ハダニの種類を正確に見分けることは効果的な防除の第一歩です。農業現場で問題となる主なハダニは、カンザワハダニ、ミカンハダニ、ナミハダニの3種類が挙げられます。
参考)ハダニ類(ミカンハダニ・カンザワハダニ・ナミハダニなど)|害…
カンザワハダニとミカンハダニは体長約0.5mmで赤色を呈し、肉眼での両種の区別は困難です。一方、ナミハダニには黄緑色の系統(青ダニ)と赤い系統(赤ダニ)があり、赤い系統はカンザワハダニと見分けがつきません。ナミハダニの黄緑色型は背中に2個の黒い斑点があることが特徴です。
参考)https://www.fmc-japan.com/wiki/vegetable/mite/kishida-kanzawa-spider-mite
FMC害虫Wikiでは、ハダニ類の詳細な形態的特徴と見分け方を画像付きで解説しています。
これらのハダニ類はクモの仲間で脚が8本あり、昆虫類とは異なる分類群に属します。体が小さいため発生初期の発見が難しく、気づいた時には多発生になっていることが多いのが実情です。
参考)島根県:ハダニ類(トップ / しごと・産業 / 農林業 /…
ハダニの被害は葉の表面に特徴的な症状として現れます。ハダニは主に葉裏に寄生して汁を吸うため、葉の表面から見ると吸汁された部分の葉緑素が抜け、針先でつついたような白い小斑点が生じます。
参考)【公式】ハダニの被害にもう悩まないで。防除方法と有効薬剤につ…
発生初期には葉の主脈と太い葉脈の周りに黄色がかった小さな白い斑点が現れ、次第に斑点が増えてつながり大きくなると、空洞になった細胞のエリアが白や透明な銀色に見えます。数が少ないと判別しにくいですが、数が多くなると白くカスリ状にまとまって見えるため、この段階で気づくことが多いです。
参考)301 Moved Permanently
被害が進行すると、葉全体が黄変し、草花では葉が枯れて落葉することもあります。ひどい場合にはクモの巣のような巣をつくり、やがて株自体も枯死する危険性があります。
ハダニの発生時期は5~10月で、特に梅雨明け以降に被害が大きくなります。ハダニは気温20~30℃の高温で乾燥している環境を好むため、梅雨明けから秋にかけて繁殖が進みます。
参考)ハダニの駆除方法や予防方法のおすすめ!牛乳やコーヒー、重曹は…
住友化学園芸の解説では、ハダニの生態と発生時期について詳しく紹介されています。
ハダニの発育経過は卵→幼虫→第1若虫→第2若虫と3回の脱皮を経て成虫になります。卵から成虫まで25℃の環境下では約10日間、30℃では12日間で発育し、年間の発生回数は10~13回にも及びます。雌1匹が1日に産む卵は数個~10個、生涯で100~150個もの卵を産むため、繁殖力は極めて旺盛です。
参考)https://www.syngenta.co.jp/cp/articles/20021209
休眠しないナミハダニやミカンハダニは気温が高ければ1年中増殖できますが、カンザワハダニは休眠性を持つため越冬します。室内や温室の植物、ベランダや軒下など雨が当たらない場所では特に注意が必要です。
参考)梅雨明け後注意!野菜のハダニの駆除・症状・発生時期
ハダニが発生する主な原因は高温乾燥環境と、風による移動です。ハダニはクモのように糸を出し、その糸を風に乗せて植物から植物へ移動するため、風を利用した拡散が発生原因の一つとなっています。
参考)植物に寄生するハダニとは?ハダニの予防と駆除について解説 -…
発生しやすい環境として、軒下など雨の当たらない場所が挙げられます。ハダニは水に弱い性質があり、夕立や梅雨、台風など雨が多く降る時期は繁殖力が下がります。そのため、雨が当たらない場所に植物があるとハダニが発生しやすくなるのです。
参考)葉から葉緑素を抜かれて真っ白に!ハダニ(葉ダニ)の駆除・予防…
土壌の水分不足もハダニ発生と深い関係があります。土壌が乾燥すると植物の葉や茎が乾燥しやすくなり、ハダニにとって理想的な寄生環境となります。また、弱った植物はハダニの被害に遭いやすく、被害も大きくなりやすいという特徴があります。
参考)トマトのハダニ被害を防ぐ!原因、症状、効果的な駆除・予防 │…
衣服や新しい苗への付着、周囲の雑草からの侵入など、発生原因は多様で根絶が難しいのが実情です。雑草が生い茂っている場所が近くにあると、そこでハダニが繁殖し、風に乗って飛んでくることもあります。
参考)ハダニを駆除する方法は?発生しやすい時期や環境についても解説…
ハダニ駆除の基本は水を活用した方法です。ハダニは乾燥した環境を好み水が苦手なため、定期的に葉裏に散水することで繁殖を抑えることができます。葉裏を重点的に霧吹きで水をかけ、植物から水がしたたり落ちるほどしっかりと株全体にかけることが効果的です。鉢植えの場合は、鉢ごと水に5~15分ほど浸す方法も有効です。
参考)https://andplants.jp/blogs/magazine/plants-hadani
発生数が少ない場合は、セロハンテープやガムテープなどの粘着テープで直接捕獲する方法も実践できます。葉の裏に集団で寄生しているハダニにテープを貼り付けて剥がしていきますが、粘着力が強すぎると葉を傷める原因になるため注意が必要です。
無農薬での駆除方法:
被害が拡大した葉や茎は思い切って切り落とすことも重要な対策です。ハダニが発生した植物を発見したら、すぐに他の植物から隔離することで拡散を防ぎます。
ハダニ防除において農薬を使用する際は、抵抗性の発達を防ぐためローテーション散布が極めて重要です。ハダニは生育サイクルが早く抵抗性を持ちやすいため、同じ薬剤系統を連用しないことが基本原則となります。
参考)ハダニに効くおすすめの農薬
主要な殺ダニ剤の種類:
📌 バロックフロアブル(エトキサゾール)
ダニ類の成長を阻害し、各種ハダニ類に優れた殺卵・殺幼若虫作用を示します。天敵昆虫や花粉交配用昆虫への影響が少ないことも特長です。
📌 スターマイトフロアブル(β-ケトニトリル誘導体)
抵抗性ハダニに効果が高く、卵から成虫までの全ステージに安定した効果を発揮します。低温時でも安定した効果があり、耐雨性に優れています。
📌 マシン油乳剤
薬剤抵抗性発達の恐れがないため、非常に有効なハダニ対策農薬と言えます。有効な薬剤のローテーション散布を前提として、積極的な使用が推奨されています。
農家webでは、RACコードを確認した殺ダニ剤のローテーション散布について詳しく解説されています。
殺虫剤を散布しても翌日集団でハダニが生息している場合は、抵抗性を疑う必要があります。お使いの農薬のRACコードを確認して、タイプの異なる殺虫剤のローテーション散布を心がけることが重要です。
ハダニの生物的防除では、天敵のカブリダニ類を活用することが効果的です。カブリダニ類はハダニ類と同じダニの一種ですが、ハダニ類が植物だけを食べるのと異なり、カブリダニ類はハダニ類等の微小な節足動物を捕食できます。
参考)ニホンナシの害虫ハダニ類に対する天敵カブリダニ類を活用したI…
カブリダニ雌成虫の体長は約0.4mmとハダニ類よりも小さいため目視による観察は難しいですが、多くの果樹園では従来から生息している土着のカブリダニ類が発生しており、ハダニ類が発生した場所に定着してハダニ類の密度を低く抑えてくれています。
カブリダニ類の主な種類:
天敵導入による防除は「生物農薬」と呼ばれますが化学農薬ではなく、有機JASでも使用可能です。カブリダニを保全するためには、非選択性殺虫剤の使用を控えることが重要で、特にハダニ類が増殖時期を迎える6月から7月にかけては注意が必要です。
適正な草生管理はカブリダニを保全し、ハダニが増えにくい環境を作ります。カブリダニは花粉などハダニ以外の餌を食べつつ果樹上に生息し、後に侵入してくるハダニを捕食することで、ハダニ密度上昇を未然に防ぐ潜在的な天敵としての役割を果たしています。
参考)“<w天>防除体系”~薬剤抵抗性が発達しにくい、天敵が主役の…
農林水産省の資料では、天敵が主役となるハダニ防除体系について詳しく紹介されています。