生理障害植物の症状と原因と対策は?要素の欠乏や過剰の診断

大切に育てた作物の葉が変色したり生育が悪かったりしませんか?それは病気ではなく環境や栄養バランスの乱れかもしれません。正しい見極めとリカバリー方法を知りたくありませんか?

生理障害と植物

生理障害植物の症状と原因と対策は?要素の欠乏や過剰の診断
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葉のサインを見逃さない

変色の位置やパターンから、不足している栄養素や環境ストレスを読み解く診断技術を解説します。

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栄養バランスの拮抗作用

肥料は多ければ良いわけではありません。特定の要素が過剰になると他の要素の吸収を阻害するメカニズムを学びます。

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見落としがちな環境要因

土壌酸度(pH)や温度、湿度がいかに植物の養分吸収能力に影響を与えるか、根本的な解決策を探ります。

植物の生理障害における主な症状と診断のポイント

 

植物が不調を訴えるとき、それが「病害虫」によるものなのか、それとも「生理障害」によるものなのかを見極めることは、農業の現場において最も重要な初期対応の一つです。生理障害とは、病原菌やウイルス、害虫が原因ではなく、栄養素の過不足や温度、光、水などの環境要因によって植物の代謝が正常に行われなくなる状態を指します。これを病気と勘違いして薬剤を散布しても効果がないばかりか、かえって植物にストレスを与えてしまうことがあります。

 

診断の最初のステップは、症状の出方を観察することです。一般的に、生理障害には以下のような特徴的なパターンが見られます。

 

  • 症状の対称性: 生理障害の多くは、畑全体や株全体、あるいは葉の左右に対して対称的に症状が現れる傾向があります。これに対し、病気や害虫害はスポット的(局所的)に発生し、不規則な広がり方を見せることが多いです。
  • 発生部位の特定: 症状が「新しい葉(上位葉)」に出ているか、「古い葉(下位葉)」に出ているかは、原因となっている栄養素を特定する決定的な手がかりになります。植物体内を移動しやすい栄養素(窒素、リン、カリウム、マグネシウムなど)が不足すると、植物は古い葉から栄養を回収して新しい葉に送るため、下位葉に症状が出ます。逆に、移動しにくい栄養素(カルシウム、鉄、ホウ素など)が不足すると、成長点である新芽や新しい葉に障害が現れます。
  • 土壌環境との相関: 特定の場所(水はけの悪い場所や、元肥が多く入った場所など)で集中的に発生している場合、土壌物理性や化学性が原因である可能性が高まります。

あまり知られていない意外な事実として、「潜在的欠乏(ヒドゥンハンガー)」という状態があります。これは、目に見える症状(可視的な障害)が現れるずっと前から、植物体内では栄養不足による代謝異常が起きており、収量や品質が低下し始めている現象です。葉の色が変わってから対処するのではなく、定期的な土壌診断や葉柄汁液分析を行うことが、プロの栽培管理では求められます。

 

農林水産省のウェブサイトでは、主要な野菜の生理障害に関する画像付きのデータベースが公開されており、現場での診断に非常に役立ちます。

 

農林水産省:病害虫・生理障害情報(野菜ごとの詳細な画像診断ガイド)

植物の生理障害を引き起こす要素の欠乏と過剰のメカニズム

植物の生育に不可欠な多量要素(窒素、リン酸、カリウム)と、中量・微量要素(カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、ホウ素など)は、それぞれのバランスが崩れることで特有の生理障害を引き起こします。ここでは、単なる不足だけでなく、現代農業で問題になりやすい「過剰」による弊害と、要素間の「拮抗作用」について深掘りします。

 

要素 欠乏時の症状 過剰時の症状・影響
窒素 (N) 植物全体が小さくなり、古い葉から黄色く変色(黄化)します。生育が停滞し、収量が激減します。 葉色が濃すぎる緑になり、葉が過繁茂します。細胞壁が薄くなり、病害虫に対する抵抗力が低下します。また、カルシウムの吸収を阻害することがあります。
リン酸 (P) 葉が暗緑色になり、古い葉が紫色(アントシアン色素)を帯びることがあります。根の伸長が悪くなります。 直接的な過剰障害は出にくいですが、亜鉛や鉄、マグネシウムなどの微量要素の吸収を阻害し、それらの欠乏症を誘発します。
カリウム (K) 古い葉の縁が黄色くなり、やがて枯れ込みます(葉縁枯れ)。果実の肥大が悪くなります。 マグネシウム(苦土)やカルシウム(石灰)の吸収を強力に阻害します(拮抗作用)。カリ過剰はトマトの尻腐れ症の間接的な原因になります。
カルシウム (Ca) 新芽や成長点が枯死したり、果実の先端が黒く腐る(トマトの尻腐れなど)症状が出ます。 土壌がアルカリ化し、鉄やマンガン、ホウ素などの微量要素が不溶化して吸収できなくなります。
マグネシウム (Mg) 古い葉の葉脈間が黄色くなりますが、葉脈の緑色は残ります(虎狩り症状)。光合成能力が低下します。 カルシウムやカリウムの吸収バランスを崩しますが、単独での過剰害は比較的少ないです。

特に注意が必要なのは、上記の表にもある「拮抗作用(アンタゴニズム)」です。例えば、トマト栽培で「尻腐れ果」が出た場合、単純にカルシウム不足だと判断して石灰を追肥することがあります。しかし、土壌分析をしてみるとカルシウムは十分に存在しているにもかかわらず、カリウムやアンモニア態窒素が過剰に含まれているために、根がカルシウムを吸収できていないケースが非常に多いのです。この場合、石灰を足すことは無意味であり、むしろ土壌バランスをさらに悪化させる原因になります。

 

また、微量要素の欠乏は、土壌中にその成分がないことよりも、土壌pH(酸度)が不適切であるために起こることが大半です。例えば、pHが高く(アルカリ性に)なりすぎると、鉄、マンガン、亜鉛は土壌中で水に溶けない形に変化してしまい、根から吸収できなくなります。逆にpHが低すぎる(酸性)と、アルミニウムが溶け出して根を傷めたり、モリブデンが吸収できなくなったりします。

 

高知県農業技術センターが提供している情報は、施設園芸における生理障害の対策として非常に具体的で権威があります。

 

高知県農業技術センター:施設野菜の生理障害対策マニュアル(土壌肥料と環境制御の視点)

植物の生理障害と環境ストレスおよび対策の関連性

生理障害は、土壌中の栄養素の問題だけでなく、温度、湿度、光線量などの「環境ストレス」によっても頻繁に引き起こされます。特に近年は異常気象による高温や日照不足が頻発しており、環境制御の失敗が生理障害の主因となっているケースが増えています。

 

具体的な環境ストレス要因とその対策は以下の通りです。

 

  • 温度ストレス(高温・低温):
    植物にはそれぞれ生育適温があり、それを外れると代謝異常が起きます。


    【高温障害】:呼吸による消耗が光合成による生産を上回り、植物が徒長したり、花粉の稔性(受粉能力)が低下して着果不良(落花)を起こしたりします。トマトやナスでは、35℃を超えると着色不良果が発生しやすくなります。

    【低温障害】:リン酸やマグネシウムの吸収が著しく抑制されます。低温下で葉が紫色になるのは、リン酸欠乏のサインであることが多いです。

    【対策】遮光ネットの使用、循環扇による空調管理、地温の確保(マルチング)、またはバイオスティミュラント(生物刺激資材)の活用による耐性強化が有効です。
  • 水分ストレスと蒸散流:
    カルシウムやホウ素などの移動しにくい要素は、植物が葉から水分を蒸散させる際の「水流(蒸散流)」に乗って運ばれます。したがって、土壌中にカルシウムがあっても、湿度が高すぎて蒸散が抑制されたり、逆に乾燥しすぎて根が水を吸えなかったりすると、先端部分への供給がストップし、欠乏症が発生します。


    【対策】:適切な潅水管理はもちろんですが、施設栽培では「飽差(ほうさ)」の管理が重要です。空気が湿りすぎていても乾きすぎていても養分吸収は阻害されるため、適切な湿度環境を維持することが、実は最良の肥料対策になります。
  • 光線不足:
    日照不足は光合成産物(糖)の不足を招き、根の活力を低下させます。根が弱ると、吸水能力とともに養分吸収能力(特にカリウムやケイ酸など)が落ち、生理障害を誘発します。

意外な情報として、「曇天続きの後の急な晴天」が最も危険であるという事実があります。曇天に慣れて軟弱化した組織に、急激な強い光と高温が当たると、葉焼けや萎れ(ウィルティング)が一気に発生します。これを防ぐには、天候回復時にあえて一時的に遮光するなど、環境変化のショックを和らげる「馴化(じゅんか)」のプロセスが必要です。

 

植物の生理障害を予防する根圏微生物と根の健全化

※このセクションでは、検索上位の記事ではあまり触れられていない、土壌生物学的な視点からの独自のアプローチを紹介します。

 

これまでの生理障害対策は、肥料成分の化学的な調整(バランス)に主眼が置かれてきました。しかし、最新の農業研究では、植物の根と共生する「根圏微生物」の働きが、生理障害の予防に決定的な役割を果たしていることが明らかになってきています。

 

植物の根は、単に養分を吸うだけのストローではありません。根からは「根酸」や「糖類」などの有機物が分泌されており、これが特定の微生物(根圏微生物)を引き寄せ、活性化させます。健全な根圏環境は、以下のようなメカニズムで生理障害を防ぎます。

 

  • 養分の可溶化(キレート化): 土壌中に固定化されて吸収できないリン酸や微量要素を、微生物(菌根菌やリン溶解菌など)が酵素を出して分解し、植物が吸収できる形に変えてくれます。これにより、肥料を増施しなくても欠乏症が改善されることがあります。
  • 根の保護とストレス耐性: 有用な微生物が根の表面を覆うことで、病原菌の侵入を防ぐだけでなく、乾燥や塩類濃度障害(肥料過多による根痛み)に対する耐性を高めます。トリコデルマ菌などの一部の菌は、植物の免疫システムを活性化させ、環境変化に強い体質を作ることがわかっています。
  • 未消化窒素の抑制: 土壌中の微生物相が豊かであれば、過剰な窒素分が微生物の体に取り込まれ(有機化)、植物への急激な吸収が緩和されます。これにより、窒素過剰による徒長や軟弱化、病気への感受性増大を防ぐ緩衝作用(バッファー機能)が働きます。

根腐れ」も一種の生理障害(酸素欠乏)から始まりますが、これは単なる水はけの問題だけでなく、土壌中の腐敗菌の増殖が関与しています。対策として、完熟堆肥腐植酸資材を投入し、土壌の団粒構造を発達させることで、酸素の通り道を確保しつつ、有用微生物の住処を作ることが根本治療となります。

 

生理障害対策として、単に「足りない要素を足す」という対症療法から、「根が自ら養分を獲得できる環境(根圏)を整える」というバイオロジカルなアプローチへ視点を切り替えることが、持続可能で失敗の少ない栽培への近道です。

 

タキイ種苗の専門情報サイトでは、根の重要性と生理障害の関連について、非常に実践的な解説がなされています。

 

タキイ種苗:野菜の病害虫・生理障害(根の環境改善を含めた総合対策)

 

 


神の植物(ザ・ゴッド・プラント)