農業の現場において、夏野菜の作付け計画を立てる上で欠かせないのがウリ科野菜です。ウリ科の植物は世界中に約800種以上が存在すると言われており、日本国内でも多くの品種が商業的に栽培されています。これらは共通して「巻きひげ」を持つつる性の植物であり、その多くが熱帯を原産としています。そのため、高温多湿な日本の夏に適応しやすく、露地栽培から施設栽培まで幅広く生産されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9672059/
主なウリ科野菜は、果実を食用とするものが中心ですが、その用途や特性は多岐にわたります。
参考)https://www.city.toki.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/164/202506.pdf
参考)スイカやキュウリなど瓜科の野菜
参考)珍しい野菜,果菜類 瓜類
これらの野菜は、単に「食べる」だけでなく、農家にとっては「稼ぐ」ための戦略的な品目選びが重要です。例えば、キュウリは収穫の労働負荷が高いものの、単位面積あたりの収益性が高い傾向にあります。一方、カボチャは重量があるため運搬に労力を要しますが、収穫適期の幅が広く、労働分散がしやすいというメリットがあります。自身の経営スタイルや圃場の条件に合わせて、最適なウリ科野菜を選定することが、農業経営の安定化につながります。
参考)農業で儲かる野菜ランキング!品目別の時給や直売所で稼ぐコツも…
ウリ科野菜を商業的に栽培する上で、最も避けて通れない課題の一つが「連作障害」です。ウリ科野菜は連作を嫌うものが多く、同じ畑で続けて栽培すると、土壌中の特定の病原菌が増殖したり、ネコブセンチュウなどの害虫被害が深刻化したりします。また、根から分泌される成分が自家中毒を引き起こし、生育不良を招くこともあります。
この問題を解決するためのプロの技術が「接ぎ木(つぎき)」です。
参考)キュウリの育て方と栽培のコツ
栽培管理においては、「水やり」と「整枝」が品質と収量を左右します。
ウリ科野菜、特にキュウリは根が浅く広く張る性質があるため、乾燥に非常に弱いです。一方で、過湿になると「疫病」や「べと病」が発生しやすくなります。マルチングをして土壌水分を保持しつつ、点滴灌水チューブなどで定期的に水を与えるのが理想的です。スイカやメロンの場合は、収穫前にあえて水を切ることで果実内の糖度を高めるテクニックが必要ですが、この加減がプロの腕の見せ所となります。
放置するとつるが無限に伸びてしまい、栄養が分散して果実が肥大しません。
また、ウリ科野菜は「他家受粉」を基本とするため、ミツバチなどの訪花昆虫の活動が結実率に直結します。ハウス栽培ではミツバチやマルハナバチを導入したり、着果促進剤(トマトトーンなど)を利用したりして、確実に実らせる工夫が不可欠です。
ウリ科野菜を扱う農家として、必ず知っておかなければならないリスク管理の一つに「ククルビタシン」という成分があります。これはウリ科植物特有の苦味成分であり、植物が害虫から身を守るために作り出す防御物質です。
参考)ウリ科野菜・果物の苦味が強すぎると感じたら
通常、私たちが市場に出荷している食用の品種(キュウリ、メロン、ズッキーニなど)は、品種改良によってこのククルビタシンの含有量が極めて低くなるように育成されています。しかし、特定の条件下では、この成分が高濃度で生成されてしまうことがあり、それが重大な食中毒事故につながる恐れがあります。
ククルビタシンが増加する主な原因とリスク:
ウリ科植物は交雑しやすい性質を持っています。もし、近くで観賞用のヒョウタンや野生のウリ科植物が自生・栽培されている場合、それらの花粉が飛来して受粉してしまうことがあります。こうしてできた種子(F1ではなく、交雑種)から育った実には、強力な苦味成分が含まれる可能性があります。自家採種(種を自分で採って翌年まくこと)を行っている農家は特に注意が必要です。意図せず交雑した種を使うことで、毒性の高い野菜を作ってしまうリスクがあります。
参考)サン調剤薬局・おひさま薬局
極度の乾燥、肥料過多(特に窒素過多)、低温・高温などのストレスがかかると、生理障害の一種として苦味成分が増加することが報告されています。特にキュウリのヘタ部分(肩の部分)に苦味が溜まりやすいのはこのためです。
稀に、通常の種子から育てても、突然変異的に苦味の強い個体が発生することがあります。
農家が取るべき対策:
出荷前や収穫時に、定期的に果実の一部(特にヘタに近い部分)を試食し、異常な苦味がないか確認することが推奨されます。もし強烈な苦味を感じた場合は、その株の果実はすべて廃棄すべきです。ククルビタシンは加熱しても分解されないため、調理しても毒性は消えません。
直売所などで販売する際は、「苦味が強い場合は食べずに返品してください」といった注意書きを添えることも、リスクマネジメントの一環です。実際に、苦いズッキーニやヒョウタンを食べたことによる食中毒(下痢、嘔吐、腹痛)は毎年保健所に報告されています。
観賞用のオモチャカボチャやヒョウタンなどは、食用種とは明確にエリアを分けて栽培し、花粉の交配を防ぐ物理的な対策や、開花時期をずらす工夫が必要です。
この「苦味」は、単なる味の問題ではなく、消費者の健康に関わる重大な問題です。プロの生産者として、このメカニズムを理解し、安全な野菜を提供する責任があります。
農薬の使用量を減らし、環境保全型農業を推進する上で有効なのが「コンパニオンプランツ(共栄作物)」の活用です。ウリ科野菜は特定の植物と混植することで、互いの生育を助け合う効果が期待できます。
| ウリ科野菜 | コンパニオンプランツ | 期待できる効果 | 理由・メカニズム |
|---|---|---|---|
| キュウリ | ネギ類(長ネギ、ニラ) | つる割病・立枯病の予防 |
ネギ類の根に共生する拮抗菌(バークホルデリア菌など)が、ウリ科の病原菌を抑制します
ウリ科野菜一覧の珍しい品種と高収益の可能性一般的なキュウリやカボチャの市場価格は安定している反面、大豊作の年には価格暴落のリスクもあります。そこで、他との差別化を図り、高単価での販売を狙える「珍しい品種」の導入が注目されています。直売所や契約栽培において、以下の品種は大きな武器となり得ます。
これらの珍しい品種を導入する際は、「食べ方がわからない」という消費者の壁を取り除くことが重要です。POPでレシピを提案したり、試食販売を行ったりすることで、リピーターを獲得し、ファンを作ることが高収益化への近道です。また、少量多品目栽培を行う農家にとっては、これらを「客寄せ」の目玉商品として配置し、定番野菜のついで買いを誘発する戦略も有効です。
参考)儲かる野菜はどれ?!付加価値がつく今注目の野菜特集【2021…
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