摘芯(てきしん)とは、植物の茎の先端にある成長点(芽)を摘み取る作業のことです 。これは「ピンチ」とも呼ばれ、植物の成長をコントロールし、収穫量を増やすために欠かせない重要な工程です 。
植物には「頂芽優勢(ちょうがゆうせい)」という性質があります。これは、一番てっぺんにある芽(頂芽)が優先的に成長し、脇から出る芽(わき芽、側枝)の成長を抑制するというものです。摘芯によってこの頂芽を取り除くと、頂芽優勢が打破され、これまで抑制されていたわき芽が一斉に成長を始めます 。
参考)摘心・摘芯(てきしん)
🪴 摘芯の主なメリット
🤔 デメリットと注意点
一方で、摘芯には手間がかかるというデメリットもあります。また、やり方を間違えたり、タイミングを逃したりすると、かえって株にダメージを与えてしまい、生育不良を引き起こす可能性もあります。特に、一度に多くの枝を切りすぎると、植物がショック状態に陥ることがあるため注意が必要です。
摘芯の方法や適切な時期は、野菜の種類によって大きく異なります。ここでは、家庭菜園で人気の代表的な野菜について、その方法を解説します。
以下のタキイ種苗のページでは、様々な野菜の栽培方法について図解付きで詳しく解説されており、摘芯作業の参考になります。
タキイ種苗 野菜の育て方・栽培方法
きゅうり 🥒
きゅうりの摘芯は、つるのどの部分かによって方法が変わるのが特徴です 。一般的に、親づる(主茎)が支柱の高さ(約2m)に達したら先端を摘芯します 。
きゅうりの整枝方法は少し複雑ですが、以下の表のようにルールを決めると管理しやすくなります 。
| つるの種類 | 節の位置 | 摘芯の方法 |
|---|---|---|
| 親づる | 支柱の先端 | 先端を摘み取る |
| 子づる | 下部 (5-7節) | 根元からすべて摘み取る |
| 中部 (8-15節) | 葉を2枚残して摘芯 | |
| 孫づる | 株の勢いが弱い時 | 葉を1〜2枚残して摘芯 |
トマト 🍅
トマトは品種(大玉・中玉・ミニ)や仕立て方によって管理が異なります。一般的に、支柱を1本立てて主枝だけを伸ばす「1本仕立て」が多く用いられます。
ナス 🍆
ナスは「3本仕立て」が基本です。一番最初に咲く花(一番果)のすぐ下にある、勢いの良いわき芽2本と主枝の合計3本をメインの枝として育てます 。
ピーマン 🫑
ピーマンは基本的に放任栽培でも育ちますが、摘芯を行うことで株の消耗を防ぎ、安定した収穫が期待できます 。
摘芯は、ただ芽を摘めば良いというものではありません。いくつかのコツを押さえることで、その効果を最大限に引き出すことができます。
タイミングが命! ⏰
摘芯に最も重要なのはタイミングです。一般的に、作業は「晴れた日の午前中」に行うのが鉄則です。なぜなら、切り口が湿っていると病原菌が侵入しやすくなるため、日中のうちに切り口をしっかり乾燥させることが病気予防につながるからです 。
株の健康状態をチェック 💪
摘芯は植物にとって手術のようなものです。元気のない株や、まだ十分に成長していない若い株に摘芯を行うと、大きな負担となり、かえって生育を阻害してしまいます。葉の色が薄かったり、茎が細かったりする場合は、追肥をして株が元気を取り戻すのを待ってから行いましょう。
一度に切りすぎない ✂️
枝が混んできたからといって、一度にたくさんの枝や葉を切り落とすのは禁物です。光合成を行う葉が急激に減ると、植物はエネルギー不足に陥ってしまいます。剪定は数回に分けて、少しずつ行うのが基本です。
摘芯作業では、病気の感染を防ぐために道具の管理が非常に重要です。特にウイルス病などは、ハサミや作業者の手を介して簡単に広がってしまいます。
清潔なハサミを使おう ✨
トマトやきゅうりの芽など、柔らかい部分は手で摘み取ることができますが、茎が硬い場合や正確に切りたい場合は、清潔な園芸用のハサミを使うのがおすすめです 。手で無理にちぎると、切り口が潰れて傷みやすくなり、病原菌が侵入するリスクが高まります 。
ハサミは、一株ごとに消毒するのが理想です。消毒には以下のような方法があります。
以下の農研機構のサイトでは、植物ウイルス病の伝染を防ぐための具体的な消毒方法が紹介されており、大変参考になります。
農研機構 ウイルス病診断・防除マニュアル
摘芯で摘み取ったわき芽、実は捨ててしまうだけではもったいないものがたくさんあります。また、摘芯という行為が植物の内部でどのような変化を引き起こしているのかを知ると、家庭菜園がさらに奥深くなります。
食べられるわき芽と「挿し木」という裏ワザ 🍽️
摘芯と植物ホルモンの科学 🔬
摘芯がなぜわき芽の成長を促すのか、その鍵を握っているのが「オーキシン」という植物ホルモンです 。オーキシンは頂芽で盛んに作られ、茎の中を上から下へと移動します。このオーキシン濃度が高い間は、わき芽の成長が抑制されるのです(頂芽優勢)。
摘芯によって頂芽が取り除かれると、オーキシンの供給がストップします。これにより、わき芽を抑制していた”重し”が外れ、今度はサイトカイニンという別の植物ホルモンが活発に働き始め、わき芽が勢いよく成長を開始します。
さらに、摘芯は植物体内の栄養の流れも変化させます。葉で作られた糖などの栄養は、これまでは成長の盛んな頂芽に優先的に送られていましたが、頂芽がなくなることで行き場を失い、果実や他のわき芽へと分配されるようになります。これが、摘芯によって実が大きく甘くなる理由の一つです。この植物内部のダイナミックな変化を想像しながら作業を行うと、日々の観察がより一層楽しくなるのではないでしょうか。