バンカープランツのソルゴーでアブラムシ天敵と緑肥の効果を

バンカープランツとしてソルゴーを導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?天敵による害虫駆除だけでなく、緑肥や障壁としての効果も期待できるこの植物の、意外な活用法と栽培のコツを詳しく解説しますが、あなたの畑でも試してみませんか?

バンカープランツとソルゴー

バンカープランツ ソルゴーの導入メリット
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天敵の温存効果

アブラムシの天敵を集めて作物を守る

🛡️
物理的な障壁機能

防風対策や農薬飛散の防止に役立つ

🌱
土壌改良と緑肥

強力な根が土を耕し有機物を供給する

アブラムシを捕食する天敵の仕組み

 

バンカープランツとしてソルゴーを畑に導入する最大の目的は、作物を害虫から守る「天敵」を自然に増やし、維持することにあります 。この仕組みは単に虫を寄せ付けるだけでなく、生態系の食物連鎖を巧みに利用した防除技術です。

 

参考)畑日記vol.15-ソルゴー撒き-

  • 天敵の銀行(バンカー)としての役割

    ソルゴーは、ヒエノアブラムシなど、イネ科植物に特異的に寄生するアブラムシ類を引き寄せます 。重要な点は、このヒエノアブラムシはナスやピーマンなどの野菜類(双子葉植物)には害を与えないという性質を持っていることです 。ソルゴー上で繁殖した無害なアブラムシを餌として、テントウムシ、ヒメハナカメムシ、クサカゲロウ、ショクガタマバエ、ヒラタアブといった強力な捕食性天敵が集まってきます 。

     

    参考)緑肥・防風・害虫防除に使える ソルゴー(ソルダム)栽培方法

  • 作物への移動メカニズム

    ソルゴーの上で十分に増殖したこれらの天敵は、餌となるヒエノアブラムシが減少したり、過密状態になったりすると、近隣の作物へと移動を開始します 。移動した先で、ナスやキュウリなどの栽培作物についている有害なアブラムシ(ワタアブラムシやモモアカアブラムシなど)やミナミキイロアザミウマを発見し、これらを捕食してくれるのです 。

     

    参考)農薬を減らすため「コンパニオンプランツ」を考えているが「バン…

  • 農薬削減への貢献

    このサイクルが確立されると、化学農薬の使用回数を大幅に減らすことが可能になります 。特にアブラムシ類は繁殖力が強く、農薬に対する抵抗性を持ちやすいため、薬剤のみでの防除はいたちごっこになりがちですが、天敵を利用することで持続的な密度抑制が可能になります 。

     

    参考)470アブラムシの天敵温存にソルゴーを使いましょう

このように、ソルゴーは天敵を「貯金」しておき、必要な時に作物という「市場」に払い出す役割を果たすため、まさに「バンカー(銀行)」の名にふさわしい働きをするのです 。

 

参考)バンカープランツについて – かもめ日記

緑肥や障壁にもなる効果の正体

ソルゴーの魅力は害虫防除だけにとどまりません。栽培期間中から栽培終了後に至るまで、畑全体の環境を改善する多面的な「効果」を持っています 。

 

1. 強力な防風・障壁効果
ソルゴーは成長が非常に早く、品種によっては2メートルを超える高さにまで成長します 。これを畑の周囲や畝間に壁のように配置することで、強風から作物を守る「防風壁」として機能します 。

 

参考)https://ameblo.jp/kabusecya/entry-12439867478.html

  • 風によるストレス軽減: 作物が強風に揺さぶられると、植物体にストレスがかかり生育が停滞したり、葉や茎が擦れて傷つき、そこから病気が侵入したりします。ソルゴーの壁はこれを物理的に防ぎます 。

    参考)ソルゴー障壁 : 本気でぶどう畑、のんびり野菜畑

  • 飛来害虫のブロック: 風に乗ってやってくる害虫の侵入を物理的に阻むほか、隣接する畑からの農薬ドリフト(飛散)を防ぐ障壁としても役立ちます 。​

2. 優れた土壌改良効果
ソルゴーの根は深く、強く張る性質があります 。この根が硬くなった土盤(耕盤層)を突き破り、土の中に水や空気の通り道を作ります 。

 

参考)ソルゴーの防風効果と害虫防除効果 - 農業メディア│Thin…

  • 団粒構造の形成: 根が土を細かく砕き、微生物の働きを活性化させることで、水はけと保水性を兼ね備えた理想的な「団粒構造」の土壌を作ります 。​
  • 残肥の吸い上げ: 前作で土壌に残った余分な肥料分(窒素など)をソルゴーが吸収して育つため、土壌の養分バランスをリセットするクリーニングクロップとしての効果もあります 。

3. 有機物の供給源
バンカープランツとしての役目を終えたソルゴーは、そのまま細断して土にすき込むことで、良質な「緑肥」となります 。大量の茎葉が土壌微生物の餌となり、腐植を増やして地力を高めます 。特にソルゴーはバイオマス量(有機物の量)が多いため、堆肥を大量に投入するのと同等の土壌改良効果が期待できます 。

 

参考)使い方色々。緑肥作物ソルゴーのススメ。養分過多な圃場の土壌改…

ナスと一緒に植える品種の選び方

ソルゴーには多くの品種があり、草丈や特性が異なります。目的とする作物が「ナス」などの果菜類である場合、相性の良い「品種」を選ぶことが成功の鍵となります 。

 

参考)https://www.takii.co.jp/green/ryokuhi/sorugamu/index.html

タキイ種苗:ソルガムの品種特性と緑肥利用のポイント
(リンク先では、品種ごとの草丈、出穂の早晩性、茎の硬さなどが詳細に一覧化されており、用途に合わせた選び方が解説されています。)

品種タイプ 特徴 バンカープランツへの適性 おすすめの利用シーン
短尺・矮性 草丈が1.5m前後と低く、倒れにくい。管理が容易。 ◎ (最適) ナスやピーマンの畝間、強風が心配な場所 ​
晩生 穂が出るのが遅く、花粉が飛散する期間が短い。茎葉が柔らかい。 〇 (適する) 作物への花粉汚れを防ぎたい場合、すき込みやすさを重視する場合 ​
高性種 草丈が2.5m〜4mにもなる。バイオマス量が非常に多い。 △ (注意) 強力な防風壁が必要な場合や、大規模な緑肥生産が主目的の場合 ​

品種選びの具体的なポイント:

  • 草丈のバランス: ナスの栽培では、日当たりを確保しつつ防風効果を得るために、作物の成長に合わせて適度な高さになる品種が好まれます 。背が高すぎるとナスに影を落とし、生育を阻害する恐れがあります 。そのため、「三尺ソルゴー」や「短尺ソルゴー」といった、背があまり高くならない品種(1.2〜1.5m程度)がバンカープランツとして一般的に推奨されます 。

    参考)https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/method_banker_plants2011.pdf

  • 出穂のタイミング: ソルゴーの穂から出る花粉がナスの果実に付着すると、果実が汚れて品質が低下することがあります 。これを避けるためには、穂が出るのが遅い「晩生(おくて)」の品種や、出穂しない品種を選ぶのがプロのテクニックです 。​
  • すき込みやすさ: 栽培終了後に緑肥として土に混ぜる際、茎が硬すぎると耕運機に絡まったり、分解に時間がかかったりします。茎が柔らかい品種(BMR品種など)を選ぶと、後片付けがスムーズに行えます 。​

播種のタイミングと栽培のポイント

ソルゴーの効果を最大限に引き出すためには、メインの作物(ナスなど)のスケジュールに合わせた適切な「播種(種まき)」と管理が必要です 。

 

参考)https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/uploaded/attachment/62305.pdf

1. 播種のゴールデンタイム
基本的には、ナスなどの定植(苗を畑に植えること)に合わせて、または少し早めに種をまきます 。

  • 適期: 一般地では4月下旬から6月上旬が播種の適期です 。​
  • 先行播種: 天敵を早めに定着させたい場合は、ナスの定植よりも2週間〜1ヶ月ほど早くソルゴーをまいておきます 。これにより、ナスが害虫の攻撃を受けやすい初期段階ですでに、ソルゴー上で天敵が待機している状態を作ることができます 。

    参考)https://www.maff.go.jp/kyusyu/kagoshima/attach/pdf/20250523_add-1.pdf

2. 効果的な配置とまき方

  • 配置: 畑の周囲を囲むようにまく「額縁まき」が基本ですが、広い畑では数畝ごとに「障壁まき」として作物の間に列を作る方法も有効です 。作物の株元から50cm〜1m程度離してまくことで、根の競合や日陰の影響を防ぎます 。​
  • 播種量と深さ: 10アールあたり300g〜1kg程度の種を使います 。深さ2〜3cm程度の溝を作り、筋まきにします。種をまいた後はしっかりと土を被せて鎮圧(足や道具で踏み固める)することが発芽率を高めるコツです 。​

3. 栽培中の管理
ソルゴーは乾燥や高温に強く、一度根付けばほとんど手がかかりませんが、放置しすぎも禁物です 。

  • 間引き: 発芽して密集しすぎている場合は、適度に間引きをして茎を太く丈夫に育てます。倒伏を防ぐためにも重要です。
  • 刈り込み: 背が高くなりすぎて作物への日当たりが悪くなった場合は、穂が出る前や背丈が伸びすぎた段階で上部を刈り込みます 。刈り取った葉はそのまま株元に敷けば、乾燥防止のマルチ代わりになります。​

土壌改良とインセクタリープランツとしての独自視点

多くの解説では「害虫防除」か「緑肥」のどちらかに焦点が当たりがちですが、実はソルゴーを高度に活用する「インセクタリープランツ(天敵温存植物)」としての専門的な視点には、さらに深い管理技術が存在します 。

農研機構:アブラムシ類対策のためのバンカー法技術マニュアル
(このリンクには、天敵を維持するために必要な「代替餌」の考え方や、具体的な圃場への導入配置図、天敵製剤との組み合わせ方が専門的に記述されています。)
天敵を「餓死させない」ための高度な管理
ソルゴーを植えただけでは、天敵が定着しないことがあります。それは「天敵の餌(無害なアブラムシ)」が不足する期間が生じるためです 。

  • 代替餌の維持: ソルゴーに寄生するヒエノアブラムシの密度を観察し、もしアブラムシが少なすぎる場合は、天敵が定着せずにどこかへ行ってしまいます 。逆にアブラムシが増えすぎてソルゴーが枯れてしまってもいけません。プロの農家は、ソルゴーの生育状況を見ながら追肥を行って常に若々しい葉を展開させ、アブラムシが住みやすい環境(=天敵のレストラン)を維持し続けます 。​
  • 複合的なインセクタリープランツの利用: ソルゴー単独ではなく、他の植物と組み合わせる手法も注目されています。例えば、「ブルーサルビア」や「スイートアリッサム」などを混植することで、アブラムシを食べる天敵だけでなく、花粉や蜜を餌とする種類の天敵(ヒラタアブの成虫など)も同時に呼び寄せることができます 。これにより、より多様な天敵相(ギルド)を畑に構築し、防除システムの安定性を高めることができます 。​

土壌物理性の劇的改善による「根圏」の活性化
ソルゴーの根は、単に土を耕すだけでなく、作物の根と共生する「菌根菌アーバスキュラー菌根菌)」の宿主としても優秀です。

 

  • 菌根菌のネットワーク: ソルゴーの根圏で増殖した菌根菌は、後作や混植した作物の根にも感染し、リン酸などの養分吸収を助けるネットワークを形成します。つまり、ソルゴーは地上部で天敵を養い、地下部では有用微生物を養うという、畑全体の生命力を底上げするエンジンのような役割を果たしています。これは単なる物理的な「土壌改良」を超えた、生物学的な土作りと言えるでしょう。

 

 


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