レタスを切ったときに芯(茎の切り口)からにじむ白い液体は、一般に「乳液(サップ)」として説明され、レタスが傷ついた際の保護に関係する体液のようなものとして扱われます。
栽培・出荷の現場感覚としても「新鮮なほど乳液が多い」という説明がされており、収穫直後の個体ほど切り口に白い液が目立つことがあります。
この乳液が苦いのは、ポリフェノールの一種と説明される「ラクチュコピクリン」が関係するとされ、苦味の主因として語られることが多いです。
また、切り口が赤紫〜赤褐色っぽく変色する現象は、乳液が空気に触れて酸化し、時間経過で色が変わるためだと解説されています。
農業従事者目線では、ここが重要ポイントです。
- 乳液がよく出る=必ずしも「悪い」ではなく、切り口の乾燥・保護が進む途中のサインとしても見られます。
- ただし乳液が多い個体は、苦味の体感が強まりやすく、飲食店・加工先では敬遠される場合があります(「苦い」「えぐい」と表現されやすい)。
- 収穫後の取り扱い(切り口を乾かす、温度を上げない、余計な傷を増やさない)が、見た目と食味の両面で効きます。
ラクチュコピクリンは、化学的分類としてはセスキテルペンラクトンに分類される化合物としてまとめられています。
この成分はワイルドレタス由来の「ラクチュカリウム(lactucarium)」の構成物質の一つとして説明され、関連植物のチコリー(Cichorium intybus)からも見つかるとされています。
つまり「レタスだけの話」に見えて、キク科の近縁野菜・食材(チコリーなど)にもつながる論点で、苦味の“系統”を理解すると作型や品種選定の説明がしやすくなります。
一方で、一般向け解説では「レタスの白い乳状の液体に含まれる苦味成分」として、ラクチュコピクリンが紹介されることが多く、産地PRや食育でも使いやすい語彙です。
現場での使いどころ(説明の型)を、あえて“農家の言葉”に翻訳すると次の通りです。
ラクチュコピクリン類は、葉よりも乳液(サップ)に圧倒的に多い、という指摘があります。
医療機関の解説では、収穫直後でサップが多いほどラクチュコピクリン類の曝露が増え、接触性皮膚炎を起こしやすくなる可能性があると説明されています。
さらに同ページでは、湿重量あたりの含量例として「乳液、芯、葉」で大きな差がある旨が引用され、葉に比べて乳液中に著しく偏って存在することが示されています。
農作業の安全衛生として、ここは“見落としがちだけど効く”ポイントです。
乳液が多い・切り口が変色する、といった現象は「品質が悪い」よりも「切り口の状態が変化している」ことを示す場合があり、時間経過と酸化が関係するという説明があります。
そのため、収穫後の工程で「切り口を必要以上に増やさない」「余計な裂けを作らない」「温度ストレスを抑える」といった基本が、見た目の苦情(芯の赤褐色化)と食味のぶれ(苦味の立ち上がり)を同時に抑える方向に働きます。
また、自治体の紹介ページでも、茎や葉を切ったときに出る白い液体にラクチュコピクリンが含まれることが説明されており、産地説明・店頭POPにも転用しやすい情報です。
出荷先別に、説明と調整の勘所を整理します。
一般向け記事では、ラクチュコピクリンに「鎮静作用・睡眠作用がある」といった説明が添えられることがあります。
一方、研究の世界では、ラクチュコピクリンが炎症シグナル(NF-κB)に関わる可能性を示す報告があり、たとえばTNFα誘導の炎症モデルでNF-κB拮抗作用が示された、とする論文が公開されています。
さらに別の研究として、内皮細胞のNF-κB活性化を抑える方向のデータや、マウスモデルでの評価に触れる論文もあり、「苦味成分=ただ苦いだけではない」という理解を補強できます。
農業従事者向けに“独自視点”として提案したいのは、ここを販路設計に使う発想です。
研究引用(必要に応じて本文から参照)
・炎症モデルでのラクチュコピクリンのNF-κB拮抗作用に関する論文:A Sesquiterpene Lactone with Anti-Inflammatory Activity (lactucopicrin, J. Med. Chem.)
・内皮細胞NF-κB活性化やマウスモデルに触れる論文:Natural lactucopicrin alleviates importin-α3-mediated NF-κB activation (Biochemical Pharmacology)
参考)https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0006295221000976
権威性のある日本語の参考リンク(用語の誤記・名称の確認)
・「ラクッコピコリン」など誤った呼び方の整理と、正しい名称「ラクチュコピクリン」への誘導:日本植物生理学会 みんなのひろば(ラクッコピコリンの名称)
参考)ラクッコピコリンの名称