アザミウマ農薬新薬と防除体系!抵抗性対策と効果的な薬剤の登録

アザミウマの被害に悩んでいませんか?グレーシアやファインセーブなど最新農薬の登録情報、IRACコードを活用した抵抗性対策、赤色ネットなど独自の防除体系を徹底解説します。あなたの圃場は守れていますか?

アザミウマの農薬と新薬

アザミウマの農薬と新薬

アザミウマ防除の重要ポイント
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新規薬剤の活用

グレーシアやファインセーブなど新規作用機作剤の導入

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抵抗性管理

IRACコードに基づくローテーション防除の徹底

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物理的対策

赤色ネットや光反射シートによる侵入抑制効果

アザミウマ農薬新薬の登録とグレーシア乳剤などIRAC30の活用

 

近年、アザミウマ類の防除において画期的な進展が見られています。従来のアザミウマ防除では、ネオニコチノイド系や合成ピレスロイド系薬剤への感受性が低下し、薬剤抵抗性の発達が深刻な問題となっていました。しかし、ここ数年で全く新しい作用機作を持つ「新薬」が相次いで登録され、防除体系の要として注目を集めています。

 

特に注目すべきは、日産化学が開発した「グレーシア乳剤」です。この薬剤は、イソオキサゾリン系に属する新規化合物フルキサメタミドを有効成分としています。

 

  • IRACコード30: GABA作動性塩化物イオンチャネルアロステリック調節剤という新しい分類に属します。
  • 作用特性: 既存の薬剤に抵抗性を持ったミカンキイロアザミウマやネギアザミウマに対しても高い殺虫活性を示します。
  • 速効性と持続性: 散布後速やかに効果を発揮し、約2週間程度の密度抑制効果が期待できます。

グレーシア乳剤の最大の特徴は、そのユニークな作用点です。神経系に作用しますが、従来のジアミド系(IRAC 28)やスピノシン系(IRAC 5)とは異なる部位に結合するため、これら薬剤と交差抵抗性を示しません。これにより、抵抗性が発達してしまった難防除個体群に対しても「リセット」するような形で効果を発揮することが可能です。

 

また、日本化薬の「ファインセーブフロアブル」も重要な選択肢です。

 

  • IRACコード34: ミトコンドリア複合体III電子伝達系阻害剤という、これもまた新しい系統です。
  • スペクトル: アザミウマ類に特異的に高い効果を示しつつ、ハダニ類やコナジラミ類にも活性を持ちます。
  • 安全性: 天敵昆虫や訪花昆虫への影響が比較的少ないとされ、IPM(総合的病害虫・雑草管理)にも適しています。

これらの新薬を導入する際は、単に「新しいから効く」と考えるのではなく、「既存の薬剤体系の中に、異なる作用機作の駒が増えた」と捉えることが重要です。例えば、育苗期後半から定植初期の最も重要な時期にこれら新薬を配置することで、初期密度を徹底的に抑え込む戦略が有効です。

 

日産化学の公式サイトでは、グレーシア乳剤の詳しい適用作物や希釈倍数が確認できます。
さらに、これらの薬剤は「食毒」だけでなく「接触毒」としての効果も併せ持つものが多いですが、アザミウマは花の中や新芽の隙間など、薬液がかかりにくい場所に潜んでいます。新薬のポテンシャルを最大限に引き出すためには、展着剤の加用や十分な散布水量の確保など、丁寧な散布作業が不可欠であることは言うまでもありません。

 

アザミウマの抵抗性発達と異なる作用機作によるローテーション防除

アザミウマ類、特にミナミキイロアザミウマやネギアザミウマは、薬剤抵抗性を獲得するスピードが極めて速い害虫として知られています。その背景には、彼らの世代交代の速さと、単為生殖を行うという生態的特性があります。一度抵抗性遺伝子を持った個体が出現すると、短期間で圃場全体の個体群が抵抗性を持つものに置き換わってしまいます。

 

この問題に対抗する唯一にして最大の手段が「IRACコード(アイラックコード)」に基づいたローテーション防除です。IRACコードとは、殺虫剤をその作用機作(殺虫メカニズム)によって分類した番号のことです。

 

  • 商品名ではなく番号を見る: 異なる商品名でも、成分が同じ系統であればIRACコードは同じです。例えば、「アドマイヤー」と「ダントツ」は共にネオニコチノイド系でIRACコードは4Aです。これらを連続で使用しても、アザミウマにとっては「同じ攻撃」を受けているに過ぎず、抵抗性を助長してしまいます。
  • 系統の分散: 神経系阻害(1, 2, 4, 5, 28, 30)、エネルギー代謝阻害(12, 13, 21, 34)、成長制御(15, 16)など、全く異なるメカニズムを持つ薬剤を順繰りに使用する必要があります。

具体的なローテーションの例を考えてみましょう。

 

散布順序 薬剤例 IRACコード 狙い
1回目 グレーシア乳剤 30 初期の徹底防除(神経系:GABA)
2回目 ベネビアOD 28 浸透移行性を活かす(神経系:RyR)
3回目 ファインセーブ 34 異なる系統への切り替え(代謝系)
4回目 マッチ乳剤 15 脱皮阻害による密度抑制(成長調整)

このように、連続して同じ系統を使わないことが鉄則です。特に、スピノシン系(IRAC 5)やジアミド系(IRAC 28)は効果が高く使いやすいため連用されがちですが、抵抗性発達のリスクが高いため、1作型での使用回数を厳守し、必ず他の系統を挟むようにしてください。

 

FMCの解説ページでは、IRACコードの詳細な分類表や抵抗性管理のガイドラインが公開されています。
また、地域によっては特定の薬剤に対してすでに強い抵抗性が確認されている場合があります。例えば、「この地域ではもうピレスロイド(2A)は効かない」といった情報です。こうした情報は、各都道府県の病害虫防除所が発行する「予察情報」や「防除指針」に掲載されています。新薬を投入する前に、地元の指導機関が発信している抵抗性の現状を確認することが、無駄な散布を防ぐ第一歩となります。

 

アザミウマ防除における赤色ネットや粘着板など物理的対策の効果

化学農薬だけに頼る防除には限界があります。抵抗性リスクを低減し、持続可能な農業を実現するためには、物理的にアザミウマを「入れない」「増やさない」対策を組み合わせるIPM(総合的病害虫管理)の考え方が必須です。ここで近年、劇的な効果が実証され注目されているのが「赤色防虫ネット」です。

 

京都府農林水産技術センターの研究では、赤色ネットがネギアザミウマの侵入を大幅に抑制することが報告されています。
従来、防虫ネットといえば白や黒、青色が主流でした。しかし、最新の研究により、アザミウマは「赤色」を認識しにくい、あるいは赤色の領域には誘引されにくいという視覚特性を持つことが分かってきました。

 

  • 目合いの革命: 従来の白いネットでは、微小なアザミウマの侵入を防ぐために0.4mm以下の細かい目合いが必要でした。しかし、これでは通気性が悪くなり、夏場のハウス内温度上昇や蒸れによる病気(軟腐病や褐斑病など)のリスクが高まります。
  • 赤色の効果: 赤色ネットを使用すると、0.8mmという比較的粗い目合いでも、0.4mmの白ネットと同等以上の侵入抑制効果が得られることが確認されています。これにより、「アザミウマ対策」と「通気性の確保」という、これまでトレードオフの関係にあった二つの課題を同時に解決できるのです。

さらに、光を利用した対策として「光乱反射シート(マルチ)」の利用も有効です。アザミウマは上下の感覚を光の方向で認識しているため、足元(マルチ面)から強い光が反射してくると、平衡感覚を失い、作物への定着が阻害されます。定植時にシルバーマルチや高反射率の白色マルチを使用するだけで、初期の飛び込み数を有意に減らすことができます。

 

粘着板(トラップ)の設置も重要ですが、これも色選びがポイントです。

 

  • 青色粘着板: ミナミキイロアザミウマは青色に強く誘引されます。
  • 黄色粘着板: ミカンキイロアザミウマやその他のアザミウマ、コナジラミ類も捕獲できます。

発生しているアザミウマの種類によって色を使い分ける、あるいは両方を設置してモニタリング(発生予察)を行うことが重要です。「今、何匹飛んでいるか」を数字で把握することで、漫然とした定期散布ではなく、発生のピークに合わせた的確な農薬散布(適期防除)が可能になります。これは結果として農薬代の削減にもつながります。

 

アザミウマの天敵利用とバイオスティミュラントによる免疫活性化

検索上位の情報には少ない、独自視点の防除策として「天敵利用」と「植物の免疫活性化」について深掘りします。農薬で「叩く」だけでなく、生態系と植物自身の力を「利用する」アプローチです。

 

まず天敵利用ですが、アザミウマ類の捕食者として以下の生物農薬が登録されています。

 

  • スワルスキーカブリダニ アザミウマの幼虫やコナジラミの卵・幼虫を捕食します。定着性が良く、長期的な密度抑制に優れています。
  • タイリクヒメハナカメムシ: 成虫・幼虫ともにアザミウマを捕食し、特に成虫に対する捕食能力が高いのが特徴です。

これらの天敵を導入する場合、前述の「化学農薬」との兼ね合いが最重要課題となります。グレーシアやファインセーブなどの新薬は、比較的これら天敵への影響が少ない(または影響期間が短い)とされていますが、使用するタイミングには細心の注意が必要です。例えば、スワルスキーカブリダニを放飼する前後2週間は、有機リン系やピレスロイド系など影響の強い薬剤の散布を避ける必要があります。

 

そして、近年注目されているのが「バイオスティミュラント(生物刺激資材)」によるアザミウマ被害の軽減です。これは直接虫を殺すのではなく、植物のストレス耐性や自己防衛機能を高めるものです。

 

アザミウマの被害は、単なる吸汁痕だけでなく、トマト黄化えそウイルス(TSWV)などのウイルス病を媒介することで壊滅的な打撃を与えます。ここで植物の「免疫」が重要になります。

 

岐阜県などの試験研究では、バイオスティミュラントを活用した病害抑制技術の開発が進められています。
具体的には、以下のようなメカニズムが期待されています。

 

  • 抵抗性誘導(SAR): 特定の微生物資材や抽出物を投与することで、植物が本来持っている病害虫への抵抗性遺伝子をスイッチオンの状態にします。これにより、アザミウマが吸汁してもウイルスが増殖しにくくなったり、植物体が硬くなり食害を受けにくくなったりする効果が報告されています。
  • 回復力の向上: アミノ酸や海藻エキスなどのバイオスティミュラントは、吸汁によるストレスからの回復を早め、生育の停滞を防ぎます。
  • 土壌微生物相の改善: 根圏の環境を良くすることで、地上部の植物体が健全化し、結果として害虫がつきにくい「強い体」を作ります。

これらは農薬のような劇的な即効性はありませんが、防除体系の「ベース」として組み込むことで、化学農薬の効果を補完し、全体の被害レベルを押し下げる効果があります。「農薬でゼロにする」ことが難しい現代において、「被害が出ても収量に影響させない」ための植物作りは、次世代の農業技術として欠かせない視点となるでしょう。

 

新薬による「攻め」、物理的対策による「守り」、そしてバイオスティミュラントによる「体質改善」。これらを組み合わせた総合的な防除体系こそが、抵抗性アザミウマに打ち勝つ唯一の道です。

 

 


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