植物ホルモン一覧高校生物で覚える働きと作用の覚え方

高校生物基礎で学ぶ植物ホルモンの種類と働きを一覧で整理しました。オーキシンやジベレリンなどの作用や、農業現場で役立つ知識、効率的な覚え方まで解説します。複雑なメカニズムをマスターしませんか?

植物ホルモン一覧と高校生物

植物ホルモン完全攻略
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5大ホルモンの基礎

オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、エチレン、アブシシン酸の働きを網羅。

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農業での活用事例

種なしブドウやトマトの着果促進など、現場でのリアルな利用法を解説。

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受容体と環境応答

フィトクロムやフロリゲンなど、光や花芽形成に関わる重要因子もカバー。

農業の現場で日々植物に触れていると、「なぜここで摘芯(ピンチ)をするのか?」「なぜこのホルモン剤を使うのか?」という疑問にぶつかることがあります。その答えの多くは、実は高校生物で習う「植物ホルモン」の基礎知識の中に隠されています。教科書的な暗記項目として敬遠されがちな分野ですが、それぞれのホルモンの役割(キャラクター)を理解し、実際の栽培管理と結びつけることで、知識は生きた技術へと変わります。

 

この記事では、高校生物レベルの基礎知識からスタートし、農業従事者だからこそ知っておきたい応用的なメカニズム、そして最新の研究知見までを深掘りしていきます。単なる用語の羅列ではなく、植物の生理現象を理解するためのガイドとしてご活用ください。

 

植物ホルモンのオーキシンとジベレリンの働き

 

植物ホルモンの中でも、特に「成長」に深く関わるのがオーキシンとジベレリンです。この2つは植物の伸長成長を促進するという共通点がありますが、そのメカニズムや作用する部位には大きな違いがあります。

 

オーキシン:植物の成長を指揮する司令塔
オーキシン(主にインドール酢酸:IAA)は、植物ホルモン研究の歴史の中で最も古く、チャールズ・ダーウィンとその息子フランシスによる「光屈性」の研究が発見の端緒となりました。

 

  • 酸成長説(Acid Growth Hypothesis):

    オーキシンの最も重要な働きは細胞の伸長成長です。オーキシンが細胞膜上の受容体に結合すると、プロトンポンプ(H⁺-ATPase)が活性化され、細胞壁内へ水素イオン(H⁺)が排出されます。これにより細胞壁空間が酸性化し、細胞壁を緩める酵素(エクスパンシンなど)が活性化します。結果として、細胞壁が緩み、細胞内に水が流入して細胞が大きく伸びるのです。

     

  • 最適濃度と感受性:

    オーキシンには器官ごとに「最適濃度」があります。茎の成長を促進する濃度では、根の成長は逆に抑制されてしまうという特徴(濃度阻害)は、グラフ問題として頻出です。根は茎よりも低濃度のオーキシンに感受性が高く、非常に薄い濃度で成長が促進されます。

     

  • 頂芽優勢の維持:

    頂芽(茎の先端)で作られたオーキシンは、重力に従って下方向へ輸送(極性移動)されます。これが側芽(脇芽)の成長を抑制する「頂芽優勢」を引き起こします。農業における「摘芯」作業は、このオーキシンの供給源を断つことで側芽の成長を促し、枝数を増やす技術そのものです。

     

ジベレリン:草丈を伸ばし、種を目覚めさせる
ジベレリンは、日本の植物病理学者である黒沢英一によって、「イネ馬鹿苗病(ばかなえびょう)」の研究から発見されました。菌類が産生する物質として見つかり、後に植物自身も持っていることが判明したという経緯は、日本人として誇らしい科学史の一つです。

 

  • α-アミラーゼの誘導と発芽:

    種子の発芽プロセスにおいて、ジベレリンは決定的な役割を果たします。吸水した種子の胚で合成されたジベレリンは、糊粉層(こふんそう)へ移動し、デンプン分解酵素であるα-アミラーゼの合成を誘導します。これにより胚乳のデンプンが糖に分解され、胚の成長エネルギーとして利用されることで発芽が始まります。

     

  • 単位結果(単為結果)の促進:

    受粉しなくても果実が肥大する現象を単位結果と呼びます。ジベレリン処理を行うことで、ブドウ(デラウェアなど)を種なしにする技術は、この作用を農業利用した代表例です。これを「ジベレリン処理(ジベ処理)」と呼び、開花前と開花後の2回処理することで、無核化(種なし)と果粒肥大を実現しています。

     

カクイチ - 研究論文を読んでみた。植物ホルモン「オーキシン」に関する研究
植物ホルモンのオーキシンがどのように農業生産、特に果樹栽培における落果防止や成長調整に利用されているか、研究視点で解説されています。

 

植物ホルモンのサイトカイニンとエチレンの作用

「成長」を促すホルモンに対して、植物のライフサイクルにおける「成熟」や「老化」、そして細胞の「分裂」を制御するのがサイトカイニンとエチレンです。これらは相反する作用を持つこともあれば、協力して働くこともあります。

 

サイトカイニン:細胞分裂を促し、老化を防ぐ
サイトカイニン(ゼアチンなど)は、主に根の先端で合成され、道管を通って地上部へ運ばれます。オーキシンが細胞の「伸長」を担うのに対し、サイトカイニンは細胞の「分裂」を促進します。

 

  • カルスからの分化(オーキシンとの比率):

    植物組織培養(バイオテクノロジー)の分野では、オーキシンとサイトカイニンの濃度比(C/A比)が重要です。

     

    • サイトカイニン比率が高い場合:茎葉(シュート)の分化が促進される。
    • オーキシン比率が高い場合:発根が促進される。
    • 両者がバランスよく存在する場合:未分化な細胞塊であるカルスが増殖する。

      この原理は、ウイルスフリー苗の生産や、優良品種の大量増殖(メリクロン苗)に不可欠な知識です。

       

  • 老化(セネッセンス)の抑制:

    サイトカイニンには、葉の老化を遅らせ、緑色を保つ効果があります。切り花延命剤などに含まれていることがあり、葉の黄化を防いで鮮度を維持するために利用されます。

     

エチレン:成熟を加速させるガス状ホルモン
エチレンは植物ホルモンの中で唯一の「気体(ガス)」です。メチオニンというアミノ酸から合成され、空気中を拡散して周囲の植物にも影響を与えます。

 

  • 果実の成熟と呼吸のクライマクテリック:

    リンゴやバナナ、メロンなどの果実は、成熟に伴ってエチレン生成量が急増し、呼吸量が一時的に増大します。この現象を「クライマクテリック・ライズ」と呼びます。エチレンは細胞壁を分解する酵素(ポリガラクチュロナーゼなど)や色素合成に関わる酵素を誘導し、果実を柔らかく甘く、色鮮やかに変化させます。

     

  • 離層の形成:

    落葉や落果は、エチレンの働きによって引き起こされます。葉柄の基部に「離層(りそう)」と呼ばれる細胞層を形成させ、植物体から葉や実を切り離します。これは、不要になった器官を捨てたり、種子を散布したりするための重要な生存戦略です。

     

  • エチレンの三重反応:

    暗所で発芽した芽生えにエチレンを与えると、以下の3つの特徴的な変化(三重反応)が起こります。

     

    1. 伸長成長の抑制(背が伸びなくなる)
    2. 肥大成長の促進(茎が太くなる)
    3. 屈曲成長(重力屈性を乱し、横へ曲がる)

      これは、土の中で障害物に当たった芽生えが、障害物を避けて成長するための回避反応と考えられています。

       

横浜市立大学 木原生物学研究所 - 豊かな「食」に貢献する植物ホルモン
植物ホルモンが実際の農業現場で、除草剤や発根促進剤としてどのように応用されているか、専門家の視点で分かりやすく解説されています。

 

植物ホルモンのアブシシン酸と光受容体の覚え方

植物は移動できないため、厳しい環境ストレスに耐える仕組みを持っています。その中心となるのがアブシシン酸と、環境情報をキャッチする光受容体です。

 

アブシシン酸(ABA):植物のストレスセンサー
休眠ホルモン」や「ストレスホルモン」とも呼ばれ、植物が乾燥や低温などの悪条件に遭遇した際に働きます。

 

  • 気孔の閉鎖メカニズム:

    乾燥ストレスを感じると、根や葉でアブシシン酸が合成されます。これが孔辺細胞に作用すると、細胞内からカリウムイオン(K⁺)などが排出されます。浸透圧が低下することで孔辺細胞から水が抜け、膨圧が下がって気孔が閉じます。これにより、蒸散による水分の消失を防ぎます。

     

  • 種子の休眠維持:

    種子が秋に地面に落ちてすぐに発芽してしまうと、冬の寒さで枯れてしまいます。アブシシン酸は種子の発芽を抑制し、休眠状態を維持する働きがあります。春になり、十分な水と温度が得られると、アブシシン酸が分解・流出し、代わりにジベレリンが働くことで発芽がスイッチオンになります。

     

光受容体:ホルモンと連携する「目」
植物ホルモンではありませんが、ホルモンの合成や作用をトリガーする重要なタンパク質が光受容体です。

 

  • フィトクロム(赤色光受容体):

    種子の光発芽や花芽形成(日長反応)に関与します。赤色光(660nm)を吸収するPr型と、遠赤色光(730nm)を吸収するPfr型の間で可逆的に変化します。

     

    • 長日植物短日植物の判定: 夜の長さ(暗期の長さ)を測る体内時計のリセットに関わります。
    • 光中断: 暗期の途中で光を当てると、フィトクロムの状態が変化し、花芽形成が阻害(または促進)される現象です。
  • フォトトロピン(青色光受容体):

    光屈性(オーキシンの移動を制御)や、気孔の開口、葉緑体の光逃避反応(強光を避ける動き)に関与します。

     

効率的な覚え方:対比とイメージ
複雑なホルモンの働きを覚えるには、対比構造を作るのが近道です。

 

項目 促進・誘導 抑制・維持
発芽 ジベレリン (目覚まし時計) アブシシン酸 (睡眠薬)
気孔 サイトカイニン/フォトトロピン (開く) アブシシン酸 (閉じる)
葉・果実 エチレン (落とす/熟す) オーキシン/サイトカイニン (留める/保つ)
側芽 サイトカイニン (伸ばす) オーキシン (抑える=頂芽優勢)

このように、「アクセルとブレーキ」の関係で整理すると、試験でも現場でも判断に迷わなくなります。

 

日本植物生理学会 - 植物が光を感じる仕組み
フィトクロムがどのように光の色(波長)を識別し、遺伝子発現を制御して植物の形態形成に関わっているのか、詳細な分子メカニズムが解説されています。

 

植物ホルモンの農業利用とオーキシンの頂芽優勢

教科書の知識を「現場の技術」に変換しましょう。農業において植物ホルモンは、「植物成長調整剤(植調剤)」として広く利用されていますが、その効果は使用するタイミングや濃度、そして植物の生理状態に厳密に依存します。

 

合成オーキシンの二面性:成長促進と除草剤
オーキシンは成長を促すホルモンですが、高濃度で与えると植物の生理機能を撹乱し、枯死させることができます。

 

  • 除草剤(2,4-Dなど): 合成オーキシンである2,4-Dは、イネ科植物(単子葉類)では速やかに分解されて無毒化されますが、広葉雑草(双子葉類)では体内に蓄積し、異常な成長を引き起こして枯死させます。この「選択的殺草作用」を利用して、水田の除草剤として広く普及しました。
  • 着果促進(トマトトーン): トマトやナス栽培で使用される「トマトトーン」も合成オーキシン(4-CPA)です。花房に散布することで、受粉しなくても子房の肥大を開始させ、実つきを良くします(単為結果の誘導)。

頂芽優勢の打破と仕立て技術
「頂芽優勢」は、植物が上に伸びて光を獲得するための生存戦略ですが、農業では収量を制限する要因にもなります。

 

  • 摘心(ピンチ): 頂芽を切り取ることで、オーキシンの供給源を除去します。すると、それまで抑制されていた側芽(脇芽)内のサイトカイニン濃度が相対的に高まり、側枝が勢いよく伸び始めます。キュウリやメロン、バジルなどの収穫量増加や、盆栽の樹形作りは、このホルモンバランスの人為的な操作に他なりません。
  • 接ぎ木とホルモン移動: 接ぎ木をした際、台木(根)から送られるサイトカイニンと、穂木(茎葉)から送られるオーキシンのバランスが、活着後の成長に大きく影響します。根張りの良い台木を使うと地上部が繁茂するのは、根からのサイトカイニン供給が潤沢になるためとも解釈できます。

エチレンのコントロール:鮮度保持と追熟

  • 鮮度保持剤(1-MCP): エチレン受容体をブロックする薬剤(スマートフレッシュなど)を使用することで、リンゴや柿などの果実のエチレン感受性を低下させ、長期貯蔵を可能にしています。
  • 追熟加工: バナナやキウイフルーツは未熟な状態で収穫・輸入され、倉庫内でエチレンガスを与えることで一斉に熟化(追熟)させてから店頭に並びます。

植物ホルモンの意外な新事実とフロリゲンの正体

生物学の教科書は数年ごとに書き換わっています。かつて「幻のホルモン」と呼ばれた物質の正体が判明したり、新しいホルモンが定義されたりと、研究は進歩し続けています。

 

フロリゲンの正体:FTタンパク質
1930年代に「花芽形成を誘導する物質がある」と予言され、「フロリゲン(花成ホルモン)」と名付けられましたが、その実体は長らく不明でした。しかし、21世紀に入り、日本の研究グループなどの貢献により、その正体がFTタンパク質(Flowering Locus T protein)であることが特定されました。

 

  • 移動の仕組み: 葉で作られたFTタンパク質が、師管を通って茎頂(成長点)へ移動し、そこで花芽形成遺伝子のスイッチを入れることが確認されました。「タンパク質が長距離移動してホルモンとして働く」という事実は、従来の低分子化合物(オーキシンなど)というホルモンの常識を覆す発見でした。

新しい植物ホルモンたち
高校生物の教科書にも、従来の5大ホルモンに加え、新しいホルモンが登場し始めています。

 

  • ブラシノステロイド:

    植物界のステロイドホルモンです。細胞の伸長や分裂、ストレス耐性、道管の分化などに関与します。特に「暗所での茎の伸長」に不可欠であることが分かっています。

     

  • ジャスモン酸:

    虫に葉をかじられると合成される「防御ホルモン」です。揮発性のジャスモン酸メチルとして周囲に拡散し、隣接する植物に「敵が来たぞ」と警報を伝え、防御タンパク質の合成を促すなどのコミュニケーションツールとしても機能します。

     

  • ストリゴラクトン

    枝分かれ(分枝)を抑制するホルモンとして近年注目されています。また、根から分泌され、土壌中のアーバスキュラー菌根菌(共生菌)を呼び寄せる信号となる一方で、寄生植物「ストライガ」の発芽も誘導してしまうという、植物にとって諸刃の剣のような側面を持つ興味深い物質です。

     

植物ホルモンは「単独」では働かない
最新の研究では、一つのホルモンが単独で機能することは稀であり、複数のホルモンが複雑なネットワーク(クロストーク)を形成していることが明らかになっています。例えば、オーキシンはエチレンの合成を誘導したり、ジベレリンとアブシシン酸は拮抗的に働いたりします。

 

農業現場で「天候不順で着果が悪い」「肥料は足りているのに大きくならない」といった現象が起きた時、それは単一の要因ではなく、環境ストレスによってホルモンバランスのネットワークが乱れた結果かもしれません。この複雑な相互作用を理解することこそが、これからの精密農業(スマートアグリ)において重要な鍵となるでしょう。

 

 


植物ホルモンの分子細胞生物学――成長・分化・環境応答の制御機構