耕種的防除と物理的防除で減農薬:輪作や太陽熱消毒の導入

農業の現場で役立つ耕種的防除と物理的防除の具体的な手法とは?輪作や太陽熱消毒、防虫ネットなどを組み合わせ、減農薬と持続可能な農業を実現するためのポイントを解説します。あなたの畑に最適な方法は?

耕種的防除と物理的防除の基礎

記事の概要:減農薬へのアプローチ
🔄
耕種的防除の基本

輪作や抵抗性品種の導入で、病害虫が発生しにくい環境を作る

☀️
物理的防除の活用

太陽熱消毒や防虫ネットで、物理的に病害虫を遮断・駆除する

🛡️
組み合わせの相乗効果

両者を組み合わせることで、環境負荷を下げつつ防除効果を最大化

耕種的防除の基本戦略:輪作と抵抗性品種の導入

 

耕種的防除とは、栽培管理や環境設定を通じて病害虫の発生を未然に防ぐ、農業における最も基礎的な防除法です。化学農薬に頼らず、作物の生育環境そのものを最適化することで、病原菌や害虫が増殖しにくい状況を作り出します。その代表的な手法が「輪作」です。同じ科の野菜を連作し続けると、土壌中の特定の病原菌密度が高まり、連作障害を引き起こします。例えば、アブラナ科の野菜(キャベツ、ブロッコリーなど)を続けて栽培すると根こぶ病のリスクが高まるため、イネ科やマメ科などの異なる科の作物を挟むことで、土壌中の菌密度を自然に低下させることが可能です。

 

参考)https://hesodim.or.jp/north/160/

また、「抵抗性品種」の導入も極めて有効な手段です。品種改良によって特定の病害に対する抵抗性を持たせた品種を選定することで、農薬散布の回数を減らしながら安定した収量を確保できます。さらに、「接ぎ木」技術を用いることも耕種的防除の一環です。土壌病害に強い台木を使用することで、地上部の品種特性を維持したまま、根からの病気侵入を防ぐことができます。これらの手法は、導入にコストがかかる場合もありますが、長期的な視点で見れば土壌環境の保全や薬剤コストの削減につながり、持続可能な農業経営に不可欠な要素となります。特に、近年注目されている「対抗植物(おとり作物)」の利用も興味深いです。例えば、センチュウ対策としてマリーゴールドやエンバクを栽培し、土壌中の有害センチュウ密度を低減させる方法は、環境保全型農業の切り札として期待されています。

 

参考)IPM(総合的病害虫)の進め方

参考:病害の発生を防ぐ耕種的防除法のまとめ(輪作や対抗植物について)

耕種的防除を支える物理的防除:太陽熱消毒と熱利用

耕種的防除の効果をさらに高めるために、物理的防除を組み合わせることが推奨されます。物理的防除とは、熱や光、物理的な障壁を利用して病害虫を直接的に制御する方法です。その中でも、夏場の高温期に利用される「太陽熱消毒」は、低コストで強力な効果を発揮します。この方法は、十分に灌水した土壌を透明なビニールフィルムで被覆し、太陽熱を利用して地温を上昇させ、土壌中の病原菌や雑草の種子を死滅させる技術です。特に、施設栽培や夏場の休耕期間において、地温を50℃以上に保つことで多くの病原菌を殺菌できます。

 

参考)https://hesodim.or.jp/north/110/

さらに、この太陽熱消毒を進化させた技術として「土壌還元消毒」があります。これは、フスマや米ぬかなどの有機物を土壌に混和してから水をたっぷりと入れ、ビニールで被覆する方法です。有機物が微生物によって分解される過程で土壌中の酸素が消費され、強い還元状態(酸欠状態)になります。この還元状態に加え、微生物が生成する有機酸や熱の相乗効果によって、酸素を必要とする多くの病原菌やセンチュウが死滅します。この方法は、通常の太陽熱消毒よりも地温が上がりやすく、天候への依存度が比較的低いというメリットがあります。失敗しないコツは、有機物を投入した後、田んぼのようにたっぷりと水を張り、隙間なくビニールで密閉することです。これにより、確実に還元状態を作り出すことができます。

 

参考)物理的防除法とは/茨城県

参考:失敗しない土壌還元消毒のメカニズムと手順

耕種的防除と併用したい物理的防除:防虫ネットと光反射シート

物理的防除には、害虫の侵入を物理的に阻止したり、害虫の行動習性を利用して忌避させたりする方法もあります。最も一般的なのは「防虫ネット」の使用です。作物をネットで覆うことで、ガ類や甲虫類などの飛来や産卵を直接防ぐことができます。ネットの目合い(網目の大きさ)を調整することで、対象とする害虫(アブラムシアザミウマなど微小害虫を含む)を選別して防除することが可能です。ただし、目合いが細かすぎると通気性が悪くなり、ハウス内の温度上昇を招く恐れがあるため、耕種的防除としての「環境管理」とのバランスを考慮する必要があります。

 

参考)防除について② ー物理的防除の具体的な方法ー - ゼロアグリ

また、害虫の視覚特性を利用した「光反射シート(シルバーマルチ)」や「近紫外線除去フィルム」も効果的です。多くのアブラムシ類は、空からの紫外線を背にして飛行姿勢を保つ習性があります。そのため、地面に光を反射するシルバーマルチを敷くと、下からの反射光によって上下の感覚が狂い、作物への飛来を忌避する効果が生まれます。さらに、赤色防虫ネットを使用することで、アザミウマなどの特定害虫が「赤色」を認識できない(暗闇に見える)という特性を利用し、ハウス内部への侵入を抑制する技術も実用化されています。

 

参考)紫外光照射と光反射シートによるイチゴに発生するうどんこ病及び…

これに加え、夜間にUV-B(紫外線)を照射する技術も開発されています。イチゴ栽培などでは、UV-B照射装置と光反射シートを組み合わせることで、葉の裏に隠れたハダニの卵の孵化を抑制したり、うどんこ病の発生を抑えたりする効果が確認されています。これらの物理的防除資材を導入することで、化学農薬の使用回数を大幅に削減できる可能性があります。

 

参考)https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/kakisigaisennwebmain.pdf

参考:紫外光照射と光反射シートによるイチゴの病害虫抑制効果

耕種的防除の盲点:圃場衛生と残渣処理の徹底

耕種的防除において、意外と見落とされがちですが極めて重要なのが「圃場衛生(フィールドサニテーション)」です。これは、病害虫の発生源を物理的に除去し、圃場内への持ち込みを防ぐという、耕種的防除と物理的防除の境界にある基本的な管理作業です。具体的には、発病した株や剪定した枝葉、収穫後の「残渣」を圃場内に放置せず、速やかに持ち出して適切に処分することが求められます。残渣には病原菌や害虫が越冬するための格好の隠れ家となるため、これを放置することは翌作への感染源を自ら温存しているのと同じです。

また、農業機械や長靴の洗浄も重要な防除策です。根こぶ病やフザリウム菌などの土壌伝染性病害は、トラクターのロータリーや作業者の長靴に付着した土を介して、汚染された圃場から健全な圃場へと拡大します。特に借地や作業受託などで複数の圃場を行き来する場合、移動のたびに泥を洗い落とし、必要であれば消毒を行うことが、地域全体での病害蔓延を防ぐ鍵となります。これは地味な作業ですが、一度汚染されると根絶が困難な土壌病害に対しては、最もコストパフォーマンスの高い予防策と言えるでしょう。

 

参考)https://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/hesodim/hesodim.pdf

参考:健康診断に基づく土壌病害管理と農機具洗浄の重要性

耕種的防除視点の土壌管理:pH調整と排水対策

最後に、土壌の化学性や物理性を改善することも、広義の耕種的防除に含まれます。特に「土壌pHの調整」は、特定の土壌病害を抑制するための強力な武器になります。病原菌にはそれぞれ増殖に適したpH範囲が存在します。例えば、アブラナ科野菜に壊滅的な被害を与える「根こぶ病」は、酸性土壌を好む傾向があります。そのため、石灰質資材(転炉スラグなど)を施用して土壌pHを7.5付近のアルカリ側に矯正することで、発病を劇的に抑制できることが知られています。

逆に、ジャガイモの表面にかさぶた状の病斑を作る「そうか病」は、アルカリ性土壌で発生しやすく、pHを5.0~5.2程度の酸性側に維持することで被害を軽減できます。このように、栽培する作物と対象となる病害の特性に合わせて土壌pHをコントロールすることは、農薬を使わない「耕種的防除」の高度なテクニックの一つです。

 

参考)イトウさんのちょっとためになる農業情報 第13回『耕種的防除…

また、物理的な環境改善として「排水対策」も欠かせません。疫病やピシウム菌による立枯病など、多くの土壌病害は過湿条件で多発します。高畝(たかうね)にしたり、明渠(めいきょ)や暗渠を施工して水はけを良くしたりすることは、病原菌の遊走子が水中を移動して感染を広げるのを防ぐ物理的なバリアとなります。耕種的防除と物理的防除は明確に切り離せるものではなく、これらを総合的に組み合わせることで、初めて減農薬かつ高品質な農産物生産が可能になるのです。

参考:転炉スラグを用いたpH矯正による土壌病害の被害軽減

 

 


みのる 管理作業機 耕耘幅15cm ミニもぐ 中耕除草機 ミニカルチ EU-52S 24.5cc