農業の現場において、腐葉土を用いたマルチングは土壌の団粒化促進や保湿、地温調整において極めて高い効果を発揮します。しかし、この「良質な土壌環境」こそが、コガネムシ(特にドウガネブイブイやマメコガネなど)にとって絶好の産卵場所となってしまうというジレンマが存在します。コガネムシの成虫は、産卵場所を選定する際に嗅覚と触覚を鋭敏に働かせています。腐葉土が発酵する際に発する特有の腐植臭は、成虫を強力に誘引するシグナルとなります。さらに、マルチングによって適度な湿り気と柔らかさが保たれた地表は、成虫が土中に潜り込みやすく、孵化した幼虫が初期段階で摂食する有機物が豊富にあることを示唆しています。
通常の土壌であれば乾燥して硬くなる表面も、腐葉土マルチング下では常に湿潤でフカフカの状態が保たれます。これは作物にとって理想的ですが、同時にコガネムシの幼虫(ジムシ)が生存率を劇的に高める温床ともなるのです。特に未完熟の腐葉土を使用している場合、発酵臭が強くなり、成虫の飛来数が有意に増加することが知られています。農業従事者が良かれと思って行った土壌改良が、結果として根を食い荒らす害虫を招き入れ、果樹や野菜の枯死を招く「人災」に近い状況を引き起こすケースも少なくありません。まずは「腐葉土マルチは無防備なままでは危険である」という認識を持つことが、対策の第一歩となります。
バークチップや腐葉土単体ではコガネムシの産卵を防げない理由と、他の資材との併用重要性について
腐葉土のメリットを享受しつつコガネムシ被害を回避するための最も確実な方法は、物理的な遮断です。腐葉土を敷設したその上から、さらに透水性のある防草シートや農業用不織布で被覆する「被覆マルチング」が極めて有効です。コガネムシの成虫は、物理的な障壁がある場合、その隙間をこじ開けてまで産卵しようとする習性は弱いため、地表が露出していなければ産卵をほぼ100%防ぐことが可能です。
特に農業用防草シート(透水タイプ)を使用する場合、水やりや雨水は通しますが、成虫の侵入は完全にブロックします。シートの端をピンで隙間なく固定し、株元(幹の周り)も専用のテープや円盤状のガード材で密着させることが重要です。隙間が数センチでも空いていると、そこから執念深く侵入する個体もいるため、施工精度が問われます。また、不織布を使用する場合は、目付け(厚み)が薄すぎると食い破られるリスクがあるため、厚手のものを選定するか、二重にするなどの工夫が必要です。
さらに、鉢植えや小規模な栽培においては、鉢底ネットや網戸のメッシュを円形に切り抜き、株元を覆う方法も効果的です。これらは通気性を損なわず、かつ腐葉土の保湿効果を維持したまま害虫の侵入を防げるため、根の酸素要求量が高い作物(ブルーベリーなど)に適しています。物理的防除は薬剤散布と異なり、耐性菌や耐性害虫の出現リスクがなく、一度設置すれば長期間効果が持続するため、ランニングコストの面でも優れた選択肢と言えます。
腐葉土のメリットと虫を呼び寄せるデメリットの比較、および自然素材マルチの使い分けについて
「二重マルチング(サンドイッチ工法)」は、土壌改良効果と防虫効果を両立させる高度なテクニックです。これは、地表面にまず腐葉土や堆肥などの有機質マルチを敷き、その上層をコガネムシが嫌う「無機質資材」で完全に覆い隠すという手法です。下層の腐葉土が土壌微生物に分解され養分を供給し続ける一方で、上層の無機物が成虫の嗅覚を遮断し、物理的な潜行を阻止します。
上層に使用する資材として推奨されるのが、赤玉土(中粒~大粒)、軽石、あるいは砂利などの無機鉱物です。これらは有機的な匂いを発せず、乾くとサラサラと崩れるため、成虫が足場を固定して土中に潜る動作を阻害します。特に赤玉土による被覆は、保水性を維持しつつ表面を無機化できるため、見た目にも自然で管理が容易です。厚さは最低でも2~3cm以上確保し、下の腐葉土が完全に隠れるように敷き詰めることがポイントです。
また、近年注目されているのが「籾殻燻炭(もみがらくんたん)」の活用です。燻炭は焦げた匂いが害虫忌避効果を持つとされ、かつアルカリ性であるため酸性土壌を好む一部の害虫を遠ざける副次的効果も期待できます。ただし、燻炭自体は軽量で風に飛ばされやすいため、水やりの際に注意が必要です。この二重構造により、土中の生態系を豊かに保ちながら、地表部分では「ここは産卵に適さない場所だ」と成虫に誤認させる環境制御が可能となります。
コガネムシ幼虫対策としてのヤシ繊維マットや物理的ガードの具体的な設置方法と効果について
あまり一般には知られていませんが、コガネムシの成虫には「足の関節や腹部に硬く尖ったものが当たるのを極端に嫌う」という行動習性があります。この習性を逆手に取った対策が、鋭利な形状を持つ硬質資材によるマルチングです。例えば、粉砕した瓦チップ(セラミックチップ)や、角のある砕石、あるいはクリなどのイガのある殻などが該当します。
成虫が産卵のために着地した際、足場が不安定で、かつ身体の柔らかい部分に硬い突起が当たる環境では、産卵行動(潜土行動)に移る前に飛び去ってしまう確率が高まります。通常の丸みを帯びたバークチップや柔らかい腐葉土では、成虫にとって足場が良く、快適に潜行できてしまいますが、ゴツゴツとした瓦チップや鋭利な軽石を表面に敷き詰めることで、生理的な忌避反応を引き起こすことができるのです。
この手法は「感覚的防除」とも呼べるもので、薬剤や密閉シートに頼らない自然な防除法として、有機栽培を行う農家の間で密かに評価されています。特に瓦チップは吸水・保水性にも優れ、地温上昇抑制効果も高いため、夏の猛暑対策と兼ねて導入する価値があります。ただし、効果を最大化するためには、資材の粒径を揃えすぎず、あえて不均一にして足場を悪くするなどの微調整が有効です。単なる物理的な「蓋」ではなく、害虫の「不快感」を誘発するという視点を持つことで、マルチング資材の選び方が大きく変わってきます。
瓦チップを使ったマルチングがコガネムシの産卵防止に効果的であるという実践事例について
万全の対策をしていても、わずかな隙間から侵入を許してしまうことはあります。そのため、マルチングを行っているからこそ、定期的な「チェック」と、万が一侵入された場合の「事後対策」を準備しておく必要があります。腐葉土マルチの下は視認性が悪いため、被害に気づくのが遅れがちです。「なんとなく葉の色が悪い」「新芽が伸びない」「水をやってもすぐに萎れる」といった兆候が見られた場合、すでに根が深刻な食害を受けている可能性があります。
このような場合、株元のマルチを一部剥がして土壌を確認しますが、さらに積極的な対処として「生物的防除資材」の投入を検討すべきです。具体的には、コガネムシ類幼虫に寄生する「スタイナーネマ・クシダエ(線虫)」製剤などの利用です。これらは土壌に散布することで、マルチの下に潜む幼虫を探し出して寄生・殺虫してくれます。化学農薬が使いにくい収穫期近くでも使用できる利点があります。
また、土壌改良の観点からは、ニーム核油かす(ニームケーキ)の混和も有効です。ニームに含まれるアザディラクチンという成分は、昆虫の摂食阻害や脱皮阻害を引き起こします。腐葉土を投入する際に、あらかじめニームケーキを混ぜ込んでおくことで、もし産卵されて孵化したとしても、幼虫が育ちにくい環境(忌避環境)を土中に作り出すことができます。これは「攻めのマルチング」とも言える手法で、単に覆うだけでなく、土壌そのものに防御力を持たせる発想です。定期的に株を揺らしてみて、グラグラしていないかを確認する物理的なチェックと合わせ、多層的な防衛網を構築してください。
ブルーベリー栽培におけるコガネムシ被害の兆候と、マルチングによる具体的な予防効果の解説

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