野菜の栽培において、種まきの時期や収穫のタイミングを決定づける重要な要素のひとつが「日長(日の長さ)」です。植物には、昼の長さ(正確には夜の長さ)を感じ取って花芽を作る性質を持つものがあり、これを「光周性」と呼びます。
家庭菜園や農業の現場で、「なぜか花が咲かない」「予想外の時期に花が咲いて葉が硬くなってしまった」というトラブルの多くは、この短日植物や長日植物としての性質を理解していないことで起こります。
ここでは、主要な短日植物の野菜を一覧で紹介し、そのメカニズムや栽培上の注意点を深掘りしていきます。
短日植物とは、一般的に「日照時間が一定以下(暗期が一定以上)になると花芽分化が起こる植物」を指します。野菜の場合、花や実を収穫するもの(エダマメなど)にとっては花が咲くことがプラスに働きますが、葉を収穫するもの(シソなど)にとっては花が咲くことで収穫が終了してしまうという、真逆の意味を持ちます。
以下に、日本の家庭菜園で馴染みのある主な短日植物の野菜を挙げます。
参考リンク:タキイ種苗|野菜のメカニズム~花芽分化~(野菜ごとの日長反応の分類について詳しく解説されています)
「短日植物」という名前から、「昼が短いこと」がスイッチになっていると思われがちですが、植物生理学的には「連続した暗期(夜)が長いこと」が花芽形成のトリガーになっています。これを科学的に正確に表現すると「長夜植物」と言うほうが実態に即しています。
このメカニズムにおいて最も注意すべき現象が「光中断(ライトブレイク)」です。
短日植物が「今は夜だ(花芽を作る準備期間だ)」と感じている最中に、たとえ短時間でも光が当たってしまうと、植物は「まだ昼だ(夜が分断された)」と認識してしまいます。これにより、暗期のカウントがリセットされ、花芽分化がキャンセルされてしまう現象です。
対策:
夜間は段ボールを被せたり、不織布や遮光ネットで覆ったりして、完全に光を遮断する時間を作ることで、確実に花芽をつけさせることができます。これを「短日処理(シェーディング)」と呼びます。ポインセチアを赤くするために行われるのが有名ですが、野菜でも応用可能です。
野菜の中でも、キュウリ、カボチャ、スイカ、メロンといった「ウリ科」の植物は、夏野菜の代表格です。これらは一般的に、日長に関係なく温度と株の成長によって花を咲かせる「中性植物」や、長日条件を好むものがほとんどです。
しかし、ウリ科の中に例外的に明確な短日植物が存在します。それが「ハヤトウリ(隼人瓜)」です。
参考リンク:ハヤトウリの花芽 - yoshicomのブログ(ウリ科におけるハヤトウリの特異な短日性について実体験を交えて解説されています)
サツマイモの花を見たことがあるでしょうか?
サツマイモはヒルガオ科に属し、アサガオに非常によく似た可憐な花を咲かせます。アサガオが短日植物であるのと同様に、サツマイモも短日植物です。
しかし、本州の一般的な畑でサツマイモの花を見かけることは稀です。これはなぜでしょうか?
サツマイモが花芽を作るために必要な「限界日長(花芽ができる日照時間の上限)」は、品種にもよりますが、かなり短い(夜が長い)条件を必要とします。
日本の本州では、その条件を満たすほど日が短くなる頃には、気温が下がりすぎてしまい、サツマイモの生育適温を下回ってしまいます。つまり、「日が短くなって花を咲かせたいスイッチが入る頃には、寒すぎて成長が止まっている」ため、花が咲かずに終わるのです。
一方で、気温が高い沖縄県などでは、冬になっても暖かいため、短日条件と生育適温の両方が満たされ、野外で普通にサツマイモの花畑を見ることができます。
本州で品種改良(交配)を行う場合、花が咲かないと種が取れず、新しい品種を作ることができません。そこで、研究機関ではサツマイモを「キダチアサガオ」という植物に接ぎ木することで、ホルモンの影響を利用して無理やり花を咲かせたり、厳密な短日処理を行ったりして、人工的に開花させて交配を行っています。私たちが美味しいサツマイモを食べられる背景には、この「咲かない花を咲かせる」技術があるのです。
参考リンク:ほしいも鶴田|意外と知らない、さつまいものこと(サツマイモが短日植物であるにも関わらず花が咲かないメカニズムについて解説されています)
プロの農家は、この短日植物の性質を逆手に取り、収穫時期をコントロールしています。家庭菜園でも応用できる考え方を紹介します。
対象:エダマメ、黒豆
秋に収穫する晩生(おくて)のエダマメや黒豆は、味が濃厚で美味しいですが、収穫が10月以降と遅くなります。
そこで、夏の間(夕方17時~翌朝7時など)に黒い寒冷紗や遮光シートを被せて「人工的な夜」を作ってあげます。これを2週間程度続けると、植物は「もう秋だ」と勘違いして花芽を作り、通常より早く収穫することが可能になります。
対象:イチゴ、菊、シソ
イチゴの苗作りや、電照菊の栽培が有名です。夜間に電球をつけて明るくしておくことで、花芽分化を遅らせます。
家庭菜園のシソの場合、あえて夜間に玄関の明かりが当たる場所に鉢植えを置くことで、花が咲く(=葉が硬くなり枯れる)のを遅らせ、晩秋まで柔らかい葉を収穫し続けるという「長日処理」的な延命措置も可能です。
このように、「短日植物 一覧 野菜」というキーワードで単純に種類を覚えるだけでなく、「なぜそうなるのか?」という仕組みを理解することで、栽培の失敗を減らし、より自由に野菜作りを楽しむことができるようになります。