市場出荷とは、生産した農作物を卸売市場(中央卸売市場や地方卸売市場)を通じて流通させる、日本の農業における最も一般的な販売形態です。生産者から出荷団体(JAなど)や集荷業者を経由し、市場の「卸売業者」が「仲卸業者」や「売買参加者」にセリや入札で販売します。このシステムにより、スーパーマーケットや小売店へ大量かつ安定的に農産物が供給されています。
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市場出荷の最大の特徴は、統一された「規格」に基づいて取引が行われる点です。市場では、サイズ(L、M、Sなど)や品質(秀、優、良など)によって厳格にランク付けされ、その等級に応じて価格が決まります。この規格は、遠隔地との取引を円滑にする共通言語の役割を果たしており、現物を見なくても品質が保証される仕組みとして機能してきました。しかし、この厳格な規格分けが、近年の農家にとっては選別作業という大きな労働コストになっています。
参考)出荷規格数を9→3に。青森の農業法人がニンニクの独自規格を設…
市場出荷の最大のメリットは、原則として出荷した農産物をすべて引き受けてくれる「全量買取(全量受託)」の機能にあります。直売所や個人販売では、売れ残った野菜は廃棄するか持ち帰る必要がありますが、市場出荷ではその日の相場で必ず値がつき、在庫を抱えるリスクがありません。これは、豊作で供給過剰になった場合でも換金できるという点で、農家の経営にとって強力なセーフティネットとなります。
参考)卸売市場に出荷するメリットについて。生産に専念したい人におす…
また、販売や集金にかかる手間をすべて市場やJAに任せられるため、農家は「作るだけ」に専念できるという点も重要です。自分で販路を開拓したり、顧客対応やクレーム処理を行ったりする必要がないため、栽培技術の向上や作付面積の拡大に時間を割くことが可能です。特に、収穫時期が短期間に集中する品目や、大量生産を行う大規模農家にとって、このメリットは計り知れません。
参考)イチゴをJAに出荷するメリット&デメリット6選
卸売市場に出荷するメリットについて|カクイチ
参考:全量引き受け機能による在庫リスクの回避や、生産への集中が可能になる点について詳しく解説されています。
一方で、市場出荷には「選別(選果)」という重い負担がつきまといます。市場で高値を付けるためには、形、色、傷の有無などを基準に、A品、B品、C品などに細かく分ける必要があります。例えば、曲がり具合や数センチのサイズ違いで等級が変わり、価格に数倍の差がつくことも珍しくありません。この選別作業は、収穫作業以上の時間を要することもあり、多くの農家が夜遅くまで調整作業に追われる原因となっています。
参考)https://ameblo.jp/sfujitasaijo/entry-12941264914.html
しかし近年では、この負担を軽減するために規格を「簡素化」する動きが出ています。例えば、青森県のニンニク農家では、従来の9段階の規格を「スペシャル」「レギュラー」「アウトレット」の3段階に集約し、選別時間を大幅に削減しました。また、JAや出荷組合単位でも、過剰な品質追求を見直し、選果場の機械化やAI選果を導入することで、個々の農家の選別負担を減らす取り組みが進んでいます。
参考)https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/attach/pdf/kikaku-1.pdf
出荷規格数を9→3に。青森の農業法人がニンニクの独自規格を設けた理由|マイナビ農業
参考:規格選別の手間を省くために独自の簡素化規格を導入し、省力化に成功した実例が紹介されています。
市場出荷を選択する際に、多くの農家が気にするのが「手数料」です。一般的に、卸売市場に委託する場合、販売額の8.5%(野菜)や7.0%(果実)程度の「委託手数料」が差し引かれます。さらに、JAなどを経由する場合は、そこにJAの手数料や選果場利用料、運賃、段ボール箱代などの経費が上乗せされます。結果として、手取り額が売上の6~7割程度になることも少なくありません。
参考)卸売市場の委託手数料の自由化にむけて
「手数料が高い」と感じるかもしれませんが、これを「営業・物流のアウトソーシング費用」と捉える視点も必要です。自力で販売する場合、ECサイトの手数料(10~15%)、梱包資材費、個別の配送料、そして何より「集客や発送作業にかかる自分の人件費」が発生します。これらを計算に含めると、大量の荷物を一括で引き受け、確実に代金を回収してくれる市場システムの手数料は、規模によってはむしろ割安になるケースもあります。手数料の自由化も進んでおり、市場によっては条件次第で交渉の余地が生まれている点も押さえておくべきでしょう。
参考)農業マーケティングの今
(独自視点) 「直売の方が単価が高いから儲かる」と考えがちですが、規模拡大を目指すなら市場出荷の方が有利な場合があります。これを「時間価値」の観点から考えてみましょう。直売やEC販売は、高単価で売れる代わりに、袋詰め、ラベル貼り、顧客メール対応、発送手配といった「1円も生まない事務作業」に膨大な時間を奪われます。この時間は、本来なら作物を育てるために使えたはずの時間です。
一方、市場出荷に特化すれば、これらの販売業務時間はゼロになります。空いた時間をすべて「作付面積の拡大」や「管理作業」に投資することで、単価は低くても「総売上」を爆発的に伸ばすことが可能です。実際に、売上数億円規模のメガファーマーの多くは、直売ではなく市場出荷や加工業務用への契約出荷をメインにしています。彼らは「高く売る」ことよりも「大量に効率よく作る」ことにリソースを集中させる戦略をとっています。もしあなたが「忙しいのに儲からない」と感じているなら、中途半端な直売をやめて、市場出荷で「量」を追う戦略に切り替えるのも一つの正解です。
最終的に、市場出荷と直売所のどちらを選ぶべきかは、経営スタイルによります。以下の表にそれぞれの特徴をまとめました。
| 項目 | 市場出荷 | 直売所・EC |
|---|---|---|
| 販売価格 | 相場で変動(安値のリスクあり) | 自分で決定(高単価が可能) |
| 販売量 | 全量買取(大量出荷OK) | 売れ残りリスクあり(少量向き) |
| 規格・選別 | 厳格(手間がかかる) | 緩やか(B品も販売可能) |
| コスト | 委託手数料、運賃、箱代 | 出店料、包装資材、発送費 |
| 必要なスキル | 栽培技術、均一な品質管理 | 接客、マーケティング、梱包 |
| 向いている人 | 規模拡大したい、作るのが好き | 小規模、こだわりを伝えたい |
賢い農家は、この二つを完全に分けるのではなく、うまく組み合わせています。例えば、A品(秀品)は高値がつく市場へ出荷し、少し傷のあるB品や規格外品は直売所や加工品として販売することで、全体の廃棄ロスを減らし、収益を最大化しています。自分の農産物が「量で勝負できるもの」なのか「付加価値で勝負するもの」なのかを見極め、最適なポートフォリオを組むことが重要です。
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