有機栽培において、多くの生産者が最初に直面し、そして離農の最大の原因となり得るのが「除草と病害虫防除の手間」です。化学合成農薬や除草剤を使用できないため、これらの管理は物理的な手法(手作業や機械除草)や生物的な手法に依存することになります。
参考)有機農業はなぜ日本で広がらないのか
単に「忙しい」だけでなく、猛暑の中での長時間の除草作業は体力を激しく消耗し、農業経営者の健康リスクすら招きかねません。きれいなイメージとは裏腹に、現場は「草と虫との泥臭い戦い」であることを覚悟する必要があります。
対策の有用性や有機JASで使える農薬について解説しています
農林水産省:有機農業をめぐる事情(PDF)
有機栽培のもう一つの大きなデメリットは、収穫量の不安定さと絶対量の低さです。化学肥料を使えば作物の生育ステージに合わせてピンポイントで栄養を供給できますが、有機肥料は微生物による分解プロセスを経るため肥効(肥料の効き目)のコントロールが難しく、天候や地温に大きく左右されます。
「収量が減っても単価を高くすれば良い」と考えるかもしれませんが、2割の減収をカバーするには単価を2.5割以上上げる必要があり、さらに手間が増えていることを考慮すると、実際の利益率はシビアな計算になります。安定供給が難しいことは、飲食店やスーパーとの契約栽培において大きなハンディキャップとなります。
有機と慣行の収量差に関する詳細なメタ分析データです
ルーラル電子図書館:有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因
「有機野菜」「オーガニック」として農産物を販売するためには、国が定めた「有機JAS認証」を取得する必要があります。これには単なる栽培技術以上の、事務的・金銭的な負担が重くのしかかります。
日中の農作業で疲弊した後に、夜な夜な詳細な記録簿をつける作業は精神的な負担となります。この「事務作業の煩雑さ」に嫌気が差し、実質的には有機栽培を行っていても、あえて認証を取らずに「無農薬・無化学肥料栽培」として販売する農家も少なくありません。
有機JAS認証取得にかかる具体的な費用内訳と流れが分かります
農業ビジネス:JAS認証を取得するのって、お金がけっこうかかるんでしょ?
一般的に「有機栽培は土に優しい」と思われがちですが、知識のない有機施肥は、むしろ深刻な土壌汚染やバランス崩壊を招くという、あまり知られていない重大なデメリットがあります。
参考)https://www.takii.co.jp/tsk/saizensen_web/yuukisaibainosusume/vol03.html
「化学肥料=悪、有機肥料=善」という単純な図式で捉え、土壌診断を行わずに盲目的に有機資材を投入することは、慣行栽培以上に土壌環境を悪化させるリスクを孕んでいます。科学的な土づくりがおろそかになれば、作物は病気になりやすくなり、結果として収量はさらに低下します。
有機肥料の正しい使い方と過剰施肥の弊害について解説されています
タキイ種苗:有機栽培のすすめ-土づくりと施肥
苦労して有機野菜を作っても、それが「高く売れる」とは限りません。市場出荷(JAなどへの出荷)では、有機も慣行も区別されず、見た目の規格だけで判断されることが多いため、有機農家は独自に販路を開拓する必要があります。
参考)https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_zikkou_plan/process_food/pdf/21misoall.pdf
「作れば売れる」時代は終わり、「どう売るか」まで考え抜かなければ、有機農業での経営継続は困難です。経営者としてのマーケティング能力が、慣行農家以上に厳しく問われることになります。