バンカープランツとしてソルゴーを畑に導入する最大の目的は、作物を害虫から守る「天敵」を自然に増やし、維持することにあります 。この仕組みは単に虫を寄せ付けるだけでなく、生態系の食物連鎖を巧みに利用した防除技術です。
参考)畑日記vol.15-ソルゴー撒き-
ソルゴーは、ヒエノアブラムシなど、イネ科植物に特異的に寄生するアブラムシ類を引き寄せます 。重要な点は、このヒエノアブラムシはナスやピーマンなどの野菜類(双子葉植物)には害を与えないという性質を持っていることです 。ソルゴー上で繁殖した無害なアブラムシを餌として、テントウムシ、ヒメハナカメムシ、クサカゲロウ、ショクガタマバエ、ヒラタアブといった強力な捕食性天敵が集まってきます 。
ソルゴーの上で十分に増殖したこれらの天敵は、餌となるヒエノアブラムシが減少したり、過密状態になったりすると、近隣の作物へと移動を開始します 。移動した先で、ナスやキュウリなどの栽培作物についている有害なアブラムシ(ワタアブラムシやモモアカアブラムシなど)やミナミキイロアザミウマを発見し、これらを捕食してくれるのです 。
このサイクルが確立されると、化学農薬の使用回数を大幅に減らすことが可能になります 。特にアブラムシ類は繁殖力が強く、農薬に対する抵抗性を持ちやすいため、薬剤のみでの防除はいたちごっこになりがちですが、天敵を利用することで持続的な密度抑制が可能になります 。
このように、ソルゴーは天敵を「貯金」しておき、必要な時に作物という「市場」に払い出す役割を果たすため、まさに「バンカー(銀行)」の名にふさわしい働きをするのです 。
参考)バンカープランツについて – かもめ日記
ソルゴーの魅力は害虫防除だけにとどまりません。栽培期間中から栽培終了後に至るまで、畑全体の環境を改善する多面的な「効果」を持っています 。
1. 強力な防風・障壁効果
ソルゴーは成長が非常に早く、品種によっては2メートルを超える高さにまで成長します 。これを畑の周囲や畝間に壁のように配置することで、強風から作物を守る「防風壁」として機能します 。
参考)https://ameblo.jp/kabusecya/entry-12439867478.html
2. 優れた土壌改良効果
ソルゴーの根は深く、強く張る性質があります 。この根が硬くなった土盤(耕盤層)を突き破り、土の中に水や空気の通り道を作ります 。
参考)ソルゴーの防風効果と害虫防除効果 - 農業メディア│Thin…
3. 有機物の供給源
バンカープランツとしての役目を終えたソルゴーは、そのまま細断して土にすき込むことで、良質な「緑肥」となります 。大量の茎葉が土壌微生物の餌となり、腐植を増やして地力を高めます 。特にソルゴーはバイオマス量(有機物の量)が多いため、堆肥を大量に投入するのと同等の土壌改良効果が期待できます 。
参考)使い方色々。緑肥作物ソルゴーのススメ。養分過多な圃場の土壌改…
ソルゴーには多くの品種があり、草丈や特性が異なります。目的とする作物が「ナス」などの果菜類である場合、相性の良い「品種」を選ぶことが成功の鍵となります 。
参考)https://www.takii.co.jp/green/ryokuhi/sorugamu/index.html
タキイ種苗:ソルガムの品種特性と緑肥利用のポイント
(リンク先では、品種ごとの草丈、出穂の早晩性、茎の硬さなどが詳細に一覧化されており、用途に合わせた選び方が解説されています。)
| 品種タイプ | 特徴 | バンカープランツへの適性 | おすすめの利用シーン |
|---|---|---|---|
| 短尺・矮性種 | 草丈が1.5m前後と低く、倒れにくい。管理が容易。 | ◎ (最適) | ナスやピーマンの畝間、強風が心配な場所 |
| 晩生種 | 穂が出るのが遅く、花粉が飛散する期間が短い。茎葉が柔らかい。 | 〇 (適する) | 作物への花粉汚れを防ぎたい場合、すき込みやすさを重視する場合 |
| 高性種 | 草丈が2.5m〜4mにもなる。バイオマス量が非常に多い。 | △ (注意) | 強力な防風壁が必要な場合や、大規模な緑肥生産が主目的の場合 |
品種選びの具体的なポイント:
参考)https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/method_banker_plants2011.pdf
ソルゴーの効果を最大限に引き出すためには、メインの作物(ナスなど)のスケジュールに合わせた適切な「播種(種まき)」と管理が必要です 。
参考)https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/uploaded/attachment/62305.pdf
1. 播種のゴールデンタイム
基本的には、ナスなどの定植(苗を畑に植えること)に合わせて、または少し早めに種をまきます 。
参考)https://www.maff.go.jp/kyusyu/kagoshima/attach/pdf/20250523_add-1.pdf
2. 効果的な配置とまき方
3. 栽培中の管理
ソルゴーは乾燥や高温に強く、一度根付けばほとんど手がかかりませんが、放置しすぎも禁物です 。
多くの解説では「害虫防除」か「緑肥」のどちらかに焦点が当たりがちですが、実はソルゴーを高度に活用する「インセクタリープランツ(天敵温存植物)」としての専門的な視点には、さらに深い管理技術が存在します 。
農研機構:アブラムシ類対策のためのバンカー法技術マニュアル
(このリンクには、天敵を維持するために必要な「代替餌」の考え方や、具体的な圃場への導入配置図、天敵製剤との組み合わせ方が専門的に記述されています。)
天敵を「餓死させない」ための高度な管理
ソルゴーを植えただけでは、天敵が定着しないことがあります。それは「天敵の餌(無害なアブラムシ)」が不足する期間が生じるためです 。
土壌物理性の劇的改善による「根圏」の活性化
ソルゴーの根は、単に土を耕すだけでなく、作物の根と共生する「菌根菌(アーバスキュラー菌根菌)」の宿主としても優秀です。