日本人の主食であるお米ですが、そのほとんどは水を張った田んぼで育てられる「水稲(すいとう)」です。しかし、世界や日本の歴史を振り返ると、畑で育てられる「陸稲(りくとう/おかぼ)」も重要な役割を果たしてきました 。この二つは、植物学的には同じ「イネ」という種に属しながら、育つ環境や性質、そして私たちの食卓に届く際のおいしさにおいて、全く異なる特徴を持っています 。なぜ日本では水稲が主流になったのか、そして陸稲にはどのようなメリットがあるのか、その違いを深掘りすることで、お米に対する理解がより一層深まるはずです。
参考)畑で作られる「陸稲」とは? 品種や栽培方法を紹介|マイナビ農…
水稲と陸稲の最も基本的かつ大きな違いは、その栽培環境と水管理の方法にあります。水稲は「水田」と呼ばれる、人工的に水を溜めた環境で栽培されます。これには非常に合理的な理由があります。まず、水を張ることで土壌への酸素供給を遮断し、雑草の種子が発芽するのを防ぐ効果があります 。多くの雑草は水中で呼吸ができずに枯れてしまうため、除草の手間を大幅に減らすことができるのです。また、水は温度変化を緩やかにするため、冷害から稲を守る「保温効果」も果たしています 。
参考)お米はなぜ田んぼで作るのですか? 畑ではできないのですか? …
一方、陸稲は「畑」で栽培されます。水田のような大規模な灌漑施設や、水を水平に保つための整地(代かき)が必要ないため、山間部や水源が確保できない場所でも栽培が可能です 。しかし、畑地での栽培は、常に雑草との戦いになります。水による雑草抑制効果が得られないため、頻繁な除草作業が必要となり、農家にとっては大きな労働負担となります。
参考)水稲栽培と陸稲栽培の違い|おいしいお米.com
また、土壌環境への適応も異なります。
このように、水稲は「水を巧みに利用して環境を制御する」農法であるのに対し、陸稲は「厳しい自然環境に適応しながら育てる」農法であると言えます。この栽培環境の差が、後述する味や収穫量に大きな影響を与えています。
参考リンク:畑で作られる「陸稲」とは?品種や栽培方法を紹介 - マイナビ農業(栽培の基礎知識が詳しく解説されています)
私たちが普段口にしている「もちもちとして甘みのあるご飯」は、ほぼ間違いなく水稲のお米です。水稲と陸稲では、お米に含まれるデンプンの性質や水分量に違いがあり、それが食感(食味)の決定的な差となっています。
水稲のお米は、一般的に粘りが強く、噛むほどに甘みが広がるのが特徴です。これは、水稲が十分な水分環境下で登熟(お米が実ること)するため、デンプンの構造が緻密になり、炊飯した際にふっくらとした粘り気が出るためです 。特に「コシヒカリ」などの日本の主要品種は、この粘りと旨味を最大限に引き出すように品種改良されてきました 。
参考)【完全版】初心者でも絶対に失敗しない!コシヒカリ陸稲の育て方…
対照的に、陸稲のお米は「あっさり」「硬め」「粘りが少ない」という特徴があります 。日本人の感覚では「パサパサしている」と表現されることもあり、白飯としてそのまま食べると、水稲に比べて食味が劣ると評価されがちです。これは、畑栽培特有の乾燥ストレスや、品種自体の特性(硬質米が多い)によるものです。
参考)https://ameblo.jp/da-cha-06/entry-12477497359.html
しかし、この「粘りが少ない」という特徴は、料理によっては大きなメリットになります。
かつては「陸稲は不味い」というレッテルを貼られることもありましたが、現在ではその特性を活かした加工用米としての需要や、調理法を工夫することで美味しく食べる方法が見直されています。また、近年では品種改良により、水稲に近い食味を持つ陸稲品種(「ひたち麻呂」や「ゆめのはたもち」など)も開発されています 。
農業ビジネスとしてお米作りを考える際、収穫量と栽培の安定性は死活問題です。ここで水稲と陸稲の間には、残酷なほど大きな「生産性の格差」が存在します。
まず、単位面積あたりの収穫量(単収)を見てみましょう。農林水産省の統計データによると、現代の日本の農業において、その差は歴然としています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/4f52b18f3c573d55c3218dd7e575f239044010c7
このように、水稲は陸稲の 2倍以上 のお米を収穫することができます。水稲が高い収量を誇る理由は、豊富な水供給によって光合成が促進されることや、肥料の吸収効率が良いことが挙げられます。
さらに深刻なのが「連作障害(れんさくしょうがい)」の問題です。
水稲栽培では、毎年同じ田んぼでお米を作っても連作障害(同じ作物を作り続けることで生育が悪くなる現象)がほとんど起きません。これは、水田に水を張ることで土壌中の有害な線虫や病原菌が死滅したり、水と共に流されたりする「洗浄効果」があるためです 。そのため、日本では何百年、何千年と同じ場所で水田稲作を続けることができました。
一方、陸稲には明確な 連作障害 があります 。同じ畑で陸稲を作り続けると、「陸稲連作障害」と呼ばれる現象が発生し、収量が激減します。主な原因は、土壌中の「イネシストセンチュウ」などの線虫の増殖や、特定の病原菌の蓄積、微量要素の欠乏などが複合的に絡み合っています 。
参考)「連作障害」の原因と対策 | JAこうか
これを防ぐために、陸稲農家は数年ごとに別の作物(野菜や豆類など)を植える「輪作(りんさく)」を行う必要があります。水稲のように毎年安定して同じ場所で作れないという点は、土地の利用効率という面で大きなデメリットとなります。
参考リンク:令和6年産水陸稲の収穫量 - 農林水産省(最新の収穫量データが確認できる公的な統計情報です)
地上に見える姿は似ている水稲と陸稲ですが、土の中では驚くほど異なる「根の戦略」をとっています。この根の違いこそが、それぞれの環境への適応能力を支えています。
水稲の根は、比較的 浅く 張る性質があります。深さ0〜20cm程度の表層にマット状に密集して根を広げます 。水田では水が常に表面にあるため、深く根を伸ばして水を探す必要がありません。その代わり、倒伏しないように株元を支えたり、表層の肥料分を効率よく吸収したりすることに特化しています。
参考)https://www.jsrr.jp/journal_free/28-04.pdf
対して、陸稲の根は 深く、太く 地中深くまで伸びていきます。乾燥した畑で生き残るため、陸稲は地下深層にある水分を求めて、深さ40cm、時にはそれ以上まで根を垂直に伸ばす能力を持っています 。この「深根性(しんこんせい)」と呼ばれる性質は、干ばつに耐えるための生命線です。
参考)https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/nosose/cont/img/seikouken_kennkyu_17.pdf
研究により、この根の深さを制御する「DRO1」という遺伝子も発見されています。陸稲はこの遺伝子の働きにより、重力に従って根を真下に伸ばす性質が強く、水稲よりも圧倒的に高い 乾燥耐性 を獲得しています 。
参考)深根性遺伝子による根系の形態の制御は干ばつのもとでのイネの増…
もし水稲をそのまま畑に植えても、根が浅いためにすぐに水不足で枯れてしまいます。逆に、陸稲は湿りすぎた環境を嫌うこともあります。この根の構造の違いは、品種改良においても重要なテーマとなっており、近年注目されているアフリカ向けの品種「ネリカ米(NERICA)」は、アジアの水稲の高収量性と、アフリカの陸稲の強い根(耐乾燥性)を掛け合わせることで生み出されたハイブリッド品種です 。
参考)ネリカ(NERICA) | 事業について - JICA
最後に、近年世界的に注目されている「環境への影響」という視点から、水稲と陸稲の意外な違いについて解説します。実は、水田稲作は地球温暖化の原因物質の一つである メタンガス の大きな発生源となっていることをご存知でしょうか?
水田に水を張ると、土壌中は酸素がない「嫌気(けんき)状態」になります。この環境は、有機物を分解してメタンを生成する「メタン生成菌」にとって天国のような場所です。その結果、世界の水田からは大量のメタンガスが大気中に放出されています 。メタンは二酸化炭素の約25倍もの温室効果を持つ強力なガスであり、これが水田稲作の抱える環境課題の一つとなっています。
参考)https://www.nomuraholdings.com/jp/sustainability/sustainable/services/fabc/report/report20241210102924/main/0/link/File32027448.pdf
ここで注目されるのが 陸稲 です。
陸稲は畑で栽培されるため、土壌は常に酸素が豊富な「好気(こうき)状態」に保たれています。この環境下ではメタン生成菌が活動できないため、陸稲栽培におけるメタンガスの発生量は ほぼゼロ に近いか、水稲に比べて劇的に少ないのです 。
参考)陸稲栽培に挑戦/オホーツク支部例会 – 一般社団…
現在、持続可能な開発目標(SDGs)の観点から、水田の水を定期的に抜いて土を乾かす「中干し」期間を延長したり、水稲から陸稲への転換を検討したりする動きも一部で議論されています 。もちろん、前述したように陸稲は収穫量が低いため、単純な置き換えは食糧問題を引き起こす可能性がありますが、「環境に優しいお米」としての陸稲のポテンシャルは、今後ますます再評価されていく可能性があります。
参考)https://www.jircas.go.jp/sites/default/files/TechCatalog_v1.0_jp.pdf
参考リンク:水稲メタン削減の将来性と課題 - 野村アグリプランニング&アドバイザリー(水田由来のメタン問題と陸稲への転換可能性について詳しいレポートです)

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