私たちが普段何気なく目にしている観葉植物には、単なるインテリアとしての機能を超えた、科学的に裏付けられた「空気清浄能力」が備わっています。農業に従事される皆様であれば、植物が持つ光合成や呼吸のプロセスがいかに環境に影響を与えるか、肌感覚で理解されていることでしょう。しかし、閉鎖空間における特定の有害物質除去能力については、意外と知られていない事実が多く存在します。
その代表的な根拠となるのが、1989年にアメリカ航空宇宙局(NASA)が発表した「クリーン・エア・スタディ(NASA Clean Air Study)」です。この研究は当初、密閉された宇宙船内において、宇宙飛行士が快適に過ごせるための空気浄化システムを開発するために行われました。研究の結果、特定の観葉植物が、建材や家具、接着剤などから揮発する「シックハウス症候群」の原因物質(揮発性有機化合物:VOC)を吸着・分解する能力を持つことが判明しました。これらは「エコプラント」と名付けられ、世界中で注目されるようになりました。
植物が消臭や空気清浄を行うメカニズムは、主に以下の3つのプロセスに集約されます。
農業の現場、特に事務所や休憩所においては、外から持ち込まれる土埃や肥料の匂い、あるいは長時間の事務作業による閉塞感など、空気の質が低下しやすい要因が揃っています。機械的な空気清浄機はフィルター交換や電気代のコストがかかりますが、観葉植物は「生きた空気清浄機」として、水と光さえあれば24時間、静かに空気を濾過し続けてくれます。
NASAの研究では、広さ約10平方メートル(約6畳)に対して1鉢程度の観葉植物を置くことで、有意な空気清浄効果が得られるとされています。ただし、葉にホコリが溜まっていると気孔が塞がり、効果が半減してしまうため、定期的に葉を拭くなどのメンテナンスは欠かせません。これは、作物の葉色を見て健康状態を判断する農家の皆様なら、日常的な観察の一環として苦にならない作業ではないでしょうか。
エコ・プラントの有害物質除去能力について詳しく解説されています(竹中庭園緑化)
参考)空気清浄効果が高いエコ・プラントのご紹介 – NASA研究で…
家の中や事務所の中で、特にニオイが気になる場所といえば「トイレ」であり、空気の質にこだわりたい場所といえば休息をとる「寝室」です。それぞれの場所に適した観葉植物を選ぶことで、消臭効果を最大化することができます。ここでは、特に除去能力が高いとされる品種をピックアップしてご紹介します。
トイレにおすすめの観葉植物(耐陰性とアンモニア除去)
トイレは一般的に日当たりが悪く、狭い空間にアンモニア臭がこもりやすい環境です。そのため、耐陰性(暗い場所でも育つ性質)があり、かつアンモニアの除去能力が高い植物が適しています。
最もポピュラーで最強の空気清浄植物の一つです。サンスベリアは多肉質の葉を持ち、乾燥に強く、光が少ない場所でも耐え抜く強さがあります。NASAの研究でもトップクラスの評価を得ており、ホルムアルデヒドやベンゼンだけでなく、アンモニアの浄化能力も確認されています。縦に伸びる形状なので、狭いトイレの隅に置いても邪魔になりません。
白い仏炎苞(花のような部分)が美しい植物です。アセトン(マニキュア除光液の成分)やアルコール、ベンゼン、ホルムアルデヒド、トリクロロエチレンなど、多様な揮発性物質を除去する「オールラウンダー」です。蒸散作用が活発で、少し湿度の高いトイレ環境を好みます。ただし、寒さにはやや弱いため、冬場の温度管理には注意が必要です。
寝室におすすめの観葉植物(CAM型光合成とリラックス効果)
寝室には、夜間に酸素を供給してくれる植物や、リラックス効果のある見た目の植物が推奨されます。
アロエは「CAM型光合成」という特殊な代謝を行う植物です。一般的な植物は昼間に気孔を開いて二酸化炭素を取り込みますが、CAM植物は水分の蒸発を防ぐため、夜間に気孔を開いて二酸化炭素を吸収し、酸素を放出します。これにより、就寝中の室内の酸素濃度を高く保ち、安眠をサポートしてくれます。
観葉植物の中でも特に丈夫で育てやすく、初心者にもおすすめです。ホルムアルデヒドの除去能力に優れています。つる性でハンギング(吊るす)スタイルも可能なため、床に置くスペースがない寝室でも、棚の上やカーテンレールから吊るして楽しむことができます。緑視率(視界に入る緑の割合)を高めることで、心理的なストレス緩和効果も期待できます。
品種選びのポイント比較表
| 植物名 | 主な除去物質 | 特徴 | 設置おすすめ場所 |
|---|---|---|---|
| サンスベリア | ホルムアルデヒド, アンモニア | 乾燥に強い, 夜間酸素放出 | トイレ, 寝室 |
| スパティフィラム | アセトン, ベンゼン, アルコール | 多湿を好む, 花が咲く | トイレ, 洗面所 |
| アロエベラ | ホルムアルデヒド, ベンゼン | 夜間酸素放出, 薬用効果 | 寝室 |
| ドラセナ類 | ホルムアルデヒド, キシレン | 種類が豊富, 幸福の木 | リビング, 玄関 |
| アイビー | ホルムアルデヒド, 糞便臭 | 耐寒性が高い, つる性 | トイレ, 窓辺 |
選ぶ際は、単に「消臭効果」だけでなく、その植物が好む「光の量」と「水やりの頻度」が、置きたい場所の環境とマッチしているかを確認することが、長く効果を維持する秘訣です。枯れてしまっては元も子もありません。
サンスベリアの空気清浄効果と夜間の酸素放出の仕組みについて解説(グリーンデザイン)
参考)サンセベリアはなぜ空気清浄効果がある?エコプラントの実力を解…
※ここは、一般的なインテリア情報サイトではあまり語られない、農業従事者ならではの視点に基づいた独自の内容です。
農業の現場、特に畜産に近い環境や、有機肥料(鶏糞、牛糞など)や堆肥を扱う倉庫が隣接する事務所においては、独特の「アンモニア臭」や「発酵臭」が室内に漂ってくることがあります。また、農作業後の長靴や作業着が置かれる土間(玄関)エリアも、汗や土の混じったニオイが発生源となりがちです。一般的な家庭用の消臭剤では追いつかない、こうした現場特有のニオイ対策として、アンモニア除去能力に特化した観葉植物を戦略的に配置することをご提案します。
アンモニアは水に溶けやすく、特定の植物の葉面吸収によって効率的に取り除かれることが分かっています。農業現場のオフィスに導入すべき「対アンモニア特化型」の植物は以下の2つです。
1. カンノンチク(観音竹) - Rhapis excelsa
古くから日本の家屋や料亭などで見られるヤシ科の植物ですが、実はNASAの研究において「アンモニアの除去能力が全植物中でトップクラス」という驚異的なデータを持っています。
2. アンスリウム - Anthurium
赤いハート型の仏炎苞が特徴的な熱帯植物です。華やかな見た目に反して、アンモニア、キシレン、トルエンの除去能力が高いことで知られています。
堆肥臭・発酵臭へのアプローチ
堆肥などの発酵臭は、アンモニアだけでなく硫化水素やメチルメルカプタンなどの複合臭です。これらに対しては、植物単体の吸収能力に加え、「鉢土の表面積を広げる」ことが有効です。前述の通り、土壌微生物による分解作用が強力なため、小さな鉢をたくさん置くよりも、口径の広いプランターを置いて土の表面積を確保する方が、消臭容量は大きくなります。
さらに、土の表面に「活性炭」や「竹炭」のチップをマルチング(被覆)材として敷き詰めるハイブリッド手法もおすすめです。炭が物理的にニオイを吸着し、それを徐々に植物と微生物が分解するというサイクルを作ることで、瞬間的な強いニオイにも対応できる強力な消臭システムが完成します。これは、土壌改良資材として炭を扱うことの多い農家の方なら、手持ちの資材ですぐに実践できるテクニックではないでしょうか。
生垣など植物によるアンモニア吸収と減臭効果のメカニズム(畜産ナビ)
参考)生垣には減臭の効果も!畜産農場に適した植物と植え方のポイント…
消臭のために観葉植物を置きたいが、「土を室内に持ち込むこと自体がニオイや汚れの原因になるのでは?」と懸念される方もいらっしゃいます。特に、清潔さが求められる直売所のレジ周りや、書類を扱うデスク周りでは、土に含まれる有機肥料のニオイや、コバエの発生は絶対に避けたいところです。
そこで推奨されるのが、土を使わない栽培方法「ハイドロカルチャー(水耕栽培)」です。
ハイドロカルチャーのメリット
消臭能力への影響は?
「土がないと微生物がいないので、消臭効果がなくなるのでは?」という疑問が生じます。確かに、土壌微生物による分解効果は減少しますが、葉によるガス吸収能力(ベンゼンやホルムアルデヒドの除去)は変わりません。
実際に、ハイドロカルチャー専用の植え込み材の中には、多孔質で吸着能力が高い素材(ゼオライトや活性炭入りセラミック)が多く存在します。これら自体が脱臭剤のような役割を果たし、植物が根から酸素を供給することで、水中の好気性微生物が活性化し、水質浄化とともに一定の空気浄化作用を担います。
おすすめの組み合わせ
パキラは成長が早く、新しい葉を次々と展開するため、代謝が活発で空気清浄効果が高い植物です。これをアンモニア吸着能力のあるゼオライト(農薬の担体や土壌改良剤としてもおなじみですね)を使って植え込むことで、植物と培地のダブルパワーで消臭を行います。
ドラセナ類は室内の化学物質除去に優れています。オフィスのOA機器(コピー機など)から発生する微量のオゾンや化学物質の臭いが気になる場所に配置すると効果的です。
ハイドロカルチャーは土栽培に比べて植物の成長スピードは緩やかになりますが、その分、剪定の手間が減り、コンパクトな樹形を長く維持できるという利点もあります。デスクの上や棚の隙間など、ニオイの発生源に近い「ピンポイント」な場所に置く消臭インテリアとして最適です。
オフィス環境における観葉植物の導入効果と環境変化に関する研究(芝浦工業大学)
参考)https://www.shibaura-it.ac.jp/assets/2021tokkyokenreport.pdf
一日の仕事が終わり、自宅に戻った瞬間に感じる「家のニオイ」。これは生活臭(料理の残り香、靴のニオイ、体臭など)が混ざり合ったものです。特に、農作業から帰宅した直後の玄関や、家族が集まるリビングはニオイが溜まりやすいホットスポットです。ここでは、生活動線に合わせた配置と選び方のポイントを解説します。
玄関:家の第一印象を決める「フィルター」
玄関は外気の出入り口であり、靴箱からのニオイも発生します。ここでは「背が高く、葉の面積が広い植物」を置くのが正解です。
肉厚で大きな葉を持つゴムノキは、ホルムアルデヒド除去効果が高いだけでなく、その大きな葉で空気中の微細なホコリをキャッチする能力に優れています。玄関に入ってくる汚染物質を最初にブロックするフィルター役として機能します。
リビング:家族の健康を守る「広い空間の浄化」
リビングは空間が広いため、小さな鉢植え一つでは効果が薄れます。「葉の数が多い植物」あるいは「複数の植物を分散配置(サテライト配置)」することが重要です。
アレカヤシは、高さ1.8mほどの大きさであれば、1日に約1リットルもの水分を蒸散させると言われています。この天然の加湿効果は、乾燥によるウイルスの飛散を防ぐだけでなく、空気中のニオイ物質を水分に吸着させて床に落とす効果があります。リビングのコーナー(部屋の隅)に置くことで、部屋全体の空気対流を促し、淀みをなくします。
効果を持続させるための「葉水(はみず)」
消臭効果を維持するために最も重要なケアが「葉水」です。霧吹きで葉に水をかける作業ですが、これは単なる水分補給ではありません。
農薬散布のノズル調整はお手の物かと思いますが、観葉植物への葉水は「ふんわりと全体を包み込むように」行うのがコツです。毎朝のルーティンに一回の霧吹きを加えるだけで、植物は生き生きとし、部屋の空気は驚くほど澄んだものに変わるでしょう。
観葉植物による心理的緩和効果と空間への影響に関する研究論文(日本マーケティング学会)
参考)https://www.j-mac.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2015/01/proceedings13.pdf

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