
園芸店で山積みされている「赤玉土」と「鹿沼土」。どちらも関東ローム層から採取される火山灰由来の土ですが、その性質は似て非なるものです。最大の違いはpH(酸度)と土の硬さにあります。これを理解せずに使うと、大切な植物を枯らせてしまう原因になりかねません。ここでは、物理的な性質から化学的な特性まで、徹底的に比較します。
| 特徴 | 赤玉土(あかだまつち) | 鹿沼土(かぬまつち) |
|---|---|---|
| 原料 | 関東ローム層の赤土(火山灰) | 栃木県鹿沼地方の軽石(火山砂礫) |
| pH(酸度) | 弱酸性(pH 5.0~6.0) | 強酸性(pH 4.0~5.0) |
| 硬さ | 崩れやすい(粘土質) | 硬い(軽石質) |
| 保水性 | 非常に高い | 高い |
| 排水性 | 良い(粒が崩れると悪化) | 非常に良い |
| 保肥力 | 中程度(CEC 12-17) | 低い |
| 主な用途 | ほとんどの植物の基本用土 | サツキ、ブルーベリー、多肉植物 |
| 色の変化 | 濡れると濃くなる | 濡れると黄色が鮮明になる |

赤玉土と鹿沼土を使い分ける最大の理由は、土壌のpH(水素イオン濃度指数)にあります。植物にはそれぞれ「生育に適した酸度」があり、ここを外すと肥料をどれだけ与えても栄養を吸収できなくなってしまいます。
日本の雨は酸性寄りであるため、日本の植物の多くは弱酸性の土壌を好みます 。赤玉土はこの「万能な弱酸性」であるため、観葉植物、野菜、花など、ほぼすべての植物の「基本用土」として機能します。「迷ったら赤玉土」と言われるのはこのためです 。
一方、鹿沼土は強酸性です 。これは一般的な草花にとっては酸性が強すぎる環境です。しかし、ツツジ科の植物(サツキ、ツツジ、シャクナゲ、ブルーベリー)や、野生ランの一部などは、この強い酸性を好みます。これらの植物は、酸性土壌でないと鉄分やマンガンなどの微量要素をうまく吸収できず、「クロロシス(白化現象)」を起こして生育不良になります。
参考リンク:鹿沼土とは?pHや赤玉土との違い、特徴は? | HORTI by GreenSnap(鹿沼土のpH詳細と酸性土壌について)
意外な落とし穴:
「水はけが良いから」という理由だけで、一般的な観葉植物の土に鹿沼土を大量に混ぜると、土壌が酸性に傾きすぎて生育阻害を起こすことがあります 。混ぜる場合は、全体の2〜3割程度に抑えるか、酸度調整済みのものを選ぶのが無難です。
参考)鹿沼土の使い方とは?特徴や赤玉土との違いを知って使い分ける

物理的な構造の違いも重要です。赤玉土は「粘土の団粒構造」であり、鹿沼土は「軽石」に近い性質を持っています。
赤玉土は、水やりを繰り返すと徐々に粒が崩れ、微塵(みじん)と呼ばれる粉状の粘土に戻っていきます。この微塵が鉢の底に溜まると、排水の通り道を塞ぎ、根腐れの直接的な原因となります 。通常、1〜2年で植え替えが必要になるのは、この「土の崩壊」が主な理由です。
鹿沼土は火山砂礫(軽石の一種)であり、赤玉土よりも粒子が硬く、簡単には潰れません 。そのため、長期間使用しても排水性と通気性が維持されます。「土を長持ちさせたい」「植え替え頻度を減らしたい」という場合に、赤玉土に鹿沼土をブレンドするのは非常に理にかなった方法です 。
最近では、赤玉土の崩れやすさを克服するために、高温で焼き固めた「硬質赤玉土」や「焼き赤玉土」が販売されています 。これらは鹿沼土並みに崩れにくく、長期間の栽培(盆栽や大型の観葉植物など)に適しています。少し高価ですが、植え替えの手間とリスクを考えるとコストパフォーマンスは高いと言えます。
参考リンク:【鹿沼土】微塵が固まるとセメント状になる危険性(鹿沼土の微塵は取り除くべき理由)

多肉植物やサボテン、そして植物を増やすための「挿し木」において、鹿沼土はその真価を発揮します。
赤玉土も鹿沼土も、地下深層から採掘されるため、有機物や肥料分、病原菌をほとんど含んでいません(無菌に近い)。この「清潔さ」は、切り口から雑菌が入りやすい「挿し木」や「種まき」にとって最強のメリットです。肥料分がないため、発根したばかりのデリケートな根が「肥料焼け」する心配もありません。
鹿沼土は乾燥していると「白っぽい黄色」ですが、水分を含むと「鮮やかな濃い黄色」に変化します 。この色の変化は赤玉土よりも明瞭です。
参考)https://ameblo.jp/izurin-87/entry-12727756235.html
多肉植物は過湿を嫌います。保水性が高すぎる赤玉土単体よりも、排水性の高い鹿沼土や軽石を混ぜるのが一般的です。

「赤玉土は保肥力が高い」とよく言われますが、科学的にはどうなのでしょうか。ここでは保肥力の指標であるCEC(塩基置換容量)に注目します。
土壌学的に見ると、赤玉土のCECは約12~17 cmol(+)/kg程度、鹿沼土は約15~19 cmol(+)/kg程度(データにより変動あり)です 。実は、腐葉土や堆肥(CEC 50以上)に比べると、どちらも保肥力が高いとは言えません。
参考)赤玉土を深掘り〜各性質をできる限り数値で表してみた〜 - B…
「赤玉土は保肥力が高い」というのは、あくまで「砂や軽石に比べれば高い」というレベルの話です。
赤玉土や鹿沼土単体では、肥料成分を保持する力が弱く、また微生物のエサとなる有機物も含まれていません。そのため、化学肥料を与えても雨や水やりですぐに流亡してしまいます。
これを補うために、腐葉土や堆肥を混ぜるのです。
この「7:3」の法則は、赤玉土で「植物の体を支え、水を確保」し、腐葉土で「肥料を蓄え、微生物を養う」という、物理性と化学性のバランスが取れた完璧な組み合わせなのです 。
注意点:
赤玉土は微細な孔(孔隙)を多数持つ多孔質構造のため、保水性が非常に高いです。水をやりすぎると、この孔が水で埋め尽くされ、根が呼吸できずに根腐れを起こします 。これを防ぐために、鹿沼土やパーライトなどの「水はけを良くする資材」を1~2割混ぜ込むのが有効です。

最後に、園芸以外の意外な活用法を紹介します。実はアクアリウム、特にメダカの飼育において、赤玉土は「安価で高性能な底床」として熱烈な支持を得ています 。
日本の水道水は中性~弱アルカリ性ですが、メダカや多くの熱帯魚は弱酸性の水を好みます。赤玉土を水槽の底に敷くと、水質を自然に弱酸性(pH 6.0前後)に安定させてくれます 。
赤玉土の多孔質構造は、水を浄化するバクテリア(濾過バクテリア)にとって最高のマンションになります。表面積が広いため、砂利を入れるよりも圧倒的に多くのバクテリアが定着し、水がピカピカになります。
鹿沼土も同じような効果が期待できそうですが、アクアリウムではあまり使われません。理由は「軽すぎて浮く」からです 。水を入れた瞬間にプカプカと浮いてしまい、掃除も大変です。また、酸性が強すぎるため、水質管理がシビアになる点も敬遠される理由です。
※ただし、水草水槽などで意図的にpHを下げたい上級者が、ネットに入れて濾過槽に沈めるという裏技的な使い方は存在します。
参考リンク:研究室で生まれたメダカ飼育専用の「赤玉土」のお話。(GEXによる赤玉土の水中利用解説)
まとめ
赤玉土は「万能な基礎」、鹿沼土は「酸性と排水のスペシャリスト」。この2つの特性を理解し、育てる植物に合わせて配合を変えることこそが、園芸上級者への第一歩です。まずは手元の植物の土の表面に、色の変わる鹿沼土を少し撒いてみることから始めてみてはいかがでしょうか?