塩類集積対策:施設栽培のEC改善とクリーニングクロップの活用

施設栽培で葉が枯れる原因は塩類集積かも?EC値の測定から、水を利用した除塩、クリーニングクロップの選定、そして意外な盲点となる堆肥の扱いまで、プロが実践する具体的な改善策を徹底解説します。今の土壌管理で本当に大丈夫ですか?

塩類集積の対策

EC値測定と土壌診断の重要性

 

施設栽培において作物の生育が悪化する最大の要因の一つが、土壌への過剰な養分蓄積による塩類集積です。この状態を正確に把握するために不可欠なのが、EC値(電気伝導度)の測定と定期的な土壌診断です。EC値とは、土壌中にどれだけの電気を通す物質(=肥料成分としての塩類)が溶け込んでいるかを示す指標であり、この数値が高いほど塩類濃度が高いことを意味します。一般的に、多くの野菜類において適正なEC値は0.4~1.0mS/cm程度とされていますが、1.5mS/cmを超えると「濃度障害」のリスクが跳ね上がります。

 

参考)土壌EC・土壌pHとは?その測定方法と適正値について | コ…

まず行うべき対策は、感覚に頼った施肥を止め、客観的な数値に基づいた管理に移行することです。特に施設栽培では雨による自然な肥料分の流亡が期待できないため、露地栽培に比べて塩類が集積しやすい環境にあります。定期的にECメーターを用いて土壌の状態をモニタリングし、基準値を超えそうな場合は追肥を控える、あるいは元肥の量を減らすといった判断が求められます。また、EC値だけでなく、pH値や特定のイオンバランス(カルシウムとカリウムの拮抗など)も同時に診断することで、より的確な対策が可能になります。単に肥料を減らすだけでなく、残存している養分の種類を特定し、不足している微量要素だけを補うといった「引き算の施肥」が、健全な土作りへの第一歩となります。

 

参考)農地の塩類集積を防いで農作物を守れ! | コラム | セイコ…

東京都農業振興事務所の土壌診断基準(PDF)
公的機関が公開している土壌診断の基準値とEC値の読み方が詳しく解説されている資料です。

 

施設栽培での灌水除塩の基本

土壌診断で危険なレベルの塩類集積が確認された場合、最も物理的かつ即効性のある対策として挙げられるのが、大量の水を用いた「灌水除塩(リーチング)」です。これは、水に溶けやすい硝酸態窒素や塩素などの塩類を、大量の水で土壌の下層深くへ押し流す、あるいは暗渠排水から系外へ排出させる手法です。

 

参考)https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/738322_6747299_misc.pdf

具体的な手順としては、休耕期にビニールを剥がして自然降雨にさらす方法や、スプリンクラーや灌水チューブを用いて人工的に大量の水を散布する方法があります。特に施設栽培で天井ビニールを剥がせない場合は、数日間にわたり反復して大量の水を撒く必要があります。ある研究データによれば、灌水チューブで約6時間の散水を4回繰り返すことで、作物の生育に支障がないレベルまでEC値を低下させることができたという報告もあります。

しかし、この方法には重大な注意点があります。一つは、排水性が悪い圃場で行うと、逆に「湿害」を引き起こしたり、地下水位が高い場所では一度流した塩類が毛細管現象で再び地表に戻ってくる「リバウンド」現象が起きたりするリスクです。また、環境面への配慮も不可欠です。溶脱された高濃度の硝酸性窒素が地下水や近隣の河川に流れ込むことは、環境汚染につながる恐れがあります。そのため、ただ水を撒くのではなく、暗渠排水の整備状況を確認し、可能であれば排水を適切に処理できる環境で行うことが望まれます。緊急避難的な措置として有効ですが、根本的な土作りと併用する必要があることを理解しておきましょう。

 

参考)ハウス内の塩類集積対策について

岡山県農林水産総合センターの除塩効果レポート(PDF)
実際に灌水チューブを使ってどれだけEC値が下がったかの実証データが掲載されています。

 

クリーニングクロップによる吸肥

物理的な除塩が難しい場合や、より環境負荷を低減したい場合に推奨されるのが、「クリーニングクロップ(吸肥作物)」の導入です。これは、吸肥力が極めて高い特定の作物を栽培することで、土壌中に過剰に残った肥料成分を植物体に吸収させ、その植物体を圃場外へ持ち出すことで除塩を行う生物的な対策です。

 

参考)【ベテラン土壌肥料研究者からのメッセージ】 肥料を上手に使う…

代表的なクリーニングクロップとしては、イネ科のソルゴー(ソルガム)やトウモロコシ(デントコーン)、マメ科のクロタラリアなどが挙げられます。これらの作物は根を深く張り、旺盛に成長するため、土壌深層の余剰養分まで吸い上げる力を持っています。例えば、夏場の休耕期間を利用してソルゴーを栽培し、大きく育った段階で刈り取り、その残渣を必ず圃場外へ持ち出すことが重要です。ここで刈り取った作物をそのまま土にすき込んでしまうと、吸収した塩類が再び土に戻ってしまい、除塩の意味がなくなってしまいます。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/tuti233.pdf

クリーニングクロップの活用は、単に塩類を除去するだけでなく、土壌に有機物を供給(根の部分など)し、団粒構造の発達を促すという副次的な効果も期待できます。透水性が向上すれば、次作以降での塩類の溶脱もスムーズになり、土壌物理性の改善にもつながります。ただし、栽培期間が必要となるため、作付け計画に余裕を持たせる必要があります。また、クリーニングクロップ自体が吸い上げた養分で大きく育つため、搬出作業には相応の労力が伴う点を考慮して計画を立てましょう。

 

雪印種苗の緑肥作物・クリーニングクロップ解説
ソルガムなどの具体的な品種や、どの程度の吸肥効果があるかが分かりやすく紹介されています。

 

腐植酸資材とバイオスティミュラント

土壌中の塩類濃度自体をすぐに下げることが難しい場合、作物が塩類ストレスに耐えられる環境を整える「緩和策」も有効です。ここでキーワードとなるのが「腐植酸」と「バイオスティミュラント」です。塩類障害は、土壌溶液の浸透圧が高まることで根が水を吸えなくなる「浸透圧ストレス」や、特定のイオンが過剰になることによる「イオンストレス」が原因です。

 

参考)https://bsikagaku.jp/f-knowledge/knowledge16.pdf

腐植酸資材フミン酸など)を投入すると、土壌の陽イオン交換容量(CEC)が高まります。CECとは土壌が養分を一時的に吸着・保持するキャパシティのことです。CECが高まると、土壌溶液中に溶け出している過剰な塩類(肥料成分)が腐植酸に吸着され、作物の根に直接触れる濃度が緩和されます。これにより、同じEC値であっても作物が受けるストレスを軽減することができます。砂質土壌のようにCECが低い圃場では特に効果的です。

 

参考)肥料・堆肥・土壌改良材・バイオスティミュラントの違いを徹底解…

さらに近年注目されているのが、「バイオスティミュラント(生物刺激資材)」です。これは従来の肥料や農薬とは異なり、植物が本来持っているストレス耐性を引き出す資材です。例えば、海藻エキスやアミノ酸、特定の微生物資材などを含み、これらを施用することで植物体内の浸透圧調整機能が強化され、高塩分濃度の環境下でも根からの吸水能力を維持したり、酸化ストレスを軽減したりする効果が報告されています。物理的な除塩(マイナスにする作業)と、土壌のバッファー能力向上(キャパシティを広げる作業)を組み合わせることで、より強固な塩類対策が可能になります。

 

参考)環境負荷を減らす!バイオスティミュラント製品がもたらす農業の…

バイオスティミュラントの基礎知識(愛知製鋼コラム)
植物のストレス耐性を高める新しい農業資材のメカニズムについて、塩害対策の観点から解説されています。

 

堆肥の多量施用が招く塩類集積

「土作りには堆肥が良い」という常識が、実は塩類集積の隠れた原因になっていることがあります。これは意外と知られていない盲点であり、良かれと思って行った土壌改良が逆効果を招く典型的なケースです。特に牛ふん堆肥や鶏ふん堆肥などの家畜ふん堆肥には、家畜の餌に由来する塩分(ナトリウム)や、高濃度のカリウムが含まれていることが多々あります。

 

参考)https://www.leio.or.jp/pdf/95/qa_03.pdf

化学肥料を減らしていても、これらの堆肥を毎年大量に投入し続けていれば、土壌中の塩類濃度は確実に上昇していきます。堆肥はあくまで「土壌物理性の改善(ふかふかにする)」や「緩効的な養分供給」を目的とするものであり、EC値が既に高い圃場においては、家畜ふん堆肥の投入は火に油を注ぐ行為になりかねません。実際、塩類集積に悩む農家の多くが、堆肥由来の塩分を見落としています。

EC値が高い圃場での有機物補給には、肥料成分が少なく炭素率(C/N比)が高い「植物性堆肥(バーク堆肥や落ち葉堆肥)」や、腐植酸資材を選択するのが賢明です。これらは塩類濃度を上げずに土壌の保肥力(CEC)を高める効果があります。もし家畜ふん堆肥を使用する場合は、必ずその堆肥の成分表を確認し、含まれる肥料成分量を計算に入れた上で、その分だけ化学肥料(元肥)を大幅に減らす「減肥対応」を徹底してください。「有機だから安全・無害」という思い込みを捨て、堆肥もまた「塩類を含んだ資材」であることを認識することが、塩類集積対策の重要な視点となります。

 

記事のまとめ
📊
数値で管理する

感覚に頼らずEC値を測定。1.0mS/cmを超えたら要注意、1.5mS/cm以上は危険信号。

💧
水と植物で抜く

灌水による物理的な洗浄と、ソルゴーなどのクリーニングクロップによる吸収・搬出を組み合わせる。

⚠️
堆肥の罠に注意

家畜ふん堆肥は塩分の供給源にもなる。塩類集積時は植物性堆肥や腐植酸資材へ切り替えを。

 

 


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