トリコデルマ菌資材の効果と土壌病害予防の栽培利用

トリコデルマ菌資材は土壌病害をどう防ぐのか?その驚きのメカニズムから、堆肥を使った増殖方法、殺菌剤との併用リスクまでを徹底解説。あなたの畑は菌の力で変わる?

トリコデルマ菌資材の基礎と活用

記事の要約
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強力な拮抗作用

トリコデルマ菌は病原菌に巻き付き、酵素で細胞壁を破壊して死滅させる「菌寄生」という特異な能力を持っています。

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成長促進と免疫

病気を防ぐだけでなく、植物ホルモンを誘導して根の張りを良くし、作物の免疫力を全身で高める効果も期待できます。

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使用上の注意点

生きている菌であるため、化学殺菌剤(特にベンズイミダゾール系)との併用は厳禁。堆肥での拡大培養には温度管理が必須です。

トリコデルマ菌資材の驚異的な土壌病害予防効果とメカニズム

 

トリコデルマ菌(Trichoderma spp.)は、農業現場において「微生物殺菌剤」や「土壌改良資材」として非常に高い注目を集めています。その最大の理由は、フザリウム菌やリゾクトニア菌、ピシウム菌といった難防除な土壌病原菌に対して、複数の攻撃手段を持って徹底的に対抗するためです。単なる「場所取り」だけでなく、積極的に病原菌を攻撃するその生態は、まさに土壌の中のボディガードと言えます。

 

  • 菌寄生(Mycoparasitism)という直接攻撃

    トリコデルマ菌の最も特徴的な能力は、病原菌を「餌」として認識する点にあります。土壌中で病原菌の菌糸を感知すると、トリコデルマ菌はその周囲に自身の菌糸を螺旋状に巻き付けます。そこで「キチナーゼ」や「グルカナーゼ」といった強力な細胞壁分解酵素を分泌し、病原菌の細胞壁を溶かして穴を開け、中身の栄養を吸収して殺滅してしまいます。このプロセスは顕微鏡レベルで確認されており、特にフザリウム病や苗立枯病の原因菌に対して高い攻撃力を発揮します。

     

  • 抗生物質の生産と競合作用

    トリコデルマ菌は、グリオトキシンやビリジンといった抗生物質(抗菌性物質)を生産し、周囲の病原菌の生育を化学的に抑制します。また、トリコデルマ菌は成長スピードが非常に速いことでも知られています。病原菌が植物の根に到達するよりも早く根の表面や傷口を占有(コロニー形成)し、病原菌が侵入する隙間や栄養源(滲出液など)を先に奪い取ってしまいます。これを「栄養と空間の競合」と呼び、病気が発生する前の予防的なバリアとして機能します。

     

参考リンク:注目の微生物資材に用いられるトリコデルマ菌とは(カクイチ)
上記のリンクでは、トリコデルマ菌の基本的な性質や、他のカビに対する生物殺菌剤としての利用価値について解説されています。

 

トリコデルマ菌資材を効果的に増やす堆肥との混合利用法

トリコデルマ菌資材は、そのまま散布するよりも、有機物(特に堆肥や米ぬか)と混ぜて「拡大培養」してから土壌に投入する方が、定着率とコストパフォーマンスが劇的に向上します。トリコデルマ菌は有機物の分解能力に優れており、堆肥を培地として爆発的に増殖させることができるからです。

 

  • 米ぬかと堆肥を使った拡大培養の手順

    最も一般的な方法は、完熟堆肥や米ぬかにトリコデルマ菌資材を混合する方法です。

     

    1. 材料の準備: 米ぬか10kgに対してトリコデルマ菌資材(粉剤)を規定量(例: 500g程度)用意します。
    2. 水分調整: 全体の水分量が50〜60%になるように水を加えます。手で握ると団子になり、指でつつくと崩れる程度が目安です。
    3. 混合と静置: よく混ぜ合わせたものを土嚢袋や通気性のある容器に入れます。
    4. 発酵管理: 直射日光の当たらない場所で保管します。トリコデルマ菌は好気性(酸素を好む)なので、袋の口は緩く縛り、空気を取り込めるようにします。
    5. 完成の目安: 気温20〜25℃の環境であれば、5〜7日程度で表面や内部に白や緑色の菌糸がびっしりと蔓延します。これが「種菌」となり、これをさらに大量の堆肥や圃場に混ぜ込むことで、菌の密度が高い土作りが可能になります。
  • 注意すべき温度とタイミング

    トリコデルマ菌は高温に弱いため、発酵熱で60℃を超えるような「未熟な堆肥」への投入は避けてください。堆肥化の初期段階(高温期)が終わり、温度が30〜40℃以下に下がった「後熟期」に混ぜるのがベストです。また、拡大培養した資材は鮮度が命です。菌糸が元気なうちに、できれば2週間以内に使い切るようにしましょう。

     

参考リンク:微生物を活かす―土着菌―採取・培養・増殖(ルーラル電子図書館)
こちらの資料では、トリコデルマ菌を含む有用微生物の採取や拡大培養の具体的な技術、特に温度管理や培地選びのポイントが詳しく記されています。

 

トリコデルマ菌資材と化学殺菌剤の併用対策と失敗例

「せっかく高い資材を入れたのに効果がなかった」という失敗例の多くは、化学農薬(殺菌剤)との併用ミスによるものです。トリコデルマ菌自体が「カビ(糸状菌)」の一種であるため、カビを殺すための農薬には極めて弱いという弱点があります。資材導入前に、使用している農薬との適合性を必ず確認する必要があります。

 

  • 絶対に避けるべき薬剤(ベンズイミダゾール系)

    特に「ベンレート(ベノミル剤)」や「トップジンM(チオファネートメチル剤)」などのベンズイミダゾール系殺菌剤は、トリコデルマ菌に対して極めて強い殺菌力を持ちます。これらを土壌灌注したり、種子消毒に使ったりした直後にトリコデルマ菌資材を投入しても、菌は定着できずに死滅してしまいます。これらの薬剤を使用した場合は、少なくとも2週間〜1ヶ月以上の期間を空けてから資材を投入するなどの対策が必要です。

     

  • 併用可能な薬剤とタイミングの工夫

    一方で、すべての殺菌剤がNGなわけではありません。例えば、細菌病を対象とした銅剤や抗生物質剤、あるいは一部の殺虫剤とは併用が可能な場合があります。また、土壌消毒(クロルピクリンや太陽熱消毒)を行った直後の「無菌状態」の土壌にトリコデルマ菌を投入するのは、非常に効果的なテクニックです。競合する他の菌がいないため、トリコデルマ菌が独占的に増殖し、病原菌の再侵入を防ぐ強力なバリアを形成できるからです。この「リセット後の先制攻撃」こそが、トリコデルマ菌資材の賢い利用法と言えます。

     

参考リンク:サンビオティック資材 混合適用表(サンビオティック)
この一覧表は、微生物資材と農薬や液肥を混用する際の適合性を判断するのに非常に役立ちます。特に殺菌剤との相性については詳細な注意が必要です。

 

トリコデルマ菌による植物の成長促進と免疫機能の活性化

トリコデルマ菌資材のメリットは、病気予防だけにとどまりません。近年の研究では、この菌が植物の根に接触することで、植物自身の生理機能を活性化させる「バイオスティミュラント(生物刺激資材)」としての側面が注目されています。これは検索上位の一般的な解説記事では見落とされがちな、収量アップに直結する重要な機能です。

 

  • 植物ホルモン様物質の産生と根圏の拡大

    特定のトリコデルマ菌株(特にT. harzianumT. asperellumなど)は、オーキシンなどの植物ホルモンや、成長を促す揮発性有機化合物を分泌することが確認されています。これにより、植物の側根や根毛の発達が著しく促進されます。根の表面積が増えることで、水分や肥料成分(特にリン酸や微量要素)の吸収効率が向上し、干ばつや塩害といった環境ストレスに対する耐性も強くなります。結果として、地上部の生育も旺盛になり、光合成能力が高まります。

     

  • 誘導全身抵抗性(ISR)のスイッチを入れる

    さらに興味深いのが、植物の免疫システムへの干渉です。トリコデルマ菌が根の内部(表皮層)に定着すると、植物はそれを「軽い感染」と認識し、全身の防御システムを活性化させます。これを「誘導全身抵抗性(ISR)」と呼びます。この状態になった植物は、根だけでなく葉や茎においても、病原菌や害虫の攻撃に対して迅速に防御反応(ファイトアレキシンや防御タンパク質の生成)を起こせるようになります。つまり、土壌にトリコデルマ菌を入れるだけで、地上の葉カビ病やうどんこ病に対しても、ある程度の抑制効果が期待できるのです。

     

参考リンク:野菜や花がグングン育つ! 農家を助ける“トリコデルマ菌”の働き(AGRI JOURNAL)
この記事では、トリコデルマ菌が根の内部に入り込んで植物の免疫システムを高める仕組みや、微量要素の取り込みをサポートする成長促進効果について詳しく紹介されています。

 

トリコデルマ菌資材の選び方とコスト対効果の高い導入対策

市場には多くのトリコデルマ菌資材が出回っていますが、その品質や菌の活性にはばらつきがあります。失敗しないためには、自分の栽培スタイルに合った形状の資材を選び、コストパフォーマンスを意識した導入計画を立てることが重要です。

 

  • 資材のタイプ別特徴と選び方
    • 粒剤・ペレットタイプ: 播種時や定植時に土壌に混和しやすい形状です。効果が比較的長く続くため、元肥と一緒に施用するのに適しています。
    • 水和剤・粉剤タイプ: 水に溶かして灌注したり、種子にまぶしたり(粉衣)して使います。即効性が高く、苗作りや育苗期の病害予防に最適です。根の周りに高濃度で菌を配置できるため、少量の資材で高い効果を得られます。
    • 複合微生物資材: バチルス菌納豆菌の仲間)や放線菌など、他の有用菌とブレンドされた資材です。多様な病害に対応できる可能性がありますが、トリコデルマ菌単体の濃度は低くなる傾向があります。特定の土壌病害(フザリウムなど)をピンポイントで叩きたい場合は、トリコデルマ菌単体の高濃度資材を選ぶのが定石です。
  • コストを抑える導入のコツ

    トリコデルマ菌資材は決して安価ではありません。畑全面に散布すると膨大なコストがかかります。そこでおすすめなのが「局所施用」です。

     

    • 育苗培土への混和: 最も土の量が少ない段階で処理することで、コストを最小限に抑えつつ、定植時にはすでに根が菌でガードされた「スーパー苗」を作ることができます。
    • 植え穴処理: 定植時の植え穴にのみ資材を施用します。
    • 前述の拡大培養: 米ぬか等で菌を増やしてから撒くことで、資材購入量を1/10以下に抑えることも可能です(ただし手間と品質管理のリスクは伴います)。

    参考リンク:バイオスティミュラントとしてのトリコデルマ菌(アリスタ ライフサイエンス)
    専門的な視点から、トリコデルマ菌資材の製品特性や、不溶態リン酸の可溶化といった肥料効率化の側面も含めたコストメリットについて解説されています。

     

     


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