うどんこ病の薬剤といちごの防除体系と効果的な散布の選び方

いちごのうどんこ病対策にお困りではありませんか?薬剤の効果的なローテーションやFRACコードの活用法、収穫前日でも使える農薬、そして意外な湿度の関係まで、プロが実践する防除体系を徹底解説します。

うどんこ病の薬剤といちご

うどんこ病の薬剤といちご

いちごうどんこ病防除の要点
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FRACコードでローテーション

同一系統の連用を避け、耐性菌の出現を防ぐ体系防除が必須。

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湿度のパラドックス

乾燥で飛散し、高湿度で発芽する。水滴には弱いという意外な弱点も。

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収穫期の薬剤選択

収穫前日まで使用可能な薬剤や、気門封鎖剤などを活用して残留リスク低減。

うどんこ病の薬剤の選び方とFRACコード

 

いちご栽培において、うどんこ病(Sphaerotheca aphanis)は最も厄介な病害の一つです。その最大の理由は、病原菌が薬剤に対して「耐性」を持ちやすいという点にあります。ただ漫然と「効く」と言われる農薬を散布しているだけでは、数年後には全く効果がなくなってしまうリスクがあります。ここで重要になるのが、FRACコード(フラックコード)を意識した薬剤選びとローテーション防除です。

 

FRACコードとは、殺菌剤をその作用機作(菌のどこに効くか)によって分類した番号のことです。商品名が違っても、このコードが同じであれば、菌に対する攻撃パターンは同じです。

 

  • EBI剤(コード3/G1など): ステロール生合成阻害剤。治療効果が高いが、耐性菌が出現しやすい。
  • ストロビルリン系(コード11/C3): ミトコンドリアの呼吸阻害。予防効果に優れ、残効も長いが、耐性リスクが極めて高い。
    • 代表薬剤:アミスター20フロアブル
  • SDHI剤(コード7/C2): 呼吸阻害。近年主力となっている系統だが、連用による効果低下が懸念されている。
    • 代表薬剤:アフェットフロアブル、パレード20フロアブル、ケンジャフロアブル
  • 多作用点阻害剤(コードM): 複数の作用点を攻撃するため耐性がつきにくい。ローテーションの軸にする。
    • 代表薬剤:カリグリーン(重曹)、硫黄剤(クムラスなど)、有機銅剤

    効果的な選び方の鉄則は、「作用点の異なる薬剤(異なるFRACコード)を交互に使う」ことです。特に、治療効果の高いEBI剤やSDHI剤は「切り札」として温存し、予防効果主体の多作用点剤をベースに組み立てるのがプロの防除体系です。例えば、「SDHI剤(7)」を使ったら、次は必ず「重曹(NC)」や「気門封鎖剤」を挟み、その後に「EBI剤(3)」を持ってくる、といった具合に、菌に学習させない戦略が必要です。

     

    FRACコード表の最新情報と詳細な分類についてはこちら(農薬工業会)

    うどんこ病の予防と育苗期からの体系防除

    うどんこ病の対策において、「本圃(定植後のハウス)で見つけてから対処する」というのは、実は手遅れに近い状態です。プロのいちご農家が口を揃えて言うのは、「苗の段階で決まる」ということです。うどんこ病の菌は、親株からランナーを通じて子苗へと伝染し、クラウン(株元)の隙間などで潜伏して越冬します。これを「持ち込み」と言います。

     

    育苗期の防除体系は、以下のポイントを重視して構築します。

     

    1. 採苗期の徹底防除:

      親株が保菌していると、全ての子苗が汚染されます。ランナーが出る春先の段階で、浸透移行性のある薬剤(モレスタン水和剤など)を使用し、菌密度を極限まで下げておきます。

       

    2. 定期的な予防散布:

      育苗期間中は、雨除け栽培をしていても風に乗って胞子が飛来します。10日〜2週間おきの定期散布が欠かせません。この時期に、耐性リスクの低い「硫黄剤」や「物理的防除剤(粘着くんなど)」を組み込みます。

       

    3. 定植直前のドブ漬け(灌注):

      本圃への持ち込みを断つ最終関門です。定植直前の苗を、薬液にドブ漬けするか、十分量を株元へ灌注処理します。ここでは、根から吸収されて長く効く浸透移行性の高い薬剤(ベリマークなど、殺虫剤との混用も考慮)を選択し、定植後2〜3週間の無防除期間を作れるようにします。

       

    特に注意が必要なのは、「潜在感染」です。目に見える白い粉(菌糸と胞子)が出ていなくても、葉の内部にはすでに菌糸が侵入していることがあります。目視確認だけに頼らず、カレンダーに沿った予防的な体系防除を行うことが、結果として薬剤散布回数を減らし、良質ないちごを生産する近道となります。

     

    奈良県公式:イチゴの病害防除における育苗期の重要性と基本対策

    うどんこ病の薬剤と収穫前日の使用基準

    いちごはいったん収穫が始まると、毎日のように果実に触れることになります。消費者も「洗わずに食べる」ことが多い果物であるため、残留農薬や安全性への配慮は他の作物以上に重要です。ここで活躍するのが、「収穫前日まで使用可能」な薬剤や、JAS法に基づく有機栽培でも使用可能な農薬です。

     

    収穫期に入ってからうどんこ病が発生してしまった場合、強い化学合成農薬は使用制限(収穫何日前まで、という日数制限)の関係で使いづらくなります。この時期の薬剤選びのポイントは以下の通りです。

     

    • カリグリーン(炭酸水素カリウム):

      成分は食品添加物やふくらし粉としても使われる重曹に近い物質です。収穫前日まで使用可能で、回数制限もありません。うどんこ病菌の細胞膜を破壊する治療効果がありますが、残効性(効果の持続性)はほとんどないため、発生初期にスポットで叩くのに適しています。また、アルカリ性を示すため、他の薬剤との混用には注意が必要です。

       

    • ハーモメイト水和剤(炭酸水素ナトリウム):

      こちらも重曹が主成分。食品由来のため安全性が高く、収穫前日まで使用可能です。

       

    • 物理的防除剤(気門封鎖剤):

      サンクリスタル乳剤や粘着くん液剤など、デンプンや油膜で菌(や害虫)を包み込んで窒息させるタイプの薬剤です。化学的な毒性ではないため、耐性菌がつかず、収穫前日まで使えるものが多いです。ただし、展着剤の加用が不要であったり、高温時の薬害リスクがあったりするため、使用上の注意をよく読む必要があります。

       

    • 微生物農薬(ボトキラーなど):

      納豆菌の仲間(バチルス菌)を利用して、病原菌の住処を先に奪ってしまう拮抗作用を利用します。これらは予防的に使うものであり、発病してからの治療効果は期待できませんが、化学農薬の使用回数にカウントされないメリットがあります。

       

    収穫期は、「うどんこ病を出さない環境作り」と「安全性の高い薬剤でのスポット処理」の組み合わせが基本となります。果実に薬剤の溶け残り(汚れ)が付着すると商品価値が下がるため、散布後は速やかに乾くような環境制御もセットで行う必要があります。

     

    いちごうどんこ病のおすすめ農薬一覧と有機栽培対応剤(いちごテック)

    うどんこ病の発生生態と湿度の意外な関係

    うどんこ病の対策をする上で、多くの生産者が誤解しやすいのが「湿度」との関係です。一般的にカビ(糸状菌)は、ジメジメした高湿度を好むイメージがあります。しかし、いちごのうどんこ病菌は少し特殊な性質を持っています。

     

    1. 乾燥状態で「飛ぶ」:

      うどんこ病の胞子は、空気が乾燥している時(湿度が低い時)に成熟し、風に乗ってハウス内を飛散します。つまり、換気を強めて乾燥させすぎると、かえって感染を広げてしまうリスクがあるのです。

       

    2. 高湿度で「発芽する」:

      葉に付着した胞子は、夜間の高湿度条件(湿度90%以上など)で発芽し、植物体に侵入します。

       

    3. 水滴には「弱い」:

      ここが最も意外で重要な点ですが、うどんこ病の胞子は「水に濡れると死滅しやすい」という弱点を持っています。他の多くの病原菌(炭疽病灰色かび病)が水滴の中で発芽して感染するのに対し、うどんこ病菌は水に浸かると吸水して破裂してしまうのです。

       

    この生態を利用した防除法として、一部の農家では「葉水(はみず)」や「頭上散水」を行うことがありますが、これは諸刃の剣です。うどんこ病には効いても、濡れた状態が続くと今度は灰色かび病や炭疽病が大発生するからです。

     

    したがって、環境制御における正解は、「極端な乾燥を避けて胞子の飛散を防ぎつつ、夜間は暖房機や循環扇を活用して湿度を下げ、結露を防ぐ」という非常に繊細な管理になります。具体的には、相対湿度を常に60〜80%程度の範囲にコントロールすることが理想的です。また、近年注目されているUV-B(紫外線B波)照射装置は、うどんこ病菌のDNAを損傷させて発病を抑制する技術ですが、これも夜間の照射によって効果を発揮します。薬剤だけに頼らない「環境による防除」の視点を持つことが、減農薬への第一歩です。

     

    茨城県病害虫防除所:うどんこ病の生態と湿度条件に関する詳細データ

    うどんこ病の薬剤の効果を高める展着剤と散布

    どんなに高価で効果の高い薬剤を選んでも、散布方法が間違っていれば効果は半減以下になります。特にいちごのうどんこ病は、「葉の裏」に発生しやすいという特徴があります。いちごの葉は地面近くに展開し、裏側は少し凹凸があって毛羽立っているため、通常の上からの散布では薬剤が全く届いていないことが多々あります。

     

    効果を最大化するための散布テクニックには、以下の3つのポイントがあります。

     

    1. ノズルの選択と角度:

      霧の粒子が細かいノズルを選び、下から上へ向かって噴霧できるようにノズルの角度を調整します。いちご専用の「2頭口ノズル」や「静電噴口(帯電させて裏面に回り込ませる)」を使用すると、付着率が劇的に向上します。

       

    2. 機能性展着剤の活用:

      単に「くっつける」だけでなく、薬剤の浸透を助けたり、広がりを良くしたりする「機能性展着剤」を必ず加用しましょう。

       

      • アプローチBIなど: 薬剤を葉の内部へ浸透させる力(浸達性)を高めます。治療剤の効果を底上げしたい時に有効です。
      • スカッシュなど: 蝋(ワックス)層を溶かして付着させるタイプ。うどんこ病菌は白い粉(菌糸)で水を弾く性質があるため、このバリアを突破するのに役立ちます。ただし、イチゴの果実にかかると「ブルーム落ち(テカリ)」の原因になることがあるため、収穫期は使用量に注意が必要です。
    3. 散布水量と圧力:

      「10アールあたり100リットル」という基準はあくまで目安です。葉が繁茂している最盛期には、それでは足りないことが多いです。葉の裏から薬液がしたたり落ちる程度まで、十分な水量を確保してください。ただし、圧力が高すぎると葉を傷つけたり、かえって付着が悪くなったりすることもあるため、適正圧力を守ることが大切です。

       

    「効かない」と感じたら、薬剤を変える前に、まずは「かかっていないのではないか?」と疑ってみてください。感水紙(水に濡れると色が変わる紙)を葉の裏に設置して散布テストを行い、自分の散布技術を可視化してみるのもおすすめです。

     

    展着剤の選び方と葉裏への散布技術についての解説(Rビスコ)

     

     


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