらに使いやすく加工した「ぼかし肥料」も非常に有用です 。
有機質肥料と化学肥料の賢い併用術
この2つを組み合わせることで、有機肥料で長期的な地力を高めつつ、作物の生育状況に合わせて化学肥料で即効性のある栄養を補う、という使い方ができます。例えば、元肥として有機肥料と緩効性の化学肥料を使い、生育が旺盛になる時期に即効性の液体肥料(化学肥料)で追肥を行う、といった方法です。これを「有機化成肥料」として最初から混ぜてある製品も市販されています 。
「ぼかし肥料」の作り方とメリット
ぼかし肥料とは、米ぬかや油かすなどの有機物を、土やもみ殻、発酵菌などと混ぜて、あらかじめ軽く発酵(ぼかす)させた肥料のことです 。
参考)【入門編】ぼかし肥料の作り方~初心者でも簡単にできる方法を解…
家庭でできる「ぼかし肥料」の簡単な作り方(嫌気性発酵)
ぼかし肥料の作り方に関するより詳しい情報や、好気性発酵との違いについては、こちらのJA(農業協同組合)の解説が参考になります。

私たちが今日使っている有機質肥料は、実は長い歴史の中で培われた知恵の結晶であり、未来に向けてさらに進化しようとしています。その歴史と、近年注目される新しい原料について掘り下げてみましょう。
江戸時代の究極リサイクル社会と「下肥」
化学肥料がなかった江戸時代、日本の都市部は世界でも類を見ないほど高度なリサイクル社会でした。その中心にあったのが「下肥(しもごえ)」、つまり人間の排泄物を発酵させた肥料です。当時、江戸などの大都市から出る下肥は専門の業者が買い取り、近郊の農村に運ばれ、貴重な肥料として売買されていました。これにより、都市の衛生を保ちながら、農作物の安定生産を支えていたのです。これは、栄養分を都市から農村へ還流させる、まさに持続可能な農業システムでした。当時の農家は、作物の種類によって下肥の濃度や施用時期を調整する高度な技術を持っていたと言われています。
未来の有機質肥料:注目されるサステナブルな新原料
現代では、持続可能な社会(SDGs)への関心の高まりから、これまで廃棄物とされていたものを資源として活用する新しい有機質肥料が注目を集めています。
参考)https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/423596_2723157_misc.pdf
これらの新しい原料は、単にゴミを減らすだけでなく、化学肥料への依存を減らし、土壌を豊かにすることで、より環境に優しく持続可能な農業を実現する鍵となる可能性を秘めています。
以下のリンクは、昆虫由来の肥料が土壌と作物に与える影響に関する学術的なレビューです。専門的な内容ですが、未来の肥料の可能性について詳しく知ることができます。
Insects as Feed and Their By-products as Fertilizers for a Circular and Sustainable Agri-Food System