コナジラミの農薬ローテーションを体系的に解説

コナジラミ防除に欠かせない農薬ローテーションの具体的な組み方や、抵抗性発達を防ぐための系統の選び方を解説します。効果的な薬剤の順番や、散布回数の管理に悩んでいませんか?
コナジラミ防除の要点
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作用機作の分散

IRACコードを確認し、同じ系統の連続使用を避けることで抵抗性を防ぎます。

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発育ステージへの対応

卵・幼虫・成虫、それぞれのステージに効く薬剤を適切なタイミングで投入します。

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物理的防除の併用

薬剤だけでなく、粘着板や防虫ネットなどを組み合わせることで密度を抑制します。

コナジラミの農薬ローテーション

コナジラミ農薬ローテーションの基本とIRACコードの活用

 

コナジラミ類(特にタバココナジラミやオンシツコナジラミ)は、薬剤抵抗性を非常に発達させやすい害虫として知られています。同じ種類の農薬、あるいは同じ作用機作(殺虫メカニズム)を持つ薬剤を連用すると、生き残った個体だけが繁殖し、最終的にその薬剤が全く効かないスーパー害虫を生み出してしまいます。これを防ぐ唯一にして最大の手段が「ローテーション防除」です。

 

ローテーション防除を実践する上で最も重要な指標となるのが「IRAC(アイラック)コード」です。これは殺虫剤の作用機作分類を表す番号で、農薬のラベルや製品情報に記載されています。

 

  • 同じコードの連用は避ける: 商品名が違っても、IRACコードが同じであれば、害虫に対する作用点は同じです。例えば、ネオニコチノイド系の薬剤(コード4A)を連続して使うことは、商品を変えていてもローテーションにはなりません。
  • 世代ごとの切り替え: コナジラミは気温が高いと1ヶ月弱で1世代を経過します。理想的には1世代(約1ヶ月)の間で異なる作用機作の薬剤を組み合わせ、次の世代にはまた別の系統を使用するのが望ましいですが、現実的には1週間~10日ごとの散布タイミングで系統をガラリと変えることが推奨されます。

具体的なローテーションの例として、以下のような系統の分散が考えられます。

 

散布順序 薬剤系統(例) IRACコード 狙いと特徴
1回目 ネオニコチノイド系 4A 定植時や発生初期に。浸透移行性があり残効が期待できる。
2回目 ジアミド系 28 筋肉収縮を阻害。チョウ目など他害虫との同時防除にも有効。
3回目 IGR剤(昆虫成長制御剤) 16など 幼虫の脱皮阻害など。成虫には効かないが次世代密度を下げる。
4回目 気門封鎖剤・物理防除剤 - 抵抗性の心配がない。成虫・幼虫を物理的に窒息させる。

IRACコード分類表について詳しく解説しているシンジェンタジャパンのページです。

 

作用機作分類(IRACコード)の解説と一覧
また、地域によってはすでに特定の系統(例えば合成ピレスロイド系など)に対して強い抵抗性を持っている個体群が存在する場合があります。地元の病害虫防除所が出している「防除指針」や「予察情報」を確認し、地域で効果が落ちている薬剤をリストアップして、ローテーションから外す勇気も必要です。

 

コナジラミ農薬ローテーションにおける効果的な体系防除の順番

効果的な体系防除を組むには、単に系統を変えるだけでなく、「いつ、どのステージを叩くか」という戦略が必要です。コナジラミは「卵」「幼虫」「蛹」「成虫」という異なるステージが混在して生息していることが多く、全ステージを一網打尽にできる単一の薬剤は限られています。

 

  1. 発生初期(密度が低い時期):

    この段階では、残効性が長く、植物体内に成分が浸透する「ネオニコチノイド系(4A)」や「ジアミド系(28)」、「コリンエステラーゼ阻害剤」などが有効です。粒剤処理を定植時に行うことで、初期の飛び込み成虫を殺し、産卵を抑制します。初期の密度をいかに抑えるかが、その作付期間全体の勝負を分けます。

     

  2. 密度が増え始めた時期(拡大期):

    成虫も見かけるが、葉裏に幼虫が増えてくる時期です。ここでは「IGR剤(昆虫成長制御剤)」の投入が鍵となります。IGR剤は即効性こそありませんが、幼虫が成虫になるのを阻害したり、成虫が産んだ卵を孵化させなくしたりする効果があります。

     

    • ポイント: IGR剤だけでは成虫が飛び回って産卵を続けてしまうため、成虫に効く薬剤(ピリフルキナゾン(9B)やスルホキサフロル(4C)など)と混用するか、間隔を詰めて交互に散布することで、成虫と幼虫の両方を叩く「挟み撃ち」を行います。
  3. 収穫期・多発期:

    収穫期に入ると、使用日数(収穫前何日まで使えるか)の制約が出てきます。ここで活躍するのが「気門封鎖剤(物理的防除剤)」や「微生物農薬」です。

     

    • 気門封鎖剤: デンプンや食用油などを成分とし、虫の気門を塞いで窒息死させます。使用回数制限がないものが多く、抵抗性も発達しません。ただし、虫体に薬液が直接かからないと効果がないため、葉裏への丁寧な散布が必須です。
    • 微生物農薬: ボーベリア・バシアーナなどの天敵糸状菌を利用した製剤です。感染すると虫体表面にカビが生えて死滅します。湿度が高い環境で効果を発揮しやすいため、梅雨時や施設栽培での使用に適しています。

体系防除の一例として、以下のような流れをイメージしてください。

 

  • 定植時: ネオニコチノイド系粒剤(4A)
  • 2週間後: ジアミド系液剤(28)
  • 3週間後: IGR剤(16)+ 気門封鎖剤
  • 4週間後: 別系統の殺虫剤(9Bなど)
  • 収穫間近: 気門封鎖剤 または 微生物農薬

このように、薬剤の「残効性」「速効性」「対象ステージ」をパズルのように組み合わせることが、密度を低く保つコツです。

 

農研機構によるタバココナジラミ バイオタイプQ(薬剤抵抗性が強いタイプ)に関する研究と対策です。

 

施設野菜におけるタバココナジラミ バイオタイプQの防除マニュアル

コナジラミ農薬ローテーションでの抵抗性発達の対策と管理

抵抗性管理(IRM: Insecticide Resistance Management)は、もはや「できればやったほうがいい」レベルではなく、農業経営を守るための必須事項です。特にコナジラミ類、アザミウマ類、ハダニ類は「3大抵抗性害虫」と言っても過言ではありません。

 

抵抗性発達のリスクを最小限にするための具体的な管理テクニックを紹介します。

 

  • 感受性検定の結果を注視する:

    都道府県の農業試験場や病害虫防除所は、定期的に主要害虫の薬剤感受性検定を行っています。「今年は〇〇剤の効きが悪い」というデータが出たら、即座にその薬剤の使用を中止し、翌年以降まで休ませてください。一度抵抗性がついた個体群も、その薬剤を使わない期間を数年設けることで、再び感受性(効きやすさ)が戻る場合があります(リバージョン現象)。

     

  • タンクミックス(混用)の是非:

    異なる作用機作の薬剤を混ぜて散布する「混用」は、一度に多様な作用点で攻撃できるため効果的ですが、リスクもあります。もし生き残った個体がいた場合、それは「両方の薬剤に耐性を持つ多剤耐性個体」になる可能性があるからです。

     

    • 推奨: 基本的には単剤(またはあらかじめ配合された合剤)でのローテーションを主軸にし、混用する場合は「作用機作が全く異なるもの(例:化学農薬+気門封鎖剤)」の組み合わせに留めるのが無難です。化学農薬同士の自己流ミックスは、薬害のリスクも含めて慎重に行うべきです。
  • 「徹底的な散布」か「逃げ道を残す」か:

    理論的には、圃場内の害虫を100%殺せれば抵抗性は発達しませんが、それは不可能です。中途半端な濃度や散布ムラで「死にかけたけど生き残った」個体が最も危険です。

     

    • 葉裏への付着: コナジラミは葉裏に寄生します。静電噴口を使ったり、ノズルの角度を工夫したりして、確実に葉裏に薬液を届ける技術が、結果的に抵抗性対策になります。
    • 規定濃度を守る: 「少し薄めで回数を多く」は最悪手です。必ず登録ラベルの希釈倍率を守り、致死量を確実に浴びせることが重要です。
  • 土着天敵の活用:

    薬剤のみに頼ると抵抗性リスクが高まります。スワルスキーカブリダニやタバコカスミカメなどの天敵製剤、あるいは土着の天敵(ヒメコバチなど)を活用できる環境を作ることで、化学農薬の散布回数そのものを減らす(=選択圧を下げる)ことができます。これをIPM(総合的病害虫管理)と呼びます。

     

天敵利用を含めたIPM(総合的病害虫管理)の具体的な実践事例や技術マニュアルです。

 

農林水産省:IPM(総合的病害虫管理)の実践

コナジラミ農薬ローテーションと気門封鎖剤の活用法

「気門封鎖剤」は、従来の神経系に作用する化学農薬とは一線を画す存在として、現代のローテーション防除における「ジョーカー(切り札)」的な役割を果たしています。

 

気門封鎖剤のメリット:

  1. 抵抗性がつかない: 物理的に気門(呼吸口)を塞いで窒息させる、あるいは羽を油分で固めて飛べなくするという物理作用で倒すため、遺伝的な抵抗性が発達する余地がありません。何度使っても効果が落ちないのが最大の特徴です。
  2. 使用回数制限がない: 多くの製品(粘着くん、エコピタ、フーモンなど)はJAS有機栽培でも使えるものが多く、散布回数としてカウントされません。収穫前日まで使えるものも多く、出荷調整時の心強い味方です。
  3. 人畜毒性が極めて低い: 食品成分(デンプン、還元澱粉糖化物、食品添加物グレードの油など)由来のものが多く、作業者への安全性が高いです。

気門封鎖剤の効果的な使い方(テクニック):
気門封鎖剤は「かかった虫しか死なない」という特性があります。浸透移行性もガス効果もありません。したがって、使い方の巧拙が効果に直結します。

 

  • 多水量で洗うように散布: 通常の農薬散布よりも水量を増やし(例:10アールあたり200~300リットルなど)、葉の裏表がびしょ濡れになるくらい散布します。
  • 乾燥条件を狙う: 多くの気門封鎖剤は、薬液が乾く過程で膜を作り、気門を塞ぎます。湿度が高すぎていつまでも乾かない環境よりは、ある程度速やかに乾く条件の方が効果が安定します(製品によります)。
  • 成虫・幼虫へのダブルアタック: 成虫の気門を塞ぐだけでなく、幼虫や卵も包み込んで窒息させます。特に飛び回る成虫を物理的に固めてしまう効果は、ウイルス病を媒介するコナジラミ対策として即効性があります。
  • 化学農薬との混用: 展着剤としての効果も期待できるため、他の殺虫剤と混用することで、殺虫剤の固着性を高めつつ、気門封鎖効果もプラスするという使い方が可能です(混用可否は必ずラベルを確認してください)。

注意点:
汚れや薬害のリスクがあります。特に収穫物に直接かかる場合、白い跡が残ったり、油染みになったりすることがあります。イチゴやトマトなど、果実に直接かかる場合は、汚れが目立たないタイプを選ぶか、収穫直後の散布を心がける等の配慮が必要です。

 

コナジラミ農薬ローテーションに影響する周辺雑草と環境要因

これは検索上位の記事ではあまり深く触れられていない視点ですが、圃場の外(周辺環境)がローテーション防除の成功率を大きく左右します。どれだけ完璧なローテーションを組んでも、圃場の外から薬剤のかかっていないフレッシュな(あるいは近隣から逃げてきた)コナジラミが次々と侵入してくれば、防除効果は薄れてしまいます。

 

周辺雑草は「抵抗性リセット」の場所か、「供給源」か?
コナジラミは雑食性で、多くの雑草に寄生します。

 

  • カタバミ、ホトケノザ、イヌホオズキなど: これらはコナジラミの格好の避難場所(ホスト)になります。
  • 意外な事実: 野外の雑草で繁殖しているコナジラミは、施設内で薬剤漬けになった個体群に比べて、薬剤感受性が高い(薬に弱い)傾向があります。理論的には、野外の感受性個体がハウス内に入り込み、抵抗性個体と交配することで、抵抗性遺伝子が薄まる(希釈される)効果も期待できます。しかし、これはあくまで学術的な可能性であり、現場レベルでは「雑草は除去すべき発生源」と捉えるのが正解です。

周辺環境管理のポイント:

  1. ハウス周辺の除草:

    ハウスの際(キワ)1メートル幅だけでも除草シートやコンクリートで覆うことは非常に有効です。雑草があると、そこで増殖したコナジラミが歩行や飛翔で容易に侵入します。

     

  2. 黄色灯(防蛾灯)の影響:

    夜行性のヤガ類対策として黄色蛍光灯を導入している場合、コナジラミへの影響はどうでしょうか。コナジラミは昼行性ですが、特定波長の光を嫌う性質を利用した「光反射シート(シルバーマルチなど)」や「紫外線除去フィルム」の方が忌避効果は高いです。黄色粘着板は誘引捕殺に使われますが、照明としての黄色灯はコナジラミ防除の主役ではありません。

     

  3. 地域全体の作付体系:

    近隣で同じ作物を栽培している場合、地域全体でローテーションを意識しないと、隣の畑から抵抗性個体が飛んでくる「もらい事故」が起きます。地域の部会などで「今月はこの系統の使用は控えよう」といった申し合わせができるのが理想的な地域防除です。自分だけが頑張っても限界があるのが、移動性の高いコナジラミ防除の難しいところです。

     

  4. 寒冷期のサバイバル:

    コナジラミは寒さに弱いですが、施設内やハウス周辺の枯れ草の下などで越冬します。作が終わった後の「蒸し込み処理(ハウスを密閉して高温にする)」や、残渣の完全撤去・埋没処分は、翌シーズンの初期密度をゼロに近づけるための、農薬を使わない最強の防除手段です。これを怠ると、最初から抵抗性を持った越冬成虫との戦いになり、どんなローテーションも効きにくくなります。

     

ハウス周辺の雑草管理が害虫発生にどう影響するかを解説した技術資料です。

 

愛知県:害虫の発生源となる雑草対策

 

 


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