口腔アレルギー症候群(OAS)は、特定の果物や野菜を生で食べた直後に口の中や喉に症状が現れるアレルギー反応です。この症状は花粉症患者に多く見られ、花粉のアレルゲンと食物のアレルゲンの構造が似ているために起こる「交差反応」が原因となります。以下に花粉の種類ごとに交差反応を起こす食べ物を示します。
参考)食物アレルギーの一種 口腔アレルギー症候群|食物アレルギー5…
| 花粉の種類 | 原因となる果物・野菜 |
|---|---|
| シラカンバ・ハンノキ | バラ科(リンゴ、モモ、サクランボ、西洋ナシ、スモモ、ビワ、アンズ、アーモンド)、セリ科(セロリ、ニンジン)、ナス科(ジャガイモ)、マタタビ科(キウイ)、カバノキ科(ヘーゼルナッツ)、ウルシ科(マンゴー) |
| スギ・ヒノキ | ナス科(トマト)、ウリ科(メロン、スイカ)、マタタビ科(キウイ) |
| ヨモギ | セリ科(セロリ、ニンジン)、ウルシ科(マンゴー)、各種スパイス |
| イネ科 | ウリ科(メロン、スイカ)、ナス科(トマト、ジャガイモ)、マタタビ科(キウイ)、ミカン科(オレンジ)、マメ科(ピーナッツ) |
| ブタクサ | ウリ科(メロン、スイカ、ズッキーニ、キュウリ)、バショウ科(バナナ) |
シラカンバ花粉症患者は特に口腔アレルギー症候群を発症するリスクが高いとされています。また、ラテックス(ゴム)アレルギーの方は、アボカド、キウイフルーツ、バナナ、パイナップル、栗などを食べた際にも症状が出ることがあります。
参考)食物アレルギー・仮性アレルゲン・口腔アレルギー症候群|曙橋駅…
口腔アレルギー症候群の主な症状は、食べた直後から15分以内に現れる唇の腫れ、舌や喉の痛み・かゆみ・不快感です。多くの症例では30~60分で症状が自然に消失し、口腔内に限局することが特徴です。
参考)アナフィラキシー その病態と対処法を知る
しかし注意すべき点として、原因食物を大量に摂取した場合や個人の体質によっては、蕁麻疹、呼吸困難、腹痛、下痢などの全身症状に進行することがあります。さらに重症化すると、血圧低下や意識消失を伴うアナフィラキシーショックに至る可能性もあり、生命の危険を伴うケースも報告されています。
参考)http://www.doyaku.or.jp/guidance/data/H21-16.pdf
特にシラカンバ花粉関連の口腔アレルギー症候群は、他の植物によるものと比較して口腔咽頭症状が高頻度で出現する一方、蕁麻疹や喘息、胃腸症状は比較的低頻度であることが知られています。過去にアナフィラキシーの既往がある方は、アドレナリン自己注射薬(エピペン)の携帯と早期投与が重要です。
参考)https://www.med.kobe-u.ac.jp/pediat/pdf/ninchoji12.pdf
口腔アレルギー症候群の最も効果的な対策は、原因となる食物を避けることですが、加熱調理によって摂取可能になるケースが多くあります。果物や野菜に含まれるアレルゲンの多く、特にシラカンバやハンノキ花粉症に関連するBet v 1ホモログやブタクサに関連するプロフィリンは熱に不安定な性質を持っています。
参考)特殊な食物アレルギー/Q&A|一般社団法人日本アレルギー学会
具体的には、リンゴのジャムやソース、缶詰の果物、加熱調理された野菜などは、原因食物であっても症状なく食べられることが多いです。ただし、アレルギー症状には個人差があるため、加熱調理したものを初めて試す際は少量から始め、主治医と相談しながら進めることが推奨されます。
参考)生の果物で口の中が痒くなる口腔アレルギー症候群
近年のガイドラインでは、以前は生の果物を完全除去するよう推奨されていましたが、現在はある程度の量であれば口や顔の症状だけに留まる場合は食べてもよいとされています。花粉飛散時期のみ症状が出る場合は、その時期だけ原因食物を避け、花粉症の薬物治療やアレルゲン対策によって口腔アレルギー症候群の症状も軽快することがあります。
参考)「果物で口の中がかゆい時どうしたらいいの?」 口腔アレルギー…
口腔アレルギー症候群における交差反応は、花粉のアレルゲンと果物・野菜のアレルゲンが分子レベルで構造が似ているために起こります。花粉症の患者は、花粉のアレルゲンに対するIgE抗体を持っており、構造が似たアレルゲンを含む生野菜や果物を食べると、体が「花粉が侵入してきた」と誤認してしまいます。
参考)口腔内アレルギー症候群(OAS)
この交差反応のメカニズムは、見た目が全く異なる物質であっても、成分レベルでアレルギー物質が非常に似ている場合、免疫システムが同じアレルゲンと認識してしまうことで発生します。シラカンバやハンノキ花粉症では「Bet v 1ホモログ」というタンパク質が、スギ花粉症では「Polygalacturonase」が、ブタクサ花粉症では「プロフィリン」が交差反応の原因物質となっています。
参考)交差反応と食物アレルギー|サプリメントのヘルシーパスブログ
このタイプの食物アレルギーは、経粘膜・経気道感作後に発症するため、学童期以降や成人に多く見られる特徴があります。また、口腔粘膜に食物が直接触れることでアレルギー反応が起こるため、症状が主に口腔内に限局することが多いのです。
参考)口腔アレルギー症候群のご相談は神戸市東灘区の「谷尻医院」へ
農業従事者は作業中に植物体に直接触れる機会が多く、口腔アレルギー症候群の原因となる花粉や植物アレルゲンに曝露されるリスクが高い環境にあります。特にナス科作物(トマト、ジャガイモ、ナス)を栽培する際、植物体に含まれるアレルゲンタンパク質に触れることで、口腔アレルギー症候群や接触性皮膚炎を発症する可能性があります。
参考)ナス科アレルギー症状の全貌!花粉症や皮膚炎との関係
農作業関連アレルギーは典型的な環境性疾患であり、作業形態や環境の改善が予防の基本となります。具体的な対策として、長袖や手袋を着用して直接植物体に触れないようにすること、作業後の洗顔・手洗い・洗濯を徹底することが重要です。また、すでにアレルギーを持っている方は、抗アレルギー剤の予防的投与や定期的なアレルギー健診(皮内テスト、パッチテスト)を実施することで、予防対策を策定できます。
参考)https://dbarchive.biosciencedbc.jp/yokou/pdf/2007/200701996330001.pdf
意外な情報として、無農薬栽培されたリンゴなどの作物は、害虫や病原菌などのストレスにさらされることで植物防御タンパク質が増加し、結果的にアレルゲン量が増える可能性が指摘されています。ただし、これは花粉症や口腔アレルギー症候群を直接悪化させるというよりも、作物の品質管理の観点から留意すべき点です。農業従事者は自身の花粉症やアレルギー体質を把握し、栽培品目の選定や作業環境の整備に活かすことが推奨されます。
参考)無農薬でアレルギー増加ってホント?
日本アレルギー学会の特殊な食物アレルギーに関する詳しい情報
農林水産省による特別栽培農産物の表示ガイドライン(PDF)