農業における土作りとは、単に肥料を撒くこと(化学性の改善)だけではありません。作物の根が健全に伸び、水や養分を吸収できる「物理的な環境」を整えることが極めて重要です。その指標となるのが、土壌の全体積を構成する「固相」「液相」「気相」の割合、すなわち「三相分布(さんそうぶんぷ)」です。
土壌は、岩石が風化してできた鉱物粒子や植物の残渣などの「固相」、その粒子の隙間に入り込んだ「液相(水)」、そして水が満たしていない空間にある「気相(空気)」の3つで構成されています。これらがどのような割合で存在しているかが、その土壌の性格(物理性)を決定づけます。一般的に、作物の生育に最適とされる理想的な三相分布の比率は以下の通りです。
この比率は、固相(土の粒)が全体の4割程度で、残りの6割が隙間(孔隙)であることを意味します。そして、その隙間の中に水と空気が半々ずつ存在する状態が、最もバランスが良いとされています。この状態では、根が必要とする水分と酸素が十分に供給され、根張りも良くなります。これを専門用語で「固相率」「液相率」「気相率」と呼び、それぞれのバランスを管理することが、プロの農家にとっての「土作り」の核心となります。
特に重要なのは、固相以外の部分、つまり「孔隙(こうげき)」です。孔隙は、水や空気の通り道であり、根が伸びていくスペースでもあります。固相率が高すぎる(土が締まりすぎている)と、物理的に根が伸びることができず、酸素不足や排水不良を引き起こします。逆に固相率が低すぎても、根が作物を支えられず(倒伏しやすくなる)、保水力が低下する原因となります。
理想的な比率である「固相:液相:気相=4:3:3」を目指すことは、単なる数字合わせではありません。これは、作物がストレスなくエネルギーを生産活動(光合成や果実の肥大)に向けるための「快適な住環境」を提供することと同義です。人間が換気の悪い部屋や浸水した床では暮らせないのと同様に、根も適切な空気と水がなければ窒息してしまいます。
土壌診断の基準値について詳しく解説されています。
土壌の三相分布が理想的な比率から外れると、作物には目に見える形で悪影響が現れます。その原因は多岐にわたり、長年の耕作による踏圧や、有機物の不足、不適切な水分管理などが挙げられます。ここでは、バランスが崩れた際の具体的な症状と原因を深掘りします。
1. 固相率が高すぎる場合(土が硬い)
トラクターなどの大型機械による踏み固めや、降雨による土壌粒子の沈降によって発生します。
2. 液相率が高すぎる場合(水はけが悪い)
排水性が悪い土壌や、長雨の後に見られます。液相が増えると、物理的に気相(空気)が追い出されてしまいます。
3. 気相率が高すぎる場合(水持ちが悪い)
砂質土壌や、未熟な有機物を大量に投入しすぎて土がスカスカになっている場合に起こります。
この三相のバランスは常に変動しています。雨が降れば一時的に液相が増えて気相が減り、日照りが続けばその逆になります。しかし、優れた土壌はこの変動に対して「バッファ(緩衝能)」を持っています。問題なのは、雨が降った後にいつまでも液相が過多のままであったり、少し日照りがあっただけですぐに液相がゼロに近づいたりする「極端な土壌」です。
作物の生育不良を感じた時、多くの人は「肥料不足か?」「病気か?」と考えがちですが、実はこの「三相のバランス不全」が根本原因であるケースが非常に多いのです。特に「気相」の確保は盲点になりがちです。植物の根は、養分を吸収するためにエネルギーを使います(能動輸送)。このエネルギーを生み出すには「呼吸」が必要で、呼吸には「酸素」が不可欠です。つまり、気相が不足すると、いくら肥料を与えても根はそれを吸い上げることができないのです。
土壌物理性と根の伸長の関係について詳細な記述があります。
崩れてしまった三相のバランスを理想的な状態(4:3:3)に戻すための最大の鍵、それが「団粒構造(だんりゅうこうぞう)」の形成です。団粒構造とは、微細な土の粒子が集まって小さな塊(団粒)を作り、その団粒同士がさらに集まって適度な隙間を作っている状態を指します。
団粒構造が形成されると、土壌には二種類の隙間が生まれます。
つまり、団粒構造を持つ土壌は、「水はけが良いのに水持ちも良い」という、相反する性質を両立させることができるのです。この魔法のような構造を作るためには、以下の手順と資材の活用が有効です。
有機物の投入と微生物の活性化
団粒を作る「接着剤」の役割を果たすのが、土壌微生物が排出する粘着物質や、ミミズなどの分泌液です。これらを増やすためには、エサとなる「有機物」が不可欠です。
耕起と物理的破砕
すでに固相率が高く、カチカチに固まってしまった土壌(耕盤層がある場合)は、有機物を入れるだけでは改善に時間がかかります。物理的な力を加えて隙間を作ります。
土壌改良資材の利用
即効性を求める場合は、多孔質の資材を利用して強制的に気相を増やします。
改善のゴールは、雨が降っても「余分な水はすぐに抜け(気相の確保)」、かつ「必要な水は残る(液相の確保)」土を作ることです。これを実現することで、固相・液相・気相の数値はおのずと理想値に近づいていきます。
団粒構造のメカニズムと資材の効果について解説されています。
自分の畑の三相分布を知るために、必ずしも高価な分析機器が必要なわけではありません。もちろん、普及センターや分析機関に依頼すれば、実容積測定器(三相計)を使って正確なパーセンテージを出してくれますが、日々の管理の中で農家自身ができる「簡易診断」も非常に有効です。ここでは、特別な道具を使わずに固相・液相・気相の状態を推測する方法を紹介します。
1. 手触りによる「握り」診断
適度な水分を含んだ状態(雨上がりから数日後など)で、土を手に取って握ってみてください。
2. 棒を使った「貫入」診断
ホームセンターで売っている直径1cm程度の金属の棒(または長めのドライバー)を用意します。これを畑の数カ所に垂直に刺してみます。
3. ペットボトルを使った「沈降」診断(土性の簡易判定)
透明なペットボトルに土を3分の1ほど入れ、水を満たして激しく振ります。その後、静置して土が沈殿する様子を観察します。
4. 水たまりの観察
雨が上がってから24時間経っても水たまりが残っている場所は、明らかに「液相過多・気相ゼロ」の状態です。逆に、雨が降っている最中なのに水がたまらず素通りしてしまう場所は保水性がありません。
これらの観察を通じて、「うちは少し固相が多いから、堆肥を入れて耕そう」や「水が抜けないから、明渠(溝)を掘って気相を確保しよう」といった対策を立てることができます。数字そのものよりも、作物の根が感じている「息苦しさ」や「喉の渇き」を、これらのサインから読み取ることが重要です。
簡易的な土壌診断の手法についてイラスト付きで紹介されています。
一般的な土壌診断では、畑全体の平均値としての「三相分布」を見ますが、実は植物の根にとって最も重要なのは、根の表面わずか数ミリの世界、すなわち「根圏(こんけん)」における気相の挙動です。ここでは、あまり語られることのないミクロな視点から、固相・液相・気相のダイナミクスと、根の活性化について解説します。
液相と気相の「椅子取りゲーム」と拡散速度
土壌の孔隙内では、水(液相)と空気(気相)は常にスペースを奪い合っています。雨が降れば液相が気相を追い出し、乾燥すれば気相が液相の場所に入り込みます。ここで問題となるのが、酸素の移動速度です。
水中(液相中)での酸素の拡散速度は、気中(気相中)に比べて約1万分の1と極めて遅くなります。つまり、根の周りが水膜で完全に覆われてしまうと、たとえすぐ近くに気相(空気の通り道)があったとしても、酸素は根の表面まで届くのに時間がかかりすぎ、根は酸欠状態に陥ります。
団粒構造が作る「酸素の高速道路」
良質な団粒構造においては、団粒の外側にある「大孔隙」が気相となり、酸素の高速道路として機能します。一方、団粒の内側にある「小孔隙」は液相となり、水を保持します。
根は、この団粒の表面に接触しながら伸びていきます。これにより、根の一部は液相から水と養分を吸収し、別の一部(または同じ根の反対側)は気相に触れて酸素を取り込むという「ハイブリッドな吸収」が可能になります。
単に「気相が30%あればいい」のではなく、この「気相と根の接触頻度」こそが、根の代謝(ATP合成)を高め、養分吸収能力を最大化させる鍵なのです。
pF値(水分張力)と気相の質の関係
専門的な指標に「pF値」があります。これは根が水を吸うのに必要な力の強さを示しますが、同時に「どのサイズの孔隙が水で満たされているか」も示唆します。
根圏ガス交換の活性化策
このミクロなガス交換を促進するためには、単なる排水対策に加え、以下のような視点が有効です。
結論として、固相・液相・気相の管理とは、静的な「割合」を合わせる作業ではなく、根が呼吸し続けるための動的な「酸素供給システム」を構築することだと言えます。このミクロな視点を持つことで、作物の生理障害の多くを未然に防ぐことができるでしょう。
土壌水分とpF値の関係、および作物の生育適正範囲についての詳細データです。
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