循環扇でハウスの効果的な配置と選び方や設置対策

ハウス栽培の収量増加や病気予防に不可欠な循環扇。効果を最大化する配置の正解や、失敗しない選び方、意外な設置の落とし穴を知りたくありませんか?

循環扇とハウス

循環扇とハウス

循環扇導入のポイント
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空気のよどみを解消

温度ムラをなくし、光合成を促進する環境を作ります。

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計算された配置

ただ回すだけでなく、ハウス全体に風の道を作ることが重要です。

🛡️
病害リスクの低減

過湿を防ぎ、薬剤散布の回数を減らす経済的メリットもあります。

循環扇でハウスの環境制御と光合成促進の効果

 

農業用ハウスにおける循環扇の役割は、単に「涼しくする」ことではありません。その本質は、閉鎖空間における「微気象の均一化」と「植物生理の活性化」にあります。多くの生産者が導入を検討する際、まず温度対策を思い浮かべますが、実際にはそれ以上の複合的な効果が期待できる設備です。

 

まず、最も基礎的かつ重要な効果として「温度ムラ(温度勾配)の解消」が挙げられます。温室内の空気は、物理法則に従い、温かい空気は上部へ、冷たい空気は下部へと滞留します。暖房機を使用する冬場であれば、天井付近ばかりが暖かく、作物の株元は冷え込むという現象が顕著になります。循環扇によって強制的に対流を起こすことで、この上下の温度差を是正し、暖房効率を劇的に向上させることが可能です。これは燃料費の削減に直結する重要な要素です。

 

次に注目すべきは「光合成の促進」です。植物が光合成を行う際、葉の表面には「葉面境界層」と呼ばれる薄い空気の膜が形成されます。風が全くない状態では、この境界層が厚くなり、葉への二酸化炭素(CO2)の供給が阻害されてしまいます。循環扇によって適度な風(微風)を葉に当てることで、この境界層を破壊し、新鮮なCO2を気孔へと送り届けることができます。

 

🍃 葉面境界層と風速の関係
一般的に、作物の群落内において0.3m/s〜0.5m/s程度の風速が確保できれば、光合成速度は最大化されると言われています。これ以上の強風は逆に気孔を閉じさせる原因となりますが、循環扇による適度な空気の揺らぎは、植物の生長スピードを明らかに早める効果があります。

 

さらに、病害予防の観点からも極めて有効です。特にイチゴやトマトなどの果菜類で問題となる「灰色かび病」や「うどんこ病」は、高湿度かつ空気が停滞する場所で多発します。循環扇を稼働させることで、葉や果実の表面についた結露を素早く乾燥させることができます。植物体が濡れている時間を物理的に減らすことは、菌の侵入を防ぐ最も確実な物理的防除手段の一つとなります。

 

農研機構(NARO)による技術指導資料では、施設園芸における環境制御技術として、空気循環の重要性が科学的データと共に解説されています。

 

農研機構:施設園芸における省エネ・生産性向上のための環境制御技術
また、夏場の高温対策としても機能します。天窓や側窓を開放している際、循環扇が外気を積極的に取り込んだり、内部の熱気を排出する手助けをしたりすることで、ハウス内温度を外気温に近づけることができます。これにより、高温障害による花飛びや品質低下を抑制する効果が期待できます。

 

循環扇をハウスに設置する際の最適な配置と台数

循環扇の性能を100%引き出すためには、「どこに」「いくつ」「どのように」設置するかが最大の鍵となります。高価なファンを導入しても、配置が間違っていれば、風が到達しない「死角(デッドスポット)」が生まれ、そこから病気が蔓延することさえあります。

 

基本となる配置パターンは、ハウスの形状や長さによって異なりますが、大きく分けて「直列配置」と「千鳥配置(または循環配置)」の2つがあります。

 

📐 主な配置パターン

  • 直列配置

    ハウスの妻面から反対側の妻面に向かって、一直線に風を送る方式です。細長いハウスで採用されやすく、空気の流れが単純で分かりやすいのが特徴です。ただし、距離が長い場合、途中で風速が落ちるため、リレー形式で風を繋ぐ必要があります。

     

  • 千鳥配置(循環配置)

    ハウス内で大きな水平方向の旋回流(渦)を作るように配置する方式です。右側の列は奥へ、左側の列は手前へといった具合に風を回します。ハウス全体の空気を一体化させて混ぜ合わせる能力に優れており、温度ムラの解消には特に効果的です。

     

設置台数の目安は、一般的に「ハウスの容積」と「循環扇の風量」から計算されます。理想的には、ハウス内の全空気が1時間に何回入れ替わるか(回転数)を基準にします。目安として、ハウス内の空気を1時間に10回〜15回程度循環できる風量の合計が推奨されています。簡易的な計算としては、100坪(約330平米)の単棟ハウスであれば、送風距離15mクラスの循環扇を4台〜6台設置するのが標準的です。

 

設置する高さも重要なファクターです。作物の成長点付近に風を当てたい場合は、やや低めの位置に設置する必要がありますが、作業の邪魔になるリスクがあります。一方、暖房効率を優先して天井付近の熱気を下ろしたい場合は、高い位置から斜め下に向けて吹き下ろすような角度設定が求められます。最近では、作物の生長に合わせて高さを調整できる吊り下げ式の設置方法も人気があります。

 

⚠️ ショートサーキットの防止
最も避けなければならないのが「ショートサーキット」です。これは、吹き出した風が障害物に当たってすぐ近くで跳ね返ったり、吸い込み口と吹き出し口が近すぎて同じ空気ばかりを空回りさせてしまう現象です。特に連棟ハウスの場合、谷樋の下などは風が通りにくいため、スモークテスター(発煙管)などを使って、実際に空気がどのように流れているかを可視化して確認することを強くお勧めします。

 

ネポン株式会社などの施設園芸機器メーカーのサイトでは、具体的な製品の到達距離や、ハウス形状ごとの推奨配置図が掲載されており、導入計画の参考になります。

 

ネポン株式会社:施設園芸用ファン(配置例や製品仕様の確認に有用)
風の「リレー」を意識することも大切です。1台のファンの風が届く限界距離の少し手前に次のファンを設置することで、風速を落とすことなく空気を運び続けることができます。例えば、有効到達距離が20mのファンであれば、15m〜18m間隔で設置するのが理想的です。

 

循環扇のハウス用機種の選び方と耐久性の重要性

循環扇と一口に言っても、ホームセンターで売られている家庭用扇風機や工場用扇風機をそのまま流用するのはお勧めできません。農業用ハウスという過酷な環境に耐えうる専用設計のモデルを選ぶ必要があります。

 

選定における最大のポイントは「耐環境性能」です。ハウス内は高温多湿であり、農薬散布も頻繁に行われます。特に硫黄燻蒸や硫黄系の薬剤を使用する場合、一般的な金属部品はあっという間に錆びて腐食してしまいます。農業用循環扇は、モーター内部が密閉された全閉型構造になっていたり、ファンガードやボディがステンレス製や樹脂製で作られていたりと、高い防塵・防水・耐食性能を持っています。

 

🔍 選び方のチェックリスト

  • モーターの種類(ACモーター vs EC/DCモーター)

    従来のACモーターは安価ですが、消費電力が比較的高めです。最新のECモーター(ブラシレスDCモーター)搭載機は、価格は高いものの消費電力が半分以下になることもあり、通年稼働させる場合はランニングコストで元が取れることが多いです。また、ECモーターは風量の微調整(調光のような制御)が容易な点もメリットです。

     

  • 静音性

    住宅地に近いハウスや、観光農園などで来客がある場合は、動作音も重要な選定基準になります。プロペラの形状によって風切り音が大きく異なります。最近は、大風量でも音が静かな「ベルマウス形状」や特殊な羽根形状を採用したモデルが増えています。

     

  • 安全性

    万が一の落下事故を防ぐための安全ワイヤーが標準装備されているか、あるいは取り付け可能かを確認してください。頭上に吊り下げる重量物であるため、地震や経年劣化による落下の対策は必須です。

     

また、「指向性」も考慮すべき点です。遠くまで風を飛ばすことに特化した「ジェットファン」タイプと、広い範囲に柔らかい風を送る「拡散ファン」タイプがあります。ハウスの長さが50mを超えるようなロングハウスでは、直進性の強いタイプを選ばないと、中央付近で空気が淀んでしまいます。逆に、幅広のハウスや作物の密度が高い場合は、拡散タイプの方が優しく空気を混ぜることができます。

 

フルタ電機株式会社は、農業用換気扇や循環扇のパイオニアであり、多様なラインナップを展開しています。機種ごとの特性や耐用年数についての情報は非常に信頼性が高いです。

 

フルタ電機:農業用製品一覧(機種選定や仕様比較に役立つ情報)
メンテナンス性も見逃せません。循環扇の羽やガードには、驚くほど埃や塵が付着します。これらが蓄積すると、風量が30%以上低下することもあります。ガードが簡単に取り外せて掃除がしやすい構造かどうかも、長く使い続ける上では重要な「選び方」の要素となります。

 

循環扇でハウスの飽差コントロールと病害の対策

ここでは、単に「風を回す」という視点から一歩進んで、「飽差(HD: Humidity Deficit)」のコントロールという専門的な視点から循環扇の活用法を解説します。これは検索上位の一般的な記事ではあまり深く掘り下げられていない、栽培のプロが意識すべき領域です。

 

飽差とは、あとどれくらい空気に水分を含むことができるかを示す指標で、植物の蒸散活動に直接影響します。飽差が低すぎる(湿度が高すぎる)と、植物は蒸散ができず、根から水や養分を吸い上げることができなくなります。逆に飽差が高すぎる(乾燥しすぎている)と、気孔を閉じてしまい、やはり光合成が止まります。

 

ハウス栽培において、循環扇は局所的な「高湿度溜まり」を解消するための最強のツールです。特に夜間や早朝、葉の周辺湿度は100%近くになり、飽差はほぼゼロになります。この状態が続くと、植物体内の水流が停滞し、チップバーン(カルシウム欠乏による葉先枯れ)などの生理障害が発生しやすくなります。循環扇で空気を動かし続けることで、葉の周辺の飽差を適正範囲(一般的に3〜6g/m³程度)に保つ補助ができ、健全な蒸散を促すことができます。

 

🚫 循環扇使用における「風焼け」という盲点
しかし、ここで注意すべき意外な盲点があります。それが「風焼け」です。循環扇の風を直接、至近距離で作物の成長点に当て続けると、その部分だけ過剰に蒸散が進み、水分の供給が追いつかずに葉が萎れたり、縁が枯れたりする現象が起きます。

 

特に定植直後の苗や、葉が柔らかい品種ではダメージが顕著です。これを防ぐための対策として、以下の工夫が必要です。

 

  • 間欠運転の活用

    24時間回しっぱなしにするのではなく、タイマー制御で「10分稼働・5分停止」のようなサイクル運転を行う。

     

  • インバーター制御

    作物が小さい時期は回転数を落として微風にし、繁茂してきたら風量を上げる。

     

  • 吹き出し角度の調整

    作物に直接当てるのではなく、ハウスの妻面や天井に当てて、跳ね返った柔らかい風(二次気流)を作物に届ける「間接送風」を意識する。

     

また、病害対策としては、硫黄燻蒸器と循環扇の併用が効果的です。うどんこ病対策として硫黄を焚く際、循環扇を併用することで、硫黄の粒子をハウスの隅々まで行き渡らせることができます。ただし、前述の通り、循環扇自体が耐硫黄仕様でないとすぐに故障するため注意が必要です。

 

環境制御機器メーカーであるウシオ電機(Agriware)などの情報は、植物生理に基づいた環境制御の知識を深めるのに役立ちます。

 

ウシオ電機 Agriware:植物工場・施設園芸向けソリューション(環境制御と植物生理の関係について詳しい)
最終的に、循環扇は「導入して終わり」ではなく、作物の反応を見ながら「風をデザインし続ける」ことが求められます。スモークマシンがない場合でも、線香の煙や、軽いテープを吊るして風の動きを目視確認するアナログな点検を定期的に行うことが、失敗しない運用のコツです。

 

 


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