キク科アレルギー、特に秋に飛散するブタクサ花粉症をお持ちの方が最も警戒しなければならないのが、交差反応による食物アレルギーです。交差反応とは、花粉のアレルゲン(タンパク質)の構造と似ているタンパク質を持つ果物や野菜を食べた際に、体が「花粉が侵入してきた」と勘違いしてアレルギー反応を起こす現象を指します。
ブタクサ花粉症の患者さんにとって、食べてはいけないもの、あるいは食べる際に注意が必要な代表的な食材は「ウリ科」の植物です。
これらの食材には、ブタクサ花粉と共通する抗原性が認められています。夏場に冷えたスイカやメロンは大変美味しいものですが、キク科アレルギーの方がこれらを食べた直後に、唇が腫れたり、喉の奥がイガイガしたりする症状が出ることがあります。これを口腔アレルギー症候群(OAS)と呼びます。
また、ウリ科以外にも、バナナ(バショウ科)に対しても交差反応を示すケースが報告されています。朝食のヨーグルトにバナナを入れたり、スムージーにして生のまま摂取したりすることは、健康に良いとされる一方で、ブタクサ花粉症の方にはリスクとなる可能性があるのです。
重要なのは、これらの反応の多くが「生の果物や野菜」で起こりやすいという点です。原因となるタンパク質の一部は熱に弱いため、加熱調理することで食べられるようになるケースもありますが、重篤な反応を示した経験がある場合は、自己判断せず医師の指導に従うことが鉄則です。
キク科花粉症と果物の関連性について、日本アレルギー学会が提供するQ&Aページでは、ブタクサ花粉症とウリ科果物の関連について専門的な知見が記載されています。
日本アレルギー学会:花粉症の人が果物を食べると口の中がかゆくなりますが、なぜですか?
キク科植物の中でも、ブタクサと並んで主要なアレルゲンとなるのが「ヨモギ」です。ヨモギ花粉症の方が食べてはいけないもの、あるいは注意すべき食材の範囲は、ブタクサとは少し傾向が異なります。これを専門的には「ヨモギ・セロリ・スパイス症候群」と呼ぶこともあり、特定の野菜や香辛料への反応が特徴的です。
ヨモギ花粉症の方が特に注意すべき食材リストは以下の通りです。
特にセロリやニンジンは、サラダやスティック野菜として生のまま食べることが多いため、口腔アレルギー症状を引き起こしやすい食材です。「野菜スティックを食べたら喉が痒くなった」という経験がある場合、それは単なる体調不良ではなく、背景にあるヨモギ花粉症が原因である可能性が高いのです。
さらに見落としがちなのが、マンゴーです。マンゴーはウルシ科の植物ですが、ヨモギ花粉のアレルゲンと構造が似ているため、アナフィラキシーショックなどの重い症状につながることがあります。南国フルーツとして人気がありますが、キク科アレルギーの自覚がある方は、初めて食べる際や体調が悪い時には避けるのが無難です。
また、ヨモギ自体も和菓子(草餅など)や天ぷらとして食される機会があります。ヨモギ花粉症の人がヨモギそのものを食べることは、アレルゲンを直接体内に取り込む行為に他なりません。加熱してあれば大丈夫なことも多いですが、微量の成分で反応することもあるため、ヨモギ餅やヨモギ茶の摂取には細心の注意が必要です。
食物アレルギーと花粉症の複雑な関係については、藤田医科大学のアレルギーセンターの資料が非常に参考になります。
藤田医科大学 アレルギーセンター:花粉症と食物アレルギー Q&A
「健康のためにハーブティーを飲む」という習慣は素晴らしいものですが、キク科アレルギーの方にとっては、これが命取りになることがあります。実は、ハーブティーとして親しまれている植物の多くがキク科に属しています。
最も注意すべきはカモミール(カミツレ)です。
カモミールティーはリラックス効果や安眠効果で人気がありますが、これはキク科の植物そのものです。花粉症による交差反応(似ているから反応する)ではなく、アレルゲンそのものを濃縮して飲んでいることになります。そのため、口腔アレルギー症候群のような軽い症状にとどまらず、全身の蕁麻疹や呼吸困難、最悪の場合はアナフィラキシーショックを引き起こす事例が数多く報告されています。
カモミール以外にも、以下のハーブティーや健康食品には注意が必要です。
特に「ノンカフェインだから安心」と思って、妊娠中や就寝前にこれらのハーブティーを選ぶ方がいますが、キク科アレルギーの方にとってはカフェイン以上にリスクが高い飲み物と言えます。
市販のブレンドティーには、「ハーブエキス」としてこれらが微量に含まれていることがあります。成分表示を必ず確認し、「キク科」の植物が含まれていないかチェックする癖をつけることが、身を守るための第一歩です。
キク科アレルギーに関連して「食べてはいけないもの」を摂取してしまった場合、どのような症状が現れるのでしょうか。最も一般的なのが口腔アレルギー症候群(OAS)です。
主な症状:
OASの特徴は、原因となる食物を食べてから15分以内という短時間で症状が現れることです。多くの場合、生の果物や野菜に含まれるアレルゲンは消化酵素や胃酸に弱く、また不安定なため、口の中で反応が起きても胃に届く頃には分解され、全身症状に至ることは比較的少ないとされています。
しかし、「たかが口の痒み」と侮ってはいけません。大量に摂取したり、体調が悪かったり、あるいはカモミールティーのようにアレルゲンを直接摂取した場合は、重篤なアナフィラキシーに進行する可能性があります。
正しい対処法:
特にキク科アレルギーの場合、花粉の飛散時期(夏〜秋)に、交差反応を起こす食べ物を食べると症状が強く出ることが知られています。花粉症の症状がひどい時期は、メロンやスイカ、ハーブティーなどを意識的に避けるのが賢明な判断です。
最後に、一般的にはあまり知られていない、しかしキク科アレルギーの方が日常生活で陥りやすい意外な落とし穴について解説します。それは「カレー」と「オーガニック化粧品」です。
① カレーとスパイスの罠
先述の「ヨモギ・セロリ・スパイス症候群」に関連しますが、カレーに使われるスパイスの多くはセリ科などの植物です。これらはヨモギ花粉と強い交差反応を示します。
これらのスパイスはカレーの香りの中心となる成分です。市販のカレールーや、本格的なスパイスカレーを食べた後に、なんとなく気分が悪くなったり、口の中が痒くなったりしたことはありませんか?
「辛いから刺激で痒いのだろう」と勘違いされがちですが、実はスパイスに対するアレルギー反応である可能性があります。特に本格的なインド料理店などで使用されるスパイスの量は多いため、反応が出やすくなります。
② オーガニック化粧品の盲点
「敏感肌用」「オーガニック」「自然派」を謳う化粧品やシャンプー、ボディクリームには、植物エキスがふんだんに使われています。ここにもキク科の植物が潜んでいます。
「肌に優しい」はずの成分が、キク科アレルギーの人にとっては「肌荒れの原因」になるという皮肉な事態が起こり得ます。皮膚からアレルゲンが吸収される(経皮感作)ことで、アレルギー症状が悪化したり、新たな食物アレルギーを引き起こす(茶のしずく石鹸事件のようなメカニズム)リスクもゼロではありません。
化粧品の成分表示を見て、上記のような植物エキスが含まれていないか確認することをお勧めします。
③ 意外な「春菊」と「レタス」
灯台下暗しですが、春菊(シュンギク)やレタス、サンチュもキク科の野菜です。これらは花粉との交差反応ではなく、キク科植物そのものです。
春菊は鍋料理で加熱して食べることが多いため症状が出にくい場合もありますが、生春巻きやサラダで生の春菊を食べる際は注意が必要です。レタスでアレルギー反応が出ることは比較的稀ですが、レタスの芯から出る白い乳液状の成分(ラクチュコピクリン)に触れて手がかぶれる接触皮膚炎を起こすことがあります。
このように、「食べてはいけないもの」は単なる果物や野菜リストにとどまらず、日々の食事のスパイスや、肌に触れる化粧品にまで及んでいます。正しい知識を持ち、成分表示を確認する習慣をつけることが、キク科アレルギーと上手に付き合い、健康を守るための最大の防御策となります。