つる割病の正体と対策!菌の寿命や意外な感染ルートとは

つる割病で収穫直前の作物が全滅するのはなぜ?フザリウム菌の驚異的な生存能力や、ネコブセンチュウとの危険な「共闘関係」をご存知ですか?カニ殻を使ったユニークな土壌改善法まで、農家が知るべき深い知識を徹底解説します。

つる割病を防ぐ

つる割病 徹底解剖
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昼間の萎れは危険信号

夕方に回復しても要注意!導管が詰まるサインです。

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菌は10年も生き続ける

フザリウム菌の厚膜胞子は土壌で長期生存します。

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カニ殻で菌を撃退?

キチン質が放線菌を増やし、病原菌を抑制します。

つる割病の症状と他病害との見分け方

 

つる割病は、ウリ科野菜(キュウリ、メロン、スイカ)やサツマイモなどに壊滅的な被害をもたらす土壌伝染性の病害です。この病気の恐ろしい点は、収穫間際になって突然、株全体が枯れてしまう「青枯れ」症状を引き起こすことにあります。初期段階での発見は非常に困難ですが、注意深く観察することで特有のサインを見逃さないことが重要です。

 

最も特徴的な初期症状は、「日中だけ萎れ、夕方や夜間には回復する」という現象の繰り返しです。これは、病原菌が植物の水分を運ぶパイプラインである「導管」に侵入し、繁殖することで水の吸い上げを阻害するために起こります。晴天の日中、蒸散活動が活発になると水分の供給が追いつかずに萎れますが、夜間は蒸散が収まるため一時的にシャキッと戻ったように見えるのです。この段階で「単なる水不足かな?」と誤認して水やりを増やしてしまうと、湿潤環境を好む病原菌の活動をさらに助長してしまうことになります。

 

参考)つる割病|症状の見分け方・発生原因と防除方法

症状が進行すると、地際(じぎわ)の茎に変化が現れます。茎の縦方向に亀裂が入り、そこからヤニ(琥珀色のゴム状物質)が滲み出してきます。さらに症状が進むと、茎の裂け目に白いカビ(胞子の塊)や、場合によっては鮭肉色(薄いピンク色)のカビが発生することもあります。最終的には株全体が黄化し、完全に枯死してしまいます。

 

参考)【第10回】茎がしおれた、茎の色が変わり枯れてしまった|こん…

現場で判断に迷うのが、症状が酷似している「青枯病(あおがれびょう)」との判別です。両者は以下の方法で簡易的に見分けることができます。

 

  • つる割病の特徴
    • 茎を切断すると、導管部分が褐色に変色している。​
    • 切断面を水につけても、白濁した汁は出ない。
    • 症状の進行は比較的緩やかで、下葉から徐々に黄化することが多い。
  • 青枯病の特徴
    • 茎を切断して水を入れた透明なコップに浸すと、切り口から白い煙のような細菌粘液(バクテリア・ウーズ)が流れ落ちる。
    • 進行が極めて早く、葉が青いまま急激に枯れる。

    また、サツマイモのつる割病においては、茎が裂ける症状に加えて、茎の維管束が暗褐色に変色するのが特徴です。抵抗性品種(例:紅はるか、コガネタイガンなど)と感受性品種(例:ベニアズマ)によっても発病のリスクは大きく異なります。自分の育てている品種の特性を把握し、わずかな異変も見逃さない観察眼を持つことが、被害拡大を防ぐ第一歩となります。

     

    参考)(研究成果)多収でサツマイモ基腐病など複数の土壌病害虫に対す…

    つる割病の原因であるフザリウム菌の正体

    つる割病を引き起こす犯人は、「フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)」という糸状菌(カビの一種)です。この菌は非常に多くの種類(分化型)に分かれており、例えば「キュウリつる割病菌」はキュウリだけを、「メロンつる割病菌」はメロンだけを攻撃するという強い「寄主特異性」を持っています。つまり、隣の畑のトマトが萎凋病(同じフザリウム菌による病気)にかかっていても、それが直接キュウリに感染するわけではありません。しかし、同じウリ科作物間では共通して感染する場合もあるため、注意が必要です。

    フザリウム菌の生態で最も特筆すべきは、その驚異的な生存能力です。多くの病原菌は、寄主となる植物がいなくなると数年で死滅しますが、フザリウム菌は不利な環境になると「厚膜胞子(こうまくほうし)」という耐久体を作り出します。この厚膜胞子は、殻が厚く、乾燥や低温、薬剤に対して極めて強い耐性を持っており、土壌中で10年以上も生存できると言われています。これが「一度発生すると、畑を変えない限り毎年発生する」と言われる所以であり、連作障害の主たる原因となっています。

     

    参考)つる割病|KINCHO園芸

    感染のメカニズムは以下の通りです。

     

    1. 休眠からの目覚め:土壌中の厚膜胞子は、寄主植物の根から分泌されるアミノ酸や糖分を感知すると発芽します。

      参考)https://tuat.repo.nii.ac.jp/record/2000108/files/202403ChenSarina_F.pdf

    2. 侵入:発芽した菌糸は、根の先端や、植え付け時の断根、害虫による食害痕などの「傷口」から植物体内に侵入します。​
    3. 導管の閉塞:菌は導管内で増殖し、「小分生子」という小さな胞子を次々と作って上部へと移動します。これに対し、植物側は防御反応として「チロース」という物質を作って導管を塞ぎ、菌の侵入を止めようとします。しかし、この防御反応自体が皮肉にも水分の通り道を塞いでしまい、結果として植物が萎れてしまうのです。

    さらに、この菌は酸性土壌(pHが低い状態)や、砂質土壌、そしてチッ素過多の環境を好みます。特に未熟な有機物(完熟していない堆肥など)を施用すると、土中でガスが発生して根を傷めたり、腐生的なフザリウム菌が増殖しやすい環境を作ったりしてしまいます。土壌のpHバランスが崩れ、根が健全に育っていない環境こそが、つる割病菌にとっての最高の住処となるのです。

    つる割病とネコブセンチュウによる複合感染の罠

    農業現場でしばしば見落とされがちなのが、土壌中の害虫「ネコブセンチュウ」とつる割病の「複合感染(複合病害)」です。これらは単独でも被害をもたらしますが、同時に発生することで被害が劇的に悪化する「相乗効果」を引き起こします。

     

    参考)https://www.takii.co.jp/tsk/saizensen_web/cultivation/sentyu_2021/

    ネコブセンチュウは、植物の根に寄生してコブを作り、栄養を収奪する微小な害虫です。しかし、つる割病との関係でより深刻なのは、センチュウが根に侵入する際に作る「傷」です。前述の通り、つる割病菌(フザリウム菌)は自力で健全な根の表皮を突き破って侵入する力はそれほど強くありません。主に傷口からの侵入を狙っています。

     

    ここにネコブセンチュウが存在すると、以下のような悪循環(デス・スパイラル)が発生します。

     

    • 侵入口の提供:センチュウが根に穴を開けて侵入することで、フザリウム菌にとっての「開かれた門」が無数に提供されます。
    • 抵抗性の打破:抵抗性品種(つる割病に強い台木など)を使っていても、センチュウの加害によって根の組織が弱体化・変質し、本来持っていた病害抵抗性が機能しなくなることがあります(抵抗性の打破)。
    • 症状の激化:両者が寄生することで、根の機能不全が加速し、わずかな菌密度でも重篤な枯れ症状が発生します。

    研究や現場の報告では、センチュウと菌が同時感染した場合、それぞれの単独被害の合計よりもはるかに激しい被害が出ることが確認されています。したがって、つる割病対策を考える際は、単に殺菌剤を撒くだけでは不十分なケースが多々あります。土壌検査を行い、もしセンチュウ密度が高いようであれば、殺菌と同時に殺線虫剤(例:ネマトリンエースやDD剤など)の使用や、対抗植物(クロタラリアやマリーゴールド)の導入を検討しなければなりません。

     

    参考)連作障害はなぜ起こる?その原因と対策方法について解説

    「つる割病の薬を撒いているのに効かない」という場合は、背後にセンチュウが潜んでいる可能性を強く疑うべきです。

     

    つる割病の対策としての太陽熱消毒と薬剤

    一度土壌に定着したフザリウム菌を根絶するのは容易ではありませんが、物理的防除と化学的防除を組み合わせることで、被害を実用レベルまで抑え込むことは可能です。その中でも、環境負荷が少なく効果が高い方法として「太陽熱土壌消毒」が推奨されます。

     

    参考)https://www.takii.co.jp/tsk/bugs/acu/disease/turuware/

    太陽熱消毒は、夏の高温期(7月~8月)を利用して、地温を上昇させ、熱に弱い病原菌やセンチュウ、雑草の種子を死滅させる技術です。成功の鍵は「水分」「密閉」「期間」の3点です。

     

    1. 手順の徹底
      • まず、土壌に米ぬかやフスマなどの有機物を混和し、畝を立てます。
      • 土壌が十分に湿るまでたっぷりと潅水します(水分があることで熱伝導率が高まり、煮沸効果が生まれます)。
      • 透明なビニールマルチで隙間なく被覆し、ハウスの場合は密閉します。
    2. 温度と期間の目安

    化学的防除(薬剤)においては、予防と初期治療が重要です。

     

    • 土壌くん蒸剤:作付け前に「クロルピクリン」や「D-D剤」を使用して土壌全体の菌密度を下げます。これらは劇薬指定のものも多いため、取り扱いには十分な注意と防護が必要です。

      参考)https://www.nipponkayaku.co.jp/media/pdf/agro/pc/products/pdf/42_doublestopper_leaflet.pdf

    • 定植時の処理:定植時に「ベンレート水和剤」や「トップジンM水和剤」などの殺菌剤を灌注(かんちゅう)することで、根回りの菌の侵入を防ぎます。​
    • 耐病性台木の利用:キュウリやメロンでは、つる割病に強いカボチャなどの台木に接ぎ木することが一般的です。ただし、前述の通りセンチュウ被害があると台木の力が発揮できないこともあるため、過信は禁物です。​

    つる割病にカニ殻?土壌環境を変える独自視点

    ここまでは一般的な防除法を紹介しましたが、検索上位の記事ではあまり深く触れられていない、しかし効果的な「生物学的アプローチ」を紹介します。それは、「カニ殻(キチン質)」を活用した土壌改良です。

     

    参考)434放線菌は糸状菌をやっつける

    なぜカニ殻がつる割病に効くのでしょうか?その秘密は、病原菌であるフザリウム菌の細胞壁の構造にあります。フザリウム菌などの糸状菌の細胞壁は、主に「キチン質」で構成されています。一方、カニやエビの殻も豊富なキチン質を含んでいます。

     

    畑にカニ殻粉末などのキチン質肥料を施用すると、土壌中でこのキチンをエサとする微生物が大繁殖します。その代表格が「放線菌(ほうせんきん)」です。放線菌はキチンを分解するために「キチナーゼ」という酵素を分泌します。

     

    • メカニズム
      1. 土にカニ殻をまく。
      2. カニ殻(キチン)を食べる放線菌が爆発的に増える。
      3. 土壌中に高濃度のキチナーゼ酵素が充満する。
      4. この酵素が、同じキチン質でできているフザリウム菌の細胞壁も一緒に溶かしてしまう
      5. さらに、放線菌の一部は抗生物質を産生し、他の病原菌の増殖も抑える。

    つまり、カニ殻をまくことは、フザリウム菌の「天敵」である放線菌を養殖し、彼らに病原菌を攻撃させるという、非常に理にかなった生物農薬的な戦略なのです。

     

    参考)カニガラ肥料の驚きの効果!使用量の目安?ペレットがおすすめ!…

    導入のポイント

    • タイミング:作付けの1ヶ月以上前に行います。放線菌が増えるまでには時間がかかります。
    • :10アールあたり60kg~100kg程度のカニ殻肥料を施用するのが一般的です。
    • 注意点:カニ殻を撒いた直後は、急激な微生物の増殖で一時的に窒素飢餓になったり、ガスが発生したりすることがあります。必ず土に馴染ませる期間(養生期間)を設けてください。

    また、カニ殻に含まれるキチン質は、植物自身の防御機能(キチン受容体)を刺激し、病気に対する免疫力を高める「エリシター効果」も期待できます。化学農薬だけに頼りたくない、あるいは連作障害で土が疲弊していると感じている農家にとって、この「海の恵み」を利用した土作りは、試す価値のある強力な一手となるはずです。

     

    つる割病は、一度発生すると厄介な病気ですが、「菌の寿命」「侵入ルート」「天敵微生物」という3つの視点を持つことで、多角的な対策が可能になります。太陽熱でリセットし、接ぎ木で守り、カニ殻で攻める。これらを組み合わせた総合防除(IPM)こそが、収穫の喜びを守る最強の盾となるでしょう。

     

     


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