観葉植物を育てていると避けては通れないのが害虫の問題です。特に室内で育てている場合、虫の発生は衛生面でも精神面でも大きなストレスになります。そこで頼りになるのが、園芸初心者からプロまで幅広く愛用されている殺虫剤「オルトラン」です。しかし、正しい使い方や適量を守らないと、期待した効果が得られなかったり、最悪の場合は植物に悪影響(薬害)を与えてしまったりすることもあります。ここでは、オルトランの基本的な使い方と、鉢のサイズごとの適切な粒剤の量について深掘りして解説します。
まず、オルトランには「粒剤(りゅうざい)」、「水和剤(すいわざい)」、「液剤(えきざい)」などの種類がありますが、観葉植物の普段の管理に最も適しているのは、手軽に使える「粒剤」タイプです。粒剤の最大のメリットは、スプレータイプのように虫を見つけてから噴射するのではなく、「予防」としてあらかじめ土にまいておける点にあります。
具体的な使い方の手順は以下の通りです。非常にシンプルですが、ポイントを押さえることで効果が大きく変わります。
植物の茎の根元周辺の土の上に、パラパラと均一になるように粒剤を散布します。一箇所に固まってしまうと、根の一部に高濃度の薬剤が触れてしまい、根痛みの原因になることがあるため、ドーナツ状に広げるのがコツです。
参考)家庭園芸用GFオルトラン粒剤
表面にまいただけで終わらせる方もいますが、割り箸やスプーンなどを使って、表面の土と薬剤を軽く混ぜ合わせることを推奨します。これにより、薬剤が水に溶け出しやすくなり、後述する「臭い」の揮発も多少抑えることができます。
オルトランの成分は水に溶けることで土壌に浸透し、根から吸収されます。散布後は必ず、鉢底から流れ出るくらいたっぷりと水を与えてください。この最初の水やりが、薬剤のスイッチを入れる役割を果たします。
次に、最も悩ましい「適量」についてです。製品のラベルには「1平方メートルあたり〇〇g」や「1株あたり〇〇g」と書かれていますが、家庭の鉢植えではイメージしにくいのが実情です。使用量が少なすぎると殺虫効果が出ず、多すぎると植物が枯れる「薬害」のリスクが高まります。
目安としては、以下の分量を参考にしてください。
1gの目安ですが、コンビニやスーパーでもらえる透明なプラスチックのデザートスプーン(プリン用など)が役立ちます。一般的な使い捨てスプーンですり切り1杯が約0.5g〜1g程度(スプーンの大きさによるため一度キッチンスケールで計ると確実です)であることが多いです。これを基準に、「6号鉢ならスプーン山盛り1杯弱」といった自分なりの基準を作っておくと便利です。
参考)バラの害虫駆除にオルトラン粒剤!使い方と量は? - バラを楽…
また、散布の頻度については、オルトランの効果持続期間は約3週間〜1ヶ月程度です。そのため、虫が発生しやすい春から秋の成長期には、月に1回のペースで定期的に散布することで、常に植物体内に殺虫成分が行き渡った状態をキープできます。カレンダーやスマホのリマインダーに「オルトランの日」を設定しておくと忘れずに済みます。
オルトランには通常の「オルトラン粒剤」と、成分が強化された「オルトランDX粒剤」の2種類が主に流通しています。パッケージが青いものが通常版、赤いものがDX版です。観葉植物の害虫対策としてどちらを選ぶべきか迷うところですが、結論から言えば、より幅広い害虫に効く「DX」を選ぶのが無難です。
オルトランDXには、2つの殺虫成分(アセフェートとクロチアニジン)が含まれています。これにより、以下のような厄介な害虫を同時に防除することが可能です。
さて、室内園芸で最も悩みの種となりやすい「コバエ(キノコバエなど)」への効果についてはどうでしょうか。ここには注意が必要です。
実は、オルトランは「コバエ専用」の殺虫剤ではありません。ネット上の口コミや検索結果では「オルトランをまいたらコバエが減った」という声もあれば、「全く効かない」という声もあり、意見が分かれています。これは、オルトランの主成分が、コバエの「幼虫(ウジ)」に対してはある程度の殺虫効果を示すものの、空中を飛び回っている「成虫」を即座に撃ち落とす効果はないためです。また、コバエの種類によっても感受性が異なります。
参考)観葉植物のコバエ駆除はダントツ水溶剤で解決!効果と手順を解説…
コバエ対策としてオルトランを使用する場合の位置づけは、あくまで「土の中に潜む幼虫を駆除し、次世代の発生を抑える予防策」と考えるべきです。すでに部屋中をコバエが飛び回っているような状況では、オルトランだけでは解決までに時間がかかります。その場合は、以下の方法を併用することをおすすめします。
オルトランDXは「アブラムシやカイガラムシなどの吸汁害虫」と「アオムシなどの食害害虫」をダブルでブロックできる点が最大のメリットです。「コバエもついでに減ればラッキー」くらいの気持ちで使いつつ、本命の害虫予防として活用するのが賢い使い方と言えるでしょう。
オルトランを使用する際、最大のデメリットとして挙げられるのがその独特な「臭い」です。多くのユーザーが「腐ったタクアンのような臭い」「硫黄のような温泉臭」「強烈な薬品臭」と表現し、特に室内で管理する観葉植物に使用する場合、リビングや寝室が異臭に包まれるというトラブルが後を絶ちません。
参考)【楽天市場】住友化学園芸 オルトランDX粒剤 徳用 1kg(…
この臭いの原因は、有効成分であるアセフェートなどが分解する過程で発生するガス(硫黄化合物など)によるものです。しかし、適切な対策を講じることで、この臭いを最小限に抑え、室内でも快適に使用することが可能です。ここでは、効果的な臭い対策テクニックをいくつか紹介します。
1. 「土で蓋をする」サンドイッチ作戦
最も効果的で推奨される方法は、オルトランをまいた後に、その上から新しい土を被せる方法です。
2. 散布直後の数日間は屋外または通気性の良い場所に置く
オルトランの臭いは、散布して水やりをした直後から数日間がピークです。その後、徐々に薄れていきます。
3. 活性炭を混ぜ込む
消臭効果のある「園芸用活性炭」や「竹炭」を細かく砕いたものを、オルトランと一緒に土に混ぜ込む、あるいは土の上に化粧砂として敷くという方法もあります。炭の多孔質な構造が、発生した臭い成分を吸着してくれることが期待できます。ただし、完全に無臭になるわけではないため、他の方法との併用がおすすめです。
4. 薬剤選びを見直す
どうしても臭いが耐えられない場合は、オルトランの使用を諦め、臭いの少ないタイプの殺虫剤に切り替えるのも一つの手です。
注意点:健康への影響
「臭い」は単なる不快感だけでなく、体調不良の原因になることもあります。特に化学物質過敏症の方や、小さなお子様、ペットがいる家庭では、薬剤の揮発成分に敏感になる必要があります。散布作業中は必ずマスクと手袋を着用し、換気を徹底してください。もし臭いで気分が悪くなった場合は、すぐに換気を行い、植物を屋外に出すなどの対応をとってください。
オルトランが他の殺虫剤と大きく異なる点は、「浸透移行性(しんとういこうせい)」という性質を持っていることです。これは、薬剤が植物の根や葉から吸収され、植物の体液(師管液や道管液)に乗って植物全体の隅々まで行き渡る性質を指します。つまり、オルトランを吸った植物は、いわば「毒を含んだ植物」へと一時的に変化し、その植物を食べたり汁を吸ったりした害虫を退治するのです。
参考)https://www.greenjapan.co.jp/orutoran_r.htm
この浸透移行性の効果を最大限に発揮させるためには、ただ漫然とまくのではなく、水やりのコントロールが非常に重要になります。薬剤を効率よく根から吸収させるためのコツを深掘りしましょう。
1. 散布のタイミングは「水やりの直前」がベスト
オルトラン粒剤は、水に溶けることで初めて効果を発揮します。乾いた土の上にまいて放置しても、薬剤は溶け出さず、根に届きません。したがって、最も効率が良いのは「そろそろ水やりの時期だな」と土が乾いてきたタイミングでオルトランをまき、その直後にたっぷりと水やりをするという流れです。
逆に、土がまだ湿っている状態でまいてしまうと、すぐに水やりができないため、薬剤が表面に残ったままになり、臭いの原因になったり、ペットが誤食したりするリスクが高まります。
2. 最初の水やりは「優しく、じっくり」
散布直後の水やりは、薬剤を土全体に広げるための重要な工程です。しかし、ここでホースの強い水流で勢いよく水をかけてしまうと、軽い粒剤が水に浮いて鉢の外に流れ出たり、土の表面で偏ってしまったりします。
3. 薬剤が到達するまでのタイムラグを考慮する
浸透移行性の薬剤は、まいてから効果が出るまでに一定の時間がかかります。根から吸収され、茎を通って葉の先端まで薬剤が到達するには、植物の大きさや蒸散の活発さにもよりますが、数日〜1週間程度かかることがあります。
4. 植物の「活性」が高い時期に使う
浸透移行は、植物が水を吸い上げる力(蒸散作用)を利用して薬剤を運びます。そのため、植物が休眠していて水をあまり吸わない冬場などは、薬剤の吸収効率が落ちます。
5. 鉢底から流れ出る水について
オルトランをまいた後の最初の水やりでは、鉢底から白い濁った水や、薬剤の成分を含んだ水が出てくることがあります。これをそのまま受け皿に溜めておくと、高濃度の薬剤が残り、再吸収による根腐れや、蒸発時の臭いの原因になります。
参考)植物にオルトランを撒いた時の水やりについてです。水やりをする…
「オルトランを毎月まいているのに、アブラムシが減らない」「最初は効いていたのに、最近コバエが死ななくなった」……そんな経験はありませんか?それはもしかすると、害虫が薬剤に対する「抵抗性」を持ってしまった可能性があります。
抗生物質を使いすぎると耐性菌が生まれるのと同様に、農薬も同じ種類のものを使い続けると、その薬に強い個体だけが生き残り、やがて薬が効かない「スーパー害虫」が爆発的に増えてしまうのです。これを防ぐための高度なテクニックが、異なる種類の薬剤を順番に使う「ローテーション散布」です。
参考)オルトランがヨトウムシに効かない?4つの原因と対策 - sa…
1. 作用機序(さようきじょ)の異なる薬を使う
ローテーションとは、単に商品名を変えることではありません。重要なのは「作用機序(殺虫成分が虫に効く仕組み)」が異なる薬を選ぶことです。
オルトラン(成分名:アセフェート)は、「有機リン系」と呼ばれるグループに属します。これと同じ系統の薬を続けて使っても意味がありません。
↓ 翌月
↓ 翌々月
このように、系統の違う薬剤を交互に使うことで、仮に有機リン系に強い個体が生き残っても、次のネオニコチノイド系で仕留めることができ、抵抗性の発達を阻止できます。
2. オルトランの「使いすぎ」による副作用リスク
「効かないから」といって、規定量以上のオルトランを大量にまくのは非常に危険です。これは抵抗性の問題を解決しないどころか、植物に深刻な副作用(薬害)をもたらす可能性があります。
3. 「抵抗性」以外の原因も疑う
オルトランが効かないと感じた時、抵抗性以外にも意外な落とし穴がある場合があります。
4. 究極の対処法:物理的防除への回帰
もし、完全な抵抗性を持ってしまった害虫が現れた場合、薬剤の使用を一旦ストップし、物理的な駆除に切り替える勇気も必要です。
オルトランは魔法の薬ではありませんが、その特性を理解し、適切に管理すれば、これほど心強い味方はありません。抵抗性対策としてのローテーションや、日々の観察と組み合わせることで、あなたの愛する観葉植物を長く美しく保つことができるでしょう。