ブロッコリーの育て方において、最初の関門であり最大の成功要因となるのが「土作り」です。ブロッコリーは根を深く張り、養分を旺盛に吸収する野菜であるため、通気性と保水性を兼ね備えた土壌環境が不可欠です。農業従事者が特に注意すべきは、土壌酸度の調整と物理性の改善です。
ブロッコリーの好適土壌酸度はpH6.0~6.5です。日本の土壌は雨の影響で酸性に傾きやすいため、植え付けの2週間以上前には必ず苦土石灰を施用して耕うんします。酸性が強い土壌では、アブラナ科野菜の宿敵である「根こぶ病」が発生しやすくなります。逆に、石灰を入れすぎてアルカリ性に傾くと、微量要素の吸収が阻害され、後述する生理障害の原因となるため、土壌診断に基づいた適正量の施用が求められます。
根が直根的に伸びるため、作土層は深く(25cm以上)確保します。排水不良は根腐れや病害の温床となるため、水はけの悪い圃場では、高さ15cm~20cmの高畝にします。これにより、長雨時の滞水を防ぎ、根圏の酸素不足を解消できます。
土壌の団粒構造を維持するために、完熟堆肥(牛糞堆肥など)を10アールあたり2~3トン投入します。未熟な有機物は、分解過程でガスを発生させたり、害虫(タネバエなど)を誘引したりするため、必ず完熟したものを使用してください。
プロの視点では、単に肥料を入れるだけでなく、根がストレスなく伸長できる「物理性」と、養分を適切に保持・供給できる「化学性」の両立が、秀品率向上の鍵となります。
農家が教えるブロッコリーの栽培方法|マイナビ農業
プロの農家が実践する土作りから収穫までの基本的な流れと、大規模栽培におけるポイントが網羅されています。
ブロッコリーは「肥料食い」と呼ばれるほど多くの養分を必要とする作物です。初期生育を確保しつつ、花蕾形成期に肥料切れを起こさない施肥体系が求められます。特に、元肥と追肥の役割分担を明確にすることが重要です。
全施肥量の約6割~7割を元肥として施用します。窒素、リン酸、カリのバランスはもちろんですが、初期生育をスムーズにするために、肥効が長く続く緩効性肥料と、速効性の化成肥料を組み合わせるのが一般的です。過剰な窒素は、葉ばかりが茂る「過繁茂」や、病害抵抗性の低下を招くため、品種や作型に応じた施肥設計が必要です。
苗の老化は活着不良(根付きの悪さ)の原因となります。本葉4~5枚の適期苗を使用し、植え穴には事前に十分に潅水しておきます。深植えは地際部の腐敗を招くため、セルトレイやポットの土の表面が、畝の表面と同じか、やや高くなる程度の「浅植え」を心がけます。定植直後は、乾燥を防ぐために再度たっぷりと水を与え、活着を促進させます。
残りの3割~4割の肥料を追肥で補います。
ボトニング(早期出蕾)のメカニズムと対策|タキイ種苗
肥料切れや低温遭遇による生理障害「ボトニング」の原因と対策について、種苗メーカーの専門的な解説があります。
アブラナ科であるブロッコリーは、害虫にとって格好の餌食です。特に商品価値を大きく損なう食害を防ぐためには、物理的防除と化学的防除(農薬)の適切な組み合わせ(IPM:総合的病害虫・雑草管理)が不可欠です。
定植直後から収穫終了まで、防虫ネットや寒冷紗でトンネル被覆を行うのが最も確実な方法です。アオムシ(モンシロチョウの幼虫)やコナガ、ヨトウムシなどの侵入を防ぎます。特にコナガは薬剤抵抗性を持ちやすいため、物理的に産卵させないことが重要です。ネットの目合いは1mm以下推奨ですが、細かいほど通気性が悪くなり温度が上昇するため、高温期は0.8mm~1.0mm程度を選定します。裾をしっかり土で埋め、隙間を作らないことが鉄則です。
キク科のレタスやシュンギクを混植することで、害虫の忌避効果が期待できるという報告もありますが、営利栽培では管理作業の妨げになる場合があるため、圃場の条件に合わせて検討します。
ブロッコリーの生理障害・病害虫対策PDF|朝日アグリア
具体的な病害虫の写真と、それに対応した耕種的防除・薬剤防除のガイドラインが詳細にまとめられています。
ブロッコリーの収穫は、「花蕾が硬く締まっている状態」を見逃さないことが全てです。市場評価の高い高品質なブロッコリーを出荷するためには、適切な時期に、適切な方法で収穫する必要があります。
花蕾の直径が12cm~15cm程度になり、つぼみの一つ一つが固く締まり、粒子が揃っている状態がベストです。収穫が遅れると、つぼみが緩んで黄色い花が見え始めたり、花蕾の間に隙間ができたりして、商品価値が著しく低下します。また、気温が高い時期は成長が早いため、毎日圃場を巡回し、適期を逃さないようにします。早朝、気温が上がる前に収穫することで、鮮度を長く保つことができます。
包丁やナイフを使用し、花蕾の下10cm~15cm程度の茎をつけて切り取ります。茎も甘みがあり可食部として扱われるため、長めに残すのが一般的です。切り口は水平ではなく、少し斜めに切ることで、雨水が溜まりにくくなり、切り口からの腐敗(軟腐病など)のリスクを低減できます。
頂花蕾(メインのブロッコリー)を収穫した後、葉の付け根から「脇芽(側花蕾)」が出てくる品種があります(「ハイツSP」や「緑嶺」など)。これらを収穫し続けることで、長期間にわたり収益を上げることが可能です。
ブロッコリーの収穫と茎ブロッコリーの管理|シェア畑
収穫後の脇芽の管理方法や、茎ブロッコリー(スティックセニョール)との違いについて分かりやすく解説されています。
多くの栽培マニュアルでは見落とされがちですが、プロの農家にとって最も恐ろしいのが「生理障害」によるB品・廃棄ロスの発生です。特にブロッコリーは微量要素欠乏に敏感で、中でも「ホウ素欠乏」は茎の空洞化を招き、致命的な品質低下を引き起こします。
茎の中心部が空洞になり、場合によっては黒変して腐敗する症状です。これは窒素過多による急激な成長に、細胞壁の形成に必要なホウ素の供給が追いつかない場合に発生します。また、土壌中にホウ素があっても、乾燥によって根からの吸収が阻害されることでも起こります。
花蕾の一部が水浸状になり、後に褐色に変色して腐敗する症状です。これもホウ素欠乏や、高温多湿、カルシウム不足が複合的に関与しています。花蕾形成期にホウ素の葉面散布(0.2%~0.3%溶液)を行うことで、直接花蕾に微量要素を供給し、予防効果を高めることができます。
花蕾の表面に凹凸ができ、猫の目のようになる現象です。乾燥や肥料切れ、極端な低温が原因とされています。生育後半のスタミナ切れを防ぐ適切な追肥管理が予防につながります。
これらの生理障害は、発生してからの治療は不可能です。土作り段階での微量要素投入と、生育中の適度な水分管理、そして葉面散布による「予防的防除」こそが、秀品率100%を目指すプロの技術と言えます。
ブロッコリーに起きる6つの生理障害と対策|note
写真付きで生理障害の症状と原因が解説されており、現場での診断に役立つ実践的な情報です。