農業現場において土壌改良資材として頻繁に利用される鹿沼土ですが、その最大の特徴である「強酸性」の化学的メカニズムを正確に把握しているケースは意外と多くありません。一般的に鹿沼土のpHは4.0~5.0前後を示し、日本の土壌資材の中でもトップクラスの酸性度を誇ります。
参考)鹿沼土に適した使用方法は?特徴や酸度について使いわけよう
この強烈な酸性の主原因は、鹿沼土に含まれる「活性アルミニウム」にあります。鹿沼土は有機物が少なく、アロフェンなどの粘土鉱物を多く含んでいますが、これらが水と反応することで水素イオン(H+)を放出するのです。
活性アルミニウムが土壌水に溶け出すと、加水分解反応を起こして水酸化アルミニウムとなり、その過程で水素イオンを放出します。これがpHを下げる(酸性化させる)直接的な原因です。
この活性アルミニウムは、植物の必須栄養素であるリン酸と非常に結合しやすい性質を持っています。これを「リン酸固定」と呼び、未調整の鹿沼土を多用すると作物がリン酸欠乏に陥るリスクがあります。
農業従事者が鹿沼土を使用する際は、単に「水はけが良い土」としてではなく、「化学反応性の高い酸性資材」として扱う必要があります。特に、pHの緩衝能(CEC:陽イオン交換容量)が腐植土に比べて低いため、施肥や石灰投入によるpH変動がダイレクトに現れやすい点も注意が必要です。
参考)https://miyanou.myswan.ed.jp/wysiwyg/file/download/1/2225
参考リンク:鹿沼土の酸性の理由とアロフェンの化学反応について(Bamboo Borny)
| 用土の種類 | pH目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 鹿沼土 | 4.0 ~ 5.0 | 通気性大、保水性中、有機物微量 |
| 赤玉土 | 5.0 ~ 6.0 | 弱酸性、汎用性が高い基本用土 |
| ピートモス(無調整) | 3.5 ~ 4.5 | 強酸性、保水性特大、有機質 |
| 腐葉土 | 6.0 ~ 7.0 | ほぼ中性、土壌改良効果が高い |
鹿沼土を一般的な野菜や花卉(かき)栽培に利用する場合、そのままだと酸性が強すぎるため、pH調整が必須となります。逆に、アルカリ性に傾きすぎた圃場(ほじょう)のpHを下げるために鹿沼土を投入するテクニックもあります。ここでは、プロが行う精密な調整手順を解説します。
参考)鹿沼土とは?
1. アルカリ性資材による中和(pH上昇)
鹿沼土をベースにpH6.0~6.5(弱酸性)を目指す場合、苦土石灰(マグネシウムを含む石灰)や消石灰を使用します。鹿沼土は酸度が強いため、赤玉土を調整するときよりも多めの石灰が必要です。
通常の用土であれば1リットルあたり1.0g~1.5gの苦土石灰でpHが約0.5~1.0上昇しますが、鹿沼土の場合はその反応が鈍いことがあります。必ず混合後、1週間〜2週間ほど寝かせてからpHを測定してください。石灰と土が馴染み、pHが安定するまでには化学反応の時間が必要です。
急激に多量の消石灰を入れると、微量要素(マンガンや鉄など)が不溶化し、欠乏症を引き起こす原因になります。
2. 酸性資材による調整(pH下降)
アルカリ土壌の改良や、ブルーベリー用にさらに酸度を安定させたい場合は、鹿沼土に「ピートモス(無調整)」を混合します。
鹿沼土(pH4.5)+無調整ピートモス(pH4.0)の組み合わせは、極めて安定した酸性土壌を作ります。ピートモスは有機酸を含み保水性も高いため、乾燥しやすい鹿沼土の欠点を補う相乗効果があります。
参考リンク:園芸用土の酸度調整に必要な石灰量の目安(北のガーデン)
鹿沼土のpH調整機能が最も輝くのが、好酸性植物(アシッド・ラバーズ)の栽培です。ここでは、収益性の高い作物であるブルーベリーと、観賞価値をコントロールするアジサイについて詳述します。
🟦 ブルーベリーの栽培
ブルーベリー(特にハイブッシュ系)はpH4.3~4.8という非常に低いpHを好みます。通常の畑土(pH6.0前後)では生育不良を起こすため、鹿沼土は必須アイテムです。
鹿沼土 3 : ピートモス 7 または 鹿沼土 4 : ピートモス 6
鹿沼土を混ぜることで通気性が確保され、ピートモスだけでは起きやすい「過湿による根腐れ」を防ぎます。鹿沼土の酸性はブルーベリーにとって快適な環境ですが、肥料持ち(保肥力)が弱いため、有機質肥料を併用するのがコツです。
💠 アジサイの花色コントロール(青色発色)
アジサイの青色は、土壌中のアルミニウムが根から吸収され、花のアントシアニン色素と結合することで発現します。
酸性土壌(pH5.0~5.5)ではアルミニウムがイオン化して溶け出しやすくなります。鹿沼土はもともとアルミニウムを多く含み、かつ酸性であるため、「青いアジサイ」を作るための最高の資材と言えます。
逆に「赤いアジサイ」を作りたい場合は、鹿沼土の使用を控えるか、苦土石灰を十分に施してpHを6.5以上に上げ、アルミニウムの吸収を阻害する必要があります。中途半端に鹿沼土が入っていると、色が濁る原因になります。
参考リンク:アジサイの花色変化と土壌pH、アルミニウムの関係(PROVEN WINNERS)
多くの解説記事では「鹿沼土=酸性(pH4.0~5.0)」という固定値で語られますが、現場の運用において見落とされがちなのが「経年による酸性化の進行」です。
実は、採取直後の鹿沼土はpH5.5~6.0程度の数値を示すことがあり、使用している過程で徐々にpHが低下していく現象が確認されることがあります。これは、灌水や降雨によって塩基類(カルシウムやマグネシウムなど)が流亡しやすいことや、内部に含まれる活性アルミニウムが時間の経過とともに加水分解を進めるためと考えられています。
プロが注意すべき「再調整」のタイミング
鉢植えやプランター栽培で鹿沼土を単用、あるいは多用している場合、植え付け当初は適正pHであっても、1年後には想定以上に酸性が強まっている可能性があります。
「最初は育ちが良かったのに、2年目から急に生育が悪くなった」というケースでは、土壌が強酸性になりすぎて、根がアルミニウム障害を起こしている可能性があります。
鹿沼土はpHの変化に対する抵抗力(緩衝能)が低いため、酸性肥料(硫安など)を使い続けると、土壌pHが一気に4.0以下まで下落することがあります。長期栽培の果樹や植木では、年1回のpH測定と、必要に応じた苦土石灰の追肥(トップドレッシング)による微調整が不可欠です。
参考リンク:鹿沼土の酸度特性と使用上の注意点(LOVEGREEN)
鹿沼土のpHを調整する際、どのアルカリ資材を選ぶかは、栽培の成否を分ける重要な要素です。単にpHを上げるだけでなく、副次的な効果(ミネラル補給など)を狙うのがプロの技です。
1. 苦土石灰(ドロマイト)
2. 有機石灰(カキ殻石灰など)
3. 消石灰(水酸化カルシウム)
| 資材名 | アルカリ分 | 効き方 | 鹿沼土との相性 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 苦土石灰 | 53%以上 | 緩効性 | ◎(最適) | マグネシウム補給が可能 |
| 有機石灰 | 40-50% | 超緩効性 | 〇(安全) | 追肥向き、失敗が少ない |
| 消石灰 | 60-75% | 即効性 | △(注意) | 強力すぎるため調整が難しい |
鹿沼土のpH調整は、単なる数値合わせではありません。その土が持つ「酸性になる力」を理解し、作物に合わせてコントロールすることで、他の用土では得られない素晴らしい生育結果をもたらします。特にブルーベリーやアジサイといった付加価値の高い作物においては、この土の特性をマスターすることが収益向上の鍵となるでしょう。