三重反応とは植物のエチレンによる成長抑制と肥大と屈曲の仕組み

農作物の苗が太く短くなる三重反応の原因はエチレン?植物ホルモンの不思議な生理作用と農業への影響、貯蔵時の注意点を解説します。あなたの作物は大丈夫ですか?

三重反応のエチレン

三重反応のポイント
🌱
成長の抑制

苗の縦方向への伸びが止まる

💪
茎の肥大

横に太くなり物理的強度が増す

↩️
屈曲反応

重力に逆らわず横方向へ曲がる

三重反応と植物ホルモンエチレンの基礎知識

 

植物の生育において「三重反応(Triple Response)」という現象をご存知でしょうか。これは、植物ホルモンの一種であるエチレンが、植物の芽生え(実生)に対して引き起こす、非常に特徴的な3つの形態変化のことを指します 。特に、豆類(エンドウなど)やシロイヌナズナなどの双子葉植物を暗所で発芽させた際に顕著に現れる反応として知られています 。

 

参考)エチレン - 光合成事典

この現象は1901年、ロシアの植物学者Neljubowによって発見されました。彼は実験室のガス灯から漏れるガスによって、エンドウの芽生えが奇妙な成長をすることに気づきました。その原因物質がエチレンであることを突き止め、以下の3つの変化をまとめて「三重反応」と名付けたのです 。

 

参考)「あなたの果物が腐るのも花が枯れるのも“エチレン”のせいだっ…

農業の現場において、エチレンは「果実の成熟ホルモン」として有名ですが、発芽直後の苗にとっては、土壌という物理的な障害物を乗り越えて地上に出るための重要な生存戦略を担っています。

 

エチレンの作用メカニズムについて、植物学会による詳細な解説記事です。

 

日本植物学会:宇宙から識る植物科学(エチレンと重力応答)

三重反応による苗の成長抑制と肥大のメカニズム

なぜエチレンは、植物の茎を「短く」「太く」するのでしょうか。これには植物細胞の微小管(マイクロチューブル)の配向変化が深く関わっています。通常、植物細胞が縦に伸びるとき、細胞壁のセルロース微繊維は横方向(タガを締めるような方向)に並びます。これにより、細胞は横に膨らむことができず、縦に伸びるしかなくなります。

 

しかし、エチレンが作用すると、この微小管の配列が縦方向に変化します 。すると、セルロース微繊維も縦方向に並ぶようになり、タガが外れたような状態になります。その結果、細胞の内圧によって細胞は横方向に膨張しやすくなり、「肥大成長」が促進されます。同時に、縦方向への伸長は制限されるため、「伸長抑制」が起こります 。

 

参考)https://bsj.or.jp/jpn/general/bsj-review/BSJ-Review11A_1-119.pdf

このメカニズムは、農家にとって以下のような意味を持ちます。

 

  • 苗の徒長防止: 密植や光量不足でヒョロヒョロと伸びてしまった苗(徒長苗)は、病気や風に弱くなります。適度なエチレン作用や物理的ストレス(手で撫でるなどしてエチレンを誘導する)を与えることで、茎が太く丈夫な苗(ずんぐり苗)に仕立てることができます。
  • 物理的強度の獲得: 茎が肥大することで、物理的な圧力に対する耐性が増します。

農研機構によるエチレンと果実成熟、成長制御に関する研究報告です。

 

農研機構:エチレンによる果実の成熟・老化制御機構

三重反応の屈曲作用と農業現場での土壌ストレス

三重反応の3つ目の特徴である「屈曲」は、農業現場における「土壌の状態」と密接に関連しています。自然界において、種子は土の中で発芽します。地上に出るまでの間、芽生えは土壌粒子や石といった障害物に遭遇します。

 

もし、植物が障害物に当たってもそのまま縦に伸びようとすれば、繊細な成長点(頂端分裂組織)が傷ついてしまう恐れがあります。そこで植物は、物理的な接触刺激を受けると体内でエチレンを合成します。このエチレンが三重反応を引き起こし、以下のような回避行動をとらせます 。

  1. 茎を太くする: 押し上げる力を強める。
  2. 伸びるのを止める: 衝突によるダメージを減らす。
  3. 曲がる(フックの形成強化): 成長点を守るために先端を極端に曲げたり(アピカルフック)、障害物を避けるために横方向に成長したりする。

農家の方が「土が硬い圃場」や「覆土が厚すぎた場合」に、発芽した作物の茎が異様に曲がっていたり、太く短くなっていたりするのを見かけることがあるかもしれません。これはまさに、土壌ストレスによって誘導されたエチレンによる三重反応の結果と言えます。

 

反応の種類 通常の発芽(障害物なし) 三重反応(障害物/エチレンあり)
茎の長さ 長く伸びる 短く止まる
茎の太さ 細い 太く肥大する
成長方向 垂直(重力屈性) 水平または不規則(屈曲)
目的 早く光合成を始める 障害物を回避し成長点を守る

三重反応から学ぶ野菜の鮮度保持と貯蔵管理

三重反応は発芽時の現象ですが、この反応を引き起こす「エチレン感受性」の仕組みは、収穫後の野菜や果物の貯蔵管理にも共通しています。三重反応が強く出るということは、その植物がエチレンに対して敏感である(受容体が正常に機能している)ことを意味します。

 

農業従事者にとって、収穫後のエチレン管理は収益に直結する課題です。多くの野菜において、エチレンは「老化ホルモン」として働きます。

 

これらは、芽生えの時期に三重反応を引き起こすのと同じシグナル伝達経路(受容体→CTR1→EIN2→EIN3)を通じ、老化遺伝子のスイッチを入れることで起こります。

 

貯蔵庫での対策:

  • 換気の徹底: エチレンガスは空気よりわずかに軽いため、滞留しないように換気を行います。
  • 混載の禁止: エチレンを大量に放出するリンゴやメロンと、感受性の高い葉物野菜や花きを同じ冷蔵庫に入れないでください。
  • 鮮度保持剤の利用: エチレン作用阻害剤(1-MCPなど)や、エチレン吸着分解剤を使用することで、意図しない老化反応を食い止めることができます 。

    参考)https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/001090387.pdf

三重県農業研究所による、エチレン発生資材を用いた省力化技術の事例です。

 

三重県:エチレン発生資材を用いた薬用樹木カギカズラの収穫調製作業の省力化

三重反応のメカニズムを利用した品種改良の可能性

最後に、三重反応の視点から見た品種改良の最前線について触れます。研究の世界では、シロイヌナズナの変異体を用いた実験で、わざとエチレンを与えても三重反応を示さない個体(エチレン不感受性変異体:ein)や、エチレンがないのに常に三重反応を示してしまう個体(構成的反応変異体:ctr)が見つかっています 。

これらの遺伝子変異の研究は、実際の作物育種に応用されつつあります。

 

  • 日持ちのする品種: エチレン受容体の感度を鈍らせた品種(エチレン不感受性系統)を作出できれば、収穫後に自分が出すエチレンで勝手に熟れすぎたり、腐ったりしない「超・長寿命トマト」や「枯れない花(カーネーションなど)」を作ることができます。
  • ストレス耐性品種: 逆に、エチレン反応を適切に制御することで、乾燥や塩害などの環境ストレスに対して、素早く防御反応(根の肥大など)をとれる強い作物を開発できる可能性があります。

三重反応という一見奇妙な芽生えの姿は、植物が環境に適応し、生き抜くための精巧なセンサーシステムの結果です。この仕組みを理解することは、日々の栽培管理における「苗作り」や「貯蔵」の質を高めるための大きなヒントになるはずです。

 

 


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