食品添加物は、現代の食生活において切り離せない存在であり、私たち農家が6次産業化などで加工食品を製造・販売する際にも深い関わりを持っています。
消費者は「食品添加物」という言葉に対して、「体に悪い」「危険性がある」といったネガティブなイメージを抱きがちです。しかし、食品の腐敗を防ぎ、食中毒から守るという重要なメリットも存在します。
農産物の生産者として、また加工食品の製造者として、食品添加物の正しい知識を持つことは、消費者の信頼を得るために不可欠です。
ここでは、食品添加物の種類や、消費者が避けたいと感じている添加物の一覧、そして農家が直面する表示のルールについて詳しく解説していきます。
食品衛生法において、食品添加物は大きく4つの種類に分類されています。これらはすべて、食品の製造過程で使用されたり、食品の加工や保存の目的で使用されたりするものです。
農家が自家製の漬物やジャムを加工して販売する場合、意図せずに使用している成分が「添加物」に該当することもあるため、基礎知識として以下の分類を理解しておく必要があります。
厚生労働省の公式サイトには、これらの定義と詳細なリストが掲載されています。
厚生労働省:食品添加物の定義と種類、規格基準について解説されています。
特に重要なのは、「天然だから安全」「合成だから危険」という単純な図式ではないということです。
既存添加物の中にも、後の調査で安全性の懸念から削除されたものがあります(例:アカネ色素)。逆に、指定添加物は厳しい毒性試験をクリアしているため、科学的な安全性は担保されていると言えます。
農家として加工品を作る際、「昔ながらの製法」であっても、使用する材料(例えば着色料を含む市販のタレなど)に添加物が含まれていれば、それは「添加物を使用した食品」となります。
これを「キャリーオーバー」と呼びますが、表示免除の規定など細かいルールがあるため注意が必要です。
消費者が特に気にしているのは、「発がん性」や「健康への悪影響」が疑われる特定の添加物です。
農家が加工食品を開発する際、これらの添加物を使用しない商品設計にすることで、競合商品との差別化を図ることができます。
一般的に「避けたい」とされ、検索されることが多い添加物と、それらが含まれやすい食べ物の一覧をまとめました。
| 添加物の種類 | 具体的な物質名 | 含まれやすい食べ物 | 消費者が懸念するリスク・理由 |
|---|---|---|---|
| 発色剤 | 亜硝酸ナトリウム | ハム、ソーセージ、ベーコン、明太子 | 肉の色を鮮やかにするが、アミンと結合して発がん性物質を生成する可能性が指摘されています。 |
| 合成着色料 | タール色素(赤色102号、黄色4号など) | 漬物(福神漬け、紅生姜)、菓子、清涼飲料水 | 石油由来の化学合成物質で、アレルギーや発がん性の疑い、子供の多動性への影響が懸念されています。 |
| 合成甘味料 | アスパルテーム、アセスルファムK | カロリーオフ飲料、ガム、ダイエット食品 | 砂糖の数百倍の甘みを持ちますが、脳への影響や味覚障害、腸内環境への影響を懸念する声があります。 |
| 防カビ剤 | OPP、TBZ、イマザリル | 輸入柑橘類(レモン、グレープフルーツ、オレンジ) | 収穫後に散布されるポストハーベスト農薬であり、発がん性や催奇形性が懸念されています。皮ごと使うジャムなどは注意が必要です。 |
| 保存料 | ソルビン酸、ソルビン酸K | かまぼこ、ちくわ、ワイン、コンビニ弁当 | 細菌の増殖を抑えますが、亜硝酸ナトリウムとの組み合わせによる複合的なリスクや、遺伝子への影響を懸念する声があります。 |
農家の視点で見ると、特に注意が必要なのは「漬物」や「ジャム」などの加工品です。
市販の漬物の素や、色を良くするための添加物が含まれた調味液を使用すると、知らぬ間に「タール色素」や「保存料」を含んだ商品になってしまうことがあります。
自分たちが育てた新鮮で安全な野菜を使っていても、加工段階でこれらの添加物を加えてしまえば、「危険性がある」と判断される商品を販売することになりかねません。
逆に言えば、これらの添加物を使用せずに、天然の素材(シソの色素や酢の保存効果など)を活用することは、消費者に対する強力なアピールポイントになります。
週刊誌やネット記事では「食べてはいけないランキング」などが人気ですが、これらは極端な摂取量を前提としている場合もあります。
しかし、消費者の心理としては「リスクはゼロにしたい」という思いが強いため、避けることができるなら避けたほうが、商品の付加価値は高まります。
ただし、完全に添加物を排除することで、賞味期限が極端に短くなったり、色がすぐに悪くなったりするデメリットも発生します。このバランスをどう取るかが、商品開発の鍵となります。
多くの農家が挑戦する「6次産業化」において、最も高いハードルの一つが食品表示法に基づくラベル表示です。
直売所や道の駅で販売される手作りの加工食品であっても、スーパーで売られている大手メーカーの商品と同じ法律が適用されます。
特に「食品添加物」の表示には厳しい規制があり、誤った表示は食品回収や行政指導の対象となり、農園の信用を一瞬で失うリスクがあります。
2020年(令和2年)4月から完全施行された新しい食品表示制度では、添加物の表示方法が大きく変更されました。
以前は原材料と添加物を混在させて記載することが一部認められていましたが、現在は「原材料」と「添加物」を明確に区分して表示することが義務付けられています。
具体的な表示方法のルール
原材料名:大根(国産)、漬け原材料(塩、砂糖、酢)/調味料(アミノ酸等)、酸味料
ソルビン酸K (物質名のみ)
保存料(ソルビン酸K) (用途名+物質名)
消費者庁のQ&Aでは、加工食品の表示について詳細なガイドラインが示されています。
消費者庁:食品表示法に基づく加工食品の表示ルールや添加物の区分表示について解説されています。
直売所特有の注意点
直売所で販売する場合、「対面販売」であれば表示を省略できるケースもありますが、パック詰めされた状態で陳列して販売する場合(予め包装された加工食品)は、表示の義務が発生します。
多くの農家が勘違いしやすいのが、「無添加」の表示です。
単に「無添加」とだけ書くことは、消費者に「何が無添加なのか(すべて?一部?)」という誤解を与える可能性があるため、食品表示基準のガイドラインで厳しく規制されつつあります。
「保存料無添加」や「着色料不使用」のように、具体的に何を使っていないのかを明記することが求められています。
また、加工を外部の業者(OEM)に委託する場合でも、販売者が自分(農家)の名前になる場合は、その表示責任は販売者にあります。委託先がどのような添加物を使っているか、仕様書(レシピ)を必ず確認し、全ての添加物を把握しておく必要があります。
「無添加」は消費者にとって魅力的なキーワードですが、農家が加工・販売を行う上では、無添加にこだわりすぎることの危険性(リスク)も理解しておかなければなりません。
食品添加物、特に「保存料」や「pH調整剤」は、食中毒菌の増殖を抑えるために使用されます。
これらを使わないということは、食品が腐りやすくなる、つまり消費者の手元に届く前に、あるいは開封後にすぐに食中毒菌が増殖するリスクが高まることを意味します。
特に注意が必要なのは、ボツリヌス菌などの嫌気性菌です。
「真空パックにすれば保存料はいらない」と考える農家さんもいますが、真空パック(酸素がない状態)は、ボツリヌス菌のような酸素を嫌う菌にとっては、むしろ増殖しやすい環境になり得ます。
ハムやソーセージなどの食肉加工品や、瓶詰めの加工品において、発色剤(亜硝酸ナトリウム)はボツリヌス菌の増殖を抑える効果も持っています。
これを「無添加」にする場合、徹底した加熱殺菌(レトルト殺菌など)や、要冷蔵・消費期限の短縮といった厳格な衛生管理がセットで必要になります。
無添加商品の販売における対策
農林水産省の資料では、食品の安全確保における添加物の役割や、無添加表示のガイドラインについて触れられています。
農林水産省:食品の安全性に関するリスクコミュニケーションや添加物の役割について記述があります。
「無添加だから良い」という単純なメリットだけでなく、「無添加だからこそ管理が難しい」という側面を理解し、それをクリアした上で「安全で美味しい」商品として販売することが、プロの農家としての責任です。
最後に、加工食品で頻繁に使用される主な食品添加物の一覧と、それぞれの用途について整理します。
農家が自分の商品に使用するかどうかを判断する際、あるいは競合商品をリサーチする際の参考にしてください。
これらの添加物は、食品衛生法で使用基準(使える食品や量の制限)が細かく定められています。
これらの添加物は、適切に使えば食品ロスを減らし、食中毒を防ぎ、価格を抑えるという大きなメリットがあります。
しかし、「農家直売」を求める消費者は、そうした工業的なメリットよりも、「不揃いでも安全」「日持ちしなくても新鮮」なものを求めている傾向があります。
ターゲットとなる顧客層が何を求めているのかを見極め、必要な添加物と避けるべき添加物を賢く選択していくことが、6次産業化の成功につながります。

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