結論から申し上げますと、炭疽病(たんそびょう)にかかったりんごは、その部分を取り除けば問題なく食べられます。
参考)炭疽病(たんそびょう)の症状や原因は? 予防方法や作物ごとの…
炭疽病は、カビの一種である糸状菌(しじょうきん)がりんごに付着して起こる病気です。名前の響きが少し怖いかもしれませんが、植物の炭疽病菌は人間には感染しません。したがって、誤って食べてしまっても、基本的には人体への悪影響や中毒症状を心配する必要はないとされています。
参考)炭疽病とは?発生した場合の症状や対処法、予防策などについて解…
しかし、「食べられる」からといって「美味しく食べられる」とは限りません。炭疽病の最大の特徴は、その強烈な苦みにあります。無理して丸ごと食べるのではなく、適切な処置をして、賢く消費することが大切です。この章では、安心して食べるための具体的な知識を深堀りしていきます。
スーパーや直売所で買ったりんごに、気づいたら黒い斑点がついていることはありませんか?それが炭疽病かどうかを見分けるには、以下の特徴をチェックしてみてください。
参考)農薬ガイドNO.92_c
炭疽病は、収穫前だけでなく、収穫後の保存中にも発症・進行することがあります(貯蔵病害)。「買った時はきれいだったのに、冷蔵庫に入れておいたら黒い点が出てきた」というケースも珍しくありません。見つけたら放置せず、早めに対処することが、他のりんごを守ることにもつながります。
参考)https://www.pref.iwate.jp/agri/_res/projects/project_agri/_page_/002/004/793/repo_319.pdf
参考リンク:炭疽病の症状や原因、予防方法について詳しく解説されている農業情報サイト
炭疽病は英語で "Bitter Rot"(ビター・ロット=苦い腐敗) と呼ばれるほど、独特の苦みを持っています。この苦みは強烈で、ほんの少し口に入れただけでも舌に残る不快な味がします。
参考)りんご 炭疽病について
参考)https://www.shuminoengei.jp/?m=pcamp;a=page_qa_detailamp;target_c_qa_id=12941
「もったいない」と感じるかもしれませんが、苦みが残っているとりんご全体の味が台無しになってしまいます。思い切ってトリミングするのが、美味しく食べるコツです。
りんごの病気には、炭疽病と非常によく似た「輪紋病(りんもんびょう)」というものがあります。どちらも黒っぽい斑点ができますが、特徴や味に違いがあります。これを知っておくと、対処法がより明確になります。
| 特徴 | 炭疽病 (Bitter Rot) | 輪紋病 (White Rot) |
|---|---|---|
| 病斑の形 | 円形ではっきりしている | 円形だが境界が少しぼやける |
| 表面の様子 | 窪んでいる(へこむ) | へこまない(平坦) |
| 同心円 | きれいな同心円状の模様が出やすい | 輪紋(同心円)が出ることもある |
| 硬さ | 比較的 硬い | 比較的 軟らかい(水っぽい) |
| 味 | 猛烈に苦い | 腐敗臭がするが、特有の苦みはない |
| 進行速度 | 比較的ゆっくり | 条件が揃うと急速に広がる |
| 英名 | Bitter Rot | White Rot / Botryosphaeria Rot |
見分けるポイントは「へこみ」と「硬さ」と「苦み」です。
指で触って少し硬く、へこんでいて、舐めると苦いのが炭疽病。柔らかくて水っぽく、酸っぱいような腐敗臭がするのが輪紋病です。輪紋病の場合も、患部を大きく取り除けば食べられますが、果肉が崩れやすいため、早急な消費が求められます。どちらの場合も、カビの胞子が飛散しないよう、切り取った部分はビニール袋などで密閉して捨てましょう。
参考リンク:BASF農薬による、炭疽病と輪紋病の専門的な見分け方解説
「生で食べるのはちょっと抵抗があるから、ジャムやアップルパイにして加熱しよう」と考える方は多いでしょう。しかし、炭疽病のりんごを加工する際には、最大の注意点があります。
それは「苦み」です。
一般的な腐敗や傷みであれば、加熱することで気にならなくなることもありますが、炭疽病の苦み成分は加熱しても消えにくい性質があります。
逆に言えば、患部さえ完全に除去できていれば、残った部分は通常のりんごと同じように加工可能です。特に、見切り品や「訳ありりんご」として安く売られているものの中に炭疽病(初期)が混じっていることがありますが、これらは丁寧に下処理をすれば、非常にお得な食材になります。
参考)メルカリ
最後に、少し専門的ですが意外な「炭疽病の真実」についてお話しします。なぜ、大切に育てられたりんごが炭疽病になってしまうのでしょうか?実は、りんご畑の近くにあるある植物が大きく関係していることがあります。
その植物とは、「ニセアカシア(ハリエンジュ)」です。
参考)http://jppa.or.jp/archive/pdf/53_07_01.pdf
参考)https://www.pref.miyagi.jp/documents/8593/05_ringo-tanso.pdf
参考)https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/784058_62608468_misc.pdf
これを知っていると、もし通販などで届いたりんごに一つだけ黒い点があっても、「保存中に潜伏していた菌が出てきたんだな」と冷静に対処できるかもしれません。自然のものですから、完全に防ぐことは難しい病気の一つなのです。
まとめとして、炭疽病のりんごは、「苦い部分を大きくカットすれば安全に食べられる」、「見分け方は窪みと硬さ」、「加工時は苦みの混入に細心の注意を」という3点を覚えておけば、無駄なく美味しく楽しむことができます。少しの手間で、フードロスを減らし、りんごの命を最後までいただきましょう。