防除とは農業の病害虫対策の基本と種類と効果的な方法

農業における「防除」とは、具体的にどのような作業を指すのでしょうか?この記事では、病害虫や雑草から作物を守るための防除の基本的な考え方から、農薬だけに頼らない多様な防除方法、さらには最新のスマート農業技術を活用した効率的な防除までを徹底解説。あなたの農業経営を成功に導くヒントが見つかるかもしれません。

防除とは農業における大切な作物管理の要

この記事でわかる!農業の防除まるわかりガイド
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防除の基本

なぜ防除が必要?病害虫や雑草がもたらす影響と、対策の目的をわかりやすく解説します。

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防除の4つの種類

農薬だけじゃない!耕種的、物理的、化学的、生物的という4つのアプローチを具体例とともに紹介。

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最新の防除技術

ドローンやAIが農業を変える!スマート農業とIPM(総合的病害虫管理)の今がわかります。

防除の基本、病害虫と雑草が作物に与える影響と対策の目的

 

農業における「防除」とは、単に農薬を散布することだけを指す言葉ではありません。辞書によれば、「わざわいなどを防ぎ除くこと」、特に農業分野では「農業害虫や病害の予防および駆除」と定義されています 。つまり、作物を脅かすさまざまな要因から「防御」し、その影響を「除去」するためのあらゆる取り組みが「防除」なのです。
では、なぜ防除は農業にとって不可欠なのでしょうか。その最大の理由は、病害虫や雑草が作物の収量と品質に深刻なダメージを与えるからです。病害虫による被害は、世界全体で年間20%から40%もの収量損失を引き起こしているという報告もあります 。
具体的な影響は以下の通りです。

     

  • 🐛 害虫による影響: 葉や茎、果実を直接食害することで、光合成能力を低下させたり、商品価値を著しく損ないます。また、ウイルス病を媒介することもあり、二次的な被害も深刻です。
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  • 🦠 病原菌による影響: カビやウイルス、細菌などが原因で「うどんこ病」や「べと病」などの病気を引き起こします。これにより、作物の生育が阻害されたり、枯死に至ることもあります。
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  • 🌱 雑草による影響: 作物と競合し、土壌中の水分、養分、そして太陽光を奪います 。これにより作物の生育が抑制されるだけでなく、雑草自体が病害虫の発生源となることもあります。

これらの被害は、農業経営者の経済的損失に直結します。もし防除を行わなければ、多くの作物で収量が大幅に減少し、場合によっては収穫がほぼ見込めなくなることもあります 。したがって、防除の目的は、これらの有害生物の発生を可能な限り抑制し、経済的な被害を許容できるレベル以下に抑えることで、農業生産の安定化を図ることにあるのです 。
病害虫や雑草の生態を深く理解し、適切な対策を講じることが、持続可能な農業を実現するための第一歩と言えるでしょう。
農林水産省が公開している病害虫に関する情報も、対策を立てる上で非常に有用です。

 

農林水産省: 病害虫情報

防除の具体的な種類、耕種的・物理的・化学的・生物的防除の方法

防除には、農薬散布(化学的防除)以外にも様々なアプローチが存在します。これらの方法を単独または組み合わせて行うことで、より効果的で環境への負荷が少ない防除が実現できます 。ここでは主要な4つの防除方法について、具体例を交えて詳しく解説します。

1. 耕種的防除(こうしゅてきぼうじょ)

栽培環境を管理し、病害虫や雑草が発生しにくい状況を作る方法です 。いわば「予防医学」的なアプローチと言えるでしょう。

     

  • 抵抗性品種の導入: 病気に強い品種や、特定の害虫がつきにくい品種を作付けします。
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  • 輪作(りんさく): 同じ場所で同じ科の作物を連続して栽培するのを避け、異なる種類の作物を順番に育てることで、特定の病原菌や害虫が土壌に定着するのを防ぎます。
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  • 圃場(ほじょう)の衛生管理: 収穫後の残渣(ざんさ)や雑草を適切に処理し、病害虫の越冬場所や発生源をなくします。
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  • 栽培時期の調整: 害虫の発生が少ない時期に作付けをずらすなどの工夫を行います。

耕種的防除の詳細は、以下の研究報告にもまとめられています。
農研機構: 病害虫の総合的管理技術における耕種的防除法 (PDF)

2. 物理的防除

物理的な障壁や手段を用いて、病害虫の侵入を防いだり、直接捕殺する方法です 。

     

  • 防虫ネット・被覆資材: ビニールハウスの開口部に防虫ネットを張ったり、作物に不織布をかけることで、害虫の侵入を物理的にブロックします。
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  • マルチング: 畑のうねをビニールフィルムで覆うことで、雑草の発生を抑制し、地温をコントロールする効果もあります 。
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  • 光や色の利用: 黄色の粘着シートで害虫を誘引して捕獲したり、シルバーのシートでアブラムシの飛来を防ぐなど、虫の習性を利用します。
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  • 熱処理: 土壌を太陽熱や蒸気で消毒し、土壌中の病原菌や害虫、雑草の種子を死滅させます。

3. 化学的防除

農薬(化学合成された殺虫剤、殺菌剤除草剤など)を使用して、病害虫や雑草を直接的に駆除する方法です。効果が早く、広範囲に適用できるため、現代農業において重要な役割を担っています。しかし、使用方法を誤ると、環境への影響や農作物への薬害、消費者の健康への懸念が生じる可能性もあります。そのため、農薬取締法に基づいた適切な使用が厳しく義務付けられています 。

4. 生物的防除

病害虫の「天敵」を利用して、その数を抑制する方法です 。環境への負荷が少なく、特定の害虫に対して高い効果を発揮することがあります。

     

  • 天敵の放飼(ほうし): アブラムシを食べるテントウムシや、ハダニを捕食するカブリダニなどをハウス内に放ち、害虫を食べてもらいます。
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  • 対抗植物(コンパニオンプランツ: ネコブセンチュウ対策としてマリーゴールドを植えるなど、特定の病害虫を遠ざける効果のある植物を一緒に植えます 。
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  • 性フェロモンの利用: 害虫の交尾を阻害する性フェロモン剤を設置し、次世代の発生を抑えます 。

これらの4つの方法を、病害虫の発生状況や経済性を考慮しながら最適に組み合わせる考え方が「総合的病害虫・雑草管理(IPM)」であり、持続可能な農業の鍵とされています 。

防除の効果を左右する農薬散布のタイミングと注意点

化学的防除の要である農薬散布は、その効果を最大限に引き出し、同時にリスクを最小限に抑えるために、タイミングと方法が非常に重要です。誤った使い方をすると、効果が得られないばかりか、作物に薬害が出たり、周囲の環境に悪影響を及ぼす可能性があります。
以下に、農薬散布を行う上での重要なポイントをまとめます。

散布に最適な時間帯と気象条件 🕰️☀️

農薬散布は「風のない、晴れた日の朝夕」が基本です。

     

  • 時間帯: 散布は、気温が比較的低い早朝や夕方に行うのが推奨されます 。日中の気温が高い時間帯(特に30℃以上)に散布すると、葉の表面で薬剤が急速に乾燥し濃度が高まることで、作物がダメージを受ける「薬害」のリスクが高まります 。
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  • : 風が強い日(目安として風速3m/s以上)の散布は絶対に避けるべきです 。農薬が目的の場所以外に飛散(ドリフト)し、近隣の畑や住宅、通行人にかかってしまう危険性があります 。
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  • 天候(雨): 散布後すぐに雨が降ると、薬剤が洗い流されてしまい、効果が著しく低下します 。天気予報を必ず確認し、散布後少なくとも数時間〜半日は雨が降らない日を選びましょう。ただし、薬剤が作物に付着して一度乾けば、多少の雨が降っても効果は持続する場合が多いです 。
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  • 湿度: 適度な湿度がある方が、薬剤が葉に付着しやすくなります。しかし、夜露で葉が濡れている状態での散布は、薬剤が流れてしまったり、濃度が薄まって効果が落ちる可能性があるため注意が必要です。

安全と効果を高めるための注意点 ⚠️

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

項目 注意点と理由
周辺への配慮 住宅地や学校、公園などが近い場所では、事前に散布の日時を知らせるなどの配慮が不可欠です。子供の登下校時間帯を避けるといった心遣いも大切になります 。
散布方法 ノズルの向きや散布圧を適切に調整し、作物の葉の裏表に均一にかかるように丁寧に散布します。特に病害虫は葉の裏に潜んでいることが多いため、裏面への散布は効果を大きく左右します。
農薬の選択 対象の病害虫や作物に登録されている農薬を必ず使用します。同じ薬剤を連続して使用すると、病害虫がその薬剤に抵抗性を持ってしまい、効かなくなることがあるため、異なる系統の薬剤を交互に使用する「ローテーション散布」が推奨されます。
保護具の着用 農薬散布時は、マスク、ゴーグル、手袋、長袖・長ズボンの作業着など、適切な保護具を必ず着用し、薬剤を吸い込んだり皮膚に付着したりしないようにします 。

農薬の正しい使い方や気象との関係については、公的機関のウェブサイトでも詳しく解説されています。
東京都産業労働局: 病害虫防除と気象情報

防除とスマート農業、ドローンやAIを活用した総合的病害虫管理(IPM)

近年、農業分野でもテクノロジーの活用が急速に進んでおり、防除作業も例外ではありません。ドローンやAIといったスマート農業技術は、従来の防除が抱えていた課題を解決し、より効率的で持続可能な「総合的病害虫・雑草管理(IPM: Integrated Pest Management)」を実現する切り札として期待されています。

ドローンによる「ピンポイント」防除 🚁

農業用ドローンは、防除作業に革命をもたらしています。特に、高齢化による労働力不足や、中山間地のような大型機械が入りにくい場所での防除作業において、その真価を発揮します 。

     

  • 作業効率の飛躍的向上: 従来の手作業や地上走行式の散布機に比べ、短時間で広範囲の散布が可能です。これにより、作業者の負担が大幅に軽減されます。
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  • ピンポイント散布による農薬削減: ドローンに搭載されたセンサーやカメラで圃場の状態を解析し、病害虫が発生している場所にだけ農薬を散布する「可変散布」技術が実用化されています 。これにより、農薬の使用量を最小限に抑え、コスト削減と環境負荷の低減を両立できます。
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  • 安全性の確保: 作業者が直接農薬に暴露されるリスクを低減できます。また、稲の上など、人が立ち入れない場所からも正確な散布が可能です。

実際に、水稲のカメムシ防除や大豆の病害防除、タマネギのべと病防除など、様々な品目でドローンが活躍しており、JAなどが主体となって請負散布を行う事例も増えています 。

AI・IoTが実現する「予測」防除 🧠

AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)技術も、防除のあり方を大きく変えようとしています。

     

  • 病害虫発生予測: 圃場に設置したセンサーから気温、湿度、日射量などのデータを収集し、過去の気象データや病害虫の発生生態モデルと組み合わせることで、AIが病気の発生リスクを予測します。これにより、"予防"のための的確なタイミングで防除作業を行えるようになります。
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  • 画像診断による早期発見: スマートフォンやドローンで撮影した作物の葉の画像をAIが解析し、病害虫の種類を特定する技術が開発されています。熟練者でなくても初期段階で病害虫を発見できるため、被害が拡大する前に対処することが可能になります。

スマート農業とIPM

IPMとは、利用可能なすべての防除技術を経済性を考慮しつつ総合的に活用し、化学農薬の使用を必要最小限に抑える考え方です 。スマート農業技術は、このIPMを実践する上で極めて強力なツールとなります。
「いつ、どこで、何が」発生しているかを正確に把握し、「必要な場所に、必要な量だけ」対処する。この精密な管理を可能にすることで、経済的で環境にも優しく、かつ効果的な防除が実現できるのです。例えば、ドローンで害虫の発生箇所を特定し、その天敵をドローンで放飼する、といった先進的な取り組みも研究されています。スマート農業は、防除を「場当たり的な対応」から「データに基づいた科学的な管理」へと進化させています。
スマート農業の実証プロジェクトは全国で進められています。
鹿児島県: スマート農業技術実証プロジェクトの取り組み事例 (PDF)

【意外な盲点】防除における土壌微生物と天敵活用の最新アプローチ

化学農薬や最新のドローン技術に注目が集まりがちな防除ですが、農業生態系の足元、つまり「土壌」と、そこに元々生息している「土着の天敵」に目を向けることで、より持続可能でレジリエントな防除戦略を組み立てることができます。これらはしばしば見過ごされがちな「意外な盲点」ですが、大きな可能性を秘めています。

土壌微生物が病気を抑える? 🔬

健康な土壌には、1グラムあたりに数億から数十億個もの多種多様な微生物が生息していると言われます。この微生物のバランスが、病害虫の発生に深く関わっています。

     

  • 静菌・殺菌作用: ある種の微生物は、病原菌の活動を抑制する抗生物質のような物質を生成します。
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  • 栄養・スペースの競合: 有用な微生物が土壌中で優勢になることで、病原菌が増殖するための栄養やスペースを奪い、結果として病気の発生を抑えます。
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  • 植物の免疫力向上: 特定の微生物は、植物の根と共生関係を結び、植物自体の病気に対する抵抗力を高める働きがあることもわかってきています。

堆肥などの有機物を適切に施用し、土壌の生物多様性を高めることは、化学的な殺菌剤に頼る回数を減らすことにつながる、根本的な土壌病害対策となり得るのです。

「土着天敵」を味方につける戦略 🐞

生物的防除というと、商品化された天敵製剤を購入して放飼するイメージが強いかもしれません。しかし、実は私たちの圃場やその周辺には、もともと害虫を食べてくれる「土着天敵」がたくさん生息しています。この土着天敵を保護し、活用することは、コストをかけずに持続的な防除効果を得るための賢い戦略です 。
しかし、天敵活用にはメリットだけでなく、注意すべき「落とし穴」も存在します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メリット デメリット・注意点
コストがかからない
元々いる生物を活用するため、資材購入費が不要 。
複数の害虫に同時対応しにくい
天敵は特定の害虫しか捕食しないことが多く、一度に多種類の害虫が発生した場合には対応しきれない 。
環境への負荷が少ない
生態系のバランスを利用するため、化学農薬に比べて環境に優しい。
効果が穏やかで時間がかかる
化学農薬のように即効性は期待できず、害虫の密度をゆっくりと下げていく。
抵抗性が発達しにくい
害虫が天敵から逃れる術を身につけるのは、薬剤抵抗性を獲得するよりはるかに難しい。
農薬選択に注意が必要
使用する農薬によっては、害虫だけでなく有益な天敵まで殺してしまうことがある 。天敵に影響の少ない農薬(選択性殺虫剤)を選ぶ必要がある。
生態系への影響が少ない
外来種の天敵を持ち込む場合と異なり、在来の生態系を乱すリスクが低い。
天敵の生息環境が必要
天敵が隠れたり繁殖したりするための場所(バンカープランツや草生帯など)を圃場周辺に確保する必要がある。

つまり、ただ天敵を当てにするだけでなく、天敵が活動しやすい環境を積極的に作り出し、天敵に配慮した農薬管理を行うという、より高度なマネジメントが求められるのです。土壌とそこに住まう生物も含めた生態系全体を健全に保つことこそが、これからの時代に求められる防除の新しいアプローチと言えるでしょう。
天敵利用については、農林水産省の資料でもその考え方が示されています。
農林水産省: 天敵利用の考え方 (PDF)

 

 


病害虫・雑草防除の基礎 (農学基礎セミナー)