べと病のぶどうに効く農薬は?防除時期と予防効果を高める散布方法

ぶどう栽培で恐れられる「べと病」。効果的な農薬はどれ?散布のタイミングはいつ?この記事では、べと病の症状から、最新のおすすめ農薬、効果的な散布方法、さらには耐性菌対策や農薬だけに頼らない耕種的防除まで徹底解説。あなたのぶどうを守るための最適な一手が見つかるはずです。

べと病とぶどうと農薬

べと病とぶどうと農薬

ぶどうのべと病対策 3つのポイント
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早期発見と発生条件の理解

葉に現れる「オイルスポット」を見逃さず、雨が多く気温22~25℃の時期は特に注意が必要です。

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予防散布とローテーション

発病前の予防散布が基本。異なる系統(FRACコード)の農薬を順番に使い、耐性菌の出現を防ぎます。

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耕種的防除の実践

畑の水はけを良くし、適切な剪定で風通しを確保。農薬だけに頼らない環境づくりが重要です。

ぶどう べと病の初期症状と見逃せない発生時期・条件

 

ぶどう栽培において最も警戒すべき病害の一つが「べと病」です。この病気は糸状菌(カビの一種)によって引き起こされ、一度発生すると瞬く間に広がり、収量や品質に深刻なダメージを与えます。被害を最小限に食い止めるためには、初期症状を見逃さず、迅速に対応することが何よりも重要です。

葉に現れる特徴的なサイン

べと病の最も分かりやすい初期症状は、葉に現れる淡い黄色の斑点です。これは「オイルスポット」とも呼ばれ、まるで油が染みたように見えることから名付けられました。この斑点は、最初は小さく不明瞭ですが、次第に拡大し、輪郭がはっきりしてきます。病状が進行すると、葉の裏側を注意深く観察すると、白いカビ(胞子)が霜のようにびっしりと生えているのが確認できます。これがべと病の最大の特徴です。この白いカビは、新たな感染源となり、雨や風によって周囲の葉や他の樹へと飛散していきます。

果実や新梢への影響

べと病は葉だけでなく、果実や新梢(新しい枝)にも感染します。

     

  • 🍇 果実(幼果): 開花後の若い果実に感染すると、果実の色が褐色に変わり、硬くなって生育が停止します。やがて乾燥してミイラ状になり、商品価値は完全に失われます。
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  • 🌱 新梢・巻きひげ: 新梢や巻きひげに感染すると、病斑部が黒褐色になり、生育が阻害されます。特に生育初期の感染は、樹全体の成長に悪影響を及ぼします。

発生しやすい時期と気象条件

べと病菌は、落ち葉の中で「卵胞子」という形で越冬します。そして春になり、雨が降ると活動を開始します。べと病の発生には、気温と湿度が大きく関係しています。

     

  • 時期: 主に梅雨時期(5月下旬~7月)と秋雨の時期(9月)に発生のピークを迎えます 。
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  • 条件: 気温が11℃~30℃、特に22℃~25℃前後で、降雨が続くような多湿条件が揃うと、菌の活動が活発になり、爆発的に感染が拡大します 。

感染から発病までの潜伏期間は、気象条件にもよりますが、おおよそ7~10日と比較的短いのが特徴です 。そのため、雨が降った後、一週間から10日後にはオイルスポットが現れる可能性を常に意識し、圃場の見回りを徹底することが早期発見に繋がります。

ぶどう べと病に効果的な農薬の種類と系統別選び方

ぶどうのべと病対策において、農薬による防除は非常に重要です。しかし、ただやみくもに散布するだけでは十分な効果は得られません。農薬には様々な種類があり、それぞれに得意な役割(予防・治療)や作用の仕組みが異なります。これらを理解し、適切な場面で使い分けることが、効果的な防除の鍵となります。

予防薬と治療薬の違い

べと病用の農薬は、大きく「保護殺菌剤(予防薬)」と「治療殺菌剤(治療薬)」に分けられます 。

     

  • 🛡️ 保護殺菌剤(予防薬): 菌が植物体内に侵入するのを防ぐ効果が主体です。代表的なものに、ボルドー液、ジマンダイセン水和剤、オーソサイド水和剤などがあります 。これらの薬剤は、病原菌の胞子が発芽するのを阻害することで感染を防ぎます。効果の持続性が高く、価格が比較的安価なものが多いですが、すでに感染してしまった病斑を治す効果は期待できません。
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  • 💊 治療殺菌剤(治療薬): 植物体内に侵入した菌糸を直接叩く効果があります。リドミルゴールドMZやアミスター10フロアブルなどがこれにあたります 。浸透移行性(植物体内に浸透して効果を発揮する性質)を持つ薬剤が多く、発病初期であれば病気の進行を抑えることができます。しかし、効果が強い反面、耐性菌が発生しやすいというデメリットも持ち合わせています。

主要な農薬と有効成分の系統(FRACコード)

農薬を選ぶ際には、製品名だけでなく、「有効成分」と、その作用機構を示す「FRACコード」を確認することが極めて重要です。同じ系統の薬剤を連続して使用すると、耐性菌が発生しやすくなるためです。

FRACコード 系統名 主な有効成分 代表的な農薬名 特徴
M1, M3 多作用点阻害剤 銅、マンゼブ ICボルドー66D 、ジマンダイセン水和剤 予防効果が主体。耐性菌が出にくい。
4 フェニルアミド系 メタラキシルM リドミルゴールドMZ 高い治療効果と浸透移行性を持つが、耐性菌が出やすい。
11 QoI剤(ストロビルリン系) アゾキシストロビン アミスター10フロアブル 予防・治療効果を併せ持つが、耐性菌に注意が必要。
40, 45 CAA系 ジメトモルホ、オキサチアピプロリン ホクコーフェスティバルC、ゾーベックエニベル™ べと病菌に高い効果を示す。耐性菌管理が重要。
P07 ホスホネート系 ホセチル アリエッティC水和剤 上下両方向への浸透移行性があり、植物の抵抗力を誘導する効果も。

ぶどうのべと病に用いられる主な農薬の系統と特徴

初心者はまず、耐性菌のリスクが低い保護殺菌剤(FRACコードがMのもの)を基本とし、発生が確認された場合や、特に発生が懸念される時期に、異なるFRACコードを持つ治療効果のある薬剤を組み合わせていくのが良いでしょう。

ぶどう べと病対策は散布が鍵!農薬の効果を最大化するコツ

せっかく効果の高い農薬を選んでも、散布の仕方が悪ければ効果は半減してしまいます。農薬の効果を100%引き出すためには、散布のタイミング、方法、そして天候など、いくつかの重要なコツがあります。

散布のベストタイミングは「雨の前」

べと病菌は、雨水によって飛散し、葉が濡れている間に感染します。そのため、最も効果的な散布タイミングは「降雨前」です。事前に保護殺菌剤を葉に付着させておくことで、菌の侵入を未然に防ぐことができます 。天気予報をこまめにチェックし、計画的に予防散布を行うことが防除の基本です。展葉が5〜6枚の頃から梅雨明け、そして秋雨の時期までは、10日以内の間隔で定期的に散布を続けることが理想的です 。

散布方法の基本と注意点

     

  • 🌿 葉裏まで丁寧に: べと病菌は葉裏の気孔から侵入し、胞子も葉裏に形成されます。散布の際は、葉の表だけでなく、葉裏まで薬液がまんべんなくかかるように、ノズルの角度を調整しながら丁寧に散布しましょう。
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  • 💧 展着剤の活用: ぶどうの葉は水を弾きやすいため、「展着剤」を混用することをおすすめします。展着剤は、薬液が葉の表面に広がり、しっかりと付着するのを助ける役割を果たします。これにより、薬の効果が高まり、雨で流れ落ちにくくなります。
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  • 💨 散布時の天候: 風の強い日は薬液が飛散してしまい、効果が不安定になるだけでなく、近隣へのドリフト(飛散)問題も引き起こしかねません。また、日中の高温時に散布すると薬害が出やすくなるため、風のない穏やかな日の早朝や夕方に行うのが最適です。
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  • 📏 適正な濃度と散布量を守る: 「濃くすればもっと効くだろう」と考えるのは禁物です。定められた希釈倍率や使用量を守らないと、薬害が発生したり、効果が逆に低下したりすることがあります。必ず農薬のラベルを熟読し、使用基準を遵守してください 。

これらの基本的なポイントを押さえるだけで、農薬の効果は格段に向上します。一つ一つの作業を丁寧に行うことが、べと病から大切なぶどうを守ることに繋がります。

ぶどう べと病で注意すべき農薬の耐性菌とローテーション防除

べと病との戦いは、時に「いたちごっこ」になることがあります。その最大の原因が「薬剤耐性菌」の出現です。特定の農薬が効きにくくなった、あるいは全く効かなくなったという経験はありませんか?それは、べと病菌がその農薬に対して耐性を獲得してしまった結果かもしれません。

なぜ農薬が効かなくなるのか?

薬剤耐性菌とは、特定の化学物質(農薬の有効成分)に対して抵抗力を持ち、その薬剤が存在する環境でも生き残ることができるようになった菌のことです。同じ系統(同じ作用機序)の農薬を連続して使用すると、その薬剤に強い性質を持つ菌だけが生き残り、子孫を増やしていきます。これを繰り返すうちに、圃場全体がその農薬の効かない耐性菌だらけになってしまうのです 。特に、リドミルゴールドMZなどに代表されるフェニルアミド系の薬剤は、高い治療効果を持つ一方で、耐性菌が発達しやすいことが知られています 。

耐性菌を防ぐ「ローテーション散布」

耐性菌の発達を防ぐために最も有効な手段が「ローテーション散布」です。これは、作用機序の異なる複数の系統の農薬を、順番に(ローテーションで)使用していく防除方法です。
その際に指標となるのが、前述した「FRACコード」です 。

     

  1. FRACコードを確認: 使用する農薬のラベルを見て、FRACコードを確認します。
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  3. 異なるコードの薬剤を準備: 作用点の異なる、複数のFRACコードを持つ薬剤(例:M3、4、11、40など)を揃えます。
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  5. 順番に散布: 散布のたびに、前回とは異なるFRACコードの薬剤を使用します。

例えば、以下のようなローテーションが考えられます。
ローテーション散布の例

     

  1. 展葉期: ジマンダイセン水和剤(FRACコード: M3)で予防
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  3. 梅雨入り前: アミスター10フロアブル(FRACコード: 11)で予防・治療
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  5. 梅雨時期: リドミルゴールドMZ(FRACコード: 4)で治療的に対応
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  7. 梅雨明け後: ICボルドー66D(FRACコード: M1)で保護膜を張る

このように、異なる作用で菌を攻撃することで、特定の薬剤に強い菌だけが生き残るのを防ぎます。また、作用点が複数ある保護殺菌剤(FRACコードがMのもの)をローテーションに組み込むことで、耐性菌の発生リスクをさらに低減できます。ローテーション散布は、今使っている農薬の効果を未来にわたって維持するための、非常に重要な投資と言えるでしょう。
以下のリンクは、JA(農業協同組合)が作成した防除暦の一例です。具体的なローテーション計画を立てる上で非常に参考になります。
令和7年度 ぶどう病害虫防除暦 - JA長野県

農薬だけに頼らない!ぶどう べと病を防ぐための耕種的防除と意外なポイント

べと病対策というと、すぐに農薬散布を思い浮かべますが、実は農薬だけに頼る防除には限界があります。安定したぶどう生産のためには、日々の栽培管理の中で病気が発生しにくい環境を整える「耕種的防除」が不可欠です。農薬の使用を減らすことにも繋がり、持続可能な農業を実践する上で非常に重要です。

基本となる耕種的防除

耕種的防除とは、栽培方法を工夫することで病害虫の発生を抑制する技術のことです。べと病対策としては、以下の点が挙げられます 。

     

  • 🌬️ 風通しの改善: べと病菌は多湿な環境を好みます。密植を避け、適切な剪定(せんてい)や誘引、芽かきを行うことで、樹冠内部の風通しと日当たりを良くしましょう。葉が密集していると、湿度が高まり、濡れた葉が乾きにくくなるため、菌が繁殖しやすくなります。
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  • 💧 排水対策: 圃場の水はけが悪いと、土壌が常に湿った状態になり、圃場全体の湿度を上げてしまいます。明渠(めいきょ)や暗渠(あんきょ)を整備して排水性を高めることは、べと病だけでなく、他の土壌病害の予防にも繋がります。
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  • 🍂 伝染源の除去: べと病菌は、被害を受けた落ち葉や巻きひげの中で越冬し、翌年の第一次伝染源となります。収穫後や剪定時には、これらの罹病残渣(りびょうざんさ)を圃場から持ち出し、適切に処理することが非常に重要です。圃場を清潔に保つことが、翌年の発生を大きく左右します。
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  • 🌱 施肥管理: 窒素肥料の与えすぎは、葉が軟弱で大きく茂りすぎる「過繁茂」状態を招きます。このような状態は風通しを悪くし、病気への抵抗力を弱めるため、適切な施肥管理を心がけましょう。

意外と知られていない防除のポイント

基本的な耕種的防除に加えて、以下のような少し意外なアプローチもべと病対策に有効とされています。

     

  • 🌊 海藻資材や食酢の利用: 化学農薬だけに頼らず、自然由来の資材を活用する試みも行われています。海藻由来の資材や、食酢(特定農薬)を希釈して散布することで、植物の抵抗力を高め、病気の予防効果が期待できるという報告もあります 。これらは化学農薬ほどの劇的な効果はありませんが、補助的な手段として、また減農薬栽培を目指す上で試してみる価値はあるでしょう。
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  • 💪 収穫後の防除の重要性: 収穫が終わるとつい気が緩みがちですが、実は収穫後の防除が翌年の発生量を左右します。収穫後も葉が残っている時期にボルドー液などを散布しておくことで、翌年の越冬菌の密度を効果的に下げることができます 。
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  • 🤫 静かなる感染源「巻きひげ」: 意外と見過ごされがちなのが「巻きひげ」です。巻きひげもべと病菌の越冬場所となるため、剪定時に丁寧に取り除くことが、耕種的防除の効果を高める隠れたポイントです 。

農薬による化学的防除と、日々の栽培管理である耕種的防除は、いわば車の両輪です。両方をバランス良く実践することで、より確実で持続可能なべと病対策が実現できるのです。

 

 


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