炭疽病のりんごは食べられる?見分け方と味や加工の注意点

りんごに黒い斑点があると不安になりますよね。炭疽病にかかったりんごは実は食べられるのでしょうか?独特の苦みや、ジャムに加工する際の落とし穴、そして意外な感染源について詳しく解説します。捨ててしまう前にチェックしてみませんか?
炭疽病のりんごガイド
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食べられる?

基本的には食べられますが、苦みがあるため患部の除去が必要です。

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味の特徴

英名で「Bitter Rot」と呼ばれるほど、強い苦みが特徴です。

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意外な原因

近くのニセアカシアの木から菌が飛んでくることがあります。

炭疽病のりんごは食べられる

結論から申し上げますと、炭疽病(たんそびょう)にかかったりんごは、その部分を取り除けば問題なく食べられます

 

参考)炭疽病(たんそびょう)の症状や原因は? 予防方法や作物ごとの…

炭疽病は、カビの一種である糸状菌(しじょうきん)がりんごに付着して起こる病気です。名前の響きが少し怖いかもしれませんが、植物の炭疽病菌は人間には感染しません。したがって、誤って食べてしまっても、基本的には人体への悪影響や中毒症状を心配する必要はないとされています。

 

参考)炭疽病とは?発生した場合の症状や対処法、予防策などについて解…

しかし、「食べられる」からといって「美味しく食べられる」とは限りません。炭疽病の最大の特徴は、その強烈な苦みにあります。無理して丸ごと食べるのではなく、適切な処置をして、賢く消費することが大切です。この章では、安心して食べるための具体的な知識を深堀りしていきます。

 

特徴 炭疽病の症状と見分け方

スーパーや直売所で買ったりんごに、気づいたら黒い斑点がついていることはありませんか?それが炭疽病かどうかを見分けるには、以下の特徴をチェックしてみてください。

 

  • 見た目の特徴:
    • 初期は、果実の表面にポツンと小さな茶色っぽい斑点ができます。
    • 進行すると、斑点は黒褐色になり、円形に拡大していきます。

      参考)農薬ガイドNO.92_c

    • 病斑の部分は、乾燥したように少し窪んで(へこんで)います。これが大きな特徴です。
    • 湿度の高い環境に置かれると、病斑の中心部からサーモンピンク色(淡いオレンジ色)の粘着質のもの(胞子の塊)が出てくることがあります。これが見えたら炭疽病の可能性が非常に高いです。​
  • 触感:
    • 病斑の部分は比較的硬く、指で押しても簡単には崩れません。
    • 進行すると腐敗が進み、果肉の奥深くまでV字型に腐りが進行していることがあります。

    炭疽病は、収穫前だけでなく、収穫後の保存中にも発症・進行することがあります(貯蔵病害)。「買った時はきれいだったのに、冷蔵庫に入れておいたら黒い点が出てきた」というケースも珍しくありません。見つけたら放置せず、早めに対処することが、他のりんごを守ることにもつながります。

     

    参考)https://www.pref.iwate.jp/agri/_res/projects/project_agri/_page_/002/004/793/repo_319.pdf

    参考リンク:炭疽病の症状や原因、予防方法について詳しく解説されている農業情報サイト

    味覚 苦い部分の除去と人体への影響

    炭疽病は英語で "Bitter Rot"(ビター・ロット=苦い腐敗) と呼ばれるほど、独特の苦みを持っています。この苦みは強烈で、ほんの少し口に入れただけでも舌に残る不快な味がします。

     

    参考)りんご 炭疽病について

    • 人体への影響:
      • 前述の通り、炭疽病菌自体には毒性はありません。人間や動物に感染する種類の菌ではないため、食べてしまっても胃腸炎などの重篤な病気になるリスクは低いと考えられています。

        参考)https://www.shuminoengei.jp/?m=pcamp;a=page_qa_detailamp;target_c_qa_id=12941

      • ただし、腐敗が進んでいる部分は雑菌が繁殖している可能性もあるため、衛生的な観点からは食べるべきではありません。また、カビ全般にアレルギーがある方は注意が必要です。
    • 苦い部分の除去方法:
      • 大きく切り取る: 炭疽病の菌糸(きんし)は、目に見える黒い斑点の部分よりも、もう少し広く深く伸びている可能性があります。
      • 目安: 目に見える変色部分から、さらに1cm~2cm程度大きく包丁を入れて切り捨ててください。
      • 味見をする: 切り取った後、残りの果肉を少し舐めてみて、苦みが残っていないか確認することをおすすめします。苦みが残っている場合は、さらに大きく切り取る必要があります。

      「もったいない」と感じるかもしれませんが、苦みが残っているとりんご全体の味が台無しになってしまいます。思い切ってトリミングするのが、美味しく食べるコツです。

       

      比較 似ている「輪紋病」との違い

      りんごの病気には、炭疽病と非常によく似た「輪紋病(りんもんびょう)」というものがあります。どちらも黒っぽい斑点ができますが、特徴や味に違いがあります。これを知っておくと、対処法がより明確になります。

       

      特徴 炭疽病 (Bitter Rot) 輪紋病 (White Rot)
      病斑の形 円形ではっきりしている 円形だが境界が少しぼやける
      表面の様子 窪んでいる(へこむ) へこまない(平坦)
      同心円 きれいな同心円状の模様が出やすい 輪紋(同心円)が出ることもある
      硬さ 比較的 硬い 比較的 軟らかい(水っぽい)
      猛烈に苦い 腐敗臭がするが、特有の苦みはない
      進行速度 比較的ゆっくり 条件が揃うと急速に広がる
      英名 Bitter Rot White Rot / Botryosphaeria Rot


      見分けるポイントは「へこみ」と「硬さ」と「苦み」です。
      指で触って少し硬く、へこんでいて、舐めると苦いのが炭疽病。柔らかくて水っぽく、酸っぱいような腐敗臭がするのが輪紋病です。輪紋病の場合も、患部を大きく取り除けば食べられますが、果肉が崩れやすいため、早急な消費が求められます。どちらの場合も、カビの胞子が飛散しないよう、切り取った部分はビニール袋などで密閉して捨てましょう。

       

      参考リンク:BASF農薬による、炭疽病と輪紋病の専門的な見分け方解説

      加工 ジャムやアップルパイにする時の注意

      「生で食べるのはちょっと抵抗があるから、ジャムやアップルパイにして加熱しよう」と考える方は多いでしょう。しかし、炭疽病のりんごを加工する際には、最大の注意点があります。

       

      それは「苦み」です。
      一般的な腐敗や傷みであれば、加熱することで気にならなくなることもありますが、炭疽病の苦み成分は加熱しても消えにくい性質があります。

       

      • ジャムにする場合のリスク:
        • もし苦い部分が少しでも混入してしまうと、鍋全体のジャムが苦くなってしまう恐れがあります。砂糖を大量に入れても、この独特の苦みはカバーしきれません。
        • 対策: 生食の時以上に、患部を徹底的に大きく切り落とすことが重要です。少しでも怪しい部分は入れないでください。
        • 皮ごと使うレシピは避けましょう。皮の近くに菌糸が潜んでいる可能性があります。
      • アップルパイやコンポート:
        • シナモンやバターの香りで多少の風味は誤魔化せますが、食べた瞬間の「舌に残る苦み」は健在です。
        • 推奨: 炭疽病の症状が軽いものだけを選別して使いましょう。症状が全体に広がっているものは、残念ながら加工にも向きません。

        逆に言えば、患部さえ完全に除去できていれば、残った部分は通常のりんごと同じように加工可能です。特に、見切り品や「訳ありりんご」として安く売られているものの中に炭疽病(初期)が混じっていることがありますが、これらは丁寧に下処理をすれば、非常にお得な食材になります。

         

        参考)メルカリ

        1. 洗う: まず表面をよく洗います。
        2. 切る: 患部より2cm以上大きく切り取ります。
        3. 確認: 切り口のにおいを嗅ぎ、変な発酵臭やカビ臭がしないか確認します。
        4. 加工: ジャム、コンポート、カレーの隠し味などに利用します。

        原因 ニセアカシアが犯人?意外な感染経路

        最後に、少し専門的ですが意外な「炭疽病の真実」についてお話しします。なぜ、大切に育てられたりんごが炭疽病になってしまうのでしょうか?実は、りんご畑の近くにあるある植物が大きく関係していることがあります。

         

        その植物とは、「ニセアカシア(ハリエンジュ)」です。

         

        参考)http://jppa.or.jp/archive/pdf/53_07_01.pdf

        • 感染のメカニズム:
          • ニセアカシアは、河川敷や道路脇によく自生しているマメ科の樹木です。
          • 炭疽病菌(Glomerella cingulataなど)は、このニセアカシアの木にも寄生し、そこで越冬・増殖します。
          • 梅雨の時期や台風シーズンになると、ニセアカシアから大量の胞子が風に乗って飛び、近くのりんご畑に降り注ぎます。これが感染の大きな原因の一つとなっています。

            参考)https://www.pref.miyagi.jp/documents/8593/05_ringo-tanso.pdf

          • このため、農家さんは自分の畑だけでなく、周辺の環境(ニセアカシアやクルミの木など)にも気を配る必要があります。​
        • 消費者にとっての教訓:
          • 「生産者の管理不足」だけが原因ではありません。自然環境の中で、風に乗ってやってくる菌を防ぐのは非常に難しいことです。
          • また、炭疽病には「潜伏感染」という性質があります。若い果実の時期に菌が侵入し、その時は症状が出ずに潜伏します。そして、りんごが熟して糖度が増し、収穫されてから(あるいは食卓に届いてから)発症することがあります。

            参考)https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/784058_62608468_misc.pdf

          • つまり、農家さんが出荷する時には「目に見えない」状態だったものが、皆さんの手元で発症することもあるのです。

          これを知っていると、もし通販などで届いたりんごに一つだけ黒い点があっても、「保存中に潜伏していた菌が出てきたんだな」と冷静に対処できるかもしれません。自然のものですから、完全に防ぐことは難しい病気の一つなのです。

           

          まとめとして、炭疽病のりんごは、「苦い部分を大きくカットすれば安全に食べられる」「見分け方は窪みと硬さ」、「加工時は苦みの混入に細心の注意を」という3点を覚えておけば、無駄なく美味しく楽しむことができます。少しの手間で、フードロスを減らし、りんごの命を最後までいただきましょう。