陽イオン交換容量の計算とmeq換算で塩基飽和度を知る

陽イオン交換容量(CEC)の計算は、土壌の肥沃さを数値化し、無駄のない施肥設計を行うための第一歩です。分析値のmgからmeqへの換算方法や、塩基飽和度の求め方をマスターして、作物が育つ土の状態を正確に把握できていますか?

陽イオン交換容量の計算

陽イオン交換容量(CEC)計算のポイント
🧮
meq単位の理解

mgからmeqへの換算係数を使いこなす

⚖️
塩基飽和度の算出

CECに対する石灰・苦土・加里の割合を把握

🚜
施肥設計への応用

過剰施肥を防ぎ、土壌バランスを整える

農業において土づくりの基礎となるのが、土壌診断とその結果に基づく施肥設計です。その中でも特に重要な指標が陽イオン交換容量(CEC)です。CECは土壌がどれだけの養分(肥料成分)を保持できるかを示す「土の胃袋」や「キャパシティ」に例えられます。

 

参考)CEC(陽イオン交換容量)とは何か - BBYの観葉植物 D…

しかし、土壌分析表に記載されている数値は、mg/100g(重量)であったり、meq/100g(当量)であったりと単位が混在しており、自分で計算しようとすると混乱しやすいポイントです。ここでは、陽イオン交換容量の計算方法を基礎から応用まで詳細に解説し、現場で使える知識として定着させることを目指します。

 

基礎 陽イオン交換容量の計算に必要なmeq単位の理解

 

陽イオン交換容量(CEC)を理解し、計算するためには、まずmeq(ミリ・イクイバレント/ミリグラム当量)という単位を完全に理解する必要があります。最近ではcmol(+)/kg(センチモル・チャージ毎キログラム)という国際単位も使われますが、数値はmeq/100gと同じ(1 meq/100g = 1 cmol(+)/kg)であるため、現場では依然としてなじみ深いmeqが多用されています。

 

参考)CEC(陽イオン交換容量)とは:塊根・多肉の適正値 - So…

なぜ「重さ(mg)」ではなく「当量(meq)」なのか?

土壌中の肥料成分(陽イオン)は、カルシウム(Ca²⁺)、マグネシウム(Mg²⁺)、カリウム(K⁺)など、それぞれ持っている電気の量(価数)や原子の重さ(原子量)が異なります。

 

  • カリウム(K): 原子量39、価数1
  • カルシウム(Ca): 原子量40、価数2
  • マグネシウム(Mg): 原子量24、価数2

例えば、土壌が「プラスの電気の粒」を100個つかまえられる手を持っているとします。

 

  • 価数が1のカリウムなら、100個つかまえられます。
  • 価数が2のカルシウムなら、1個で手2つ分を塞ぐので、50個しかつかまえられません。

このように、単純な「重さ」や「個数」ではなく、「電気的な結合の手をどれだけ埋められるか」という基準でそろえた単位がmeq(ミリグラム当量)です。CECの計算においては、すべての成分をこのmeqに換算して初めて、足し算や引き算が可能になります。

 

参考)イトウさんのちょっとためになる農業情報 第48回 土壌診断#…

mgからmeqへの換算係数表

土壌分析結果がmg/100g(乾土100g中の成分重量)で出ている場合、以下の計算式でmeq/100gに変換します。

 

meq/100g=成分含有量 (mg/100g)1meqあたりの重量 (mg)\text{meq/100g} = \frac{\text{成分含有量 (mg/100g)}}{\text{1meqあたりの重量 (mg)}}meq/100g=1meqあたりの重量 (mg)成分含有量 (mg/100g)
主要な陽イオンの1meqあたりの重量は以下の通りです。この数値は暗記するか、いつでも見られるようにしておくと便利です。

参考)https://www.zennoh.or.jp/operation/hiryou/pdf/naru_en.pdf

陽イオン成分 元素記号 価数 原子量 1meqあたりの重量 (mg) 備考
カリウム K 1 39 39 Kとして計算する場合
カルシウム Ca 2 40 20 40 ÷ 2 = 20
マグネシウム Mg 2 24 12 24 ÷ 2 = 12
ナトリウム Na 1 23 23 Naとして計算する場合

例えば、土壌分析で「交換性カルシウム」が 200 mg/100g 検出された場合、そのmeq値は以下のようになります。

 

200÷20=10 meq/100g200 \div 20 = 10 \text{ meq/100g}200÷20=10 meq/100g
この計算を経ることで、異なる重さの元素同士を「土壌が保持している電気的な量」という共通の土俵で比較・計算できるようになります。

全農:土壌診断なるほどガイド(CECとmeqの基礎的な解説)
ヤンマー:肥沃な土壌とは(CECと塩基飽和度の関係を図解)

実践 陽イオン交換容量と塩基飽和度の計算手順

CECの数値が分かれば、次に重要になるのが塩基飽和度の計算です。塩基飽和度とは、CEC(土壌全体の保肥力)のうち、何%が塩基(石灰、苦土、加里)で埋まっているかを示す指標です。

 

参考)https://www.yanmar.com/jp/agri/agri_plus/soil/articles/05.html

塩基飽和度の計算式

塩基飽和度は以下の式で求められます。

 

塩基飽和度 (%)=交換性塩基の合計 (meq/100g)陽イオン交換容量 (CEC) (meq/100g)×100\text{塩基飽和度 (\%)} = \frac{\text{交換性塩基の合計 (meq/100g)}}{\text{陽イオン交換容量 (CEC) (meq/100g)}} \times 100塩基飽和度 (%)=陽イオン交換容量 (CEC) (meq/100g)交換性塩基の合計 (meq/100g)×100
ここでいう「交換性塩基の合計」とは、一般的にカルシウム、マグネシウム、カリウムのmeq値を足したものです(ナトリウムを含める場合もありますが、日本の農地ではナトリウム過剰は稀なため、通常は3要素で計算します)。

計算シミュレーション


ある畑の土壌分析結果が以下の通りだったと仮定して計算してみましょう。


  • CEC(分析値): 15.0 meq/100g
  • 交換性石灰(Ca): 240 mg/100g
  • 交換性苦土(Mg): 36 mg/100g
  • 交換性加里(K): 39 mg/100g

手順1:各成分をmgからmeqに換算

  • 石灰:240÷20=12.0 meq/100g240 \div 20 = 12.0 \text{ meq/100g}240÷20=12.0 meq/100g
  • 苦土:36÷12=3.0 meq/100g36 \div 12 = 3.0 \text{ meq/100g}36÷12=3.0 meq/100g
  • 加里:39÷39=1.0 meq/100g39 \div 39 = 1.0 \text{ meq/100g}39÷39=1.0 meq/100g

手順2:塩基飽和度を計算

  • 塩基合計:12.0+3.0+1.0=16.0 meq/100g12.0 + 3.0 + 1.0 = 16.0 \text{ meq/100g}12.0+3.0+1.0=16.0 meq/100g
  • 塩基飽和度:(16.0÷15.0)×100=106.7%(16.0 \div 15.0) \times 100 = 106.7 \%(16.0÷15.0)×100=106.7%

分析結果の解釈
この例では、塩基飽和度が100%を超えています。これは、土壌の保持能力以上に肥料成分が含まれている「富栄養化」状態、あるいは未分解の肥料成分が残っている可能性を示唆しています。通常、適正な塩基飽和度は60%~80%程度とされており、この土壌ではこれ以上の施肥を控え、除塩や吸肥力の強い作物の作付けを検討する必要があると判断できます。

 

参考)https://japan-soil.net/BOOKLET/H22_DS/A4/A4_web.pdf

バランスの計算(塩基バランス)

飽和度だけでなく、各成分の比率(バランス)も重要です。理想的なmeq比は一般的に 石灰:苦土:加里 = 5:2:1 程度と言われています。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/tuti13.pdf

上記の例では、

  • 石灰:12.0
  • 苦土:3.0
  • 加里:1.0

    となり、比率は 12:3:1 です。石灰が突出して多く、苦土とのバランス(Ca/Mg比)が4倍(12÷3)となっています。通常Ca/Mg比は2〜4程度が適正とされるため、この場合は石灰過多による苦土欠乏(拮抗作用)に注意が必要であることが計算から読み取れます。

     

換算 酸化物と元素の計算の違いと注意点

ここで、多くの農業従事者が陥りやすい「計算の罠」について解説します。それは、土壌分析表や肥料袋の表示が酸化物(Oxide)表記になっている場合です。

 

一般的に、肥料の成分表示は「石灰(CaO)」「苦土(MgO)」「加里(K₂O)」のように酸化物として記載されています。一方、学術的な土壌分析や一部の精密診断では「Ca」「Mg」「K」という元素単体で表記されることがあります。この二つを混同して計算すると、大きな誤差が生じます。

 

参考)土壌分析 - saitodev.co

酸化物換算の係数

酸化物表記(CaO, MgO, K₂O)の場合、1meqあたりの重量は元素単体の時とは異なります。酸素原子(O=16)の重さが加わるためです。

 

酸化物表記 1meqあたりの重量 (mg) 計算根拠 (分子量÷価数)
石灰 (CaO) 28 (40+16) ÷ 2 = 28
苦土 (MgO) 20 (24+16) ÷ 2 = 20
加里 (K₂O) 47 (39×2+16) ÷ 2 = 47

換算ミスの実例

先ほどの例で、「交換性石灰 240mg/100g」というデータが、実は「交換性石灰(CaOとして) 240mg/100g」だった場合を考えてみましょう。

 

  • 誤った計算(元素Caとして計算):

    240÷20=12.0 meq/100g240 \div 20 = 12.0 \text{ meq/100g}240÷20=12.0 meq/100g

  • 正しい計算(酸化物CaOとして計算):
    240÷288.57 meq/100g240 \div 28 \approx 8.57 \text{ meq/100g}240÷28≈8.57 meq/100g

この差は 3.43 meq/100g にもなります。これを施肥量(例えば炭酸カルシウム)に換算すると、10アールあたり数百キログラム単位の設計ミスにつながる恐れがあります。

土壌分析表を見る際は、「その数値が元素(Ca, Mg, K)なのか、酸化物(CaO, MgO, K₂O)なのか」を必ず確認してください。注釈に小さく書かれていることも多いため、注意深く読み解く必要があります。

Bamboo Borny:陽イオン交換容量の意義と換算方法(molとgの換算について詳述)

応用 陽イオン交換容量に基づく施肥量の計算

CECと現在の塩基飽和度が分かれば、目標とする土壌環境にするために「あと何kgの肥料が必要か」を逆算することができます。これをソイルマネジメント(施肥設計)と呼びます。

 

参考)https://www.hontabe.com/organic/%E5%9C%9F%E3%81%A5%E3%81%8F%E3%82%8A/%E5%9C%9F%E3%81%AE%E5%8C%96%E5%AD%A6%E6%80%A7/

施肥量算出のステップ

  1. 不足しているmeq数を求める:

    目標とする飽和度(例:石灰飽和度60%)にするために必要なmeq数から、現状のmeq数を引きます。

     

    不足meq=(CEC×目標飽和度%)現状のmeq\text{不足meq} = (\text{CEC} \times \text{目標飽和度\%}) - \text{現状のmeq}不足meq=(CEC×目標飽和度%)−現状のmeq

  2. 不足meqを重量(mg/100g)に戻す:
    不足meq × 換算係数(酸化物または元素)
  3. 10アールあたりの施肥量(kg)に換算する:
    土壌の深さ(作土深)と比重を考慮して、面積あたりの必要量に直します。


10アールあたりへの換算係数「L」


一般的に、深さ10cmの土壌10アール(1000㎡)の重さは、土壌比重を1.0と仮定すると約100トン(100,000kg)です。

分析値(mg/100g)を10アールあたり(kg/10a)に直すための簡易係数は、作土深10cmなら「1」、作土深15cmなら「1.5」を掛けることが多いですが、より正確には以下の式を使います。

施肥量(kg/10a)=不足分(mg/100g)×比重×深さ(cm)10\text{施肥量(kg/10a)} = \text{不足分(mg/100g)} \times \text{比重} \times \frac{\text{深さ(cm)}}{10}施肥量(kg/10a)=不足分(mg/100g)×比重×10深さ(cm)
例えば、石灰が20mg/100g不足しており、作土深15cm、比重1.0の畑の場合。
20×1.0×1510=30 kg/10a20 \times 1.0 \times \frac{15}{10} = 30 \text{ kg/10a}20×1.0×1015=30 kg/10a
※これは純成分量としての不足分です。実際の資材(苦土石灰など)には成分が100%含まれているわけではないため、資材の保証成分量(例えばアルカリ分55%なら0.55)で割り戻して、資材の投入量を決定します。

 

30 kg÷0.5554.5 kg30 \text{ kg} \div 0.55 \approx 54.5 \text{ kg}30 kg÷0.55≈54.5 kg
つまり、10アールあたり約55kg(20kg袋で約3袋弱)の苦土石灰が必要という計算になります。

対策 陽イオン交換容量を高める腐植と粘土の活用


CECは土壌の「地力」そのものであり、数値が高いほど保肥力が高く、肥料切れや濃度障害が起きにくくなります。日本の土壌、特に砂質土壌や火山灰土壌の一部ではCECが低い傾向があります(CEC 5~10 meq/100g程度)。これを改善し、CECを高めるための計算と対策について解説します。

 

CECを高める2つの要素

CECを決定づけるのは、土壌中の「マイナスの電気」を持つ物質の量です。

 

  1. 粘土鉱物: モンモリロナイトなどの粘土は高いCECを持ちます。
  2. 腐植(腐食): 完熟堆肥などに含まれる腐植酸は、粘土以上に極めて高いCEC(200~300 meq/100g以上)を持ちます。

    参考)https://www.nougeikanri.co.jp/analysis/question/index.html

堆肥投入によるCEC向上の試算

CECが低い(例:8 meq/100g)砂質の畑に、良質な堆肥を投入してCECを上げたい場合を考えます。

 

腐植のCECを仮に250 meq/100gとします。土壌のCECを1 meq/100g上げるためには、どれくらいの腐植が必要でしょうか。

 

単純計算では、土壌全体のCECは各成分の加重平均で決まります。

 

しかし、現実的にCECを1ポイント上げるには、膨大な量の堆肥が必要です。例えば、腐植含有率が高い堆肥(現物1トンあたり腐植が数%含まれるもの)を数トン単位で数年かけて投入し続けることで、ようやく土壌分析値としてCECが1~2上昇する、というレベルの変化です。

 

効果的なCEC向上対策

  1. ゼオライトの投入:

    ゼオライト(沸石)はCECが非常に高く(150 meq/100g前後)、物理的な土壌改良資材として即効性があります。砂地などで保肥力を急ぎ補いたい場合に有効です。

     

  2. ベントナイトの客土:

    粘土鉱物であるベントナイトを混合することで、恒久的にCECを底上げできます。

     

  3. 腐植酸資材の活用:

    堆肥そのものよりも濃縮された「腐植酸資材(アズミンなど)」を利用することで、効率的にCECに関与する腐植を供給できます。

     

CECの計算とコントロールは、一朝一夕にはいきません。しかし、毎年の土壌診断で数値を追跡し、計算に基づく計画的な資材投入を行うことで、数年後には「肥料が効きやすく、抜けにくい」理想的な土壌へと変化させることが可能です。まずはご自身の畑のCECを知り、mgからmeqへの換算をマスターすることから始めてみましょう。

 

農林水産省:CECの診断と計算濃度(詳細な計算式と吸光度法について)

 

 


基礎の基礎から法学入門