農業の現場において、土作りは収量を左右する最も重要な工程ですが、同時に最も重労働でもあります。特に完熟堆肥を作るために、切り返し(撹拌)を行い、数ヶ月間発酵を待つプロセスは、多くの農家にとって大きな負担となってきました。ここで紹介するリサール酵産の「カルスNC-R」は、そうした常識を覆す「土中発酵」を可能にする複合微生物資材です。
カルスNC-Rの最大の特徴は、好気性菌(酸素を好む菌)と嫌気性菌(酸素を嫌う菌)をはじめ、放線菌や糸状菌など多様な微生物がバランスよく配合されている点にあります。これにより、土壌の表面だけでなく、酸素の少ない地中でも有機物の分解を強力に進めることができます。通常の堆肥化プロセスを畑の中で直接行うため、堆肥場を用意する必要がなく、生の有機物をそのまま畑にすき込むことが可能になります。
しかし、ただ撒けば良いというわけではありません。確実に効果を出し、作物の生育を促進させるためには、資材の投入バランス、いわゆる「黄金比率」を守ることが絶対条件です。10坪(約33平方メートル)の畑に対する基本的な配合比率は以下の通りです。
| 資材名 | 推奨量(10坪あたり) | 役割と重要性 |
|---|---|---|
| カルスNC-R | 1kg | 分解の主役となる微生物群。これを起点に土着菌も活性化させます 。 |
| 籾殻(もみがら) | 30kg | 土壌の物理性改善(水はけ・通気性)に寄与する粗大有機物。分解されにくいリグニンを含みます 。 |
| 米ぬか | 10kg | 微生物の初期の餌(エネルギー源)。爆発的な増殖を促すスターターとして機能します 。 |
| 硫安(硫酸アンモニウム) | 1.2kg | 炭素率(C/N比)の調整役。籾殻のような炭素の多い資材を分解する際に必須となる窒素源です 。 |
この比率は、長年の試験結果から導き出された「失敗しないための基準」です。特に重要なのが「硫安」の存在です。多くの有機栽培農家が化学肥料である硫安の使用を躊躇しがちですが、ここでの硫安は作物への肥料としてではなく、あくまで「微生物が籾殻を分解するためのエネルギー源」として消費されます。分解プロセスが終わる頃には、微生物の体に取り込まれ、最終的にはアミノ酸などの有機態窒素として作物に吸収される形に変わります。
また、使用する有機物は籾殻に限定されません。収穫後の作物残渣(トマトの茎葉、キャベツの外葉など)や、刈り取った雑草も立派な有機資源となります。残渣を使用する場合は、その水分量や炭素率に合わせて米ぬかや硫安の量を微調整する必要がありますが、基本的には「生のままですき込める」のがカルスNC-Rの強みです。トラクターや管理機ですき込む際は、土と有機物、そしてカルス菌が均一に混ざるように意識することが、分解ムラを防ぐコツとなります。
カルスNC-Rを使用する上で、最も理解しておかなければならない科学的メカニズムが「窒素飢餓」です。インターネット上の口コミや失敗談の中で「カルスを使ったら野菜が黄色くなった」「生育が止まった」という報告が見受けられますが、その原因の9割以上はこの窒素飢餓に対する理解不足にあります。
窒素飢餓とは、土壌中の微生物が有機物を分解するために、土の中に元々あった窒素(作物が吸収するはずだった栄養分)を奪ってしまい、作物が一時的に栄養失調に陥る現象を指します。これを理解するためには「C/N比(炭素率)」という指標を知る必要があります。
微生物にとって理想的なC/N比は概ね20前後と言われていますが、籾殻のC/N比は約70〜80、麦わらに至っては100近くあります 。つまり、炭素(ご飯)ばかりが大量にあり、窒素(おかず)が極端に不足している状態です。
参考)https://ameblo.jp/nhf-berry/entry-12762731001.html
この状態で、窒素源(硫安や鶏糞など)を足さずにカルスNC-Rと籾殻だけをすき込むとどうなるでしょうか。投入された強力な微生物たちは、目の前の大量の籾殻を分解しようと活動を開始しますが、体を作るための窒素が足りません。そこで彼らは、土壌中に存在している硝酸態窒素などを片っ端から取り込んでしまいます。その結果、同じ土壌に植えられた作物の根が吸収できる窒素がなくなり、葉色が薄くなり、生育不良を起こすのです 。
参考)カルスNCRのデメリットとは?使用上の注意点と対策を徹底解説…
参考リンク:窒素飢餓と炭素率(C/N比)の詳しいメカニズム解説
この窒素飢餓を防ぐために不可欠なのが、前述した「硫安」の添加です。硫安を加えることは、微生物にお弁当の「おかず」を持たせてあげるようなものです。十分な窒素があれば、微生物は土壌の肥料分を奪うことなく、スムーズに有機物を分解できます。分解が進むと、微生物が取り込んだ窒素は菌体タンパクとなり、微生物が死滅した後にゆっくりと分解され、再び作物が吸収できる良質な「有機質肥料」として土壌に還元されます。
つまり、カルスNC-Rにおける窒素添加は、単なる肥料やりではなく、「炭素過多な有機物を、将来の優れた肥料に変換するための投資」と言えます。このサイクルを正しく回すことこそが、微生物資材を使いこなす真髄なのです。硫安以外にも、尿素や石灰窒素などは窒素含有量が高いため使用できますが、石灰窒素は殺菌作用があるため、カルス菌自体にダメージを与える可能性があり、同時施用には注意が必要です 。安全かつ安価で計算しやすい硫安が、最も推奨される窒素源となります。
一般的に、「微生物資材」と「消毒」は相反するものと考えられがちです。土壌消毒を行うと、悪い菌だけでなく良い菌まで死滅させてしまうからです。しかし、カルスNC-Rには、夏の高温期に行う「太陽熱消毒」と併用することで、むしろ土作り効果を劇的に高めるという、あまり知られていない活用法があります。
太陽熱消毒は、十分な水分を含ませた土壌を透明マルチで被覆し、太陽光の熱で地温を上昇させて病原菌や線虫、雑草の種子を死滅させる技術です。ここにカルスNC-Rを組み合わせる手法は、以下のような手順で行います。
「せっかく入れたカルス菌が熱で死ぬのでは?」という疑問が湧きますが、実はカルスNC-Rに含まれる菌の一部は芽胞(がほう)という耐久構造を形成し、高温に耐える能力を持っています 。また、土壌の深層部までは高温になりきらないため、菌は生存可能です。
参考)複合微生物資材 FAQ - リサール酵産
この併用療法の最大のメリットは、「病害虫のリセット」と「急速な土壌団粒化」を同時に行える点です。太陽熱による物理的な殺菌と、石灰窒素の化学的な殺菌に加え、カルス菌による有機物の急速分解時に発生する発酵熱や有機酸が、相乗的に病原菌を抑制します 。さらに、密封されたマルチの中は高湿度・高温となり、カルス菌(特に高温耐性のある菌種)にとってはお風呂のような快適な環境となり、有機物の分解が爆発的に進みます。
参考)土壌改良について質問です。太陽熱養生処理をしようと思っていま…
処理が終わってマルチを剥がす頃には、投入した硬い籾殻や残渣はボロボロに分解され、土は驚くほどフカフカの団粒構造に変化しています。これにより、秋作の定植直後から根張りが抜群に良くなり、初期生育が安定します。この手法は、トマトやナス、キュウリなどの連作障害に悩む施設栽培農家や、アスパラガスなどの長期栽培作物の改植時において、非常に強力なソリューションとして注目されています 。
参考)カルス NC−R についてのお問い合わせ - リサール酵産
カルスNC-Rは非常に強力な資材ですが、生き物である以上、弱点もあります。その弱点を理解し、適切な環境を整えてあげなければ、単なる高い粉を撒いただけになってしまいます。失敗の二大要因は「乾燥」と「紫外線」です。
まず、水分についてです。微生物が有機物を分解するためには、十分な水分が不可欠です。乾いたパンがカビにくいように、乾燥した土壌の中ではカルス菌も活動を停止(休眠)してしまいます。「失敗しない水やり」の目安は、土を握った時に崩れず、軽く形が残る程度(水分率60%前後)です 。
特に注意が必要なのが、籾殻を使用した直後です。籾殻は吸水性が低く、かつ乾きやすい性質を持っています。すき込んだ後に雨が降れば理想的ですが、晴天が続く場合は、意識的にスプリンクラーやホースでたっぷりと灌水を行う必要があります。「少し撒きすぎたかな?」と思うくらいで丁度良い場合が多いです。プランター栽培の場合は、底から水が流れ出るまで与えます 。この初期灌水が、微生物の活動スイッチを入れるための「点火」の役割を果たします。
参考)超カルスNC-Rの使い方|初心者でも失敗しない土壌改良材!何…
次に、紫外線対策です。カルスNC-Rに含まれる微生物は、紫外線に非常に弱いです。土の表面に散布したまま放置すると、直射日光(紫外線)によって菌が死滅し、効果が激減してしまいます 。
| NG行動 | なぜダメなのか | 正しい対策 |
|---|---|---|
| 散布後、翌日まで放置する | 数時間の直射日光でも表層の菌は死滅リスクが高まる。 | 散布したら「すぐに」すき込む。 面積が広い場合は、区画を分けて「散布→すき込み」を繰り返す。 |
| 土の表面にパラパラ撒いて終わり | 有機物と接触せず、乾燥と紫外線で菌が定着できない。 | 必ず土の中に混ぜ込む(耕運)。プランターなら上から新しい土や堆肥を被せて遮光する。 |
| 透明マルチを張らない(夏場以外) | 乾燥が進みやすく、表層の菌が不活性化する。 | 分解期間中はマルチやビニールで覆い、保湿と遮光を行うのがベスト(必須ではないが効果的)。 |
また、意外な盲点として「保管方法」があります。開封後のカルスNC-Rを、口を開けたまま日の当たる倉庫の窓際などに置いておくと、袋の中でも劣化が進みます。使い切れなかった場合は、空気を抜いて口をしっかり縛り、直射日光の当たらない冷暗所で保管することが重要です。
最後に、カルスNC-Rがもたらす農業経営上の革命的なメリットについて触れておきましょう。それは「堆肥場の廃止」と「廃棄物の資源化」です。
従来の農業では、収穫後の残渣(イモの蔓、野菜の外葉、引き抜いた株など)は「ゴミ」として扱われることが多く、圃場の隅に積み上げて燃やしたり、わざわざ軽トラックに積んで搬出したりしていました。また、良い土を作るためには、牛糞や鶏糞を購入し、切り返し作業を行って完熟堆肥を作るためのスペース(堆肥場)と労力が必要でした。
カルスNC-Rは、畑そのものを「巨大な堆肥発酵槽」に変えてしまいます。前作の残渣を片付ける必要はありません。そのままトラクターで細かく粉砕し、カルスNC-Rと米ぬか、少量の硫安を撒いてすき込んでしまえば良いのです。2〜3週間もすれば、残渣は分解されて土に還り、次の作物のための栄養となります。
この「すき込み完結型」のサイクルのメリットは計り知れません。
さらに驚くべきことに、カルスNC-Rの分解能力は、通常の有機物にとどまりません。リサール酵産の公式実験やユーザーの報告によれば、生分解性プラスチックで作られた釣り用ルアーや、非常に硬い貝殻(カキ殻など)でさえも、時間をかければ分解・資材化できることが確認されています 。これは、自然界の浄化作用を凝縮したような強力な微生物パワーの証明でもあります。
参考)TOP - リサール酵産
もちろん、カルスNC-Rは魔法の粉ではありません。適度な水分、温度、そして窒素バランスが整って初めて機能します。しかし、正しく使いこなせば、農家の長年の悩みであった「残渣処理」と「土作り」を一本化し、持続可能な循環型農業を、誰でも簡単に実践できるツールとなるのです。プロの農家から家庭菜園の愛好家まで、この「微生物の力」を借りない手はありません。

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