摘芯のやり方 きゅうりやトマトの収穫量を増やすコツと時期

野菜の収穫量を劇的に増やす「摘芯」。この記事では、きゅうりやトマトなど家庭菜園で人気の野菜を例に、摘芯の基本的なやり方から、収穫量を最大化するコツ、適切な時期まで詳しく解説します。あなたの野菜作り、もっとレベルアップさせてみませんか?

摘芯のやり方

この記事でわかること
摘芯の基本

摘芯の目的やメリット、植物の成長メカニズムとの関係がわかります。

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野菜別のやり方

きゅうり、トマト、ナスなど、野菜ごとの具体的な摘芯方法とタイミングを学べます。

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収穫量を増やすコツ

道具の選び方や病気予防、さらに摘み取った芽の意外な活用法まで、プロの技を知ることができます。

摘芯の基本とメリット・デメリット

 

摘芯(てきしん)とは、植物の茎の先端にある成長点(芽)を摘み取る作業のことです 。これは「ピンチ」とも呼ばれ、植物の成長をコントロールし、収穫量を増やすために欠かせない重要な工程です 。
植物には「頂芽優勢(ちょうがゆうせい)」という性質があります。これは、一番てっぺんにある芽(頂芽)が優先的に成長し、脇から出る芽(わき芽、側枝)の成長を抑制するというものです。摘芯によってこの頂芽を取り除くと、頂芽優勢が打破され、これまで抑制されていたわき芽が一斉に成長を始めます 。

 

参考)摘心・摘芯(てきしん)

🪴 摘芯の主なメリット

     

  • 収穫量の増加: わき芽が成長して枝数が増えることで、花や実がつく場所が増え、結果的に収穫量の大幅なアップにつながります。
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  • 品質の向上: 栄養が株全体に行き渡りやすくなり、一つひとつの実が大きく、美味しくなります 。
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  • 管理のしやすさ: 草丈を抑え、枝の伸びる方向をコントロールできるため、風通しや日当たりが改善されます。これにより、病害虫の発生を抑え、手入れがしやすくなる効果もあります。

🤔 デメリットと注意点
一方で、摘芯には手間がかかるというデメリットもあります。また、やり方を間違えたり、タイミングを逃したりすると、かえって株にダメージを与えてしまい、生育不良を引き起こす可能性もあります。特に、一度に多くの枝を切りすぎると、植物がショック状態に陥ることがあるため注意が必要です。

【野菜別】摘芯のやり方と時期

摘芯の方法や適切な時期は、野菜の種類によって大きく異なります。ここでは、家庭菜園で人気の代表的な野菜について、その方法を解説します。
以下のタキイ種苗のページでは、様々な野菜の栽培方法について図解付きで詳しく解説されており、摘芯作業の参考になります。
タキイ種苗 野菜の育て方・栽培方法
きゅうり 🥒
きゅうりの摘芯は、つるのどの部分かによって方法が変わるのが特徴です 。一般的に、親づる(主茎)が支柱の高さ(約2m)に達したら先端を摘芯します 。

     

  • 下の方の節 (5〜7節まで): この部分から出る子づる(側枝)と雌花は、株の初期生育を優先させるため、すべて早めに摘み取ります。
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  • 真ん中あたりの節 (8〜15節): 伸びてきた子づるの葉を2枚残して、その先を摘芯します。こうすることで、子づるに安定して実がつきます。
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  • 上の方の節: 子づるの葉を1枚だけ残して摘芯するか、放任する場合もあります。株の勢いを見ながら調整しましょう。

きゅうりの整枝方法は少し複雑ですが、以下の表のようにルールを決めると管理しやすくなります 。

つるの種類 節の位置 摘芯の方法
親づる 支柱の先端 先端を摘み取る
子づる 下部 (5-7節) 根元からすべて摘み取る
中部 (8-15節) 葉を2枚残して摘芯
孫づる 株の勢いが弱い時 葉を1〜2枚残して摘芯

トマト 🍅
トマトは品種(大玉・中玉・ミニ)や仕立て方によって管理が異なります。一般的に、支柱を1本立てて主枝だけを伸ばす「1本仕立て」が多く用いられます。

     

  • わき芽かき: トマト栽培で最も重要な作業が「わき芽かき」です。葉の付け根から出てくるわき芽は、養分を奪ってしまうため、小さいうちにすべて手で摘み取ります。これは摘芯とは少し異なりますが、枝を整理するという点で関連作業と言えます。
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  • 摘芯 (芯止め): 主枝が支柱の先端まで伸びるか、収穫したい段数(例えば、大玉トマトなら5〜6段花房)の花が咲いたら、その花房の上の葉を2〜3枚残して主枝の先端を摘芯します 。これにより、それ以上背が高くなるのを止め、残した実に栄養を集中させることができます 。

ナス 🍆
ナスは「3本仕立て」が基本です。一番最初に咲く花(一番果)のすぐ下にある、勢いの良いわき芽2本と主枝の合計3本をメインの枝として育てます 。

     

  • 初期の整枝: 一番果より下から出てくるわき芽はすべて摘み取ります。
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  • 3本仕立ての決定: 一番果がついたら、その下のわき芽2本を伸ばし、主枝と合わせて3本の枝を支柱に誘引します。
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  • その後の管理 (連続摘芯): 3本に仕立てた枝から、さらにわき芽が伸びて花が咲き、実がつきます。実を収穫する際に、その実がついている枝を葉を1枚残して切り戻す「連続摘芯」を行うと、常に新しい芽が更新され、長期間にわたって収穫を続けることができます 。

ピーマン 🫑
ピーマンは基本的に放任栽培でも育ちますが、摘芯を行うことで株の消耗を防ぎ、安定した収穫が期待できます 。

     

  • 一番果より下から出るわき芽は摘み取ります。
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  • その後は、枝が混み合ってきたら内側に向かって伸びる枝や細い枝を間引く「整枝」が中心となります。
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  • 主枝や側枝の先端は、支柱の高さを超えるなど、管理がしにくくなった場合に摘芯する程度で、積極的な摘芯は不要とされています 。

摘芯で収穫量を増やすコツと注意点

摘芯は、ただ芽を摘めば良いというものではありません。いくつかのコツを押さえることで、その効果を最大限に引き出すことができます。
タイミングが命!
摘芯に最も重要なのはタイミングです。一般的に、作業は「晴れた日の午前中」に行うのが鉄則です。なぜなら、切り口が湿っていると病原菌が侵入しやすくなるため、日中のうちに切り口をしっかり乾燥させることが病気予防につながるからです 。
株の健康状態をチェック 💪
摘芯は植物にとって手術のようなものです。元気のない株や、まだ十分に成長していない若い株に摘芯を行うと、大きな負担となり、かえって生育を阻害してしまいます。葉の色が薄かったり、茎が細かったりする場合は、追肥をして株が元気を取り戻すのを待ってから行いましょう。
一度に切りすぎない ✂️
枝が混んできたからといって、一度にたくさんの枝や葉を切り落とすのは禁物です。光合成を行う葉が急激に減ると、植物はエネルギー不足に陥ってしまいます。剪定は数回に分けて、少しずつ行うのが基本です。

摘芯に使う道具と病気を防ぐポイント

摘芯作業では、病気の感染を防ぐために道具の管理が非常に重要です。特にウイルス病などは、ハサミや作業者の手を介して簡単に広がってしまいます。
清潔なハサミを使おう
トマトやきゅうりの芽など、柔らかい部分は手で摘み取ることができますが、茎が硬い場合や正確に切りたい場合は、清潔な園芸用のハサミを使うのがおすすめです 。手で無理にちぎると、切り口が潰れて傷みやすくなり、病原菌が侵入するリスクが高まります 。
ハサミは、一株ごとに消毒するのが理想です。消毒には以下のような方法があります。

     

  • アルコール消毒: 消毒用エタノールをスプレーしたり、布に含ませて刃を拭います。手軽で効果的な方法です。
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  • 次亜塩素酸ナトリウム液: キッチンハイターなどの家庭用漂白剤を100倍程度に薄めた液に数分間浸します。使用後は錆び防止のため、水でよく洗い流し、水気を拭き取ってください 。
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  • 熱による消毒: ライターやバーナーの火で刃先を炙る方法もありますが、ハサミを傷める可能性があるので注意が必要です。

以下の農研機構のサイトでは、植物ウイルス病の伝染を防ぐための具体的な消毒方法が紹介されており、大変参考になります。
農研機構 ウイルス病診断・防除マニュアル

摘芯後のわき芽の活用法と栄養学的視点

摘芯で摘み取ったわき芽、実は捨ててしまうだけではもったいないものがたくさんあります。また、摘芯という行為が植物の内部でどのような変化を引き起こしているのかを知ると、家庭菜園がさらに奥深くなります。
食べられるわき芽と「挿し木」という裏ワザ 🍽️

     

  • わき芽を食べる: トマトやナスのわき芽は、アクが少なく柔らかいため、天ぷらやおひたし、炒め物などでおいしく食べることができます。採れたての新鮮なわき芽は、栽培している人の特権ともいえるでしょう。
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  • 挿し木で増やす: バジルやトマト、さつまいもなどの植物は、摘芯で切り取った芽(茎)を水や土に挿しておくと、簡単に根付いて新しい株になります。これを「挿し木」といい、同じ性質を持つ株を増やすことができるクローン技術の一種です。特にバジルは、摘芯(収穫)を兼ねてどんどん挿し木をすることで、夏の間じゅう新鮮な葉を楽しむことができます 。

摘芯と植物ホルモンの科学 🔬
摘芯がなぜわき芽の成長を促すのか、その鍵を握っているのが「オーキシン」という植物ホルモンです 。オーキシンは頂芽で盛んに作られ、茎の中を上から下へと移動します。このオーキシン濃度が高い間は、わき芽の成長が抑制されるのです(頂芽優勢)。
摘芯によって頂芽が取り除かれると、オーキシンの供給がストップします。これにより、わき芽を抑制していた”重し”が外れ、今度はサイトカイニンという別の植物ホルモンが活発に働き始め、わき芽が勢いよく成長を開始します。
さらに、摘芯は植物体内の栄養の流れも変化させます。葉で作られた糖などの栄養は、これまでは成長の盛んな頂芽に優先的に送られていましたが、頂芽がなくなることで行き場を失い、果実や他のわき芽へと分配されるようになります。これが、摘芯によって実が大きく甘くなる理由の一つです。この植物内部のダイナミックな変化を想像しながら作業を行うと、日々の観察がより一層楽しくなるのではないでしょうか。

 

 


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