生物的防除の具体例と天敵活用!IPMで農薬減らすメリットと導入

農薬散布の回数を減らしたいと感じていませんか?生物的防除の導入は、薬剤抵抗性への対策や労働時間の削減に繋がります。この記事では、天敵や微生物を利用した具体的な成功事例と、失敗しない導入のコツを解説します。あなたの畑でも天敵たちが働き始めてみませんか?
生物的防除の導入ガイド
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天敵利用のメリット

薬剤抵抗性のリスクがなく、散布労力を大幅に削減可能

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微生物農薬の活用

環境負荷が低く、収穫直前まで使える安全な防除手段

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IPM(総合的病害虫管理)

化学農薬と生物的防除を賢く組み合わせるハイブリッド戦略

生物的防除の具体例

生物的防除の基礎知識!天敵や微生物を活用するメリットとデメリット

 

農業における「生物的防除(Biological Control)」とは、害虫の天敵となる昆虫や微生物の力を借りて、作物を加害する害虫の密度を経済的な被害が出ないレベル(要防除水準以下)に抑える防除技術のことです。従来の化学農薬に頼り切った防除体系からの脱却を目指す現代農業において、非常に重要な役割を担っています 。

 

参考)病害虫防除の基本技術と実践方法【完全ガイド2025年版】 -…

生物的防除には大きく分けて以下の3つの種類があります。

 

  • 捕食性天敵: 害虫を食べてしまう虫(例:テントウムシ、カブリダニ、タバコカスミカメなど)
  • 寄生性天敵: 害虫の体内に卵を産み付け、内部から食い殺す虫(例:アブラバチ、コマユバチなど)
  • 微生物農薬: 害虫に病気を起こさせる細菌やカビ、ウイルス(例:BT菌、ボーベリア菌など)

これらの生物的防除資材を導入する最大のメリットは、化学農薬につきものである「薬剤抵抗性」の問題を解決できる点です。同じ薬剤を使い続けると害虫は耐性を持ちますが、天敵に食べられることに対して耐性を持つことは極めて困難だからです 。また、一度定着すれば天敵が勝手に増殖して害虫を退治し続けてくれるため、農薬散布にかかる重労働や時間を大幅に削減できる可能性も秘めています。さらに、化学物質の残留リスクがないため、消費者の「食の安全」への関心に応えるブランディングにも繋がります。

一方で、無視できないデメリットや課題も存在します。

 

特徴 化学的防除(化学農薬) 生物的防除(天敵・微生物)
即効性 非常に高い(撒いてすぐ効く) 低い(効果が出るまで時間がかかる)
対象範囲 幅広い害虫に効くものが多い 特定の害虫にしか効かない(特異性が高い)
環境耐性 気象条件に左右されにくい 温度や湿度に敏感で活動が鈍る場合がある
コスト 比較的安価 初期導入コストが高くなる傾向がある
管理難易度 マニュアル通りで比較的容易 生態系の知識と観察眼が必要

このように、生物的防除は「投入すれば即座に全滅させる」ような魔法の杖ではありません 。あくまで生態系のバランスを利用して害虫を抑制する技術であるため、導入には事前の学習と、農薬とは異なる管理ノウハウが必要です。しかし、これらの特性を理解し、適切に運用できた時のリターン(省力化・品質向上)は計り知れません。

 

参考)生物的防除とは?

農林水産省:総合防除(IPM)の推進について
総合防除(IPM)の推進について - 農林水産省

生物的防除の代表的な具体例!施設園芸での導入と成功へのステップ

生物的防除が最も進んでいるのは、環境をコントロールしやすいハウス栽培(施設園芸)の分野です。ここでは、実際に現場で広く行われている具体的な成功事例と、導入のステップを見ていきましょう。特に「天敵製剤」として市販されているものを利用するケースが一般的です 。

 

参考)https://cococara.jp/article/pest_management

ケース1:イチゴ栽培におけるハダニ対策(カブリダニ類)

イチゴ栽培において最大の敵とも言えるハダニ類。これに対しては、「チリカブリダニ」や「ミヤコカブリダニ」といった捕食性ダニの導入がスタンダードになりつつあります。

 

  • 導入のポイント: ハダニが大発生してからでは手遅れです。ハダニの姿がチラホラ見え始めた初期段階、あるいは予防的にカブリダニを放飼します。
  • 効果: チリカブリダニはハダニ専食で捕食能力が高く、スポット的な多発地点を制圧します。一方、ミヤコカブリダニは花粉なども食べて飢えに強く、長期的にハウス内に定着して待ち伏せ効果を発揮します。これらを組み合わせることで、シーズンを通して化学農薬の散布回数を激減させることが可能です 。​

ケース2:ナス・ピーマンにおけるアザミウマ・コナジラミ対策(微小カメムシ類)

ナスやピーマンでは、微小な害虫であるアザミウマ類やコナジラミ類が深刻な被害をもたらします。これらには「タイリクヒメハナカメムシ」や「タバコカスミカメ」といった天敵が有効です 。

 

参考)https://www.inaho.co/news/news-item/4711

  • 導入のポイント: これらの天敵は、害虫がいない時期でも植物質(花粉など)を食べて生き延びることができますが、作物を加害するリスクもゼロではありません。そのため、適切な管理密度を保つことが重要です。
  • 成功の鍵: バンカープランツ(後述)と組み合わせて、天敵が住みやすい環境をハウス内に人工的に作り出すことで、防除効果が安定します。

ケース3:クリタマバチの防除(チュウゴクオナガコバチ)

これは施設園芸ではありませんが、日本の農業史に残る伝説的な成功事例です。クリの芽に寄生して枯らすクリタマバチに対し、天敵である「チュウゴクオナガコバチ」を中国から導入・放飼しました。その結果、たった1回の導入で天敵が日本国内に定着し、約40年以上にわたって防除効果が持続しています 。これは「古典的生物的防除」と呼ばれ、一度定着すれば追加のコストがほぼかからない究極の持続可能モデルです。

 

参考)(研究成果) 1回の天敵昆虫導入でクリの侵入害虫による被害防…

生物的防除を成功させるための3つのステップ

  1. モニタリング(予察):

    粘着板やフェロモントラップを設置し、害虫の発生状況を毎日チェックします。「いつ」「どこで」「どのくらい」発生しているかを正確に把握することが、天敵投入のタイミングを決める命綱です 。

     

    参考)IPM(総合的病害虫・雑草管理)の実践指標を策定しました -…

  2. タイミングを見極めた放飼:

    「害虫が増えてから」では天敵の繁殖が追いつきません。害虫の発生初期、あるいは発生直前に天敵を導入するのが鉄則です。これを「ゼロ放飼」や「予防的放飼」と呼びます。

     

  3. 環境調整(住処の提供):

    天敵が活動しやすい温度(一般的に20〜25℃前後)を維持し、化学農薬の散布を控えるなど、天敵に優しい環境を整えます。

     

農研機構:天敵昆虫導入によるクリタマバチ防除の成果
(研究成果) 1回の天敵昆虫導入でクリの侵入害虫による被害防除効果 ...

生物的防除とIPMの連携!薬剤抵抗性対策としての化学農薬との併用

生物的防除を導入するからといって、化学農薬を完全に捨て去る必要はありません。むしろ、両者を適切に組み合わせる「IPM(総合的病害虫・雑草管理)」こそが、現代農業における最強のソリューションです 。

IPMの考え方では、以下の4つの防除法をパズルのように組み合わせます。

 

特に重要なのが、化学農薬と生物的防除の「併用」におけるテクニックです。

 

天敵を導入している期間中に、強力な殺虫剤を散布してしまえば、害虫と一緒に高価な天敵まで殺してしまい、元も子もありません。これを防ぐために必要なのが、「天敵に影響の少ない農薬(レスキュー剤)」の選定です。

 

例えば、BT剤(バチルス・チューリンゲンシス菌)のような微生物農薬は、チョウ目の幼虫(アオムシやヨトウムシ)には劇的な効果を発揮しますが、天敵であるハチやダニにはほとんど影響を与えません 。このように、標的とする害虫だけをピンポイントで叩く薬剤を選ぶことで、天敵という「味方の軍勢」を温存しながら、防除の穴を埋めることができます。

 

参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2023.1040901/pdf

また、化学農薬の使用回数を減らすことは、害虫の「薬剤抵抗性」の発達を遅らせるという意味でも極めて有効です 。

「ここぞという時まで切り札(化学農薬)を温存しておく」
「普段は天敵部隊に前線を任せる」
という戦略をとることで、いざ大発生した時に化学農薬がしっかりと効く状態を維持できるのです。これは長期的な
コスト削減と安定生産に直結します。

 

IPM実践のためのチェックリスト

  • 今使っている農薬が、導入予定の天敵に悪影響を与えないか確認したか?(天敵影響表の活用)
  • 物理的な侵入防止策(防虫ネットの展張など)は万全か?
  • 圃場周辺の除草は適切か?(後述するが、雑草が天敵の住処になる場合もあれば、害虫の温床になる場合もある)

福岡県:IPM(総合的病害虫・雑草管理)の実践指標
IPM(総合的病害虫・雑草管理)の実践指標を策定しました - 福岡 ...

生物的防除の盲点!「きれいな畑」が実は天敵を減らしている理由

最後に、多くの農家さんが見落としがちな、しかし非常に重要な「独自視点」のトピックについてお話しします。それは、「過度な除草や清掃が、実は無料の生物的防除(土着天敵)を排除してしまっている」というパラドックスです。

 

一般的に、畑の周りの雑草は「害虫の温床」として目の敵にされ、徹底的に除草される傾向があります。もちろん、害虫が発生源となる雑草を残すことは厳禁です。しかし、すべての雑草を排除し、コンクリートジャングルのように「きれいすぎる畑」にしてしまうと、そこは天敵にとっても住みにくい、砂漠のような環境になってしまいます。

 

ここで登場するのが「バンカープランツ(おとり植物・天敵温存植物)」という概念です 。

 

参考)ネギアブラムシ対策にバンカープランツ(オオムギ)の活用 &#…

バンカープランツとは、作物の栽培エリア内や周辺にあえて植える特定の植物のことです。これには以下の2つの機能があります。

 

  1. 天敵の銀行(Bank):

    天敵の餌となる無害な虫(代替餌)や花粉を提供し、天敵を常に繁殖させておく場所。

     

    • 具体例: ナス栽培のハウスに「ソルゴー」や「大麦」を植える。そこには作物には害をなさないアブラムシ(ムギクビレアブラムシなど)が発生し、それを餌にカブリダニやコレマンアブラバチなどの天敵が増殖・待機します 。

      参考)https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/warc/2001/wenarc01-18.html

  2. おとり(Decoy):

    害虫が好む植物を植えて害虫を誘引し、作物への被害をそらす。

     

「ただの雑草」が最強の資材に変わる瞬間
例えば、露地栽培において、畑の畦畔(けいはん)に咲いているホトケノザやカラスノエンドウなどの野草。これらは春先にアブラムシがつきますが、同時にそれを狙うナナホシテントウやヒラタアブなどの「土着天敵」を大量に呼び寄せます。このタイミングで一斉に除草してしまうと、せっかく集まった天敵たちは行き場を失い、死滅するか飛び去ってしまいます。

 

逆に、これらの雑草を適切に管理(刈り残す、あるいは時期をずらして刈る)することで、土着天敵が畑の内部へと移動し、作物を守るガードマンとして機能するようになるのです 。

 

参考)イトウさんのちょっとためになる農業情報 第15回『生物的防除…

市販の天敵製剤は高価なコストがかかりますが、土着天敵の活用はタダです。「雑草=悪」という固定観念を捨て、「どの草を残せば、どの天敵が増えるか」という視点を持つこと。これこそが、上級者が実践している生物的防除の真髄であり、経営を圧迫しない持続可能な農業への近道と言えるでしょう。

 

今日からできる「天敵に好かれる畑作り」

  • バンカープランツの導入: オオムギ、ソルゴー、クレオメ、マリーゴールドなどを圃場の隅に植えてみる。
  • 除草のタイミング再考: 一気に全刈りせず、天敵が移動できる場所を残しながら段階的に刈る。
  • 観察: 雑草の上にいる虫をルーペで覗いてみる。「これは害虫を食べている益虫かも?」と疑ってみることから、生物的防除は始まります。

農研機構:バンカー法の技術マニュアル
PDF Ⅱ.バンカー法の詳細 (技術者用マニュアル)

 

 


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