育苗培土の作り方:赤玉土とくん炭の配合でコスパ最強の自作土へ

育苗培土の作り方を知れば、コスト削減と苗の品質向上が同時に叶うことをご存知ですか?市販品にはない「自作」ならではの調整テクニックと、失敗しないための重要なポイントを完全解説します。なぜプロは土を「寝かせる」のでしょうか?
育苗培土の作り方・完全ガイド
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配合の黄金比

赤玉土・ピートモス・くん炭の最適バランスで根張りが劇的に変化

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ガス害を防ぐ

未熟な有機物が引き起こすアンモニアガス障害と回避法

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太陽熱消毒

薬剤を使わずコストゼロで病原菌をリセットするプロの技

育苗培土の作り方

配合の黄金比率:赤玉土とピートモス

 

自作の育苗培土において最も基本的かつ重要なのは、ベースとなる用土の「物理性」を決定づける配合比率です。理想的な育苗培土は、固相(土の粒子)、液相(水)、気相(空気)のバランスが整っており、特に「気相」の確保が発芽直後の繊細な根の呼吸を助ける鍵となります。多くの農家や研究機関で採用されている標準的なベース配合は、赤玉土(小粒)とピートモス、そしてバーミキュライトを組み合わせたものです。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11723126/

資材名 配合比率(例) 役割と特徴
赤玉土(小粒) 50〜60%

保水性排水性のバランスが良く、肥料成分を含まない清潔な基本用土
参考)育苗培土は自分で作れる!おすすめの配合と作り方【作物別】
​。病原菌が少ないため育苗に最適です。

ピートモス 30〜40%

有機物として土壌の軽量化と保水性を担います。酸性が強いため、pH調整済みのものか、石灰での調整が必要です
参考)Redirecting...
​。

バーミキュライト 10% 無菌で非常に軽量。保肥力(CEC)が高く、肥料成分を吸着して徐々に放出する役割を果たします​。

この「赤玉土6:ピートモス3:バーミキュライト1」という黄金比率は、通気性と保水性を高い次元で両立させます。特に赤玉土は、黒ボク土や畑の土に比べて物理構造が崩れにくく、長期の育苗でも団粒構造を維持できるため、根腐れのリスクを大幅に低減できます。意外と知られていないのが、使用するピートモスの種類です。繊維が長すぎるものはセルトレイへの充填作業を阻害するため、細かく粉砕されたものを選ぶか、使用前にふるいにかける一手間が、均一な発芽を揃えるプロのコツです。

また、近年では環境負荷への配慮から、ピートモスの代替として「ヤシガラ(ココピート)」を使用するケースも増えています。ヤシガラは吸水性がピートモスよりも高く、乾燥後の再吸水も容易であるため、水管理に不安がある初心者にはむしろ扱いやすい素材と言えます。ただし、ヤシガラは塩分を含んでいる場合があるため、必ず塩抜き処理された農業用の製品を選ぶことが鉄則です。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8500816/

肥料とpH調整の重要性

土の物理性が整ったら、次は化学性、つまり「肥料」と「pH(酸度)」の調整です。育苗期、特に発芽直後の幼苗は高濃度の肥料に極めて弱く、肥料過多(濃度障害)は発芽不良や根焼けの直接的な原因となります。一般的に、トマトやナスなどの果菜類の育苗培土における窒素成分量は、土1リットルあたり150〜300mg程度が適正とされています。

自作培土における施肥設計では、即効性の化成肥料と緩効性の有機肥料を組み合わせるのが定石ですが、ここにも意外な落とし穴があります。

 

  • 肥料の均一混合: わずかな肥料の偏りが、セルトレイ内の生育ムラ(凸凹苗)に直結します。肥料を混ぜる際は、まず少量の土と肥料を完全に混ぜ合わせ、それを徐々に全体に広げていく「倍散法」を用いると、驚くほど均一に混ざります。​
  • pH調整のタイムラグ: 日本の土壌やピートモスは酸性寄りですが、多くの野菜はpH6.0〜6.5を好みます。調整には「苦土石灰(ドロマイト)」が一般的ですが、石灰が土と反応してpHが安定するまでには、水分を含ませてから1週間から2週間程度の時間がかかります。作りたての土ですぐに種まきをすると、pHが安定せず、さらに石灰と肥料が反応してガスが発生し、根を傷める原因になります。

    参考)https://www.shuminoengei.jp/?m=pcamp;a=page_qa_detailamp;target_c_qa_id=22780

pH調整においては、消石灰はアルカリ度が強すぎて急激な変化をもたらすため、初心者には穏やかに効く苦土石灰や有機石灰(カキ殻石灰など)が推奨されます。特に苦土石灰は、植物の光合成に必要なマグネシウム(苦土)も同時に補給できるため、葉の色を濃くし、健全な光合成を促す一石二鳥の効果があります。

 

参考)https://www.takii.co.jp/tsk/bn/pdf/2018_sa_90_174.pdf

排水性を高めるくん炭の活用法

「育苗培土の自作において、最強の添加剤は何か?」と問われれば、多くの熟練農家が「もみがら燻炭(くん炭)」を挙げるでしょう。単なる土壌改良材にとどまらず、育苗におけるリスク管理の要となる資材です。

 

参考)籾殻燻炭の基礎知識と作り方に関して解説 | コラム | セイ…

もみがら燻炭を培土全体の10〜20%程度混和することで、以下の劇的な効果が期待できます。

  1. 物理的な排水性向上: くん炭はその形状自体が多孔質であり、土の中に無数の隙間(孔隙)を作ります。これにより余分な水がスムーズに排出され、酸素が根に行き渡ります。

    参考)もみ殻くん炭、培土、ぼかしづくり – 丹沢よしも…

  2. 地温上昇効果: くん炭の黒色は太陽光を吸収しやすく、地温を高める効果があります。春先の低温期における育苗では、このわずかな温度差が初期生育のスピードを大きく左右します。

    参考)炭資材の定番!もみ殻くん炭の使い方や作物への効果をご紹介

  3. アルカリ性による中和: くん炭はpH8〜10程度のアルカリ性資材です。酸性のピートモスや赤玉土と混ぜることで、石灰の使用量を減らしつつ自然にpHを矯正する効果があります。

    参考)籾殻くん炭とは?土壌改良資材としての効果と作り方、使用方法 …

  4. 微生物の住処: 多孔質な構造は、有用微生物(善玉菌)の絶好の住処となります。ここに住み着いた微生物が、後述する病害抑制にも間接的に寄与します。

    参考)https://www.mdpi.com/2073-4395/14/3/609/pdf?version=1710767324

さらに、「くん炭3:培土1」といった極端な割合や、くん炭100%での育苗を行う事例もあり、根の張りが驚くほど白く細かくなることが報告されています。ただし、くん炭を作りたてで使用する場合、揮発成分が残っているとガス害の恐れがあるため、一度雨に当てるか、散水して数日置いてから使用するのが安全な「灰汁抜き」のテクニックです。

消毒と熟成:失敗しない下準備

自作培土最大のリスクは、土壌病害(立枯病など)と雑草の種子の混入です。市販の培土は加熱殺菌処理されていますが、自作の場合は自分でこの工程を行う必要があります。ここで推奨されるのが、環境負荷ゼロで高い効果を発揮する「太陽熱消毒」です。

 

参考)https://www.mdpi.com/2076-3417/13/19/11055/pdf?version=1696740327

太陽熱消毒の具体的なステップ

  1. 配合と加水: 培土を配合し、手で握って崩れない程度(水分率60%前後)まで十分に加水します。水は熱伝導を良くするために必須です。

    参考)太陽熱消毒(養生処理)マニュアル

  2. 密閉: 透明なビニール袋やシートで土を隙間なく密閉します。黒色ではなく透明マルチを使うのがポイントで、太陽光を透過させ、内部温度をより高く上げることができます。

    参考)夏季の高温を活用した太陽熱土壌消毒|家庭菜園編|農作業便利帖…

  3. 期間: 夏季の高温期であれば、2週間から1ヶ月程度放置します。土壌内部の温度が40℃〜60℃に達することで、多くの病原菌やセンチュウ、雑草の種子が死滅します。​

このプロセスは単なる消毒ではありません。土を湿らせて温度をかけることで、有機物が分解され、肥料成分が土になじむ「熟成」が進みます。特に未熟な堆肥や有機肥料を使った場合、土の中で分解が急激に進むとアンモニアガスや亜硝酸ガスが発生し、閉鎖空間であるセルトレイやポット内で深刻なガス障害を引き起こします。

 

参考)https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/423596_2722884_misc.pdf

「土は作ってすぐには使わない」のが鉄則です。最低でも2週間、できれば1ヶ月程度「寝かせる(熟成させる)」ことで、pHが安定し、ガスが抜け、微生物相(フローラ)が安定した「安全な土」に生まれ変わります。この熟成期間中に、市販の微生物資材(有用菌)を投入して、あらかじめ良い菌を優占させておく「バイオプライミング」的な手法も、近年のプロ農家の間では注目されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10011460/

自作の落とし穴:市販品との比較

ここまで自作の方法を解説してきましたが、あえて「自作のデメリット」と「市販品との比較」という視点を持つことも重要です。自作培土は確かに材料費(コスパ)を安く抑えることができますが、労力(人件費)とリスクを天秤にかける必要があります。

比較項目 自作培土 市販育苗培土
コスト 資材費のみなら3〜5割安になることが多い。 高価だが、手間賃が含まれていると考える。
均一性 混合ムラが出やすく、生育が不揃いになりがち。 工業的に混合されており、極めて均一。
安全性 消毒不十分だと病気や雑草のリスクあり。 焼土処理などで無菌化されており安心。
肥効 自分で調整可能だが、微量要素欠乏のリスクも。 初期生育に必要な微量要素まで設計済み。

意外な落とし穴:微量要素の欠乏
赤玉土やピートモスには、窒素・リン酸・カリ以外の微量要素(マグネシウム、鉄、マンガン、ホウ素など)がほとんど含まれていません。これに対し、市販の培土は微量要素入りの複合肥料が使われていることが大半です。自作する場合、長期育苗(例えばナスの接ぎ木苗など)になると、後半で微量要素欠乏による葉の黄化(クロロシス)が発生しやすくなります。これを防ぐには、微量要素入りの資材(海藻エキスや微量要素肥料)を少量添加するか、追肥でカバーする計画が必要です。

プロが実践する「発芽テスト」
最後に、大量の苗を作る前の必須テクニックを紹介します。それは、作った土で少量の「発芽テスト(生物検定)」を行うことです。ラディッシュコマツナなど発芽の早い種を実際にまいてみて、以下の点を確認します。

 

参考)https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2039014636.pdf

  • 発芽率は正常か?
  • 子葉(双葉)の色は濃い緑か?(黄色ければガス害や濃度障害の疑い)
  • 根は白く伸びているか?(茶色ければ根腐れや塩類集積の疑い)

このひと手間を惜しまないことが、数千本の苗を全滅させるリスクを回避する唯一確実な方法です。自作培土は「作って終わり」ではなく、「植物に聞いてみる」ところまでがセットなのです。

 

 


注射薬配合変化データブック