菌根菌資材の効果と選び方!種類やアブラナ科への使い方

菌根菌資材を活用してリン酸吸収を劇的に改善したくありませんか?この記事では、種類の選び方からアブラナ科への応用、効果的な使い方まで徹底解説します。パートナー細菌との相乗効果とは?

菌根菌資材

菌根菌資材の活用ポイント
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リン酸吸収の促進

根が届かない場所の養分を菌糸が集め、作物の成長を強力にサポートします。

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選び方の基準

胞子数や活性度を確認し、土壌環境や栽培作物に最適なタイプを選定しましょう。

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パートナー細菌

共生を助ける細菌を含む資材なら、定着率向上やアブラナ科への効果も期待できます。

菌根菌資材の驚くべき効果と導入メリット

 

農業において「土づくり」は基本ですが、その中でも近年特に注目を集めているのが「菌根菌資材(きんこんきんしざい)」です。菌根菌とは、植物の根に共生するカビ(糸状菌)の一種であり、太古の昔から植物と持ちつ持たれつの関係を築いてきました。この自然の力を農業に応用するために製品化されたものが菌根菌資材です。導入することで得られるメリットは多岐にわたりますが、最大の効果はなんといっても「リン酸吸収能力の劇的な向上」にあります。

 

リン酸は植物の成長に不可欠な三大要素の一つですが、土壌中では非常に移動しにくい性質を持っています。特に日本の火山灰土壌(黒ボク土)は、リン酸吸収係数が高く、施肥したリン酸がアルミニウムなどと結合して不可給態(植物が吸えない状態)になりやすいという厄介な特徴があります。ここで活躍するのが菌根菌です。菌根菌は、植物の根に入り込み、そこから土壌中に向けて目に見えないほど微細な「菌糸」を張り巡らせます。この菌糸は植物自身の根よりもはるかに細く、遠くまで伸びることができるため、根が直接届かない場所にあるリン酸やミネラル、水分を効率よく集めて植物に供給してくれるのです。

 

また、菌根菌資材の導入は、単に栄養吸収を助けるだけではありません。「環境ストレスへの耐性向上」も大きなメリットです。菌糸が広範囲に広がることで、水分を効率的に吸い上げることが可能になり、干ばつや乾燥ストレスに強い作物が育ちます。さらに、菌根菌が根に定着することで、根の表面がガードされ、土壌病害菌(ピシウム菌やフザリウム菌など)の侵入を防ぐ効果も報告されています。これは「先回り効果」とも呼ばれ、健全な菌が席を埋めてしまうことで、悪玉菌が入り込む余地をなくすというメカニズムです。

 

加えて、近年では化学肥料の削減という観点からも評価されています。リン酸肥料の価格高騰が続くなか、土壌に蓄積されたまま利用されていない「貯金のようなリン酸」を有効活用できるため、施肥コストの削減と環境負荷の低減を同時に実現できるのです。

 

参考リンク:農研機構による土壌リン酸の有効利用と施肥削減技術に関する詳細な解説

菌根菌資材の種類と失敗しない選び方

菌根菌資材と一口に言っても、その種類はさまざまであり、自分の畑や作物に合ったものを選ばなければ効果は期待できません。まず理解しておくべきは、菌根菌には大きく分けて「アーバスキュラー菌根菌(AM菌)」と「外生菌根菌」の2つのタイプがあるという点です。

 

農業現場で最も一般的に利用されるのは「アーバスキュラー菌根菌」です。このタイプは、野菜、果樹、花卉、穀物など、地球上の陸上植物の約80%と共生することができます。根の細胞の中に「樹枝状体」と呼ばれる構造を作り、そこで養分の交換を行います。一方、「外生菌根菌」は主にマツやブナなどの樹木と共生するタイプであり、一般的な野菜栽培ではほとんど使用されません。したがって、野菜や果樹の栽培目的であれば、必ず「アーバスキュラー菌根菌」が配合された資材を選ぶ必要があります。

 

次に重要なのが「資材の形状」と「菌の活性度」です。市場には粒状、粉末状、液体状などの製品が出回っていますが、それぞれの使い勝手と特徴を把握しましょう。

 

・粒状資材:土壌混和に適しています。定植前の土作りの段階で畑に混ぜ込むことで、根が伸びた先に菌が待ち構えている状態を作れます。

 

・粉末状資材:種子へのコーティング(粉衣)に適しています。種もみにまぶすことで、発芽直後から共生をスタートさせることができます。

 

・液状資材:育苗期の灌水や、定植時のドブ漬けに適しています。根の周囲に高密度で菌を届けることができるため、感染効率が高いのが特徴です。

 

さらに、「選び方」で失敗しないためのプロの視点として、「胞子数」と「活性度」のチェックは欠かせません。パッケージや成分表を確認し、土壌1gあたりに含まれる胞子の数が明記されているか、またその菌が休眠状態ではなく、水を与えたらすぐに活動できる状態にあるかを確認してください。安価な資材の中には、菌の密度が極端に低いものや、死滅してしまっているものも混ざっている可能性があります。

 

また、「土着菌との競合」も考慮する必要があります。すでに長年有機農業を行っている肥沃な土壌には、優秀な土着の菌根菌が住み着いていることがあります。そうした環境では、新たに資材を投入しても土着菌との競争に負けて定着しないことがあります。逆に、土壌消毒を行った後の畑や、造成したばかりの痩せた土地では、菌根菌が不在のため、資材投入の効果が劇的に現れる傾向があります。自分の畑の履歴(消毒の有無、リン酸過剰の有無)を振り返り、導入の要否を判断することも賢い選び方の一つです。

 

菌根菌資材の効果的な使い方と施用タイミング

どれほど高品質な菌根菌資材を選んでも、使い方が間違っていればその効果は半減、あるいはゼロになってしまいます。菌根菌は「生き物」であることを常に意識し、彼らが最も活動しやすい環境とタイミングで出会わせてあげることが重要です。ここでは、最も効果が高いとされる「育苗期」での利用を中心とした具体的なテクニックを紹介します。

 

最も推奨されるタイミングは、植物の根が出始めた「初期段階」です。菌根菌は若い根の先端付近から侵入しやすいため、育苗期に感染させるのが最も効率的であり、コストパフォーマンスにも優れています。本圃(ほんぽ)に定植してから畑全体に散布するよりも、ポットやセルトレイの狭い空間で濃厚に接触させる方が、確実に共生関係を築けるからです。

 

具体的な施用方法には以下のようなパターンがあります。

 

種子粉衣(コーティング)
播種(種まき)の直前に、湿らせた種子に粉末状の資材をまぶします。目安としては、種子の重量に対して一定の割合(製品によりますが、例えば種子1kgに対して資材数g〜数十gなど)を使用します。発芽と同時に根が菌に触れるため、スタートダッシュが決まります。

 

育苗培土への混和
育苗用の土にあらかじめ資材を混ぜておきます。この場合、資材が均一に混ざるように注意が必要です。また、使用する培土のリン酸濃度が高すぎると、植物が「菌の手助けは不要」と判断して共生を拒否することがあるため、リン酸控えめの培土を使うのがコツです。

 

ドブ漬け・灌水処理
定植直前の苗を、液状または水に溶かした粉末資材の希釈液に浸します(ドブ漬け)。希釈倍率は製品によりますが、一般的には500倍〜2000倍程度が目安です。時間は数秒〜数分で十分ですが、根鉢(ねばち)の内部まで液が浸透するようにしっかり漬け込むことが大切です。これにより、根の周囲に大量の胞子が付着した状態で畑に植えられるため、活着が非常にスムーズになります。

 

施用時の注意点として、殺菌剤との併用には細心の注意を払ってください。特に土壌灌注用の殺菌剤(ベンレートやリゾレックスなど)は、病原菌だけでなく菌根菌も殺してしまう可能性があります。どうしても殺菌剤が必要な場合は、時期をずらすか、菌根菌への影響が少ない薬剤を選定する必要があります。また、過剰なリン酸肥料も禁物です。土壌診断を行い、リン酸が過剰な場合は施肥量を減らすことで、菌根菌の働きを最大限に引き出すことができます。「肥料を減らして菌に働いてもらう」という意識転換が、成功への近道です。

 

菌根菌資材のアブラナ科への利用と注意点

農業現場で菌根菌資材を導入する際に、必ず直面する壁があります。それが「アブラナ科植物には共生しない」という定説です。ダイコン、キャベツ、ハクサイ、ブロッコリー、コマツナなどのアブラナ科作物は、一般的にアーバスキュラー菌根菌と共生関係を結ばない「非宿主植物」として知られています。これらの植物の根からは、イソチオシアネートなどの抗菌物質が分泌されており、これが菌根菌の侵入を拒んでいると考えられています。

 

そのため、教科書通りの知識であれば「アブラナ科に菌根菌資材を使っても無駄である」という結論になります。実際、単に菌根菌の胞子だけを含んだ資材をアブラナ科の畑に投入しても、根の中に菌が定着することはほとんどなく、リン酸吸収促進効果も期待できません。むしろ、アブラナ科作物を連作している畑では、土壌中の菌根菌密度が極端に低下し、後作の作物(トウモロコシやマメ類など)の生育が悪くなる現象さえ起きます。これを防ぐためには、輪作体系に菌根菌と相性の良いヒマワリやソルゴーなどを組み込み、土壌中の菌密度を維持する工夫が必要です。

 

しかし、近年の研究や一部の先進的な資材では、この常識を覆すようなアプローチも登場しています。「アブラナ科であっても、特定条件下や混合微生物の働きによって、間接的なメリットを享受できる」という可能性です。例えば、菌根菌そのものは共生しなくても、資材に含まれる他の有用微生物が根圏環境を改善し、結果として生育が促進されるケースです。また、最新の研究では、アブラナ科植物の根の周辺でも、菌根菌が完全に排除されているわけではなく、菌糸が外部から接触することで何らかのシグナル交換を行っている可能性も示唆されています。

 

ここでの注意点は、「アブラナ科専用」と謳っていない一般的な菌根菌資材を、高価なコストをかけてアブラナ科に大量投入するのは避けるべき、ということです。基本的には、ナス科ウリ科マメ科、ネギ科などの「好宿主作物」に優先的に使用し、アブラナ科作付け時は土づくりに徹するか、後述するような「パートナー細菌」を含む複合資材の利用を検討するのが賢明な戦略です。

 

菌根菌資材とパートナー細菌の相乗効果

菌根菌資材の効果をさらに高め、適用範囲を広げる鍵として、現在最も注目されているのが「パートナー細菌(Helper Bacteria)」の存在です。これは、菌根菌単体ではなく、菌根菌の活動を助ける特定のバクテリアを一緒に配合した資材、あるいはそのメカニズムを指します。

 

自然界の土壌中では、菌根菌は孤独に生きているわけではありません。菌根菌の胞子や菌糸の表面には、無数の細菌が付着して生活しています。これらの細菌の中には、菌根菌の胞子の発芽を促したり、菌糸の伸長を助けたり、あるいは植物の根への侵入をスムーズにする役割を持つものがいます。これらを総称して「菌根菌ヘルパーバクテリア(Mycorrhiza Helper Bacteria: MHB)」と呼びます。

 

このパートナー細菌の存在が、従来のアブラナ科の問題や定着率の悪さを解決する糸口になります。例えば、ある種のバクテリアは、植物の根が分泌する抗菌物質を分解したり、根の細胞壁を適度に緩めたりすることで、菌根菌が侵入しやすい環境を整えます。実際に、パートナー細菌を配合した高機能な菌根菌資材では、通常は共生しにくいとされる条件下でも、高い感染率と生育促進効果が確認されています。

 

また、パートナー細菌自身も植物にとって有用な働きをすることが多いです。窒素固定菌やリン溶解菌などがパートナーとして含まれている場合、菌根菌がリン酸を集め、パートナー細菌が窒素を供給したり難溶性リンを溶かしたりするという、最強の「チームプレー」が根圏で展開されます。これにより、単一の資材を使うよりもはるかに高いバイオスティミュラント(生物刺激)効果が得られるのです。

 

独自視点として注目したいのは、この「パートナー細菌」が、土壌の「微生物多様性」の呼び水になるという点です。菌根菌とパートナー細菌が定着した根圏には、それらが分泌する糖やアミノ酸を目当てに、さらに多様な有用微生物が集まってきます。結果として、特定の病原菌だけが増殖するのを防ぐ、抑止的な土壌環境が形成されます。

 

資材を選ぶ際は、単に「菌根菌入り」と書かれているだけでなく、「共生促進菌配合」「複合微生物資材」といった表記に注目してみてください。成分表にバチルス属(Bacillus)やシュードモナス属(Pseudomonas)などの細菌名が併記されている場合、それはパートナー細菌としての相乗効果を狙った次世代型の資材である可能性が高いです。見えない土の中で繰り広げられる、菌と細菌のタッグチームを味方につけることこそが、これからの環境保全型農業の切り札となるでしょう。

 

参考リンク:アーバスキュラー菌根菌とストレプトマイセス属細菌の相互作用に関する最新研究(英語論文)

 


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