アセチルコリンは、最も早く同定された神経伝達物質であり、自律神経系の働きにおいて中心的な役割を担っています。末梢神経系では、運動神経の神経筋接合部、交感神経および副交感神経の節前線維の終末、副交感神経の節後線維の終末などのシナプスで伝達物質として働きます。自律神経系における主要な神経伝達物質は、アセチルコリンとノルアドレナリンの2つであり、全ての節前線維と全ての副交感神経節後線維はアセチルコリンを分泌します。
参考)アセチルコリン - 脳科学辞典
自律神経系は、交感神経と副交感神経という2つの神経系から成り立っており、これらがバランスよく働くことで体の恒常性が保たれます。交感神経は「アクセル」として体を活動的にし、副交感神経は「ブレーキ」として体をリラックスさせる役割を果たします。副交感神経が優位なときには体内でアセチルコリンが放出され、心臓の活動を抑制して鼓動を遅くしたり、消化管の運動を活発にさせたりします。
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心臓における自律神経の働きを見ると、交感神経はノルアドレナリンを放出して心臓の働きを強める「アクセル役」、副交感神経はアセチルコリンを放出して心臓の働きを弱める「ブレーキ役」として機能しています。この2つの神経系のバランスが、私たちの健康状態を左右する重要な要素となります。
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副交感神経の節後線維終末から分泌されたアセチルコリンは、標的臓器に存在するニコチン受容体またはムスカリン受容体と結合してその効果を発現します。アセチルコリンは副交感神経作用を示し、体をリラックスモードに導くことで、心拍数や血圧を下げ、消化活動を促進し、体を回復へと導きます。
参考)循環器用語ハンドブック(WEB版) アセチルコリン
血圧の調節においては、血圧が上がると副交感神経(迷走神経)が興奮し、神経終末からアセチルコリンを放出します。それによって心拍数の低下、心収縮力の減弱が起こるため、血圧は低下します。また、副交感神経が興奮すると相互作用により交感神経の興奮が弱くなるため、血管は拡張します。
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リンパ球の膜上にはアセチルコリン受容体があるため、副交感神経が優位なときにリンパ球が活性化され、免疫力の向上にもつながります。このように、アセチルコリンを介した副交感神経の働きは、体の多様な機能を調節し、健康維持に重要な役割を果たしています。
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交感神経と副交感神経は、相互作用によってバランスを取りながら体の機能を調節しています。交感神経が優位になると、身体活動時やストレス状況下でノルアドレナリンの分泌を通じて血管収縮と心拍数増加を引き起こします。一方、休息時には副交感神経(迷走神経)が優位となり、アセチルコリンの分泌を通じて心拍数の低下と血管拡張をもたらします。
参考)https://www.j-milk.jp/report/media/past/f13cn00000000vbg-att/berohe000000k12v.pdf
自律神経系では、交感神経および副交感神経の節前線維の終末からは両方ともアセチルコリンが分泌されますが、交感神経の節後線維からはノルアドレナリンが、副交感神経の節後線維からはアセチルコリンが放出されます。この神経伝達物質の違いによって、それぞれ異なる生理作用が引き起こされます。
参考)自律神経系の化学伝達物質と受容体|神経系の機能
運動時には交感神経が優位になり心拍数が増えて血管が収縮しますが、運動後は筋肉がゆるんで血管が拡張し、血液の流れが促進されます。この血管の収縮と拡張が、自律神経の働きにメリハリを与え、交感神経と副交感神経がそれぞれのタイミングできちんと働くベストな状態に近づけてくれます。
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近年の研究により、ナスに神経伝達物質であるアセチルコリンが大量に含まれていることが発見されました。信州大学農学部の研究では、ナスのアセチルコリン含有量はピーマンやニンジンなどの他の農産物と比べて1000倍以上という驚異的な量であることが明らかになっています。
参考)ナスに大量の神経伝達物質 信州大発見、ピーマンの1000倍 …
ナス由来コリンエステル(アセチルコリン)は、自律神経を調整して生体機能改善作用を発揮すると考えられており、血圧(拡張期血圧)改善の他にもさまざまな機能性食品の実用化が期待されています。作用メカニズムとしては、アセチルコリンが消化管上のM3型ムスカリン性アセチルコリン受容体に作用し、副交感神経(迷走神経)活動を亢進させ、交感神経活動を抑制することが示されています。
参考)なすの食品機能と機能性表示食品|農畜産業振興機構
ナス以外にも、アセチルコリンの材料となるレシチンを豊富に含む食品があります。大豆製品、卵黄、イカ、サバ、ウナギ、ピーナッツ、アーモンド、クルミなどがレシチンを多く含んでおり、体内でアセチルコリンに変換され、脳の記憶力を高める働きがあります。レシチンはビタミンCと一緒に摂るとアセチルコリンの生成がより高まるため、野菜や果物と組み合わせて摂取することが推奨されます。
農作業によるストレス軽減効果を検証した研究では、活動後に自律神経との相関が高いストレスマーカーの変化が観察され、農作業がリラックス状態を増進させることが示唆されました。適度な運動や農作業は、交感神経と副交感神経のバランスを整え、情緒の安定をもたらす可能性があります。
参考)農作業によるストレス軽減を明らかに!農福医連携でテスト実施【…
ナスに豊富に含まれるコリンエステル(アセチルコリン)が神経系の働きを調節して、血圧の改善や気分をよくする効果を発揮することがヒトの試験で確認されています。臨床試験では、ナスの睡眠改善作用も実証されており、アセチルコリンによる自律神経の調整が生体機能改善作用を発揮すると考えられています。
参考)https://www.alic.go.jp/content/001197317.pdf
ストレスを感じると体内でコルチゾールやアドレナリンといったホルモンが分泌され、血管を収縮させて血圧が上昇します。このような状態に対して、アセチルコリンを介した副交感神経の活性化は、心拍数の低下と血管拡張をもたらし、血圧を低下させる効果があります。したがって、アセチルコリンを豊富に含む食品の摂取や、副交感神経を優位にする生活習慣は、ストレス対策と血圧管理の両面で有効と考えられます。
参考)【メニュー例あり】自律神経に良い食べ物と栄養素とは?おすすめ…
適度な運動は副交感神経の働きを高め、アセチルコリンの分泌を促進します。1回30分程度のウォーキングや階段による移動、すきま時間のストレッチや筋トレなどに取り組むことが推奨されます。ただし、負荷が大きすぎる運動は交感神経の働きを過剰に高め、副交感神経の働きが得られにくくなる可能性があるため、適度な強度を保つことが重要です。
参考)自律神経はどう整える? 副交感神経を優位にする9つの生活習慣
ストレッチやヨガ・ピラティスは、筋肉の緊張をほぐし、副交感神経を活性化させる働きがあります。特にピラティスでは、背骨を動かしたり呼吸に意識を向ける動きが多く、自律神経のバランスを整えるのにぴったりです。農作業の合間に軽いストレッチを取り入れることで、疲労回復と自律神経の調整を同時に図ることができます。
参考)【疲れやすい方必見】自律神経を整える簡単ストレッチ3選
食生活においては、大豆製品や野菜に多く含まれるGABA、たんぱく質や乳製品、ナッツ、ごまなどに含まれるトリプトファン、そしてコリンエステルが豊富なナスなどを組み合わせた食事が自律神経を整えるのに効果的です。また、腸内環境を整えるために、食物繊維が豊富な野菜や果物、味噌や納豆などの発酵食品を積極的に摂取することも推奨されます。
参考)脳腸相関とは?メカニズムからセロトニン・自律神経・睡眠との関…
「ゆっくり深い呼吸」も自律神経を制御する効果的な方法です。呼吸法を意識的に行うことで、副交感神経を優位にし、アセチルコリンの分泌を促進することができます。農作業中や休憩時に深呼吸を取り入れることで、ストレス軽減と体調管理に役立てることができます。
参考)自律神経を整える5つのコツ|河口内科眼科クリニック|江東区清…
農研機構による、ナス由来成分の血圧や気分改善効果に関する詳細な研究報告
農畜産業振興機構による、なすの食品機能と機能性表示食品に関する専門的な解説
農林水産省による、農作業と健康についてのエビデンス把握調査報告書(PDF)